いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる―   作:閃幽零

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第62話

 

 幕間2 モナルッポ・スピアーズ。

 

 全メンバーが、一斉に、片膝をつき、こうべを垂れる。

 世界の富と権力を握る『名だたる権力者たち』が、

 まるで、新入りの兵士のように、一糸乱れぬ動作で。

 ただ電話をしているだけで、別に、その対象がここにいるわけでもないのに……

 

 コール音が、静寂の中に、重く響く。

 3回目が鳴る前に、

 ――回線が、繋がった。

 

『……』

 

 声はない。

 ただ、気配だけが、確かに、伝わってくる。

 

「猊下《げいか》」

 

 議長は、床に額をつけたまま、恐る恐る、口を開いた。

 

「お休みのところ、恐れ入ります。……一件、報告がございまして」

 

 そこから議長は、

 きわめて手短に、蝉原の功績を伝え、

 

「……いかが、御裁定《ごさいてい》を?」

 

 監視対象とすべきかどうかを、確認する。

 

 議長の声は、終始、震えを帯びていた。

 彼の畏怖が伝わってくる。

 それほどまでに、電話の向こうにいる相手の格が高いということ。

 

 電話の向こうからは、しばらくの間、何も返ってこない。

 

 やがて――

 

『……』

 

 一言だけ、何かが、告げられた。

 

 議長は、それを聞いた瞬間、恭《うやうや》しく頭を下げて、

 

「……はっ。かしこまりました」

 

 そう言って、静かに、通話を切った。

 そしてそのまま、

 

「猊下の言葉を伝える」

 

「「「はっ」」」

 

 全員が、一斉に、返事をする。

 

 この世界を裏から支配している『300人委員会のメンバー』が、

 この時ばかりは、まるで、ヒラの新入社員のようだった。

 

「……蝉原勇吾を、D級監視対象とする。以上だ」

 

 『以上だ』の一言で、

 全員が、ようやく立ち上がり、席についた。

 

「いきなり、D級か。なかなかの、高評価だな」

「Dだと……早ければ、30年後には、委員会に入れるか」

「日本のチンピラごときに、ずいぶんな高評価をつけるものだな」

「ロイヤルを撃退したなら、妥当な判断では?」

 

「ついでだし、モナルッポに、蝉原を担当させるか」

 

「「「異議なし」」」

 

 ★

 

 円卓での会議が終わり、地下空間の照明が落ちてしばらく経った頃。

 

 ――地球の反対側、けだるい熱帯の夜。

 プールサイドに寝そべる、一人の男がいた。

 

 二十代の若さ。

 着崩したシャツの前をはだけ、片手にグラス、周りには、着飾った女たちが何人も侍っている。

 

 傍らに控える、黒服の部下が、恭しく耳打ちした。

 

「ボス……上から連絡がありました」

 

「またかよ……今度はなんだって?」

 

「――『日本のガキを監視しろ』と」

 

「……おいおい、俺は監視対象なんじゃねぇのか? 監視対象が監視すんのか?」

 

 気だるげに、グラスを揺らしながら、そう答える。

 

「それも、候補生としての仕事だ、と。……ボスの後輩になるであろう人材なので、しっかり監視するように、とのお達しです」

 

「……めんどくせぇ……」

 

 イタリア系マフィアのドン、モナルッポ・スピアーズは、

 心底うんざりしたように、そう吐き捨てた。

 

「セックスだけしてぇええええ!!」

 

 周りの女たちが、くすくすと笑う。

 いかにも、女と酒にしか興味のない、ただの成金――そう見える振る舞い。

 

「……ちょっと、ウンコいってくるわー」

 

 そう言って、ダラダラと歩く。

 どこからどう見ても、ただのダメ男。

 

 周囲にいる女たちが、

 

「モナルッポって、ほんとバカだよねー」

「あんなんで、よくマフィアのボスとかできるわよね」

「ちょっと、ちょっと、撃ち殺されるわよ」

「大丈夫よ、モナルッポは、女に甘いから」

 

 そんな声を背中に浴びながら、

 金で磨かれたような便所に入ると――

 モナルッポは、一瞬で、目つきを変えた。

 

 スマホを取り出し、画面を確認する。

 

 すでに、300人委員会から、『蝉原に関するデータ』が送られていた。

 情報を追う瞳の奥に宿っていたのは、先ほどまでとは、まるで別人のような、鋭い光。

 

(――蝉原勇吾。いきなりD級で登録されてんのか……なるほど……偏差値高ぇな)

 

 口の端が、静かに、吊り上がる。

 

(使えるな。こいつを部下にすれば、300人委員会に上がってからも、色々と動きやすくなりそうだ)

 

 モナルッポは、周囲から『運だけで成り上がった、女好きのバカ』と思われている。

 

 そう思わせる技量こそが、彼の、最大の武器だということに――

 周りのバカどもは、誰も、気づいていない。

 

「キッツ……日本にいく。準備をしろ」

 

 そう命令すると、どこからともなく現れた美女が、

 

「かしこまりました、モナ様」

 

 丁寧に頭を下げて、行動を開始する。

 彼女は、ほぼ唯一といってもいい、モナルッポの『本当の価値』と『本心』を知っている腹心。

 

 300人委員会は、モナルッポの本当の実力を理解している気になっているが、

 彼らも、結局のところは、モナルッポの計算に惑わされているだけ。

 

 なんせ、モナルッポの最終目標は、300人委員会をぶっ壊すことなのだから。

 

 

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