いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
4話 テキトーだよ。
倒れたグエンは、正気を取り戻したのか知らないけど、
「もういい……殺してくれ」
そんな事を口にした。
蝉原は、
「もちろん、殺すよ。言われるまでもない」
そう言いながらナイフを取り出す。
と、そこで、イヤホンから、夜間の声が届いた。
『総長。滝本の件ですが――今のところ、命に別状はなさそうです。緊急手術はまだ続いていますが、医者の話では、峠は越えたと』
「……」
そこで、蝉原は一度天を仰いで、
「あっそ。興味ないね」
短く、素っ気なく、蝉原はそう返した。
そして、ナイフをしまい、
「質問だ。……なんで英雄になりたい?」
「そんなことを……聞いて、どうす――」
「質問に質問で返すな。俺の質問には、余計な疑問を挟まず、バカみたいにド直球で答えろ」
「……」
「なぜ英雄になりたい?」
「……『あいつら』に殺された両親に、ワタシは何もしてあげられなかった……せめて、英雄になって――」
「ああ、もういいよ。大体わかったから。思ったよりしょうもない理由だったね。もうちょっと感動させてほしかったけど……まあ、君じゃあ、それが限界だろう」
「……」
「どうした? 死を覚悟したくせに、一丁前に傷ついたか?」
「……いや……」
「はっ」
と、一度鼻で笑ってから、
「グエン。お前は英雄にはなれない」
「わかっている。一々言われなくても――」
「けど、悪党の幹部ぐらいならなれるんじゃない?」
「……」
「望むなら右腕……は、言い過ぎだね。俺の左足の小指ぐらいにしてあげるけど?」
「……」
「ワタシの身体は……もう――」
「ダークリングは『SAN値(正気度)』を吸う道具で削る道具じゃない」
そう言いながら、蝉原はグエンの頭に浮かぶ黒い天使の輪を左手で掴み、右手をかざす。
すると、複数のエアウインドウが出現。
「うわぁ……めんどい調整してるぅ……うざぁ……」
などと言いながら、ウィンドウを操作する蝉原。
何をしているか知らないけど、
その作業は数秒で終わったようで、
「これでオールオッケー」
「……なにを……したんだ……」
「ダークリングの所有権を俺に移して、お前から奪ったSAN値は返還させた。神気で汚染された脳は極めてデジタルな呪いだから取り返しがつかないってことはない。俺と同じで、ボロボロになった肉体を回復させるのには時間がかかるだろうが、お前はもう死なない」
「ほ、本当に……」
「嘘に決まってんだろ」
「……」
「人間、いつかは死ぬさ。すぐに死ぬってことはないがな。最低でも、あと50年ぐらいは生きていられるだろう」
「……何者なんだ……あなたは……」
「蝉原勇吾……探偵さ」
「……?」
「気にしなくていい……疲れて頭がまわっていないだけだ」
「……」
「で、どうする? 俺の足の指になるかい?」
グエンは数秒考えてから、
「Hỡi đức vua tôn quý và hùng mạnh, thần nguyện trung thành tuyệt đối với ngài.(気高く強き王よ、あなた様に絶対の忠誠を捧げます)」
「Lẽ ra ngươi nên nói: 'Cho tôi đi theo ngài, Bố già.' Như thế mới ngầu chứ.(そこは『友になってください、ゴッドファーザー』だろう。そっちの方がイカしてる)」
(もしかしてベトナム語? そんなのまで喋れるんだ)
(いや、テキトーさ)