いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
33話 クイズ大会。
体育館では、盛大なクイズ大会が開かれていた。
垂れ幕には『第3回 赤松高校クイズ王決定戦』の文字。
パイプ椅子がずらりと並べられた客席は、ほぼ満席。
聞けば、全国高校生クイズにも出場するレベルの猛者たちが、県内から集められているらしい。
ゲストとして、クイズ番組で見覚えのある、学生クイズ団体のユーチューバーグループも招かれていた。
小洒落たジャケットを着た、いかにも頭の良さそうな数人組。
舞台の照明を浴びて、余裕たっぷりに笑い合っている。
僕らが見学していると、司会の生徒が、こちらに気づいて、マイクを構えた。
「おっと……そこにいらっしゃるのは、もしかして、ディアブロコミュニティの蝉原総長では?」
体育館中の視線が、一斉にこちらへ向く。
客席の空気が、さざ波のように、動いた。
「もしよろしければ、飛び入りで参加されませんか?」
(これって嫌がらせかな?)
(いや、シンプルな興味本位だろう……悪意の色を感じない)
純粋に、場を盛り上げようとしているだけの、無邪気な誘い……
なんて迷惑な……
ゲストのユーチューバーが、興味深そうに、こちらを見る。
「へぇ……彼が、最近有名になっているギャングスターですか」
そう言うと、その男は、余裕のある笑みを浮かべて、こちらに向き直った。
「蝉原総長……あなたに、腕っぷしで勝てるとは思っていません。ですが、クイズなら、こちらの方が分がありそうだ。……あなたに勝てたら、それなりの自慢になりそうですね」
「俺に勝てたからといって、自慢にはならないよ」
そう言いながら、蝉原は、涼しい顔で、舞台に上がっていく。
拍手と、歓声と、それから、無数のスマホのシャッター音が、一斉に鳴った。
(なんで舞台に上がるの? 断ろうよ)
(俺だって別に遊びに付き合いたくないけれど……これだけしっかり売られたケンカを買わずに逃げたら笑われてしまうよ)
そのまま、クイズ対決が始まった。
早押し機を前に構えた瞬間、
信じられないことに、そのタイミングで、蝉原は僕と意識を交代した。
(うそぉん、えーなんでぇ?)
(なんでって、そりゃもちろん、恥をかきたくないからさ)
(……えぇ……いやいや、じゃあ、舞台に上がらなきゃよかったのに……)
★
結果は、言うまでもなく惨敗だった。
早押しボタンを押すタイミングすら、一問も掴めない。
問題を読み終わる前に、ゲストのユーチューバーがボタンを叩いていく。
パン、パン、パン、と、小気味よい音が体育館に響く。
正直、僕は、途中からすべてを放棄していた。
「――あと1問で、こちらの優勝ですね」
10点先取で勝利。
現状、彼らは9点をとっており、僕は0。
最終スコアは、圧倒的な差。
体育館中から、拍手と、どよめきが起こる。
「蝉原、だせぇ」
「いきっているだけで、所詮はただのヤンキー」
などというひそひそ声が聞こえてきた。
みんな、蝉原が怖いのか、おおっぴらに野次ってはこないけど、その瞳には明らかに嘲笑の色がまじっている。
「いやぁ、申し訳ない。大人げなく、本気を出してしまって」
「できたら、もう少し、手加減してほしいですねぇ……」
本気の注文だが、相手は鼻で笑っている。
負け惜しみに聞こえたのだろうか。
案の定、ユーチューバーは、笑みを崩さないまま、こう続けた。
「このままいけば、俺たちは、『蝉原勇吾に勝った男』を名乗れそうですね。もちろん、ユーチューブでも、勝利報告させていただきますので、そのつもりで」
その一言に、体育館の空気が、わずかに、張り詰める。
さっきまでの、無邪気な盛り上がりとは、明らかに温度が違っていた。
「まさか、それが気に入らないからって、子分を差し向けるような、そんなダサ過ぎる真似は、しませんよね?」
煽りに煽ってくる。
生徒たちが、固唾を呑んで、成り行きを見守っていた。
――と、そこで、視界が、ぐらりと揺れる。
蝉原に、主導権が戻った。
……何がしたいんだよ……
(どういうこと? なんで、こんなタイミングで?)
(言っただろう。恥をかきたくなかったんだよ。……ハンデもなしで、ガキと勝負はできない)
ああ、なるほど……そういうことか……
プロゴルファーが、小学生相手に、ハンデなしでラウンドをまわるなんてありえない、みたいな感じかな。
知らないけど。
蝉原は、軽く伸びをしつつ、ボタンに手を伸ばした。
その仕草だけで、ゲスト席の空気が、わずかに、ざわついた。
司会が、問題を読み上げ始める。