〜小噺・とある屋敷にて〜
「姫様〜、そこはこうするんですよ〜」
「えっ、そうなの!? ありがとう!」
「姫様〜、贈り物に名前を刺繍しますか? この色、すっごく映えると思うんですよ!」
「まだ全然完成していないのに刺繍は考えられないよ〜。でもありがとう。今度刺繍の先生をお願いね」
「姫さんはほんまに頑張り屋さんやね〜。貰う相手は果報者や……。で、誰に贈るん? 姫さんのええ人?」
「ただの友達だよっ! もー! 姉さんたち私に構いすぎだよ〜!!」
日曜日──。
眠たい目を擦りながら私は手荷物──お菓子が入っている手提げとプレゼントを入れたトートバック──を持って清十字怪奇探偵団の集合場所に向かっていた。
ねっむ……。リクオくんに渡す巾着は簡単なものだからすぐに出来たけど、
いやホント、
代わりにすっっごく冷やかされたけどね。詮索もされたし、会話のネタにするべく根掘り葉掘り聞かれそうになったり……。お針子衆のお姉さんたちは本当にすぐ色恋沙汰に結びつけようとしてくるんだから……。
「遅いぞ家長くん! もう皆待っているぞ!」
「ごめんごめん。遅れ……って、まだ十分前じゃない」
ゆっくりと集合場所──浮世絵中学校前に到着するとそこには張り切っている様子の清継くんと何やら世間話をしている様子の花開院さんと島くんがいた。
「全く、こういう時にこそ気合を入れるべきなんだ! なんて言ったって今日はボクの清十字怪奇探偵団の初活動日なんだから!!」
「アレを初にカウントしないんだ……。とりあえずおはよう、みんな」
「おはよー」
「おはようございます」
「うむ、おはよう」
清継くんの話を軽くスルーして朝の挨拶をすると皆挨拶を返してくれた。
ちなみになんで私や清継くん、島くんはリクオくんの家を知っているのに浮世絵中の前に集まったのかというと──花開院さんがこの街に越してきたばかりで浮世絵町の道を覚えていないから。
花開院さんは引っ越してきたばかりだから、まだ比較的に道を覚えている浮世絵中を集合場所にして、リクオくんの家に行ったほうが迷子にならないと金曜日に話し合って決めたの。
「さー、それじゃあ早速……」
「あ、待って待って!」
待ちきれないと言わんばかりに清継くんが動き出そうとしたけど、それを制するように声を上げて私は花開院さんに近付いた。そして花開院さんの前に立ってからトートバッグからプレゼント用に包装したお礼の品を取り出して花開院さんに向けて差し出した。
「花開院さん、もしよかったらこれを貰ってくれる? 妖怪から助けてくれたときのお礼」
「え……いや、でも私は当たり前のことをしただけで……」
「でも花開院さんがいなかったら私たち、もっと危ない目にあっていただろうし……。花開院さんにとって、当たり前かもしれないけど、私は花開院さんに助けられてすごーく感謝しているの。だから、これは私の感謝の気持ちを込めたお礼の品だよ」
「……じゃあ、ありがたくいただきます。おおきに」
花開院さんはここで無下に断るのもあれかと判断したらしくプレゼントを受け取ってくれた。
っはあ──……緊張した。手作りとか重くないかって今になって心配になってきたけど、もう渡した後だし、気にしない気にしない!
「ほう、お礼の品! 確かにゆらくんの活躍は目覚ましいものだったね! ボクもお礼を考えないと……」
「さっすが清継くんっす! 俺も一緒に考えますっ」
「え……いや、ええて。そんな頻繁にお礼の品もろたら天狗になってしまう。私は修行でこの街にきたんです」
「そうかい……?」
「そーです。だからお礼の品はこれ一個で十分です」
花開院さんの決意は堅いのか、清継くんにキッパリと告げた。そんな様子の花開院さんに対して清継くんは何か思うことがあるのか、意見を押し通そうとはしなかった。だけど。
「ふむ。ではその家長くんのお礼の品を見ようじゃないか!」
「はい?」
「お礼の品はそれ一個でいいとはいったけど、それじゃあボクの気が済まないからね。もしゆらくんが満足しないようなものであればボクも追加で渡す。ほら、これで問題ないだろう?」
「……」
花開院さんは清継くんの発言に少し呆れたような……清継くんの家で見せたなんとも言えない表情を浮かべていた。
まあ……プレゼントを送った人が目の前にいるのにその発言はどうかと思うけど、確かに花開院さんはこれからもお世話になる人で主に迷惑をかけるかもしれない人だからね。清継くんの気が晴れるなら私はそれで構わないよ。
「えと……」
「いいよ花開院さん、ここで開けて」
「……家長さんが見てええんやったら」
チラリとこちらを見てきた花開院さんに私は自信を持って頷く。せっかくだし受け取った反応は見たいよね。
花開院さんは慎重にプレゼント包装紙を開けていき──プレゼントの全貌が見えると同時に目が輝いた!
「どれどれ……おおっ、これは!」
「自作の長財布だよ。確か花開院さん、お金とお仕事に使うものを一緒に入れていたよね? こういうアイテムがあったらそんな事故は減るんじゃないかなーって」
「て、手作り!? これ、家長さんの手作りなんか!? こんな、立派なもの……」
「はえ〜、器用なんだな」
私が花開院さんに渡したのは
材料は縦91センチ×横21センチの布一枚と同じサイズの接着芯、後はファスナーに、留め具として使った道具類。収納力はそんなにないけど、お札を入れたり、小銭を入れるスペースはあるからちょっとしたものなら簡単に分けて持ち運べるようにした。
……まあ、長財布だから、どうしてもポケットに収まらないかもしれないけど。でも花開院さんのリアクションを見れて本当に良かった〜〜〜〜! 要らないものじゃないって分かっただけでも嬉しい!
「おおきにな、家長さん。大事に使わせてもらいます」
「本当? 嬉しいな。留め具が外れそうになったらいつでも言ってね。長財布なんて作ったことがないから……」
「なんや言うてんねん、自信持ってな。これ実家に自慢するわ」
「そ、そこまで!? あ、いや……そこまでしてくれるのは嬉しいけど、流石に照れちゃうな……」
「家長さんって裁縫が得意なの?」
「んー……実はそれ、知り合いのお姉さんに教えてもらいながら作ったから、得意か不得意かで聞かれると……」
島くんからの質問に対して私は改めて考える。
上手いか下手かで聞かれても、私は普通だと思うし……。お針子のお姉さんたちは別格として、喜音家の中でも私は『姫』という立場だからケガをする可能性のある針仕事やお料理はあまりやらない。教養というか、喜音家の中でも最低ラインの技術は学んだと思うけど……。
でもまあ、現世の同年代の中では上手の部類に入るのかな? 一応。
「──素晴らしい! 家長くん、凄いじゃないか!」
「ありがとう、清継くん。これは清継くんのお眼鏡に適ったかな?」
「もちろんだとも! ゆらくんの様子が、何よりの証拠じゃないか!」
どうやら清継くんの目から見ても満点の贈り物だったらしく、私はほっと息を吐いた。これで清継くんの暴走が止まれば御の字かな……まだまだ今日は長いんだし。
チラリと花開院さんの様子を改めて盗み見る。彼女は本当に私の作った長財布を気に入ったのか、キラキラとした眼差しで何度かファスナーを開けてみたりポケットの収納力を確認していた。
「それじゃあ、改めて
私からのプレゼントを確認した清継くんは気を取り直して私たちに号令をかける。……手に清継ノートと書かれたものを手にして。
って、え? まさか清継くん……リクオくんの家に着くまでそんな妙なことをするの!? 本気で!?!!
◆◆ ◆◆ ◆◆
リクオくんの家の門の前に到着した私たちは──リクオくんの迎えを待ちながら清継くん考案の妖怪クイズをやりながら時間を潰していた。
備え付けられていたインターホンを押して来訪を知らせたけど、大きな家だからちょっとだけ時間が掛かっているみたい。
……思えば、リクオくんの家に遊びに行くのはこれが初めてだな。今までは外で遊んでいたり、浮世絵町にある私の家で遊んだことはあるけど……リクオくんの家はなんだか怖くて、中に入りたくなかったから。
「妖怪ク〜〜〜〜イズ 第17問目。次のうち鳥をしたがえてとぶ火の妖怪は何? A.
「う〜〜ん……Cですか、清継くん!」
「ブー!! 答えはB。ハッハッハ島くん君はまだまだだねぇ〜、気合いが足りないよ」
「きあいっ……すか」
気合いの問題じゃないと思うな。そればっかりは妖怪に対する関心の問題というか……。
清継くんと島くんのやりとりに対して心の中でツッコミを留めておく。ちなみに清継くん考案の妖怪クイズの主な回答者は島くんだ。ここにくるまでの16問を島くんは真剣に考えて回答していた。その島くんが長考するような問題が来た場合は私が回答を行なっている。
たまに反応しないと厄介なことになりそうだからね……。
「今日はゆらくんに気合を入れてもらうからねー!! プロだぞ、妖怪の!!」
「気合……ですか」
突然名指しされた花開院さんは真顔で愛想笑いをしていた。そんな花開院さんの対応を気にしていないのか、清継くんは改めてリクオくんの家の門を見る。するとそこでギィィという重い音を響かせ、リクオくんが門から顔を出した。
「ごめんごめん、遅くなっちゃって」
「本当に遅いぞ奴良くん!! さっさと案内したまえ」
リクオくんが来たことで清継くんはノートを一度閉じた。そしてリクオくんが私たちが入りやすいように門を開けると清継くんは意気揚々と門をくぐり、私たちもそれに続いた。
「いざ、妖怪屋敷で妖怪会議だ!!」
「ちょっと清継くん! リクオくんに失礼だよ!!」
「良いんだよカナちゃん。実際に古い家だし……」
ちょーっと礼節を欠いている清継くんに注意をするとリクオくんは私を宥めるように手をかざして苦笑していた。
「でもリクオくんのお家でしょ? 自分の家がそんな風に言われたら嫌じゃない!」
「ありがとう、そう言ってくれて」
「もー、リクオくんはそうやってすぐに……! ……まあ、その件は後で清継くんに謝ってもらうとして──これ、渡しておくね」
リクオくんの態度に私はちょっと怒ったけど、いつもと同じようにのらりくらりとかわされて終わる予感がした私は気持ちを強制的に切り替えて、お菓子が入っている手提げをリクオくんに渡す。手提げを受け取ったリクオくんはきょとんとした表情をした。
「これは?」
「お母さんから渡されたの。お友達の家に行くなら持って行きなさいって」
「えーっ! わざわざ良いのに!」
「良いから受け取って! 中身はお煎餅とかおかきが入っているから」
リクオくんの肩を掴んで強制的に身体の向きを変えてから、ぐいぐいとリクオくんを後ろから押していく。せっかく用意したんだから、返却されないようにしないと!
ぐいぐいと無理やり背中を押されているのにリクオくんは一切気にしていない様子で足を動かしていた。そして、顔だけ私の方へ向き──。
「……ありがとう、カナちゃん」
──穏やかな顔で、お礼の言葉を伝えてくる。
……なんか、最近リクオくんに隠し事が出来なくなってきたかも。あの顔、絶対私が用意したものだって気付いたよね? なんで? 現世の手土産に詳しい人に聞いて買ってきてもらったのに。お菓子のチョイス、おかしかったのかな……。
「2人で何をしているんだいっ?」
「なんでもないよ!」
「ごめんね清継くん、今案内するから!!」
清継くんがとうとう急かすような口調になったから、リクオくんは私から離れて先導して家の中を案内しはじめた。リクオくんが少し離れたところで──私はリクオくん用のプレゼントが入っているトートバッグを改めて見た。
いや……流石にこのタイミングで渡せないでしょ。もうちょっと後にしよう。