リクオくんに案内されたのは大きな客間だった。
そこに私たち4人が通されて今は座布団の上に5人座っているんだけど……部屋の規模と人数が全く釣り合っていなくて空間が物凄く空いている。
リクオくんの家の室内はどうやら電球の数が少ないみたい。だから日光くらいしか光源がないから、日中でも良い感じに部屋が暗いという印象を受ける。電球があまりなかったし……もしかしたら本当に結構年数が経っているお家なのかも? 外観も古そうだったし……私はこの暗さと家鳴りくらいなら本邸で慣れているから平気だけど。
でも流石にこの人数にこの部屋は広すぎると思うな。パッと見たところ30畳以上ありそうだもん。リクオくんの家って、結構大所帯だったりするのかな?
「……なんか、本当に出そう」
「いい雰囲気じゃないか。それじゃ始めようじゃないか」
島くんの言葉に清継くんは(怪談を行う的な意味で)肯定的な意見を述べてから静かに進行を始めた。
「今回はゆらくんから妖怪に関するレクチャーを受けたいと思います」
「は……」
事前に清継くんから依頼されていないらしく、少しだけ
「そう、ですね……。ではこの前の人形──
「つくも神?」
「島くん!! 君は何も知らないねぇ!!」
「器物百年を経て化して精霊を得て より人の心を
花開院さんか清継くんを無視してレクチャーを進める。
対応するのが早いなー……。同じクラスに一週間いたから慣れたのかな?
「付喪神は打ち捨てられた器物が変化した妖怪なのです。妖怪は色々な
その中でも確か……超常現象系は神様として人に
「妖怪の1/3は火の妖怪であると言われています。やつらの目的はみな、人々をおそれさせること。中でも危ないのは獣の妖怪化した存在! やつらの多くは知性があっても理性がない、非常に危険です!」
……獣系の妖怪はうちにもたくさんいるけど、そんなふうに思ったことはないなぁ。教育係を筆頭に会っていないだけだって言われるかもだけど。
まあ、喜音家の外にいる妖怪は別物だって考えているから花開院さんの言葉は頭に入れておこう。
「欲望のまま
花開院さん、なんだかどんどんレクチャーに熱が入ってきたね。
「そして──それら
「ぬらりひょんか……妖怪の主とは言え、小悪党な妖怪だと思っていたよ」
「そう。ヤツは人々に多くの
私の隣に座っているリクオくんが息を呑む。
「でも、ヤツを倒せば私もきっと認めてもらえる。
「お茶入りました〜〜」
花開院さんが作ったシリアスな空気を壊すようにポニーテールの長髪着物美人が部屋に入ってきた! その人はお盆にのせていた湯呑みをせっせと私たちにくば………………あれっ? この人、お針子のお姉さんや
よく慣れた気配を感じて私はお姉さんを見ていたけど、花開院さんもお姉さんの横顔をまじまじと見つめているのに気が付いた。
「ではごゆっくり」
給仕を終えてささっと退場したお姉さんだったけど──何故がリクオくんが大汗をかいてお姉さんの後を追うようにダッシュで部屋を飛び出した! それに釣られたのか、固まっていたメンバーがそれぞれ思ったことを口に出していく!
「何!? 誰、あのおねーさん!?」
「リクオ、あんな
「いや、リクオくんは一人っ子だから、あの人はお手伝いのお姉さんだと思うよ。前にお手伝いさんがいるって聞いたことがあるし」
「お手伝いさん……? そう、今のが……」
花開院さんは私の言葉を聞いて改めて室内を見る。その様子はまるで──何かに警戒しているような様子だった。
「この家は──どうも、変ですね」
花開院さんはそう呟くと座布団から立ち上がって迷いが一切ない足取りで部屋の外へ出ていく! って、あれぇ!?
「ちょ、ちょっと花開院さん! 勝手に出歩いたらまずいよ! お家の人がびっくりしちゃう!」
あまりにも自然な動作で立ち上がった花開院さんに、私も遅れて制止の声をかけながら追いかける。残りのメンバーも急いで立ちが上がって花開院さんの後に続いてきた!
わあーっ!? 結果的にみんな部屋から出てきちゃった!
「どこに行くんだい、ゆらくん!!」
清継の問いかけもあまり聞こえていないのか、花開院さんは周囲をキョロキョロと見て少し考え込む。
「なんだかものすごい
「え!?」
うっそ、この家に妖怪がいるの!? でも全然そんな気配はないよ? “悪意”や“敵意”といったマイナス感情は一切感じられないし……でも専門家の言葉や感覚を疑う気にはなれないし……。
花開院さんの言葉に驚いて声をあげた私に続くように清継くんが口を開く。
「ど……どーいう意味だい!?」
「まさかこの家って、本当に妖怪屋敷なんじゃ……!?」
「み、みんな〜〜もどって妖怪の話をしよ〜よ〜〜〜〜!」
この家に妖怪がいるかもしれないという空気になったところでリクオくんが合流した。ちょっと目を離しただけなのに部屋に誰もいないことに焦ったのか、リクオくんは息を切らしていた。リクオくんは皆に部屋に戻るよう提案するけど──。
「だめだ。奴良くん……君には後でじっくり話を聞かせてもらおう」
清継くんの妖怪スイッチが入ったらしく、彼はリクオくんの提案は一蹴された!
リクオくん、こういうときの押しは弱いからね……。もうこうなったらお家の人に会わないように祈るしかない。私もそこまで強く止めることが出来ないし。
突発的に始まったリクオくん家の探索だけど──結果だけ言えば何も見つからなかった。
最初に花開院さんが目をつけたのは大浴場のある水場だった。彼女は失礼と言いつつ、ためらいなく大浴場の扉を開いたけどそこには何もいなかった。次に私たちが通された客間とは別の部屋に入ったけど、そこにも何もいなかった。
次々に花開院さんの気になるところに行って片っ端から調べたけど、どこにも何も見つからなかった。
──でもなんか、行った先々で何かがいるような物音だったり、気配だったりはしたなぁ……。
流石にこれ以上無断で家の中を歩き回るのは止めようとなり、私たちは通された客間に戻ってきた。清継くんは妖怪がいなかったことにがっかりして、花開院さんはすごく落ち込んでいた。
お、重い……なんだか空気が……っ。お茶を飲んでも気持ちが落ち着かない……!
「特に……何もなかったね……」
花開院さんの落ち込み具合になんて声を掛ければいいか迷ったけど……島くんが事実を口にした。
ああああ、花開院さんの空気が更に暗く……! いや、花開院さんが落ち込んでいる理由は見当がつくのよ!? でも下手に慰める言葉をかけても傷付くだろうし……。い、いっそのこと、介錯をする気持ちでいた方が良いのかな……!?
「おうリクオ、友達かい?」
そんな気まずい空気の中、襖がガラガラと開き、見慣れない人物が現れた。その人は子供と同じくらいかと思うくらいの小柄で後ろに長く伸びた頭が特徴的な老人だった。
リクオくんに対しての発言と、後ろにひっくり返ったリクオくんの姿から家族なんだろうなと思った私たちは軽く頭を下げて挨拶をする。
「あっ。どうもおじゃましてます」
「おーおーめずらしいのう。お前が友達を連れてくるなんてな。アメいるかい?」
「えと……いただきます」
懐から取り出したのはアメが入った器だった。それを差し出しながらおじいさんは私たちの顔を一人ずつ見ていく。
「どうぞみなさん、これからも孫のことよろしゅうたのんます」
アメを一通り配り終えたおじいさんぺカーっと笑みを浮かべる様子に愛嬌を感じた私は口元に笑みを浮かべていた。
リクオくん、こんな感じのおじいさんがいたんだね。今までお母さんしかみていなかったけど、おじいさんも優しそうな人だな。
「あ、ハイ……」
「まかして下さいおじいさん!! しかしこのアメ、まずいっすねぇ!」
花開院さんはポカンとした様子で、清継くんはもらったアメを早速口に入れて断言していた。
……もらったアメ、まずいんだ。じゃあ今食べるのはやめておこう。
◆◆ ◆◆ ◆◆
夕暮れになり、そろそろお開きにしようという時間になった。
花開院さん主導の探索の後は普通におしゃべりをしたり(妖怪についての豆知識)、遊んだりしていた(清継くん考案のゲーム)。活動も平和的に終わり、現地解散となった私たちはリクオくんの案内で玄関にいた。
「いやー、充実した一日だった!」
「そうっすね!」
「……」
玄関口で靴を履いていると落ち込んだ様子の花開院さんの様子が見えた。
彼女、探索を終えてからずっと落ち込んでいるというか、上の空というか……。ちょっと気になるな。
「それじゃあ君たち! 今日の活動はここまで! また明日学校で会おう!! 奴良くん、今日はお邪魔したね!!」
「またなー、リクオ」
「……失礼します」
清継くんと島くんはリクオくんに挨拶をした後、真っ直ぐ門を出ていった。けど、花開院さんの足取りはトボトボとしてゆっくりと門を出て行った。
う、うーん……なんか、そのまま見送るのは違う気がするなー……。──よし。後で追いかけよう。まだ花開院さんは地理が詳しくないから心配だし、もう夜になるからね。
「カナちゃん?」
「あっ、リクオくん。……今日はありがとう」
「どういたしまして。ボクは何もしていないけど……」
たははといった感じで笑っているリクオくんだけど、私たちには分からない気苦労がたくさんあったと思う。だって何度か汗まみれになっていたし、ハニワみたいな変な顔になっていたし。
──そんなリクオくんに渡すようなものじゃないかもしれないけど、このタイミングを逃しちゃいけない気がする……! 周りに人はいないし、冷やかされることにはならないよね?
キョロキョロと周りを確認して……私は覚悟を決めてリクオくんを手招きした。リクオくんは頭にハテナを浮かべているのがよく分かる表情で私に近付いてくる。そしてリクオくんが近付いたタイミングでトートバッグの中から──リクオくん用のプレゼントを取り出した。
「これ、この間のやつ」
「この間……? えっ、月曜日に言ったやつ!?」
「こ、声が大きい……!」
「えっ、あ……ごめん」
ただリクオくんに出来たものを渡すだけなのに……な、なんだか緊張してきた! ど、どうして急にソワソワしているのよ、私! 別に、やましいことをしているわけじゃないのに……! うぅ、なんか顔が熱くなってきた。心臓もうるさいし……。
「その……えと、知り合いのお姉さんに聞きながら作ったから……確認もしてもらったし……変なものには、なっていないから」
「そっか。ありがとう。でもこんなに急いで作らなくても良かったんだよ?」
「お、思いついたときにやりたかったのっ。それに、こういう機会はあまり……」
「え?」
「なっ、なんでもないっ! とにかく、渡したからね! 完成品を見て私の手芸技術を確認してよねっ」
なんて表現したら良いか分からないくらいの恥ずかしさで限界となり、私はパッとリクオくんから離れた。今まで距離が近くて見えていなかったけど、離れたことでリクオくんの顔がよく見えて──私の心臓はうるさく高鳴った。
なっな……なんでそんな、嬉しそうに、照れてるみたいにはにかんでいるのよ〜〜……!
「カナちゃん」
「なっ、う……な、なに……?」
「これ、大事にするね」
「〜〜っ。だ、大事に使ってくれなきゃ怒るからねっ。じゃあね、リクオくん! また明日、学校でね!」
本当の本当に限界になった私は──捨てゼリフを吐くようにして、駆け出した。
ワーッ! 私、一体どうしちゃったんだろう!? なーんで普通に渡せなかったのかなぁ!? 花開院さんに渡すよりもずっと緊張したし、反応が見れなかったんだけど!! うー……顔があつすぎる!!
〜裏話〜
喜音家にてカナと接する妖怪は人間に化けているものが多い。
恐怖耐性をつけるためにあえて妖怪の姿のままのものもいるが、お針子衆には特に女妖怪が多く在籍しているため、
逆に雪女や青田坊といった存在は触れ合ってきていないため、全く気が付いていない。