アステロイド・ベルトの残骸漁り   作:七つ葉なずな

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14話 ヤドカリ

最近、カリブ海で海賊になるゲームを遊んでいる。1.0(正式版)が発売されたばかりなのだ。地球の、カリブ海の北側の海岸線にある会社が作ったゲームで、船の上から大砲を打ち合ったり曲刀を持って切り合いを演じたりできる。部下を集めて島に隠れ家を開拓することもできるし、猫という生き物を撫で回すこともできる。ネズミという生き物の対策で、船の上で飼っているらしい。

この猫はふわふわした見た目をしていて、自由気ままに流動的に動き回るのだが、たまに樽から半分はみ出ていたり、マストから尻尾が突き出ていたりすることがある。そういうのを見ると、いっくらグラフィックと音響と仮想感覚がすごくても、やっぱりゲームなんだなあ、という気分になる。

まあつまり何が言いたいかというと、コライダーのバグが何かでゲームのオブジェクトが重なり合うと、ちょうどあんな感じになる。ということだ。

 

ファイブスター号は、3隻が譲り合わずに同じ場所に停まっているような珍妙な形になっていた。

 

土台はツギハギの楕円筒。そこから観測船アステリア号の生活区画が四角い箱のまま横へ突き出し、背中に直径3.2m、長さ7mの筒が横たわっている。

全長13m、全高6.4m。もとの船が全高3.6mだから、上の筒だけで元の船とほぼ同じ高さがある。さながら、カリブ海で見た「ヤドカリ」という生き物のようだ。

 

「……カリブ海に浮かべたらひっくり返るかなあ。でもって、筒だけ外れちゃいそう。」

『そうですね。構造計算の結果ですが、ベクタースラストで曲がろうとするとへし折れる場合があります。』

 

この筒、まだ仮止めしただけなのだ。下面のコンテナ跡を船体の背中に付けて、縁を1周溶接しただけ。

推力は筒を前へ押し、その力が1.8m四方の溶接に全部集まる。ここが切れれば、スラスターの付いた箱が船倉ごと勝手に加速していくことになる。

 

それだと困るので、プルメリアに改装案を3パターン出してもらって、「4G差があっても耐えられる」設計を選んでヘルメットに表示した。

筒の側面から船体の構造材へ細い部材を斜めに渡す、トラス構造を作って補強するのだ。

 

ちょうど良く、「タイプE」軽量カーボンパネルの端材がガラクタ市場で手に入ったのだ。船首側の穴の緊急硬化パッチを剥がして、タイプEのパネルで塞いでいく。そのパネルの外側にジョイントを4箇所。いずれアンテナを積むなら、何も遮らない方向を向いている船首に付けることになる。

 

 

作業中、10分に1回のペースで大きな揺れがあった。上を見上げれば、灰色のボールのような物体が宙に浮いている。そこから、四角いカゴがゆっくりと降ってきているのだ。今日のケレスの天気は、晴れときどきコンテナ。

 

RSDの第3艦隊が、木星圏から帰ってきていた。太陽系全体でも有数の規模を誇る輸送船団(コンボイ)であり、会合期の本丸である。

中核は特大型(XL)輸送船「ルドラ」。全長1,100m、積載12万トン。ケレスにあれを着陸させられる設備はないから、硫黄と窒素のコンテナは自由落下に任せている。

1パック40トンを安いカーボンのカゴに詰めて、小さな逆噴射モーターを1本だけ付けて放す。ケレスの脱出速度は秒速510mしかないから落ちる速度もたかが知れていて、地表の手前で逆噴射をかけて秒速30mまで落とし、氷のレゴリスへと突っ込ませる。1時間に6個のペースで、ピアッツィの巨大なクレーターを叩いている。

 

音はしない。かわりに白い粉が上がる。

砕けた氷は煙にならず、1粒ずつ弾道を描いて持ち上がり、傘のように開いて、同じ速さで戻ってくる。空気がないので途中で減速もしない。粒の1つ1つが放物線を描き切って、地面に落ちる。

とはいえ重力が地球の30分の1もないので、上がった粉が落ちきるまで2分近くかかる。

 

数秒遅れて、足の裏が突き上げられた。真空に音はないが、40トンの衝撃がケレスの氷を伝ってゲートの構造物に届き、磁着したブーツの底から膝まで上がってくる。

 

工作機械や精密機器のほうは落とすわけにはいかないから、艀(カーゴ)で往復輸送(ピストン)している。それに、第三艦隊の他の小型艦も着陸してきている。

 

 

『マスター。Sゲートの停泊料が改定されました。1時間360ドルです。』

「……は?」

『昨日までは140ドルでした。』

「2.6倍って。上げるとは思ってたけど、そこまでやる?」

『出航ベクトルの割り当てが3日前から30分刻みで埋まっています。行列で捌けないなら、次は値段しかありませんので。』

「理屈は分かるけど、思い切ったなあ。よその企業の船も来てるってのに。」

 

1日で8,640ドル。補強工事には1日以上はかかりそうだ。このままでは、部材代より停泊料のほうがはるかに高くつく。

 

「やってられるかー。」

『いかがしましょう。まだ補強は完了していませんが。』

「こうなったら、後の作業は現地でやるよ。一石二鳥ってやつだ。」

 

 

目指したのはスクラップ2162F15A。2ヶ月半前、まだサンコイチに乗っていた頃に下側4分の1を切り取って持ち帰った突撃艇である。

 

『軌道が下がっています。現在ケレスから6,200km。掃討リストの14番目ですね。』

「いつ撃たれるの?」

『51日後の見込です。ラインの内側に入りますので。』

 

航路の内側に居座る残骸は、航宙管制が対空レーザーで撃って砕く。小さくすれば装甲で受けられるからだ。サルベージ権の設定があろうと容赦はされない。

 

「ここまで近ければ、海賊だってどうせ狙わないでしょ。」

『逆に、ピアッツィ・ベースがケレスの反対側にある間は射角が取れなくなりますが。』

「自転周期9時間だよ?」

 

 

行きは片道7時間のゆっくりコースにした。慣性航行とオートパイロットに任せて、たっぷり7時間寝られた。停泊料の心配もなくぐっすりだ。

2162F15Aの姿はあのときのままだ。下側4分の1が四角く抜けている。急いで切ったからかなり雑な切り口で、今見るとちょっと恥ずかしい。

 

欲しかったのは構造材である。突撃艇の骨組みで、断面が閉じた角材。サンコイチでは持ち帰れなかった資材だ。

必要な長さに切り分けて、上の箱に放り込む。

 

それからアンテナ。あのときは「かさばる割に安い」で見送ったが、今なら余裕を持って持ち帰れる。

送信モジュールも電力増幅部も無いが、飾りくらいにはなるだろう。

 

 

工事は18時間で終わった。

筒の側面から船体の構造材へ、角材を斜めに渡して溶接する。骨組みが剥き出しになって見た目はますますごちゃっとしたが、こうして「縦」に重ねているからSゲートを利用し続けられる、という側面もある。幅や奥行を拡げすぎると、中型船扱いになってお高いNゲートに誘導されるようになるのだ。

念のため、気密試験もやっておく。帰り道では筒の中に窒素を注入しておいて、0.6気圧が5時間保つことを確認した。

この間、船は一度もゲートに入っていない。バッテリーを2倍にしたおかげで、スラスターさえ動いていなければ4日も5日も居続けられる。人と会わないから化粧もいらない。

 

 

ピアッツィに戻って、ゲートで電力の補給。1時間だけの滞在にして、とっとと次の仕事に出発することにした。

考えてみれば、この船の生活区画はドミトリーの自分の部屋より広いし、船全体の容積はドミトリーよりももっと大きい。

中でVRを立ち上げればカリブ海気分だし、将来的には運動機材も入れても良いかもしれない。

薄いカーボンの箱の中で何日も1人で過ごしても、わりかし平気なようなのだ。ちょっと自分に驚いている。前にヴァルハラ号の誘いを断ったのも、無意識に「1人で大丈夫」だなんて思ったからなのかもしれない。

マユルは自分で思っていたより、船乗りの適正があるのだろうか。このぶんなら思い切り遠くのサルベージだって狙えるだろう。

 

 

『採掘船(マイニング・シップ) オーガー・マカロヴァ号 MCC 2年2ヶ月前に事故により放棄 スノードームから4万1千km』 12,400ドル。

 

今回狙うのは、全長26mのM級(中型船)である。遠くて小さいから、PGSもわざわざサルベージしようとは思わなかったらしい。

中型船は長さにして小型船の4倍くらい、つまり大きさとしては64倍くらいはある。これまでは、もし権利を買っても剥いだものをほとんど持ち帰れなかった。上に筒を載せた今なら、大型で高価なパーツを持ち帰れる。

 

『記録が残っています。2年2ヶ月前、ラジエーターパネルに大型のデブリが当たって破孔。運悪く中央ブロックの核融合炉が損傷し、冷却系がダウンしました。炉は自動で緊急停止しましたが、その後に姿勢制御を失い、乗員3名は救命艇で脱出してRSDの哨戒艇に収容されています。』

「緊急停止まではできてたわけだ。……コイル、焼けちゃってるかな。」

『そこまでは記録にありません。』

「記録では最初は3基あったんでしょ?1基でも生きてれば元は取れるよ。」

 

 

相談しながら、ちらりと左手首に目をやる。拡張現実で時間が表示されるのだ。

 

「あと、スノードーム行きの荷、探しといて。1件でいいから。」

『こちらの4件の候補はいかがでしょう。運賃は普段の1.2倍です。』

「またヴィクラム軌道建設か。木星からの輸入品を第三艦隊より先に運んでおきたいわけね。じゃあ、この2件で。」

 

冷蔵コンテナと検査機器の小口を2件取った。

 

『……しかし、ずいぶん遠いですが、海賊は大丈夫なのでしょうか?』

「第三艦隊の行き先、次はスノードームでしょ。硫黄と窒素をここに落としたら、次は藻のプラントに肥料を渡す番なんだから。あと数日で航路に艦隊が列を作るよ。」

『とはいえ、それで海賊が出ないことになりますか?』

「第三艦隊は大の海賊嫌いなんだよ。第四艦隊と違って。なんてったって『輸送艦隊』だからね。」

 

当たり前の話だが、水耕栽培は水だけで栽培できるわけではない。窒素、リン酸、カリウムの三大要素と、他にもミネラル類が必要だ。これらの元素は、地球と違って容易には手に入らない。

ケレスは炭素と水には困っていないが、リン酸の調達が難しい。ピアッツィ・ベース建設当初は地球から運んでいたが、今回は木星経由ではるばる土星から運んできたわけだ。ちなみに、カリウムは火星で多く産出する。

 

 

そんなわけで、第三艦隊の先遣隊が動き出すのを待ってから、12時間かけてスノードームに移動。それからオーガー・マカロヴァ号に向けて飛び立った。ピアッツィ‐スノードーム間と違ってレーザー給電に頼れないから、慣性航行を長めに取って20時間で移動する。

 

オーガー・マカロヴァ号はぐるんぐるんと回っていた。

 

カーボン壁でできた全長50mの箱が、周期48秒で回転している。船首の先端は秒速1.7mの計算だ。

 

さらに、船体中央から船首にかけて、20m以上船体が潰れていた。

外板が内側へ折れ込み、与圧区画の壁が裂けて、断面が真空に開いている。裂け目の縁は外へめくれていた。中に空気が残ったまま穴が開いた証拠である。

炉がダウンして、姿勢制御を失って、そのまま採掘中だったアステロイドに衝突したのだろう。

 

今回手を付けるのは、潰れなかった部分だけだ。

 

 

自転と相対速度を合わせるのには半日かかった。

 

なにせファイブスター号は複雑な形をしているし、回転をかけるにはスラスターのベクタースラストを使うしかない。リアクションホイールを積んでいればもっと楽ができたのだろうが、しょうがない。

 

マユルは操縦桿を握ったまま、相対速度をなるだけ変えないようにじっくりゆっくりと自転を合わせていった。オーガー・マカロヴァ号は船首を振り回すように回転し続けているし、その回転軸自体もまた回転していて、実に荒ぶっている。

 

計算力は足りている。ファイブスター号の重心とスラスターの位置を計算式に入れて、コンソールで最適化問題を解くだけだ。

足りないのは目のほうだ。今の光学センサーは「動体視力」が低いので、回転を正確に測れていない。徐々に回転を合わせることで計測精度が上がり、それに合わせてシミュレーションを回してまたスラスターを吹かせ、もう一度吹かして相対速度を戻す。それを繰り返ししている。

動きを毎秒何十回も測ってくれる「プレデター」シリーズのようなセンサーがあれば、もっと楽ができるのだが。

 

 

ともあれ、やっと取り付くことができた。船首や船尾では遠心力が働いている。ケレスの地表より強いくらいだ。

切り出したものは、下ではなく外へ落ちていってしまうだろう。工具は全部ワイヤーで繋いだ。

 

 

お宝がありそうなのは2箇所。

 

まずは船首の作業デッキ。潰れたのは左舷側で、右舷側は無事だ。

ワーカードローンが2機、ラッチ4つで固定されたまま残っていた。もう1機ありそうなスペースはあったものの、ラッチの留め金が引きちぎれている。衝突のときに持っていかれたのだろう。

 

全長2.1m。丸っこい胴体に多関節のアームが4本。採掘現場で人間の代わりに岩へ取り付いて、削ったり運んだり切ったりする機械だ。

1機ずつ関節を回して確かめた。外装に作業傷はあるが、ガタはない。

 

中古相場は1機14,000ドル前後。会合期の今なら16,000は堅い。

なんなら、サルベージの機材として使う手もあるかもしれない。

 

ワーカードローンは単体では動かない。誰かが電脳で操作するか、AIが束ねて管理するかのどちらかが要る。人間が1機ずつ操縦するくらいなら人間を4人連れてきたほうが早いから、たとえばPGSのサルベージ船では船のAIが8機まとめて面倒を見ていた。

マユルの船に、そこまで汎用性のあるAIは載っていない。プルメリアはピアッツィのサーバーにいるし、圏外からアクセスすると1時間4ドルの通信料と往復1.5秒の遅れが付く。細かいサルベージ作業で1.5秒のラグは、まあ、ないかな。

やっぱり、いつかは自前の計算エンジンを積みたいものだ。

 

今回に限っては、このワーカードローンには出番がある。マユルはひしゃげたデッキの壁内から電線を引っ張り出し、EVASのアシストでドローンのうち1機を持ち上げると、いったんファイブスター号に戻った。

 

 

船のバッテリーからワーカードローンに20%まで充電して、ファクトリーリセットをかけ、それから電脳を接続した。

ワーカードローンのAIはプルメリアとは比べ物にならないほど拙いもので、逐一指示を出しながらの操作になる。ヘルメットのおかげでボイスコマンドも使えるから、どうにかなるだろう。

 

 

それから戻ってきたのが、船尾の機関部である。

 

ここがこの船でいちばん頑丈に作られている。コンソールや生活区画よりも壁が厚いのは、つまりは遮蔽のためだ。

ワーカードローンをゆっくりと侵入させ、覗き込む。

視界の右側のウィンドウには、ワーカードローン頭部のカメラ映像が映し出されている。

 

炉(リアクター)の外板は歪んでいるが、内側は形を保っていた。

持たせておいたマユルの超音波カッターで外板を切ってもらって、まず最初に線量計を突っ込む。

 

核融合炉は動いている間ずっと、高速の中性子を吐いている。中性子は放射化の能力が大きく、炉の内側は少しずつ放射性物質に変わっていく。だから炉の解体で最初にやるのは、線量の計測だ。

 

なお、EVASには水素含有材料が使われており、宇宙線を遮蔽してくれる。あるいはこれくらいの線量なら、マユルが直接作業しても良かったかもしれない。

が、しかし。こいつは事故船である。何が起きるかわからないし、多少手間をかけてでもワーカードローンを通したほうが安全だろう。

 

放射性を示しているのは真空容器の内壁とブランケットとダイバータ。これは持ち帰れない。放射性物質の格納容器なんて持ってきてないし、気密性が求められるからこの場ででっち上げるのには時間がかかり過ぎる。

無事だったのは遮蔽より外にあるもの。超伝導コイル、電力変換モジュール、加熱用のジャイロトロン、制御基板。こちらは中性子を浴びていないから、動作テストができる店に売ればかなりの高値を狙えるだろう。

 

 

今どきの核融合炉は完全にモジュールで組まれている。昔の炉は一体物で、どこか壊れれば炉ごと捨てるしかなかったらしい。今はコイルはコイル、変換部は変換部で交換できるので、「中古の核融合炉」も「中古の核融合炉パーツ」も商品として成立する。

炉の原理自体は前世紀と変わらないけれど、管理の水準が段違いなのだ。そのコイルが何回冷却されて何回クエンチしたか、その変換モジュールが何時間通電されたか。パーツそれぞれに「ブラックボックス」が備わったことで、事故調査のみならず中古パーツの性能保障もできるようになったのだ。

 

 

超伝導コイルは3基のうち2基が無事だった。すばらしい、持ち帰ろう。

残る1基にはクエンチの跡がある。冷却が抜けた瞬間に超伝導が切れて、自分の流していた電流で内側から焼けたのだ。巻線が膨れて外装を押し上げている。これを修理するのは相当骨が折れるだろう。置いておこう。

 

それから、電力変換モジュールが1基。ジャイロトロンが2基。制御基板は炉の停止と一緒に落ちているが、基板そのものは焼けていない。こちらも持ち帰り(テイクアウト)で。

 

 

切り出し作業には固定やら休憩やら充電やら含めて、まるまる2日間もかかってしまった。予想よりも使えるパーツが多かったから、むしろ喜ぶべきだろう。

ワーカードローンの操縦にはまだ慣れていないので、大雑把に内壁ごと切り出してもらって、あとの解体作業はマユルの方でやった。

 

要するにファイブスター号の筒に入れば良いので、全部をこの場でバラす必要もない。たとえば超電導コイル2基は、内壁に着けたままで収納した。

超伝導コイルは1基460kg。これをわずか40分で運び込めるのはすばらしい。ワーカードローン様々である。

それに、筒の存在もありがたい。拡張前の船だったら、1個ごとにワイヤーを4本回して、固定して、緩まないか確認する必要があった。今なら、ワイヤー2本で筒の中に縛り付けるだけだ。

 

ワーカードローン2機は最後に入れた。アームを畳ませて並べてワイヤーで縛り上げると、ハッチの下にちょうど収まった。気分は倉庫番だ。

 

 

スノードームに戻ったのは、出航から6日目のことだった。

 

スカートがまた一段と広がっており、その奥にはスノードームのようなまあるい水槽が7つ並んでいる。そのすべてが、さっきのオーガー・マカロヴァ号を収めて余りあるほどの巨大さだ。

ルドラが来る前に容れ物の準備を整えたわけだ。ここに最初に輸送依頼で来た頃はまだ骨組みしかなかったのに、よくぞまあ間に合わせたもんだ。

継ぎ目の溶接跡がまだ新しくて、反射光の中でそこだけ白く見えた。

 

 

『水槽建造と据え付けを同時並行で進めた結果ですね。』 プルメリアとはドームの回線越しに繋がっている。

「このデッカイのを曳航したわけだよね。見た目ほどには重くないのかな?」

『はい。ケレス地表のヤードで水槽を組み上げて、そのまま持ち上げてボルト止めしています。スノードーム側はスカートミラーの延伸と骨組みを並行して進めました。』

 

ここは宇宙なので、設備を他所で先に作って運んでくるという手法は当たり前のように使われる。特に、水槽のような軽量な建造物は。

それに、無線で動く重機たるワーカードローンの貢献も大きい。オペレーターは気密区画からリラックスした姿勢で長時間作業を進められるし、無人エリアなら安全基準も一段緩くなる。

 

「完成式典やるなら呼んでくれるかな?無理か。」

『式典でしたら、むしろ今回のサルベージの祝賀会でも開きますか?』

「んん?ってことは、そんなに見積金額高いの?」

 

プルメリアはパチンと指を鳴らす仕草をして、概算見積もりのウィンドウを表示した。AIのくせにもったいぶるなあ。…っておお!?

 

『概算ですが、ワーカードローン2機で31,000。超伝導コイル2基で32,000前後。電力変換モジュールとジャイロトロンで9,000。制御基板とその他で4,000。それから帰りの便の輸送依頼も見込むと、締めて72,300ドル程度の収益が見込まれます。』

「たっか!さすが中型船!」

 

権利が12,400ドル。推進剤と港湾費で1,200ドル。わずか8日間の仕事で、63,700ドルの利益を稼ぎ出したことになる。

 

「それにしても単価高いね。コイルの32,000って、木星価格に引っ張られた数字?」

『はい。会合前の相場では30,000程度でした。』

「じゃあ売り時は今月中だね。第三艦隊がお腹を空かせてる間は売り手市場が続くと思う。」

 

輸入品を各拠点に撒いた後は、第三艦隊は仕入れに移ることになる。今回の会合期で最大のかき入れ時だ。

 

「リターンデカいなー!これはもう、多少リスクを取ってでも稼ぐべきだね。プルメリア、次の標的は、利益重視で探してみて。」

『承知しました。ただし、海賊の動向にも留意します。』

「最終的には読めないからね。いつだってリスクはあるんだから、稼ぎやすいときに稼いだ方が良い。そういう判断でいこう。」

 

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