地球防衛系白狐シリオンちゃん(仮)   作:霊藻

6 / 7
君こそが、EDF 4

あの夜から、いくつかの日が過ぎた。

 

ホロウの中では唯一、外から降る光だけが確実なものだった。

空の明るさが変わり、気温が変わり、眠くなれば眠る。

そんな具合に時間を数えているうちに、いつの間にか何日も経っていた。

 

二人の旅に、大きな変化はなかった。

廃墟を見つければ中を調べ、使えそうな物資があれば拾う。

エーテリアスに遭遇すればホロが撃滅し、時にはヤタが逃げ道を探す。

 

出口は見つからない。

けれど、それについて二人が深刻に話すことも少なくなっていた。

今日もまた、二人は当てもなく歩いている。

 

「次、どっち行こうか」

 

ホロが前を向いたまま尋ねる。

目の前には、途中で崩れた大通りがあった。

左右には廃墟となった建物が並び、遠くにはいくつもの巨大な構造物が重なっている。

あれが何の建物だったのか、今ではもう分からない。

 

ホロは足を止め、左右を見比べた。

右へ行けば、古い地図上では以前見つけた道へ繋がっているかもしれない。

左には、まだ探索していない区画がある。

 

ホロは直感で道を決め、再び歩き出す。

何となく、今日は左……それくらいの気持ち。

数歩進んだところで妙な違和感を覚え、振り返る。

 

「……ヤタ?」

 

少し離れた場所に、ヤタが立っていた。

逃げるでもなく、何かを探しているわけでもない。

 

「どうしたの?」

 

ホロが戻ろうとすると、ヤタは小さく首を振った。

ヤタの表情は何時もとあまり変わらないが、その雰囲気はどこか違うものだった。

 

「………ホロ」

 

「うん?」

 

ヤタは一度だけ、自分の腕を見る。

服の袖から僅かに覗いている皮膚には、以前よりもはっきりと結晶が浮かんでいた。

小さかった結晶は少しずつ増えている。

それを隠すように袖を下ろしてから、ヤタは顔を上げた。

 

「……ウチ、どうやらここまでみたい」

 

「ここまで?」

 

「うん」

 

ヤタは、穏やかに頷く。

その仕草は、あまりにも普段通りでしかなく、ただ、いつものように笑おうとして────ほんの少しだけ、困ったように口元を緩めた。

 

ホロは、しばらくヤタの顔を見つめていた。

何か言わなければならないような気がしたけれども、何を言えばいいのか分からなかった。

大丈夫だとも、まだ何か方法があるとも言えなかった。

ヤタ自身が、それを分かっている顔をしていたからだ。

………だからホロは、ただ小さく頷いた。

 

「………そっか」

 

たったそれだけの返事。

ヤタも、それ以上は何も言わなかった。

 

しばらくして二人は、崩れた建物の壁際に並んで腰を下ろした。

 

風が吹き抜けると共に、遠くの廃墟から何かが崩れる音が聞こえる。

ホロウの夜は不自然な程に静かだった。

まるで、これから起こることを知っているかのように。

 

ヤタは自分の腕を眺める。

結晶は、以前よりずっと大きくなっていた。

皮膚の下にもエーテルの結晶が滲み、指先を動かすたび、その硬質の感触が僅かに感じられる。

 

「………ホロ」

 

「ん?」

 

「たぶん、離れてた方がいいよ」

 

ヤタは前を向いたまま言った。

 

「これ、エーテリアス化したらさ、周りも巻き込むから」

 

ホロはヤタを見る。

その言葉の意味を考え、それから小さく笑った。

 

「うーん、嫌、やめとく」

 

「……即答?」

 

「うん」

 

ホロはヤタの隣へ、肩が触れる程度の距離に身体を寄せる。

 

「ここにいる」

 

「……そっか」

 

ヤタは困ったように笑うと、それ以上は説得しなかった。

 

「仕方ないなぁ……」

 

諦めたように呟き、背中を壁へ預ける。

ホロも隣で同じように身体を預けると、二人の間に静かな時間が流れ始る。

 

 

 

満点の星空の下…………話題は、別に重要なものではなかった。

明日行くつもりだった場所の話、これまでに見つけた変な建物の話。

ヤタが保存食を料理するとき、どんな調味料を使うと美味しくなるのか。

そして、ヤタがどこから来て、何がしたかったのか。

そんな、どうでもいい話ばかりだった。

 

ホロは時々、ヤタの身体を支えるように肩へ手を添える。

ヤタは何度か「大丈夫」と言ったが、ホロはそのたびに聞き流した。

やがてヤタの頭が、ホロの肩へ寄りかかる。

 

「……重くない?」

 

「全然」

 

「そっか」

 

時間が過ぎると共に、ヤタの呼吸が少しずつ浅くなる。

ホロは何も言わず、その身体を支え続けた。

 

 

 

 

 

 

…………………そして。

ヤタの胸元に、小さな黒い点が生まれた。

周囲の空気が僅かに歪んで見えるほど暗く、異様なほど黒い。

 

「……ホロ」

 

ヤタの声がする。

 

「うん」

 

「ありがとね」

 

それが何に対する礼なのか、ホロは聞かなかった。

黒い点は、ゆっくりと大きくなる。

小さなブラックホール様の球体がヤタの胸の内側から現れ、その中を喰らっていく。

 

次の瞬間、周囲の空間が歪んだ。

地面に落ちていた小石が浮き上がり、風もないのに周囲へ吸い寄せられていく。

 

ホロは、ヤタを支える腕へ力を込める………それでも、もう止められない。

黒いコアを中心に、眩い光が膨れ上がった。

 

「ヤタ─────────

 

呼び掛ける声を最後まで言い切る前に、衝撃が二人を引き離した。

ホロの身体が大きく弾き飛ばされ、地面へ叩き付けられ瓦礫の上を転がる。

その向こうでは、巨大な光が………太陽とも錯覚するような神々しい光が、夜の廃墟街を白く染め上げている。

 

やがて光が収まり静寂が戻ると、ホロはゆっくりと身体を起こした。

砂埃を払いながら立ち上がり、少し離れた場所へ目を向ける。

 

そこに、ヤタはいなかった。

代わりに立っていたのは、巨大な鳥。

 

人間の面影など、どこにも残っていない。

何十メートルにも及ぶ巨体、結晶質の翼……三本の脚。

夜空へ向かって伸びる巨大な輪郭は、廃墟となった街そのものを覆い隠していた。

 

…………エーテリアス。

ホロは、それを見つめる。

 

その右手に、虚空から一つの武装が現れた。

巨大な狙撃銃。

人間が持つための銃という概念から、とうに逸脱した長大な砲身が夜の街並みへ伸びる。

 

EDFが有する総ての歩兵用銃火器、車載砲熕兵器をも凌駕する単発破壊力を誇る個人携帯型要塞砲……プラネットスーパーカノン。

構えた照準器の向こう側、視線の先には巨大なエーテリアス。

指が引き金へ掛かり、ほんの僅かに震える。

 

 

─────轟音。

砲声が、夜の廃墟街を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

七色の光が、夜の空気の中をゆっくりと漂っている。

無数のエーテル粒子が燃え尽きた火の粉のように舞い上がっては、途中で淡く瞬き、そのまま何もなかったかのように消えていく。

 

その中心で、ホロは立ち尽くしていた。

 

銃口の先には、もう何もない。

残っているのは、ただ廃墟のみ。

 

ホロはしばらく動かなかった。

やがて、何かがひらりと視界へ入る。

上空から落ちてきたそれを、ホロは反射的に手を伸ばして掴んだ。

一枚の羽根…………濡羽色の、細長い羽根。

指先で触れると、ほんの僅かに暖かい気がした。

ホロはそれをしばらく見つめ、それから壊さないように両手でそっと包み込む。

 

その背後で何かが動く。

複数の足音、結晶が擦れ合う音。

振り返ると、暗闇の向こうからエーテリアスの群れが集まってきていた。

ホロは羽根を握ったまま、ゆっくりと顔を上げる。

 

その顔に焦りは無く、そして悲しみに取り乱しているわけでもなかった。

ただ、疲れたように息を吐き、そして一度だけ夜空を見上げた。

 

以前と同じ星空。

あの夜、二人で眺めた星々が、何事もなかったかのように輝いている。

ホロは手の中の羽根へ視線を戻し、それから静かに呟いた。

 

「うん……EDFは敵に背中を見せない。そうだよね」

 

 

 

【兵科:エアレイダー】

 

遠くから、甲高いジェットの音が響く。

夜空を横切る巨大な影、前触れもなく飛来した重爆撃機がホロの眼前を通過していく。

その腹部から、無数の爆弾が雨のように投下され……次の瞬間、眼前の街並みが爆炎に呑まれる。

轟音が連続し、数珠繋ぎの炸裂によって道路も建物も、エーテリアスの群れも纏めて吹き飛ばされていく。

 

ホロの白い髪が爆風に煽られる。

それでも、少女は微動だにしない。

 

【兵科:ウイングダイバー】

 

背中に飛行装置が展開した。

次の瞬間、ホロの身体が夜空へ跳ね上がる。

地上が一気に遠ざかると共に、その手元に現れたプラズマキャノンの砲口が、青白い光を膨張させていく。

巨大な光球が完成すると同時に放たれ、地面に向かって緩い放物線を描きながらエーテリアスの集団の中央部を照らす。

 

───瞬間、巨大なプラズマ火球が膨れ上がった。

火球の直径は百メートル近くに達し、異常な高熱が周囲を閃光で染める。

周囲のあらゆる物体が極度の高温に曝されて焼尽し、エーテリアスの群れが炎の中へ消えていく。

 

 

破壊によって生じた黒煙が、周囲を黒に染める。

次の瞬間、ブースターの噴射炎が暗闇を切り裂き、黒煙を突っ切った少女の身体が夜の街へ躍り出た。

 

【兵科:フェンサー】

 

次の敵へ向かって、連続したブースター音が夜の廃墟街を駆けていく。

その姿は、もはや自分が何者なのかを問う少女ではなかった。

此の身にはヤタから貰った名前が、手元にはヤタの遺した一枚の黒い羽根がある。

そして、その手には自分が唯一知っているものがある。

 

 

────故に、迷う余地などありはしなかった。

 

 

 

 

「やつらに一発食らわせる……私……いや、“ウチ”こそが、EDFだ」

 

 

 





あんまりニワカな状態で書くのもアレな気がしたので、急いでストーリーを最新話までやってきました。


あとEDF6.2INVADERS FROM ANOTHER WORLD発表おめでとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。