いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
34話 インチキ。
「元素記号Og――」
パン、と乾いた音。
問題文が、まだ数文字しか進んでいない段階での、早押しだった。
「ニホニウム」
「……正解!」
司会の声が、一瞬、裏返る。
体育館のどよめきが、さっきまでとは、明らかに違う質のものに変わった。
「おお! お見事、素晴らしい速度!」
ゲストのユーチューバーが、拍手をしながらも、値踏みするような目で、こちらを見た。
「……なかなかの速度ですね。理科は得意って感じですか?」
「このレベルのクイズだと、教科ごとの得意不得意ではなく、反射神経の勝負になりそうかな」
その返しに、相手の口元が、わずかに、引きつる。
「……急に、偉そうなモノ言いになりましたね。……点差、わかってます?」
スコアボードには、まだ、大きな差が残っていた。
誰の目にも明らかな、絶望的な数字。
「まだ負けていない、ということだけは理解できているよ、アホの俺でもね」
軽い口調。
だけど、その目だけは、笑っていなかった。
次の問題が、読み上げられる。
「アメリカの発明家で、白熱電球の実用化と、蓄音機の発明で広く知られていますが、直流送電にこだわったことで、当時、交流の実用化を推した――」
体育館のあちこちから、小さくどよめきが起こる。
『エジソン』とつぶやく言葉が、客席のあちこちから聞こえた。
僕も、思わず、そう答えそうになっていた。
蝉原は、迷いなく、ボタンを叩き、
「ニコラ・テスラ」
「正解! とんでもないはやさですねぇ!」
司会の声に、興奮の色が混じる。
ゲストのユーチューバーが、初めて、明らかに、表情を険しくした。
余裕の仮面の下に、微かな苛立ちが、覗いている。
「……今の段階だと、まだ、エジソンかテスラか、判別はつかないはずですよ。運がよかったですね」
「ここまでのクイズの傾向を鑑みれば、だいたいは見えてくるよ。これは個々の知識を問うクイズではなく、創り手の意図を正確に分析するクイズだ。その上で、反射神経を競い合う感じかな」
「何をバカなことを……」
半笑いの彼に、
蝉原は、
「君レベルでは理解できないだろうね」
「むっ」
悔しそうに、唇を噛むユーチューバー。
その顔を見ながら、僕は、心の中で、そっと呟いた。
(蝉原、性格悪すぎ……)
★
そこからは、もう、一方的だった。
結果から言えば『蹂躙』という言葉がふさわしかった。
問題文が、読み上げられている、その途中。
まだ、半分も終わっていないうちに、ボタンが鳴る。
乾いた音と、蝉原の解答だけが、静まり返った体育館に、リズムよく響き続けた。
誰も、拍手すら忘れて、ただ、その光景を見つめている。
客席のどこかで、誰かがスマホを構え直す、微かな音だけが聞こえた。
――当たり前みたいに、蝉原が連続で9問を取った時、
ユーチューバーたちの顔から、余裕の笑みは完全に消えていた。
「……ばかな……こんな豪運……ありえない……」
誰かが、そう呟いた声が、やけに大きく響く。
スコアボードの数字が、また一つ、静かに書き換わる。
さっきまでとは、完全に、逆転した惨状。
――最後の問題がはじまる。
緊張の一瞬。
体育館全体が、息を潜めているのが分かった。
「フランスの数学者で、群論の基礎を築いたことで知られ、決闘で命を落とす前夜、徹夜でその理論を書き残したとされていますが、生涯を通じて政治犯として投獄された経験もある――」
張り詰めた空気の中、
蝉原の指が、迷いなく、ボタンを叩く。
「エヴァリスト・ガロア」
「……正解ぃいいい!!」
拍手と共に、司会者は大声で叫んだ。
その瞬間、堰《せき》を切ったように、体育館中から、拍手と歓声が沸き起こる。
ゲストのユーチューバーは、何かを言いかけて、やめた。
もう、文句をつける気力すら、残っていないようだった。
「楽しい勝負だったよ」
蝉原は、涼しい顔のまま、そう言うと、ユーチューバーに向かって、軽く手を差し出す。
「今日の敗北をユーチューブで報告する必要はないよ。『君たちじゃ蝉原勇吾には勝てない』……そんなことは一々言われなくても、みんなわかっているから」
「……」
握手を受け入れながら、ユーチューバーは、しばらく、何かを堪えるような顔をしていたが、やがて、絞り出すように、
「あんた……もしかして、最初から、どんな問題が出るか知っていたんじゃないか?」
その問いに対し、
蝉原は数秒の沈黙を経てから、
「……くく。さすが、賢くて察しがいいねぇ」
「やっぱりな……いくらなんでも二択を当て過ぎだ。超能力者じゃないなら、インチキで決まり」
「これがヤクザの闘い方だよ。勉強になったね」
「……このこと、バラしてもいい?」
「お好きにどうぞ」
「……証拠がない以上、言いがかりの負け惜しみにしかならないか……ちっ」
そう言って、ユーチューバーは舞台から降りていく。
その背中は、来た時とは違って、どこか、小さく見えた。
僕は蝉原に、
(え、知ってたの? いつ、調べたの?)
(いや、知らなかったよ。俺は普通に答えただけ)
(え……じゃ、じゃあ、なんであんな嘘を?)
(大人げなくボコボコにしちゃったからね。精神的な勝利ぐらいはさせてあげようと思ってね……くくく)
(……つまり、一番底意地の悪い叩きのめし方をしたってことか……)
【自己鑑定結果】
名前:蝉原勇吾
種族:人間(ヤクザ)
レベル:7
HP:89/89
MP:32/32
筋力:20
耐久:27
敏捷:29
魔力:23
知性:D(A)
悪意:D(S)
根性:C(SS)
IT:D(A)
商才:D(A)
戦力:D(極SS)
心理:D(A)
話術:D(A)
人望:C(B)
謀略:E(極SS)
悪運:超SS(C)
称号:『ダークヒーロー』『宇宙一のヤクザ』
『ギャングスター』『ゴッドファーザー』
『時計仕掛けのオレンジ』『邪気眼王』
魔法:『自己鑑定』『カンファレンスコール』
『霊体回収』『拳気ランク5』
『暗黒気ランク3』『フェイクオーラ』
『極王気ランク4』
スペシャル:『皇気』
『威圧覇気』『火事場のバカ気迫』
『ピンチに鬼強い』『ド根性極道』
『色男』『アストラルウィザード』
『超テクニシャン』『殺人のプロ』
『チャンスに超強い』『超忍び足』
『邪悪な魂魄』『超々精神的支柱』
『病的な極悪』『ハッタリのプロ』