春夏秋冬の姫君   作:恋鳥

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妖怪ミステリーツアー

 

 週末のゴールデンウィーク──。

 私たち清十字団は今、新幹線に乗って岐阜県にある捩眼山(ねじれめやま)に向かっていた。

 

 

「捩眼山伝説……ですか。聞いたことないですね」

 

 

 すみませんと言って持ってきたお菓子を食べるゆらちゃん。

 ゆらちゃんにこれから向かう山の伝説を知っているか聞きたいということで、今は雑談している。

 

 

「ふふふ……そりゃーゆらくんが知らないのも無理はない! 捩眼山伝説は妖怪先生のようなマニアな方々にしか知られていないのだよ!!」

 

 

 へー……。ということは、捩眼山のある地域は観光とかで賑わっているわけじゃない、静かな場所なのかな? それならお父さんの発言に納得できるかな。

 清継くんの言葉を聞き、両親に合宿に行く許可をもらった時のやり取りを思い出す。

 

 

『お父さん、お母さん! 今度ねっ……その、友達と一緒に捻眼山に行くことになってね!』

 

『ほーん……』

 

『日程が週末のゴールデンウィークなんだけど……』

 

『まあ、急ね』

 

『私、ついこの前攫われたばかりなんだけど……』

 

『毎月恒例の祭事に参加して、護衛をつけていくのなら良いわよ』

 

『──へっ!?』

 

『ゴールデンウィークっちゅーことは……まだ秋の当番じゃな。あそこの山は確か観光ツアーがあまり開催されん土地じゃし、良い感じの野山になっとるから犬が一匹二匹いても誤魔化せるじゃろ』

 

『あれっ!?』

 

『後は治癒の能力も完璧にさせることね。もう妖怪・半妖・人間の傷の治し方は分かっだろうから後は出力コントロールね』

 

『おーい、秋やーい!』

 

『あれれーっ!?』

 

 

 ──とまあ、そんな感じでトントン拍子で合宿に行けることになったのだ。

 いつもの両親なら私が襲われたり攫われたりすると喜音家(きねや)の家に留まらせようとするのに……。合宿への参加条件が祭事の参加と能力コントロール修行、最後に護衛をつけることって……なんだか拍子抜けしちゃった。やっぱり前回の事件は宿命が関係していたからなのかな。

 宿命とは、どうあっても変えることのできない定められた運命のこと。ただの運命(せんたく)と違ってその人に与えられている天命に直結する因果。ガチ神様の二人はそれに干渉出来るってウワサがあるけど……。

 ──まあそんなことより! この数日は本当に忙しかったな。喜音家が毎月一日に行う祭事──「生誕祭」に急遽祝う側で参加することになったから。当番の夏組と土組と急遽合同打ち合わせを行って私が担当する部分を決めたし、夜遅くまで治癒能力のコントロール修行があったから……大体朝の三時ぐらいに寝ていたな……。お祭りに向けての練習と修行自体は苦じゃなかったけど、睡眠時間が……。

 余談だけど、お祭り自体は成功を収めることができた。何故か歓声がいつもより響いていた気がするけど……。事前準備が良かったからよね。

 リクオくんのお見舞いに行ってからの数日の出来事を思い出している間にどうやら清継くん考案のインディアン・ポーカーがもう一度行われていたみたいで──これまで19回行っている──、今回も清継くん負けたらしく盛大に嘆いていた。

 清継くん、カード運があまりない方なのかな? 結構な回数をやっているのに八割ぐらい最小値のカードを引いているし。それに引き換え……。

 

 

「あはは……また勝っちゃった」

 

「奴良(ぬら)……お前妖怪運があるな。普通じゃねぇぜ……20連勝なんて」

 

「えぇっ!? 何言ってんだよ! たまたまだよ、たまたま!! ──あっ、ボク何か買ってくるよ」

 

 

 リクオくんは豪運を発揮しているみたいで、20連勝を果たしていた。そのことに若干気まずさを感じていたのか車内販売のカートが近付いてきている音を聞いて何か必要なものがないか周りに聞いてきた。

 

 

「でも成績が一番悪い人がって……」

 

「いーのいーの! ボク、こういうの好きだから!」

 

「奴良〜〜、やっぱ良い奴〜〜」

 

 

 にぱーと輝くリクオくんの笑顔を見て巻さんはリクオくんにリクエストを伝える。

 その行動にリクオくんらしいなぁって思っていたけど──私の意識は、ずぅっと隣に座っている及川さんに向けていた。及川さんは先ほどからリクオくんが何かする度に熱い視線を向けていて……。

 

 

「よっ……と」

 

「リクオくん、ファイト!!」

 

 

 リクオくん!? 下の名前呼び!? ……と、私の心がザワザワするような言動や行動をしているのだ。

 実はリクオくんのお見舞いに行った翌日、私はリクオくんと一緒に雑用を片付けている時によく話すようになった先生に及川さんのことを聞いたんだけど、どのクラス、学年にも及川氷麗(つらら)という名前の女子生徒はいないという話だった。

 先生からその話を聞いて──及川さんに対しての警戒心があがった。

 どのクラスにも所属していない女子生徒。部外者なのに浮世絵中の制服を着て、旧校舎探索の時に知り合ったから清十字団のメンバーとして認識されている。

 そういうわけで、私は及川さんのことを“普通の人じゃない”と思って警戒している。リクオくんとどんな関係なのか知るために調査しただけなのに……。もしかしたら、護衛の力を借りることになるのかもしれない。

 はあ……とため息をついて車窓の外を見る。お母さんたちがつけた護衛たちは姿を隠しながら付かず離れずの位置にいるらしい。流石に目立つからね。姿を見せながら新幹線と並走するのは。

 

 

 

 

 ◆◆ ◆◆ ◆◆

 

 

 

 

 

 数時間後──。

 新幹線に揺られてようやく捻眼山付近の駅に着いた私たち。

 

 

「ふわ〜〜……やっと着いた〜」

 

「つかれたー」

 

 

 長時間新幹線に揺られることに慣れていない様子の巻さんと鳥居さんは体を伸ばしながら下車した。私も同意見。幹線に長時間乗るなんてあんまり経験がないから、すっごく身体が固まっている気がする。

 

 

「清継くん〜〜〜〜別荘は〜? 温泉は〜?」

 

「そんなのは夜だ! さぁいくよ!!」

 

「うはぁ、温泉楽しみ〜」

 

「……」

 

 

 巻さんと鳥居さんの温泉を心底楽しみにしているんだろうなって言う声を聞きながら──私はリクオくんにぴったりとくっつく及川さんから視線を外せなかった。

 モヤモヤするのもあるけどこれは監視……いや、やっぱりモヤモヤが勝つ! リクオくん、なんで全然嫌がらないのー!? めちゃくちゃ及川さんと距離が近いと思うんだけど!!

 

 

 

 

 

 一時間後──。

 

 

「何だよ〜〜〜〜〜〜ず〜〜〜〜っと山じゃんか!!」

 

「当たり前だ! 修行だぞ!!」

 

「足いたいー」

 

 

 駅を降りてバスを利用した後──私たちは清継くんの案内のもと、ずっと(舗装された)山道を登っていた。

 目的地が清継くんしか知らないから精神的な負荷……何処まで歩くのか分からないっていうストレスが結構のしかかってくるね。ちなみに並び順は清継くん、巻さん、私、鳥居さん、リクオくん、及川さん、島くん、ゆらちゃんだ。

 

 

「うう〜〜〜〜本当にこんなところで待ち合わせなの〜〜〜〜?」

 

「人なんていなさそーですけど」

 

「バカだねー島くんは」

 

 

 先導している清継くんも息が上がっているらしく、いつもの軽口にキレはなくそこで言葉が止まった。

 

 

「……なんや、あれ」

 

 

 清十字団一行の大半が息が上がっている中、ゆらちゃんはまだまだ余裕があるらしく、周囲を見て何か気が付いたのか、一番後ろから及川さんとリクオくんの後ろまで階段を駆け足であがる。

 

 

「え?」

 

「小さなほこらに……お地蔵様が奉ってある」

 

「どこ?」

 

「霧が深くてよくわからんなぁ……」

 

 

 私もゆらちゃんが見つけたものを良く見ようとするけど、そのほこらは舗装された道から外れたところにあって、岩や霧があるためよく見えなかった。

 ほこらっぽい建造物があるのは輪郭で分かるけど、お地蔵様がいるのかは分からないかな。

 

 

「何か書いてある。──ちょっと見てきます」

 

 

 陰陽師としての勘が囁いているのか、ゆらちゃんは迷うことなく舗装された道から外れてほこらに近付く。その前に──。

 

 

「梅若丸って書いてあるよ!!」

 

 

 ──リクオくんが何かを読み上げた。

 状況的にお地蔵様のところに書いてある文字を読み上げたんだろうけど……視力が悪くてメガネを掛けているはずなのに、リクオくんはなんで読めたんだろう。霧も出ているのに。

 

 

「あっ……ホンマや」

 

「梅若丸のほこら……きっとここだ!! やったぞゆらくん! 流石だ!!」

 

「はぁ……」

 

 

 ゆらちゃんに続くように私たち清十字団は舗装された道から山道に入り、ほこらをよく見ようと近付く。

 リクオくんが読み上げ、先に見に行ったゆらちゃんが本当だと肯定した途端清継くんのテンションが上がってゆらちゃんの背中をバンバンと叩いていた。

 

 

「意外と早く見つけたな……流石清十字怪奇探偵団!!」

 

 

 梅若丸のほこらを近くで見ている私たちの後ろから、そんな風に声をかけてくる人がいた。誰だと思って振り返ると──そこには見るからに“あやしい”人がいた。

 

 

「なんだあのキタナイの」

 

「ああっ! あなたは作家にして妖怪研究家の…… 化原(あだしばら)先生!!」

 

「うん」

 

 

 え……ええええっ! この人が、清継くんが先生と慕っている方!? どうみても怪しさ全開の風貌なんだけど……! 

 

 

「お会いできて光栄です!!」

 

「うんうん」

 

 

 私たちの戸惑いなんて気にしていない清継くんは化原さん? ていう人の手を握ってぶんぶんと上下に振った。化原さん──作家先生は清継くんみたいな子のテンションに慣れているのか冷静に握手に応じていた。

 

 

「これは……梅若丸って何ですか?」

 

「いやぁうれしいなぁ〜、こんな若い年で妖怪が好きな女の子がたくさんいるなんて……」

 

「ううっ……」

 

「いやっ、好きじゃないです……」

 

 

 ゆらちゃんが梅若丸について言及すると作家先生は怪しい笑みを浮かべて私たちに近付こうとした。だけど清継くんが握手した手をそのまま握りしめてブロックしていた。

 私たちを守る……というより、尊敬する作家先生を取られたくない一心だろうけど。

 

 

「梅若丸というのはこの山に伝わる妖怪伝説の主人公だよ」

 

 

 清継くんとの攻防をある程度行った後、作家先生は梅若丸についての話を語り始める。

 ──梅若丸。

 千年ほど前にこの山に迷い込んだ、やんごとなき家の少年。

 生き別れた母を捜しに、東へと旅をする途中……この山に住まう妖怪に襲われた彼は、この地にあった一本杉の前で命を落とす。

 だが母を救えぬ無念の心がこの山の霊瘴にあてられたか、梅若丸を悲しい存在へと変えた。

 梅若丸は“鬼”となり、この山に迷い込むものどもを襲うようになった。

 

 

「その梅若丸の暴走を食い止めるために、この山にはいくつもの供養碑(くようひ)がある。そのうちの一つが、この『梅若丸のほこら』だ」

 

 

 梅若丸のほこらの周辺に腰を下ろして朗々と語られる伝説に清十字団の面々は静かに聞き入っていた。私たちの反応に満足したのか作家先生は笑みを浮かべる。

 

 

「どうかね? 素晴らしいだろ? 妖怪になっちゃうんだよ?」

 

「ふむ……」

 

「よくある、妖怪伝説っぽいですね?」

 

「意外にありがちな昔話じゃんか!」

 

「妖怪先生が妖怪修行なんて言うからさー。ビビらせんなっつーの」

 

 

 よく聞くようなありがちな展開──恨みつらみにより妖怪へ変生(へんじょう)する話──に緊張の糸が切れたのか、軽口を叩き始めるメンバー。

 話を聞く前よりも、どこか賑わいを見せる清十字団の面々に作家先生はにやついた表情で笑みを深める。

 

 

「あれ、信じてない? んじゃ……もう少し、見て廻ろうか〜」

 

 

 作家先生は私たちをさらに奥へと誘い込むように歩き出す。

 その時──私の耳に犬の鳴き声が聞こえた。

 

 

「……」

 

 

 今の鳴き声……私の護衛の子からだ。今回は護衛がいる遠出ということで秋の代行神・月海(つきうみ)から護(・)衛(・)の(・)山(・)犬(・)三(・)匹(・)に星がモチーフの首輪を。私には月がモチーフのネックレスが渡された。

 姿が見えなくても、どれほど遠くにいても、私の耳には護衛たちの声が聞き取れるように。護衛たちは私がどこにいても追跡できるように。

 月海ところの子たちは無駄吠えをしない良い子たち。その子たちが鳴いたってことは──い(・)る(・)。この山には、梅若丸が今なお現世に生きて山を支配している。

 そう思った私は服の中に隠しているネックレスをぎゅっと握りしめる。

 このミステリーツアー ──何事も起きなきゃ良いけど。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 捩眼山。

 その地は人の手が入らないように長い間とある妖怪が支配していた。その山の頂上には山の支配者である妖怪の屋敷が存在する。

 ──奴良組傘下牛鬼(ぎゅうき)組の屋敷が。

 東日本において最大派閥と知られている奴良組の中でも武闘派として知られている組の屋敷。その屋敷に今、主である牛鬼が帰宅する。

 

 

「おかえりなさいませ」

 

「かわりないか、牛頭丸(ごずまる)」

 

 

 主を出迎えたのは一人の少年──牛頭丸と呼ばれた人物。彼はこの牛鬼組の若頭であり、牛鬼の配下として長い間忠実に仕えてきた強者(つわもの)である。

 牛頭丸は主の言葉に対して、口元に笑みを湛(たた)えながら報告する。

 

 

「牛鬼さま──獲物が入りましたよ」

 

「そうか」

 

 

 牛鬼の獲物とは奴良組本家の若頭・奴良リクオのこと。

 リクオがこの時期に捩眼山に足を踏み入れたのはただの偶然ではなく──牛鬼が仕掛けたワナだったのだ。

 獲物が自分たちのホームに足を踏み入れたことに加え、他に気になる報告があるため牛頭丸は続ける。

 

 

「それと、見慣れない犬が三匹。いかがいたしましょう」

 

「その犬は……先日私が見たカミの神使(しんし)だろう。無用の争いをする必要はない。彼らは縄張りから離れたお気に入りを監視する役割を与えているのだろう」

 

「お気に入り……ですか?」

 

「……牛頭丸、馬頭丸(めずまる)にも伝えなさい。この少女に手を出さないこと。彼女こそが、件(くだん)のカミのお気に入りだ」

 

「こいつがですか?」

 

 

 牛鬼は懐から一枚の写真を取り出し、控えている牛頭丸に渡す。牛鬼から写真を受け取り、じっと写真の少女を見つめた牛頭丸は確認するような声を出した。

 写真に写っている少女こそ──奴良組若頭のお幼馴染である家長カナであった。

 写真のみの情報だが、この少女がカミに気に入られるほどの素質を持っているかと問われると疑問に思ったのだ。確かに見た目は整っているが現代において、見た目のみで気に入られるとは到底考えにくい。

 牛頭丸は見た目こそは若者の姿だが、奴良組の傘下となる前から牛鬼に仕えている古い妖怪。現代妖怪と比べてカミに対しての理解があるため、写真からは感じ取れないところでカミが気に入る要素があったのだろうと推察することができるが──幼少の頃から妖怪と関わっている存在が、清浄な気を好むカミが気に入るなど理解出来なかったのだ。

 

 

「あのとき現れたカミは、その少女を特に尊重しているようにも見えた。“主人(あるじ)”とも言っていたことから別のカミのお気に入りかもしれん。──なんにせよ、この山からは無傷で帰ってもらうのだ。カミと事を構えるのは本意ではないからな」

 

 

 牛頭丸からの問いに対して牛鬼はある可能性を口にした。

 浮世絵町の一番街に突如現れた顔見知りの山犬。姿カタチは二代目と分かれた時から異なっていたが、声や仕草、保有する力は知っている山犬そのものであった。だが彼から発する気配は妖気ではなく、神気(しんき)と呼ばれるものだった。その気配を感じ取ったからこそ山犬はカミに成ったのだと判断した。

 しかしいくらカミに成ったとしてもカミの基準からして若輩に過ぎない山犬が、お気に入りが縄張りの外に出たから神使を遣わせるほどの力を手に入れているとは考えにくい。──山犬とは別のカミが、写真の少女を気に入っていると推察した方が色々と腑に落ちるのだ。

 山犬はソレを主人と表現していた可能性だってある。

 

 

「御意」

 

 

 牛鬼からの意向を確認した牛頭丸は一礼すると写真を懐へ入れ、今現在奴良組の若頭を足止めしているであろう相方の馬頭丸のところへ駆け出す。

 

 

「……」

 

 

 それを見送った牛鬼は静かに──鬼気迫る形相で屋敷の中へ入る。

 全ては望む未来のために。

 




【小噺】
 家長カナのネックレスと護衛がつけているものは異界・喜音家で制作されたもの。
 材料や製造方法が異界のものであるため現世では鋳造、解析が不可能なものに等しいオーパーツ。外(・)見(・)は(・)な(・)ん(・)て(・)こ(・)と(・)な(・)い(・)の(・)に(・)中(・)身(・)が(・)と(・)ん(・)で(・)も(・)な(・)い(・)も(・)の(・)なので一見しただけでは機能を見破られない。カナの身につけているアクセサリーの大半はこれである。
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