春夏秋冬の姫君   作:恋鳥

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姫君、清十字団結成に立ち会う

 

「「「「「……な……なんなんだあ〜〜〜〜!」」」」」

 

 

 花開院(けいかいん)さん以外のメンバーの心情はどうやら同じみたいで、符を放ち、妖怪を滅すると断言した花開院さんに対して驚いていた。

 ちなみに符を投げられた日本人形は陶器のつるりとした顔面から変形していた。今の日本人形は目が飛び出て岩のようにデコボコしたヒビが入って動きを止めていた。プスプスと若干の煙を出しているのは……ちょっと、シュール……かも。

 

 

「お、陰陽師だって!? 花開院さん!? 今、確かにあなた……そう言ったんだね!?」

 

 

 清継くんは興奮した様子で──信じられないものを見たという感じで──花開院さんに問いかけると、彼女は静かに頷いた。

 

 

「じ、じゃあ、こいつは……!」

 

「ええ…… 本当(ほんま)にあぶないとこでした」

 

「…………」

 

「ほ、本当だったんだ!! い、いたんだ!! 陰陽師、ということは妖怪も……!!」

 

 

 花開院さんは日本人形を一瞥し、島くんは絶句しているけど、清継くんだけは歓喜の声を挙げていた。

 符が貼られ、自由に動けない様子の人形を見て私はホッとした。けど、それと同時に自己嫌悪していた。

 なんで私はこんなに怖がりなんだろう。もう少し、抵抗できるようにしたいのに……足が竦む。恐怖で、身体が動かなくなる。

 

 

「私は京都で妖怪退治を生業(なりわい)とする陰陽師・花開院家の末裔です」

 

「そういえば花開院って、テレビで聞いたことがあるような……」

 

「それは祖父の花開院秀元(ひでもと)ですね」

 

「そ、そんな有名人がなぜ……!?」

 

 

 自己嫌悪中だけど、耳はしっかりと周囲の音を拾っていた。陰陽師なんて珍しいからね。喜音家(うち)にも確か何個か流派があった気がするけど、それを扱える人の数はやっぱり少ない方かな。

 

 

「この町、浮世絵町はたびたび怪異に襲われると有名な街です」

 

「そ、そーなの?」

 

 

 !?!?!! いや、ちょっと待って! それは初耳すぎる! 普通の街ってこんなに妖怪・悪霊に襲われないの!?

 

 

「うわさでは妖怪の主が住む街とすら言われているんです……」

 

 

 よ、妖怪の主〜!?!! 聞いていない……! うちの誰からもそんなことは何も……ハッ、だから襲われた時はうちの系列の神社に駆け込むようにって、言っていたの!? いつもいつも、襲われた時はそこへ避難して喜音家(きねや)の家に帰っていたんだけど! 後お守りと()()()()もそこで貰ったり購入していたんだけど!!

 

 

「私は一族に試験として遣われたんです。より多くの妖怪を封じ!! そして、陰陽道の頂点に立つ花開院家の頭主(とうしゅ)を継ぐんです」

 

 

 ア゛ーッ! 花開院さん、ただの陰陽師じゃなくて次期頭主の陰陽師なの!? てことは強いじゃん! 次期頭主の修行先に選ばれるなんて……本当ってことじゃん!!

 花開院さんから開示される情報に、私は泣きたくなった。嘘でしょ……幼稚園の頃から過ごしている街が、実は妖怪タウンだったなんて……。ショックが大きいかも……。

 

 

「んな……!? 妖怪を……?」

 

「す、すごいぞ!! プロだ!! プロが来たんだ! ボクの、この清十字団に!! ぜひ協力してくれないか!? ボクも、ある妖怪を探していたんだ!」

 

「ある妖怪?」

 

 

 リクオくんは何故か絶句しているけど、清継くんのテンションは限界突破したのかとても興奮した様子で花開院さんの手を取り、目をキラキラとさせていた。手を取られた花開院さんは不思議そうな表情で清継くんの言葉を聞き返していた。

 

 

「そう!! そのお方は月夜をかけめぐる闇の支配者……! もう一度、ボクは彼と会わねばならない!!」

 

「それは……まさか、百鬼夜行(ひゃっきやこう)を率いるもの……」

 

「そう……おそらく彼こそが妖怪の主!!」

 

 

 あ……どうやら花開院さんも、清継くんがどんな人なのかこの短期間で分かったみたい。ちょっと清継くんの熱量にたじろいでるし。

 口を挟む隙間のないマシンガントークに自分の夢が叶うと信じてやまない愚直さと周囲も同調してついてきてくれると信じてやまない心。……こういうと、ちょーっと悪口みたいに聞こえるけど、純真な人であるのは間違いないから……。トラブルメーカーな面が見えるかもしれないけど、リーダーシップは凄いから……。

 心の中で清継くんに対する評を述べていると清継くんは再び花開院さんの手を取って高らかに宣言する。

 

 

「一緒に探そう!! 妖怪の主を見つけ出そうじゃないかー!! 清十字怪奇探偵団(きよじゅうじかいきたんていだん)、ここに始動だ──!!」

 

 

 ああああ……本気で本格に変な団体が誕生しちゃった……。花開院さんも、呆れたような付き合いきれないみたいな表情をしているし……。

 日本人形が動いてからの怒涛の展開に疲れていたのか──私は足元に“ナニカ”が近づいてきているのに気が付かなかった。

 

 

「ガアアアア!!」

 

「えっ、キャ──ッ!!」

 

 

 近付いてきていたのは花開院さんが封じたはずの日本人形。それは私の足首に向かって口を大きく開けて飛びかかってきた!

 まっ……ずい! 避けきれない!

 

 

「滅」

 

 

 私に噛みつこうとした日本人形は花開院さんの霊力が符に伝わり、原型を留めないほどにバラバラにして滅した。私はバラバラになった日本人形を見てちょっとだけゾッとしたけど、花開院さんに助けてくれたお礼を伝える。

 

 

「あ……ありがとう……」

 

「おかしいな……? 普段こんなヘマはせーへんのに、なんで……」

 

 

 花開院さんは自分の封印が何故解けたのか不思議に思って日本人形の周りをよく見た。するとそこには──。

 

 

「498円……50円引き……」

 

「アッ! ──ごめんなさい。おサイフに式神を入れてたから、レシートと一緒にとばしちゃったみたい……! 一人暮らし、慣れてなくて……」

 

 

 ──最近購入したであろうレシートと、小銭が散らばっていた。

 あ〜……余計なものが入っていたから、上手く封印が出来なかったんだ……。助けてくれたお礼に、お(ふだ)を入れられるケースをプレゼントしようかな?

 

 

 

 

 ◆◆ ◆◆ ◆◆

 

 

 

 

 

「ど、どうしたのカナちゃん……顔色が悪いよ……?」

 

 

 あの騒動の後、もう時間も時間だから解散する流れとなった。

 家が同じ方向の私とリクオくんと及川さんは一緒の帰り道だったんだけど──電車を降りたタイミングで、リクオくんがたまらずと言った様子で声をかけてきた。

 反対側にいる及川さんも落ち込んでいる様子だけど……まあ、私の場合はそうだね……。

 

 

「リクオくん……普通、あんなにはっきりとお化けに襲われたら落ち込むでしょ……。しかも専門家が自分が住んでいる街が妖怪タウンなんて言われたら……」

 

「そっか……そーだよね」

 

 

 リクオくんはあまりピンときていないのかちょっとだけ反応が淡白だった。落ち込んでいる理由を伝えても気分が晴れなかったから思わず深いため息をついたけど、落ち込んでいても仕方ないと思って思いっきり両頬を叩く。

 

 

「カナちゃん!?」

 

「ん……気持ちを切り替えただけ。落ち込んでても仕方ないもの」

 

 

 ちょーっとだけ強く叩きすぎたらしくほっぺがヒリヒリするけど……。驚いているリクオくんに対して、私は両手をひらひらと振って大丈夫だとアピールした。

 

 

「それより次の日曜日、忘れちゃダメよ! 私はこれから手芸屋さんに行くからここでバイバイするけど!」

 

「え、これから手芸屋さんに行くの? 遅くならない?」

 

 

 日曜日の件──清継くんの思いつきで次の日曜日にリクオくんの家で清十字団の活動すること──を伝えてリクオ君たちと別れようとしたけど、リクオくんは寄り道先が気になったのかちょっと意外そうな顔をした。

 まあ、本当は行く予定はなかったんだけど、今日は花開院さんに助けられたし……邪魔かもしれないけど、お礼の品になりそうなものが閃いちゃったから……。後、シンプルに買う機会がこのときぐらいしかないからね。ウチに帰れば道具はいっぱいあるけど、異世界産だって気付かれるとアレだし……。

 

 

「遅く……は、ならないと思う。ボタンとか、そういう小物を買うだけだから」

 

「……」

 

「な、なによ……布は買わないって……」

 

 

 リクオくんからの疑いの眼差しに少しだけたじろぐ。

 こ、これでも喜音家(きねや)で手芸……主に裁縫くらい出来るようにって教わっているのよ? 浮世絵町の友達と遊ばない時は家司(けいし)や街にいるヒトと遊んだり、色んなお稽古をしているんだから……! リクオくんに披露したことはないけど。

 

 

「……もしかして、花開院さんへのお礼を考えているの?」

 

「そうだよ。ほら、花開院さんって仕事道具をお金と一緒にしまっていたみたいだし」

 

「ふーん……」

 

「な、何よー……言いたいことがあるならはっきりと言いなさいよ!」

 

 

 疑いの眼差し……というか、ジトっとした目つきで見てくるリクオくんに対してつい強く言い返してしまった。

 だってリクオくんがあまりにも何か言いたげな顔をするから……! うーん………………。そうだ!

 

 

「……分かった。リクオくん、私の手芸の腕を疑っているんだ?」

 

「え!? いやっ、そんなこと……!」

 

「いいよ、今度リクオくんに何か作って渡すから! それで証明するから!」

 

「!!?!」

 

 

 確かにリクオくんに今まで作ってきたものってバレンタインチョコだったり誕生日に渡したクッキーだったり……手芸品を渡したことがないから、そりゃ疑うよね。

 うんうんと過去に私がリクオくんに送ったものを思い出していると、リクオくんがおずおずといった様子で確認してきた。

 

 

「えと……いいの?」

 

「いいも何も……疑っているんでしょ? なら作って渡したほうが簡単に証明できるでしょ! ……あ、でも難しいものは期待しないでね」

 

「別に疑っているわけじゃ……」

 

「ん?」

 

「ああいや! じゃあ、楽しみにしているから!」

 

「ふっふっふー……楽しみにしててよね! ──じゃ、またね!」

 

「うん、またね」

 

 

 手を振ってリクオくんたちとお別れをした後、私は駆け足で手芸屋に向かっていく。

 さーて……いい材料があるといいなー。花開院さんのはファスナーとか使って収納多めの長財布みたいな形にしようと思うけど、リクオくんのはどうしようかな……お家が武家屋敷っぽいし、和風のものは持っててもおかしくなさそうだけど、何がいいんだろう? 出来れば実用性が高めなものが良いよね。となると……巾着とか? でも巾着だけだと味気ないというか……。

 ……たもと落とし、作ってみるか……? 使わなかったとしても話のネタに出来るし、そうしよう! 善は急げ! 今日は月曜日だから土曜日までに完成させたい……! 少なくとも花開院さんのものは絶対完成させたい! 教えてくれる人に心当たりがあるけど、夜遅くまで時間をとりたくないから今週は早めに本邸に帰らないと……!

 

 

「そっか……ボクにも作ってくれるんだ……」

 

「若?」

 

「なんでもないよ、雪女」

 

 

 ──勿論、私の後ろでそんな会話をしていることに全く気が付かなかった。

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