いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
24話 マインスイーパー。
四人を沈黙させたところで、蝉原は、拘束されているクラスメイトたちのところへ、一旦、戻ってきた。
みんな、まだ、手錠をかけられたまま。
その中から、クラスメイトの中では一番の子分である、気室が、真っ先に、声を上げた。
「総長、お見事です」
「そうでもないよ……ただの茶番だ」
軽く言葉を交わしながら、蝉原は、床に倒れている男の一人に近づき、その腰から、無線機を、拾い上げた。
ノイズ混じりに、微かな声が、漏れている。
『……状況、報告せよ。二十五階、応答しろ』
繰り返される、機械的な呼びかけ。
その声に、蝉原は、わずかに、目を細めた。
(蝉原……これ、まだ、他にもいる、ってこと?)
(……この規模の作戦だ。現場の実行犯だけで、完結しているとは、思っていなかったよ)
蝉原は、無線機を、静かに、耳から遠ざけると、フロアの奥に立つ、モナルーズのほうへ、視線を向けた。
「指揮官らしき人間が、別のフロアから、状況を統括しているみたいですね」
「みたいですねぇ。……行きます?」
「行きましょうか」
あまりにも、あっさりとした調子だった。
まるで、近所に、ちょっと買い物にでも行くような、そんな気軽さ。
蝉原は、そのまま、クラスメイトたちのほうを振り返って、
「ちょっと、上の階まで、様子を見てくる。すぐ戻るから、大人しくしていて」
そう言い残すと、モナルーズと二人、床に転がっているテロリストたちの銃を、それぞれ拾い上げた。
そして、フロアの奥にある、非常階段へと、迷いなく、足を向けていく。
★
非常階段を、上へ。
蝉原は、階段を上りながら、先ほど倒したテロリストの一人から奪った、タブレット端末のようなものを、片手で、器用に操作し続けていた。
その指の動きは、あまりにも速く、そしてあまりにも正確無比。
隣を歩く、モナルーズが、それに気づいたのか、
「なにしているのかなぁ?」
と、軽い調子で、声をかけてきた。
「マインスイーパー」
蝉原は、画面から目を離さないまま、そう答えた。
蝉原の中で笑ってしまった。
……蝉原のボケは、僕にとって、結構ツボだったりする。
蝉原の手つきは、どう見ても、遊んでいるようには見えなかった。
画面に流れているのは、英数字が乱れ飛ぶプログラム的なコード。
たぶん、いつものハッキング的な、アレだと思う。
詳しくは知らないけどね。
★
目的のフロアに、辿り着く。
そこは、ガラス張りの会議室が、一室だけ、煌々と、明かりを灯していた。
他のフロアの、静まり返った暗がりとは、対照的な光景だった。
中を覗き込むと、複数のモニターと、通信機材が、ずらりと並んでいる。
その中央に、黒いスーツを纏った、一人の女が、立っていた。
目元だけを覆う、機能的なマスク。
たたずまいだけで、彼女が、ただの見張りとは違う『上の立場の人間』だということが、はっきりと伝わってくる。
「こんにちは」
蝉原は、先ほど拾った銃を、軽く構えながら、余裕のある仕草で、そう声をかけた。
女は、蝉原と、その隣で、同じように銃を構えているモナルーズを、ちらりと、視線だけで確認すると、
「……この速度で……へぇ」
それだけ、呟いて、静かに、口をつぐんだ。
蝉原はにこやかに、
「あなたが、リーダーですか」
「ま、一応」
二人から銃を向けられている状況にもかかわらず、女は抵抗する素振りすら見せなかった。
ただ静かに、両手を軽く頭の上に上げる。
まるで、この結末を、すでに想定していたかのような落ち着きぶり。
蝉原は、監視役をモナルーズに任せると、部屋の隅に落ちていた『結束バンド』を拾い上げ、女の両手を手早く後ろで固定した。
そのまま、フロアの中央にある椅子に女を座らせる。
「さて」
蝉原は、彼女の前に、しゃがみこんで、視線の高さを合わせた。
「撤退してもらえます? こういうのは、俺がいないときに、やっていただきたいんですけど」
「計画に、変更はない」
女は、感情の読めない声で、そう答えた。
「このビルは、爆破する。……そして、ここにいる全員、死んでもらう」