いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
20話 メフィスト・ワルツ。
会場中の空気は、明らかに、歪んだ嘲笑に満ちていた。
誰もが、これから起こるであろう、惨めな結末を予想している。
ギャングのキングがピエロになる瞬間を心待ちにしている。
小田切が、
「せいぜい、楽しませてもらおう」
口の端を吊り上げながら、そう言った。
蝉原は、静かに、鍵盤の上に指を乗せる。
――それは、輝くような音の嵐だった
最初の一音が響いた瞬間、会場の空気が、明らかに、変わった。
誰も、何も言えなかった。
失笑していた者たちの表情が、一瞬にして、凍りついていく。
ただ目を見開いて、瞬きを忘れる。
あちこちで、小さくざわめいていた囁き声が、ぴたりと止んだ。
蝉原が弾いたのは、メフィスト・ワルツ第一番。
音楽に興味のない僕の魂が震えた。
ドーパミンが、爆発する。
両手が、鍵盤の端から端まで、目にも留まらぬ速さで跳躍する。
かと思えば、次の瞬間には、ほとんど動いていないように見えるほど、繊細に、指先だけが震えている。
左手だけで、旋律とリズムを同時に刻みながら、右手が、それとはまるで違う速さで、装飾音を降らせていく。
二本の手が、まるで、別々の人間が弾いているみたいだった。
力強く、それでいて、どこまでも繊細に。
激しさと、静けさが、同じ旋律の中で、当たり前のように同居していた。
……正直、僕には、専門的なことは、何も分からない。
でも、これが、ただの演奏じゃないことだけは、はっきりと分かった。
まるで、音そのものが、生きているみたい。
愛羅、滝本、凪、夜間、そしてセフィアさんが、
揃って、うっとりとした顔で、その演奏に見入っている。
女性陣だけじゃない。
会場中の誰もが、目を離せずにいた。
海外から来た、名だたる音楽家たちですら、口を開けたまま、微動だにしない。
★
演奏は、五分ほど続いた。
最後の一音が、静かに、消えていく。
会場は、しばらく、完全な沈黙に包まれていた。
そして、永遠にも近い一拍を経て、
割れんばかりの拍手が、鳴り響いた。
我先にと誰かが立ち上がる。
追いつこうと、次々と、席を立つ客たち。
爆発みたいなスタンディングオベーション。
★
小田切は、真っ青な顔で、立ち尽くしていた。
ぶるぶる震えながら『嘘だ……そんなはず……』と、ブツブツ言っている。
どうやら、頭がおかしくなってしまったらしい。
奏は、賞金の入った封筒を手に、震える声で、
「……お、お約束通り……こちらを……」
と、蝉原に差し出そうとする。
その手が、目に見えて、震えている。
「ああ、いりませんよ」
蝉原は、あっさりと、それを断った。
「は……?」
奏の表情が、困惑に染まる。
「もともと、この大会の賞金は、全額、俺が負担したものなので。返してもらっても仕方がない」
その一言に、会場が、明らかに、ざわついた。
「な……なに、を……」
小田切の顔から、さらに、血の気が引いていく。
「この大会の開催にあたって、色々と支援させていただきました。……別に吹聴するようなことでもなかったので、黙っていましたが」
蝉原は、片倉のほうを見て、悪戯っぽく笑った。
片倉は、にっこりと微笑む。
奏は、
「では……あの、この賞金は? 私は負けました……この賞金は勝者が得るべきもの――」
「どうしても何かに払いたいというのであれば、俺ではなく、国境なき医師団にでも、寄付してください。気恥ずかしいので、俺の名前は使わないでいただけますと助かりますね」
そこで蝉原は、客席に向かって、
「みなさまも、今回の件は御内密に」
そう言いながら、人差し指を口元にあてて、シーのポーズ。
その言葉に、会場の空気が、また、大きく揺れた。
誰もが、蝉原という男を、どう捉えていいのか、分からなくなっているようだった。
悪人なのか、聖人なのか。
その境目が、あまりにも曖昧すぎる。
……とりあえず、みな、蝉原との約束を破りまくった。
その場で次々に、今日見聞きしたことをSNSに上げていく。
★
帰りの車の中、みんな、興奮冷めやらぬ様子だった。
愛羅が、
「あなたって出来ないこととかあるの?」
「たくさんあるよ。今の俺は月も砕けない」
興奮している凪が、
「美しかったです、総長!! ぶっちぎりでした! この世の誰も、あなた様には敵わない!!」
滝本が、スマホの画面を、僕たちに見せてきて、
「もう、めちゃくちゃバズってるよ、これ」
そこには、演奏中の蝉原の写真とともに、数えきれないほどのリプライがついていた。
『ギャングスターが、コンクール優勝者を演奏で圧倒』
『オルフェウスが裸足で逃げ出す神演奏』
『賞金は全て寄付へ』
『寄付したことは内緒にするよう命令』
『蝉原勇吾という完璧なダークヒーロー』
セフィアさんは、いつも通り、黙って、僕を見ていた。
心なしかいつもより頬が上気しているような気がしないでもないけど……それは気のせいかも。
【自己鑑定結果】
名前:蝉原勇吾
種族:人間(ヤクザ)
レベル:3
HP:57/57
MP:19/19
筋力:12
耐久:18
敏捷:19
魔力:17
知性:D(A)
悪意:D(S)
根性:C(SS)
IT:E(A)
商才:F(A)
戦力:E(極SS)
心理:D(A)
話術:D(A)
人望:C(B)
謀略:F(極SS)
悪運:超SS(C)
称号:『元いじめられっ子』『宇宙一のヤクザ』
『ギャングスター』
魔法:『自己鑑定』『カンファレンスコール』
『霊体回収』『拳気ランク2』
『闇気ランク2』『フェイクオーラ』
スペシャル:『皇気』
『威圧覇気』『火事場のバカ気迫』
『ピンチに鬼強い』『ド根性極道』
『色男』『アストラルウィザード』
『超テクニシャン』
『病的な極悪』