いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
幕間 世界を裏から支配する300人委員会。
地下とは思えないほど広大な空間。
円卓状に並んだ席に、世界中から集められた権力者たちが座っていた。
それぞれの席の上には、コードネームだけが淡く浮かんでいる。
「では、次の議題に移ろう」
議長役の声に合わせて、宙に投影された資料が切り替わる。
中東の油田権益、東欧の紛争、東南アジアの新型感染症、宇宙開発などなど。
新聞の一面を飾るような国際問題が、次々と、雑談のついでのように処理されていく。
「値が吊り上がったところで、手打ちにしろ」
「消耗戦は、教育としてはもう十分だ」
「ワクチンの公開は、あと半年ほど泳がせておけ」
――彼らは、300人委員会。
この世界を裏から支配している、影の世界政府。
これが、この場所の、日常だった。
世界を回している歯車の、当たり前の会話。
「さて」
議長役が、資料を、一枚、めくった。
「最後に、些末《さまつ》な議題を一つ」
「まだあるのか」
「もういい加減に帰してくれ」
「次で最後ですので」
「日本の『反社会的勢力』についての報告です」
その一言に、何人かが、露骨に興味を失った顔をした。
「日本の反社? わざわざ、この場で扱うような話か?」
「通常であれば、ありえない話です。……ただ、少々、変わった事態になっておりまして」
資料が切り替わる。
地方都市の、中規模なヤクザ組織の相関図。
「龍星会という、地方の中流組織が、ここ半年ほどで、周辺の東龍会をはじめ、いくつかの組織を吸収し、急速に版図《はんと》を広げています」
「しょうもない話だ」
「どうでもいい」
「この勢力拡大の立役者となったのが……なんと、一人の高校生なのです」
円卓に、わずかな沈黙が落ちた。
「高校生? ジャパニーズマフィアの話だろう? なぜ、高校生?」
「……興味がわいたな。話してくれ」
「その高校生の名は、蝉原勇吾(せみはらゆうご)」
そこから、彼は、蝉原の功績を、淡々と語りだした。
何を成し、どのような配下を有し、どれだけの資産を築いているか。
「面白いガキだな」
「その程度の資質なら、世界を見渡せば、無数に存在する」
「ここからが重要なのですが……蝉原は、『ロイヤルガーデン』による襲撃を受けたにも関わらず、それを単騎で撃退し、かつ、無傷のまま、手打ちにまで持ち込みました」
「なにぃ?! まさか、ありえない!」
「……ほう。ロイヤルガーデンに狙われて、生き残ったのか」
「運がよかっただけでは?」
「ロイヤルはモナルッポの手ゴマだろう? あそこの暗殺者は、失敗しないことで有名だが」
「いったい、どうやって」
「はい。蝉原は送り込まれた刺客の端末を押さえ、依頼主を辿り、日本の大物政治家に行き着いたそうです。……そこで、蝉原は、その政治家本人と直接交渉し、あろうことか、短期間で懐柔してしまいました。以降、暗殺の依頼そのものが、取り下げられています」
詳細を聞いた、300人委員会のメンバーたちは、
「なるほど。悪くないガキだ」
「ロイヤルに対抗できる資質なら……まあ、上質と言っていいだろう」
「将来的には、『候補生』となりうる器かと、認識しております」
300人委員会のメンバーは、基本的に、スカウトによって選ばれる。
常に、世界中の有能な人材を監視し続けており、
『一定以上の資質を持つ』と判断された者は、まず『候補生』となる。
その中でも抜きん出た者だけが、
晴れて、『300人委員会の正式メンバー』になることができる。
そこで、議長が、資料を静かに閉じて、
「……これは、猊下《げいか》の判断を仰ぐべき議案であると考える」
その一言に、円卓の空気が、目に見えて張り詰めた。
議長は、懐から、一台の受話器を取り出す。
黒曜石のような、艶のある筐体。
ダイヤルも、ボタンも、ない。
ただ、中央に、淡く発光する紋章だけが、埋め込まれている。
議長が、紋章に、そっと指を触れさせる。
その瞬間、この場にいる、全メンバーが、
示し合わせたように、一斉に、席から立ち上がった。
そして、片膝をつき、こうべを垂れる。