いーえっくす!ウルトラ怪獣擬人化計画(最終報告書) 作:エーブリス
見切り発車の辛い所ですね。
遅れて申し訳ありません。
という訳で今回はカズヤのお仕事回です。
2話で新人について気を揉んでましたよね…その新人君も出たりします。
※今回は三人称視点で進めます。
…あ、今のうちに。
今回始めに、結構キツイ描写あると思うんで…注意ゾ。
神奈川県 横浜市
地下鉄ブルーライン湘南台行き
【新横浜】~【北新横浜】間 にて
――――実の所“少女”は、現状を全く理解出来てない。
突然慌て、狭い車内を逃げ惑う人々。
鳴り響くのは怒号、悲鳴。
そして人では無い何かの声。
なぜこんな事に?
お母さんは?お父さんは?恐怖と困惑、疑問だけを残し…波にのまれる。
120㎝にも満たないような身長では、その波に抗う事は不可能。
押し倒され、無数の足裏が彼女を襲う。
…無論、将棋倒しになったのは彼女だけでは無い。
他に何人かが、雑踏の下敷きになっているの様だ。
――――ある一撃が、彼女の脚を致命的に破壊した。
少女は激痛に喘ぐ。
悲惨極まる光景、その極地か。
けれども、それに気付き、気を配れる人間など、もう居ない。
豊かな家庭環境に関わらず、彼女は痛みに声を上げた経験など殆ど無かった。
酷い怪我の経験が無い訳でもないのに。
妙に我慢強い…そんな彼女が、今出せるだけの悲鳴を上げる。
骨が折れ、肉に刺さったのだ。
大人でも泣き叫びかねない。
突然――――手が差し伸べられる。
手だけ、それに付随する声もジェスチャーもない。
心無い誰かの、中途半端な善意では無い。
…手以外が、物理的に存在して無かった。
それに気が付いた少女。
痛みを忘れ、息を飲み…そして、背後から迫る“危険”を察知した。
彼女は振り返る――――最後にそれを見た。
巨大な巨大な、悍ましい。
その“口”を…。
致命脅威早期殲滅特殊機動隊
通称:
その正式名称にある通り、地球文明に対する“
余りにも無惨な“食べ残し”が、嘗て少女であった事。
それは…血塗れの装飾品だけが物語る。
大きく拉げた電車の中、EDUによる現場調査は粛々と進められていた。
「――――久っしぶりに来たなぁ。
こんな、やぁべぇ事件ひでぇってコレ…」
「あぁ。
被害もそうだが、これがノーマークの所からいきなり…だ。
…今回のヤマ、どうしょうもなく随分荒れるぜ。きっと」
「どうでしょう…。
またまた皆さんとか僕とか、ちゃちゃっと特定してくれるんじゃないの?」
EDU職員に混ざる、ラフな格好の二人。
片方はメフィラス人であり、片方は地球人。
地球人は一般的な中肉中背。
他に特徴もない…平凡そのものだ。
――――腕のウェアラブル端末他、服装の妙なゴテゴテ感さえ見逃すのなら。
だがメフィラスは、他の同族に比べて余りにも筋肉質。
そもそもが大柄な種族と言う事もあり、威圧感は抜群。
種族間では“冴えない”とされる
「…ンなだからイズミ、お前散々言われんだよ。能天気」
「ムードメーカーと言ってもらいたいね、アラスター副長?」
「トラブルメーカーの間違いだろ」
彼らが、彼らこそがカイズである。
地味な地球人の方は【イズミ ムネヒロ】。
カイズの天才的なメカニック。
部隊のうち装備品9割の開発に、彼が関わった。
平凡な面だが、内面は随分と派手だ。
単に機械工学の天才というだけでなく、血筋さえ特別だ
父方の祖父がペダン人の兵器開発技官。
母親がサロメ人のロボット工学権威である。
最も、言動はソレを思わせぬ程に軽い…軽すぎる。
マッチョのメフィラス人は【アラスター】。
主力実働部隊の副長であり、元銀河連邦公安局所属のベテラン。
外見に違わず格闘戦に長ける他、念力術や制圧型の光線技にも精通している。
脳天からつま先まで、ゴリゴリ武闘派の公僕メフィラスだ。
…尚、知能指数は同族平均よりやや下程度。
高い現場捜査の能力は、種族固有の高知能より経験と勘の比重が大きい模様。
しかし公安時代の実績は本物だ…伊達に副長に選ばれていない。
「さて、と――――あちらと合流しますか。
多分僕らがビリっけつ」
「お前が変に調整拘るからだろ」
二人は更に足を運び、仲間たちと合流する。
その際イズミは、少女だった
――――被害の発生源から、その終点地点である1号車へ。
そこに居たのは、2の地球人男女と、一人のグローザ星系人だった。
「…やっと来たか。
イズミはともかく、アラスターが遅刻か。珍しいな」
【ヘレナ・シルヴステッド】はタブレットを操作しつつ、いち早く二人に反応した。
元々EDU北欧支部所属だった彼女は、生物学のエキスパートである。
とりわけ怪獣や地球外生命体研究への造詣が深く、怪獣災害の類でその才は輝く。
そして…彼女が白人である事を加味しても、その肌は不自然に白い。
過去の事故、その後遺症に起因するが――――話が長く案るので割愛する。
「丁度ッスね、アニキ。
俺ら端末で情報共有しようか?ってトコだったんっスよ」
アラスターをアニキと慕い、軽い口調で話しかけるグローザ星系人【グロロホル】。
メンバーの中でも後発参加である彼だが、カイズに馴染むのは非常に早かった。
地球滞在期間は、宇宙人組で一番の古株である。
宇宙人侵略の認知はおろか、記録上初の怪獣災害より前からこの地球に居座っている。
…本来は休暇目的の滞在だった為、大して地球に詳しいとかは無いのだが。
そして遅刻組二人を見て、大きくため息をつく男。
イズミと変わらぬ程平凡な地球人の彼こそ、カイズ実働部隊を取りまとめる隊長である。
「…仮にも隊長呼びつけて遅刻たぁ、どういう了見だ?アラスター」
「違ェよカズ、俺じゃねえ。
イズミが無駄にお前の装備の調整拘るもんだからよ」
「あのね、アレは万一が起きた時の為に必要な」「うるせ、それでも20分も掛けんじゃねえ」
苛立ち気味に二人、特にアラスターを睨む隊長【カズヤ】。
…そう、怪獣娘たちの保護責任者は、同時にカイズの現場頭でもある。
不仲そうだが、何分15、6年以上の付き合いだ。
これぐらいは軽いものだろう。
「…で?ヘレナ。
何か手がかりは?」
じゃれ合いはともかく、と…アラスターは仕事を進める。
「あぁ、下手人は大体わかった。
――――ボガールだ」
「ボガールだぁ!?
んなバカな…」
浮上した容疑者の種族名。
ヘレナの口からそれが告げられた時、彼は思わず腰を抜かす所だった。
【高次元捕食体】の名を恣にする宇宙生物。
それは異名通り、只々宇宙的食欲のままに周辺の生物を食い散らかす。
「ボガールって、ヘレナお前よぉ。
確かに一瞬俺も考えたが…ありゃ、レッサーボガールじゃねえだろあの喰い方」
「ああそうだ、レッサーなんかが起こせる事件じゃない。
言うなれば、人間サイズの通常ボガールだろう」
「じゃあ、猶更可笑しいだろ。
あの“食べ残し”は?」
アラスターが指摘した通りだ。
ボガールの食事に、食べ残しなどあり得ない。
ご存じの方も多いだろうが、アレの食事は消化・吸収が一瞬で行われる。
毒蛇の被膜が如き器官で、得物を丸々包むのだ。
――――その上で、ジュルッと一口…である。
先は地の文にて、食い散らかす等と評しただろう。
しかし大悪食の実体は、高度なテーブルマナーがそこにあるのだ。
“食べ滓で汚さない”という点のみ、切り取って語るのならば。
知性は兎も角、その品性はマナーの対局にある。
兎も角、ボガールの食べ残し…或いはその残滓というのは、あり得ないのだ。
――――だが、この反論は前提から崩される事となる。
「ボガールの食べ残し事例は…貴重だが、ある」
「え?そうなの?」「オレ初耳」「食べ残しとかするのか、アレが」
アラスターとグロロホルに加え、冷静なカズヤまでもがキョトンとする情報。
イズミに至ってはポカーン、だ…何も言わない。
「どうも体調が優れなかったようだ、風邪を引く生物らしいぞ。
あんまり特異なサンプルだから…私もよく覚えてたよ」
ヘレナは場のアホな男子達に、サンプル画像を提示した。
詳細情報によれば、コッヴを喰い損ねたものである。
――――確かに、見れば見る程、少女の亡骸と似た損傷状態である。
「ボガールの消化液内のみに寄生する細菌も、この時減少傾向にあったようだ。
そしてその細菌――――あの遺体からも検出された」
「さ、細菌!?」
「安心しろ、ただ寄生するだけの菌だ。
生物に危害を加えられる訳じゃない」
何はともあれ、犯人像は瞬く間に固まった。
だが…それでも謎は深まるばかり。
何分、
――――第一、なぜあの場所にボガールがいきなり現れたのか?
不自然な捕食現場や、サイズ感以前の問題だ。
「市営地下鉄だぞ?
あちこちに怪獣感知のセンサーがある…昔からの名残で宇宙人感知だって。
どういう目的であれ、絶対ここ以前の何処かで引っかかる筈」
「なら自然発生か…?。
それを掻い潜る知性…或いは引っかからない特性」
「…案外、地球人がいきなりボガールになったりしたんじゃないスか?」
「アホ。それならボガールヒューマンだろ。
――――兎も角だ、どうあれ目標は動いてるとっくに」
カズヤが「ボガールならバリバリに管轄内だ」と、部隊を取りまとめ始める。
実働部隊なのだ、議論ばっかりではその意義が無い。
「既に【デッドボウル】と【キリエイーター】は動かしてる。
デスレ星雲人とウチ特有の訳アリ地球人だ、違和感には直ぐ気付くだろ。
グロロホルも各自単独で捜査に加われ、ヘレナは引き続き遺留物の調査…結果を逐次更新してアップロードしろ。
イズミは予定通り俺と来い。そしてアラスター…新人の監督ね」
「了解」「りょーかいっ!隊長」「いやぁ待ってました待ってました!」
各自が即座に了解する中、アラスターは不満そうに肩を落とした後「…了解」と返す。
彼は現場で育ったメフィラスだ、デスクワークは今でも肌に合わない。
教育も同じだ。
記憶のどこを探っても、成功例が目の前の隊長しかいないのだから。
「今回ただでさえ出遅れてる。
普段通りの待ち伏せだか急襲で考えんなよ、追い込め。
――――新人君、そこんとこ得意っぽいし」
解散。
カズヤの一言で、全員蜘蛛の子を散らすように飛び出した。
「…誰に似たんだろうねぇ?
この人使いの荒さ」
たった一人のメフィラス人が、独り言ちた。
種族の伝統的な言葉遣いで。
――――彼【イシマツ・リュウゴ】19歳は、本日付けでカイズの一員となった。
一年半の訓練を経て、遂に正式入隊を果たしたのだ。
任された仕事は情報処理、電子戦といったネットの海での活動全般。
一般の大学生上がりとしては随分破格…そして重すぎる責任である。
無論、カイズは考え無しに、その大役を若造一人の肩に引っ提げた訳では無い。
『――――よう、イシマツ君。
現場デビューがこんな超絶緊急事態任務だが、調子はどうだ?』
「頗る良好です、アラスター副長。
あんまり調子がいいので…逆に慢心が怖いくらい」
『そこまで言えるなら十分だ。
早速だが【
「了解」
彼は巨大な電算機…それに繋がるデスクトップパソコンの前に座る。
眼前の――先ず地球文化では見られない――特異なキーボードに手を差し出す。
その…人型を保っただけの、グロテスクな機械へと変貌した両腕を。
――――そう、彼はアブダクションを発端とする狂気の実験…その被害者だ。
2年前、今時珍しい円盤経由の誘拐で攫われた。
約一週間、激痛を伴う人体改造の果て…彼は全身義体のサイボーグと化した。
正直な所、身体能力としては地球人としてはめっぽう高い…という程度。
だがこのボディの真価は電子の海への接続時にある。
加工したチブル星人の脳を分散させた全身は、それ自体が銀河有数の算考機だ。
人型に押し込んだ分性能は据え置きだが…地球のファイアウォール程度なら
話題のダダデバイスも正直、彼相手では物足りないぐらいだ。
「接続します――――」
自分の身体から伸びるコード類をマシンへと接続。
直後――――情報が奔流となり流れ来る。
データストーム…という言葉でも物足りない。
言うなれば、データの破壊光線。
『何度も言ったがイシマツ君。
その補助AI、本来別用途専用だったのを彼是2回は魔改造した代モンだ。
俺じゃ気が付けなかった破綻が無いとも言い切れない。
――――あと単純に扱うデータが半端ない、気を付けろよ』
「了解。
今の所、屁のツッパリでもないですね」
しかし、その殺人的処理要求に、彼はしっかり追従している。
その流れの中――――必要な道を辿り、必要な物だけを拾う。
最初に取り掛かったのは、防犯カメラの情報だ。
「…コレか(副長は「大概改竄されてて使い物にならない」って言ってたな。
…取り敢えずその痕跡も探すか)。
全部…綺麗なまま、だ」
性質上、宇宙人犯罪を多く扱うカイズ。
故に保存されてるデータは既にハッキングされ、削除か改竄されているケースが多い。
だが今回は、そういった部分は一切無し。
つまり本件が純然たる怪獣災害、その類である可能性を高く示している。
一先ず確実性が証明できた情報をまとめ上げる。
それを元に対象の逃走経路をリアルタイムで絞り込んでいく。
「…これ。まさか」
彼がふと拾い上げた、ある映像情報。
破損の瞬間まで残っていた…電車内の防犯カメラ、その映像だ。
そこに示された真実に、イシマツは一瞬その手を止めた。
「うわっ…!
うわうわうわうわ、もうこんなに情報来たよ。
流石、推定ヤプール技術のボディ」
「この段階で出る情報とは思えんわな。
ま、あんな無茶採用したんだから多少はね。
にしてもこの“予測”が言うには丁度俺らの場所【潜伏場所として可能性:大】…らしいぜ」
それぞれの“端末”に送られた、イシマツ由来の情報を各々確認する現場の隊員達。
中でもカズヤとイズミのいる地点は、対象との遭遇確立が高いとの事だ。
「まぁたリーダー、勘を冴えさせちゃって」
「んな事よりさっさと荷物渡せ。
俺ん勘当たるんなら尚更だろ」
危険意識の薄さか?
いいや、これでもカイズの準古株なのだ。
何であれ、その“余裕”のまま、手にした“荷物”を開く。
――――中身は、光線銃だ。
焼け焦げた様な黒色の、だ。
それをカズヤは再び、己が手に迎え入れる。
「…思ったより、代わり映えが無いな」
「そりゃあね…けど中身はガラッと一新さ。
何せここ10年実験してた、レイブラッド人由来の技術がいよいよ実戦配備!いやぁめでたい」
「レイブラッドって…アレ、そう言っていい技術か?
別ん勢力の手も相当入っちゃってるでしょ」
「大本はレイブラッドなんだから、そう細かいコト気にしなーいの。
で、この【ブラックショット.Adv】はね…」
イズミによる改良箇所の説明が始まった。
こうなった彼が長く話し込むのは、カズヤも知る所である。
なので巻きでの説明を要請する。
「あんま細かい技術の話やめろよな」
しかしこの要請が守られる事は………あまり無い。
この手のギーク特有の、長い早い分からない三拍子揃った説明だ。
「はいはい。
――――まあ今回、いつものストラーダ・コーポレーション様のご協力の元、前々より実証実験を行っておりましたレイブラッド技術が遂に…イヨッ!実戦投入!」
後、イズミはこういう茶番も良く入れる。
「今さっきも言った、それはよせぃ任務中じゃ」
「まぁまぁまぁ。
ともかく我々カイズがメインにサブアームにと、手広く使っている…ですね。
この【レイボルト・ウェポンシステム(通称:レイボルター)】を本技術で大幅改良。
威力は以前と同様ですがね?エネルギー効率に伴う装弾数の上昇、構造簡略化による耐久性安定性の上昇そしてエネルギー調整の簡略化。
これからはガジェット無しでスタンモードを使えちゃうのよ?奥さん。
しかも以前からネックだった弾速と射程距離の問題も、これにてクリアってワケ」
「あぁ本当だ、セレクター追加されてる」
説明通りにブラックショットを眺めると、確かに新たなセレクターが追加されていた。
安全装置とは別に、殺傷と非殺傷を切り替えるものだ。
「ご要望通り、電子制御じゃなくてアナログなのにしといた。
で、だけど――――そのブラックショットは元より、別々の特性を持つ
お陰で装弾数は24発、マグナムリボルバーをエマージェンシーリロード3回する程度だね。
他の皆が使っているレイボルト・ピストルにゃ、大きく劣る」
「だからこそ弾倉増加が生きる、ってか…。
大体何発?」
「殺傷で50発。
非殺傷だと150発」
空間投影ホログラムに、詳しいスペックが表示された。
…その間も二人は、周囲への警戒を怠らない。
どうにも今まで(実戦面では)頼りなさそうなイズミでさえ、だ。
通りすがる人や景色の一つ一つでさえ、注意深く…デッサンをとるかの様に。
イズミは特に、それをウェアラブル端末を操作しつつ行っている。
「スタンモードの時のは兎も角…50か。
2倍強だが、思ったほど…って感じだな」
「ブラックショット以前みたいに、特性の異なるレイボルト・チャンバーを3つ積んだからね。
それでも大分消費を抑えた…光弾融合ノズルも改良できたし」
「特性の…?
アレか、血〇淘汰みたいな?」
「大体そう、それぞれ相乗効果のある特殊型レイボルトね。
…と言うか何でNARUT〇?」
「最近レツがハマって…」
イズミはカズヤの家庭事情の一端を聞き「あぁね」と苦い顔をする。
彼は、怪獣娘から総出で嫌われている。
そこはかとないマッドなサイエンティスト感が嫌われているのだろうか。
…軽い咳払いの後、また解説に戻った。
「詳しく語ると長くなるので省くけど、単純な足し算よりずっと火力が出るんだ。
弾道もかなり安定した。
…とは言え、性能保証射程は据え置きだから、まだボルトマークスの出番は減らないぜ」
「成程ねぇ…」
ブラックショットを眺めつつ、ガンスピンを行うカズヤ。
以前との重量及び重心の違いが無いか確認しつつ、それを終えた。
15年以上の付き合いとなるホルスターへと、それを収納しようとした時だった。
…今現在、そこに先客がいた事に気付く。
「ま、ともあれ単なる
正しく
その後、ホルスターの先客をイズミへと突っ返した。
…通常のレイボルト・ピストルである。
「予備。お前持ってろ。
ボガール相手なら、火力はいくらでもいる」
「いや僕が持っても…ねえ?」
「猶更だよ。
お前のショボったい命中率、弾幕で補えってのよ」
あんまりな理由で二丁拳銃を任されたイズミは、不満そうに口をすぼめた。
「んなら隊長のほうがいいじゃん…ハァ」
それは
ため息はガッツリ聞かれたが、いちいちそれに突っかかる人間でもない。
――――気が付けば二人は、廃屋に辿り着いていた。
元より勘と憶測で目指していた場所だ。
先の予測結果は、それを強固に裏付けた。
気配は、そこらの小鳥等小動物が跳び回る程度。
無いに等しい。
しかしボガールであるのならば、相手は狡猾だ。
息を潜め、身を偽る程度、訳なく行うだろう。
「…ボガールさ。
迷彩能力の類って、無かったよね?」
「普通のは聞かねェな。
だが今回のは多分そうじゃないし…分からん」
イズミと現状カズヤの両者揃って、感覚器官は地球人並である。
良くて、多少特殊な不可視光が見えたり、変な不可聴音が聞こえたりする程度。
メフィラス人やグローザ星系人の様な強靭な肉体や器官が動いている訳ではない。
一応、カズヤは部隊内トップの射撃成績を誇る。
だが地球人程度の肉体で、全ての脅威を相手取れる訳では無い。
「一応連絡入れるか。
――――
また演算の特性を鑑み、集合は行わないものとする。
各員当初の配置にて捜索を続行。以上」
彼の命令に対する「了解」が、間を置かずに全員分帰って来る。
これを確認した後、半身であり忘れ形見でもあるブラックショットを構えた。
両手で、しっかりと。
発砲するその瞬間、決して狙いを外さぬ様。
相手は既知の生命体、だがその形態は未知なり。
随分と分の悪い状況には慣れたものだが、油断だけはしない。
「行くぞ。
俺が先頭だ、変に弾ばら撒くなよ」
「まっさか。
そう何度もねぇ、やぁりません…って」
「…。
何度かやってっから言ってんだよ」
因みにイズミの射撃成績は、部隊内最下位である。
これでもEDU職員としては高い。
…のだが、如何せん周りがエリート戦闘員ばかりで、ぱっとしない。
ともあれ彼は、装備している各種センサーを起動した。
彼の重装備の殆どが、索敵用である。
…廃屋は、どうやら元々倉庫であった様だ。
工事用具や資材までそのまま残ってる有様は、隠れ家として十分だ。
なぜ、再利用できる筈のモノまで放置する事になったのか?
それは今、気にする事ではない。
二人は慣れた様子で、殆どの音を立てずに屋内を進んでゆく。
――――ここで新人イシマツより直接、無線が飛んで来た。
『…すみません、隊長。
確認して貰いたい情報が』
「突入中だ。
確実な奴?」
『電車の防犯カメラの映像です。
ボガール出現の瞬間が映ってます』
イシマツの発言で、カズヤは大概を察した。
恐らく微妙な映像なのだろう。
新米に判断させるのが酷なレベルで。
仮にそうでなくとも、新人教育に充てる暇は無い。
「…アラスターに回せ。
映像ごと確認は出来ない」
『了解』
重要な情報ではあるが、既に敵地である。
例えその情報の有無によって明日を得られるとしても、だ。
その隙が生死を分けるのだ、仕方がない。
元より自らの足で、事実を探る者達だ。
その事実を光の下に晒すも、陰の内に秘めるも、全ては匙加減だが。
「(しっかし、この面子だと近接戦闘が不安なんだよなぁ。
キリエイーターでも引っ張って…)――――ん?」
「どうした」
足を止め、異変を察知したイズミに尋ねる。
「反応アリ。
パターン…地球人?」
センサーが何かを拾った様だ。
即座に行ったパターン照合では、地球人の生命反応があると示している。
「他には?」
「特に無し。
強いて言うなら、子供」
「子供…」
厄介な…と、カズヤは毒づく。
仕事で子守りまで行いたくない、というのもそうだが………。
ともあれ共有されたレーダー情報を元に、より慎重に足を運ぶ。
屋内が妙に広い上、棚に積まれた資材類が若干不安定だ。
実際にボガールが居て、暴れ出したら状況は面倒になる。
「…目標近いぞ、準備」
彼らと、目標とされる子供との距離はたったの数m。
その間に隔てるのは、さび付いた扉一つだけ。
じわりじわりと、慎重な足運びで二人は近づく。
「…ッ!
目標が動いた」
「何」
レーダーは突如、動き出した目標…その動きを捉えた。
間違いなく二人の元に近づいてきている。
「来るぞ」
「分かってる」
ぎぎぃ…と、錆が軋む音が、廃屋全体を揺るがす。
――――果たして出て来たのは、やはり地球人の子供だった。
「ッ…!?」
子供は、眼前の大人たちが持つ武器…。
…否、その大人自体に怯える様、またドアの内側へと引っ込んでしまった。
「!、待て」
急ぎで子供を追いかけようとするカズヤ。
それをイズミが「いやいやいや」と、慌てて制止する。
「そっちが待とうリーダー。
あなたのね?その仏頂面はねぇ…子供にとっちゃボガールより怖いのよ」
確かにそうだ。
怪獣娘と接している時でさえ、なんだか近寄りがたい雰囲気だというのに。
彼女らはただ慣れてるだけだ。
仕事時のカズヤは、輪をかけて人を寄せ付けない。
逆に子供には好かれやすいイズミは、「ボクぅ?出ておいでー?」と子供へ呼び掛けた。
柔らかで、優しい声色だ。
まるで昭和特撮の主演俳優が如し、である。
「大丈夫だよー、心配いらない。
僕らはねEDUなんだ…悪い怪獣やっつけに来たんだよ?」
セリフ選びまで
雰囲気自体は好ましいのだが、現場の実用性も考えて欲しいものである…とはカズヤの弁。
だがカズヤも、子供に対して高圧的以外に接する以外、術を持たないのだ。
レツだとかを相手にした経験はどこへやら。
…イズミによる説得が、早速実績を見せる。
子供が、またドアの先より顔を覗かせたのだ。
―――この時カズヤは、ある懸念について考えていた。
カイズの任務にて、基本的に子供という存在は何かと厄介である。
先ず単純に人質や、不慮の遭遇などで出くわす一般の子供。
今時地球人であるかどうかは問わない。
問えば即刻「時代錯誤のレイシスト」扱いだ。
どちらにせよ、それは「撃っちゃいけねぇ的」以外の何でもない。
全て技量で容易くクリアできる。
だが、その逆だった場合は…。
正直な所、カズヤにとってはその方がなじみ深い。
…彼は子供に向け、その掌を翳す。
まるでその中に、幼気なその姿をすっぽり収めるように。
一体、何を見ようというのか。
如何なる深淵を覗こうというのか。
「…おじさん達、EDUなの…?」
始めて、子供が言葉を発した。
顔立ちや衣服がとても中性的で今まで分からなかったが、男児のようだ。
「お、おぉ、おじ…そ、そうさ、ホラ!ワッペン!
これ、見るのは初めてかい?」
「う、うん…」
その少年は、尚も怯えていた。
「おじさん達、怪獣殺せるの…?」
「殺っ、随分物騒な…うん、大丈夫さ。
でっかいのは兎も角、こんな所に隠れているようなのはね…」
すっ、と。
イズミはホルスターの得物を一丁取り出し、少年に見せた。
「
「だったらッ!!!」「っ!?」
突如、少年は有らん限りの声で叫ぶ…!
まるで何か、年齢に見合わぬような覚悟を背負ったような目で。
しかしその荷はやはり重く、恐怖で全身が震えていた。
「ぼ、ぼく…僕を――――」
じわり――――そんな擬音が似合う様に。
その幼い肌に「黒」が滲みだしたのと、イズミが後ろへ引っ張られるのは同時だった。
「ッ!!!」
引っ張った張本人は、他でもないカズヤだった。
彼は如何なる手段か、少年が何者かを察しでいたのだ。
抜いたブラックショットを少年――――否、ボガールへと向ける。
人の子供の面影は、最早何処にも無い。
「■■■■■ーーーーッ!」
ボガールは吼えた。
強烈な防衛本能そのままの威嚇が、二人の地球人を襲う。
だが――――その程度で怯むような人間たちは、この場に居なかった。
「チッ…!」
迷わず、カズヤが引き金を引く。
放たれた極光の太矢は、ボガールの左肩先端へと命中した。
着弾地点は真っ黒に焼け焦げ、丁度いいくらいの覗き穴が生まれていた。
「■■■■ッ!?!?」
再びボガールの咆哮、というより悲鳴か。
堪らず、その異形は壁を突き破って逃走…果てしないスピードで、二人の前から消えてしまった。
「…チッ。
流石にバイタル抜かねェと、か…子供なのにしぶといな」
「肉体破壊を重視すべきだったか…。
ともあれ発振器はさっきのドサクサで付けれた」
「助かる。
――――にしても、グロロホルの戯言がマジになるとはな」
「…案外、地球人がいきなりボガールになったりしたんじゃないスか?」
あのグローザ星系人、一回厄払いに行かせようか?
部下の何気ない冗談が、とんだ伏線回収となった事に失笑が止まらない。
二人の間で、意見が合致した。
――――イシマツの情報が精査し終えたのは、丁度この後だった。
…誰がどうみても、子供がボガールになる瞬間だった。
少年は、いつの間にか人の姿へと戻っていた。
本能的恐怖に駆られ、今も獣道を走る。
何の恐怖だ?
死ぬことに対するものか?
それとも…自分が怪物に成り果てた事か?
何度考えても、自分がそんな運命を辿る理由が分からない。
少なくともあの瞬間まで、両親とのプール帰りだったハズなのだ。
もしこれが天罰だとして、自分にどんな咎があったと言う?
注意されて尚、プールサイドを全力疾走した事か?
少年の未熟な――しかしボガールに侵食されつつある――思考回路は、必死に考えた。
ともあれ、恐らく自分が一番怖いのだ。
あの瞬間、多くの人を両親ごと怪獣が喰らい尽くし、その怪獣が自分だという事実。
そして、その食欲が今も暴れ狂う現状。
「あッ…!」
露出し、アーチの様になった木の根に躓く。
少年はうつ伏せに、勢いよく倒れた。
掌、腕、膝…あらゆる場所に擦り傷を負う。
その痛みと共に思い出す…左肩の痛み。
あの“EDUの怖いおじさん”に撃たれた、その銃創。
あの熱量で、自分が蒸発してしまうかと思った。
物凄く痛かった。
…けど、あのまま本当にジュワッと消えてしまった方が良かったかもしれない。
「っ…!」
貪食の罪を思い出す度、身体が吐き気を催す。
内容物の見ようとは思わなかった。
だって、あの中に…お父さんやお母さんがいたら。
これ以上、誰かを食べたくない。
でもまだ食べたい。
自らが抱える恐怖と飢餓が、余計に逃走を促す。
――――目の前に、誰かが現れた。
「…悪ィ、待たせた」
それは先程のEDUの怖いおじさん…つまりカズヤだった。
「た、たす、助けて…」
少年は声を絞り出して“赦し”を請うた。
介錯か?あるいは助命か?
最早本人ですら、それを理解し得ない。
瞬間、彼は直感的に恐怖を理解した。
今日あの瞬間までの、ただ
終わってしまえば、次のその日をまた楽しみに待つ様な。
そんな日々が、二度と来ない恐怖が。
そこから始まる、終わらない苦しみが。
「あぁ、分かった」
カズヤは二つ返事で了承した。
――――直後、ブラックショットの銃口を向ける。
放たれた光は、少年の頭部へと落ちる。
彼の意識は…此処で消えた。
「隊長、失礼します」
「…イシマツか。
どうした?」
「ヘレナさんより、件の少年ボガールの…
…識別名:ボーガノイドの調査結果が届きました。
――――やはり元は…ただの子供です。地球人の」
「ボーガノイド…。んな、ボカロみたいな」
古びた蛍光灯の光だけが照らす、薄暗い室内。
カズヤは新人イシマツより渡された資料を、その手に取って読み始めた。
「…。
――――イシマツ、お前これ見たか?」
「!、はい…。
先に目は通しました」
「…。
そうか」
見て、どう思った?――――等と聞こうとしたが、止めた。
既にその“思い”が行動に、特に手に現れている。
ギリギリと軋む、特殊合金の握り拳。
深く知っているから、だろう。
理不尽な超常現象に、全てを奪われる苦しみを。
「…ッ!?
すみません、これは…」
「いや、いい。
矯正しようとも思うな。
捨てきれんし…捨てるべきでもない」
其れを失った時“陰”は遂に“闇”へと堕落する。
しかし同時に、カズヤは「だが」と付け加える。
この時初めてイシマツの顔を見た。
「振り回されるな、手懐けろ。
首輪引っ張って、脇腹蹴り飛ばしてでも制御しろ」
「…はい」
「――――それと、お前はもっと自分を信じていい。
見る目は良いんだ…借りモンだろうと、それを疑うなよ」
新米は情報収集力はともかく、咄嗟の状況判断に難がある。
…例の映像の件だ。
あれだけ確実なモノなら、口伝で要点だけ伝える事が出来た筈。
テキストで「人の姿をとる可能性あり」ぐらいの事を送れば良かったかもしれない。
お陰で隊員に若干の命の危機があった。
加えて彼も“厄介なもの”を使わざるを得なかった。
それを上手い事指摘しようとした。
だが、十分に伝わった気がしない。
普段通り、ザクザクと毒舌めいて扱けば良かっただろうか?
最近受けたコンプラ研修が仇になった気が否めない。
「…まあ、命令出した俺も俺だったんだが。
次は上手くやってみろ、今回よりな」
「了解」
ともあれ、教育ならアラスターがどうにかやってくれる。
俺の時みたいに――と、彼は自分の“役割”を再確認した。
部屋を出て、階段を上がり…屋上を目指す。
階段は薄暗い…何てものじゃない、真っ暗だ。
消灯時間などとっくに過ぎて、今踏みしめた足元さえ定かでない。
多分、イズミ辺りは2回ぐらい転んでいるだろう。
…屋上に辿り着く。
随分と長く感じた階段だった。
カズヤは漸くだ、とさえ思ってしまった。
久々に緊急的な事件にぶち当たったので、疲れているのだろう。
そして屋上には先客がいる。
特有の、真黒い体表はその闇夜によく紛れる。
青く薄く煌く眼と、それを囲う赤縁が無ければ、うっかり見落としていたかもしれない。
「お疲れ、カズ。
ベンならまだ来てないぜ」
「あぁ疲れたよ、ここ数日…さ」
ハァ…と、カズヤは特大のため息をつく。
わざと聞かせるようなそれと共に、睨みつける鋭角の眼さえオマケで付いて来ている。
「な、なんだ…?
休日出勤でキレてるのか?俺らの常だろ」
「あぁそうだよ、休日出勤で今更キレないよ。
――――2連続で?一件目が俺の自宅にバド星人差し向ける、だとか?
そんなバカ案件じゃあ、無けりゃ、な!」
2年4カ月ぶりの連休だぞ?とも付け加える。
一層強くなる睨みの眼力に、アラスターは怯んだ。
…何時ぞやのバド星人の過激派襲来の件だ。
実はあの件、カズヤは事前にアラスター経由で知らされていたのだ。
せっかくの重要作戦も筒抜け、流石宇宙の帝王である。
それはともかくとして…。
尤もそれは休日前夜に、簡素な説明で有無を言わさず、いきなり伝えられたものである事を付け加える。
説明する時間が無いと詳しい話すら聞けなかった。
泣く泣く自宅に頭の沸いたバドを呼び込むハメに。
その後の電話でも、防諜の都合上聞くには至らなかった。
「俺はともかく、あいつら巻き込むに至る了見があるんならさ。
いやはや是非とも、今ここで聞かせてもらいたいですなぁ。
…教官?」
「いや本当に悪かった…ホント、アレにはワケが…」
更に一歩、カズヤはアラスターへと詰め寄る。
「まぁまぁカズ、あんまりターちゃんイジメんとってや」
二人しかいなかった屋上に、もう一人分の声が響く。
カズヤもアラスターも、そのやや不思議な関西弁をよく知っていた。
「ベンさん。
…あんたの口から聞いたほうが早いでしょうね」
まるでヘビー級チャンピオンのような体系の黒人は【ベン】。
本名ベンジャミン・A・ムーアは、カイズの最高司令官である。
ミドルネームは「阿久津」のA、母の旧姓である。
勲章煌びやかに立ち並ぶ、仕立ての良い軍服。
それは小奇麗なボブサップ似の男が、EDU内でも相当な地位を持っている事を示す。
「せや、やむにやまれぬ事情があったんや。
――――何を隠そうあのバド過激派、全部“旧防”残党の差し金や
電話ん時、話せんくてすまんかった」
「まさかの“旧防”…!
あぁ、ね」
旧防衛軍、略して旧防。
10年以上前に解体されたその名を聞き、カズヤは全てに納得が行った。
「確かベンさんとアラスターで…。
そしてついこの間までデッドボウルも追いかけてた…。
――――漸く死んでくれるんですね、奴ら」
「正確には…あともう一息ってトコだ。
まさかバド憂星軍とのコネがあるたぁ、俺も想定外だった」
「しかも奴さん、根回しまでヤケに早かったんや。
おかげでカルトゲリラ風情を正式な来客扱いやで」
その“根回し”のお陰で、下手に撃ち落とせば地球の信頼問題にまで響いてしまう。
心底気に入らなそうにベンは「あほくさ」と呟く。
そのせいで現行犯逮捕しか手段が無かったのだ。
本当にバド程度でよかった、とも言える。
「旧防残党の奴ら、MA部隊の事知ってた筈。
でなきゃ、今回の件は起こらんでしょ。
根回し含め、相当上の人間が絡んでそうだが…」
「まさにその通りだ、カズ。
…しかも、旧防のビッグネームどころじゃねぇ。
学セイ団やら、何やらのクソ人権団体の権威まで芋ヅルよ」
唯一、名前の挙がった【学セイ団】は、過去カイズが任務で関わった事がある。
それは現EDU設立時「無実の宇宙人への迫害を防ぐ」という名目の元に生まれた団体。
名の通り、大学生(主に女学生)の学生運動が主体となって始まった活動だ。
元より時代錯誤にゲバ棒担いだりと、過激な風潮があった団体だ。
しかし後に「妙な女性権利団体」が加わってから、それも顕著となった。
女学生が主となったのも、その関係である。
結局のところ“利権やそれ以前の欲望絡み”の団体に成り下がったのだ。
内部の最有力派閥が犯罪まがいの行動を起こした件で、晴れてカイズ管轄となった。
もっと醜い内情があるのだが、此度は割愛する。
今も細々と活動している事は、カズヤも知っていた。
しかし今回、こう根の深い案件にまで関われている事にはビックリしていた。
「とんだ大掃除だな。
奴ら、何を焦ったか知らんが…。
ともあれ、だ。カスみたいな人脈なんぞ頼るあたり、相当困窮してたらしい」
所詮は過去の遺物と、カズヤは一息ついた。
体内に溜まった怒りが解れ、口から流れ出る様に。
…しかし安心ばかりではない。
落ちぶれたとは言え、嘗ての巨大組織の生き残り達である。
「…で、奴ら本当の目的は?
幾らなんでも、そんな都合よく無能な訳ないでしょ」
「ワイもそう思う。
せやけど、いくら掘り返しても…目ぼしいモンは無かったで」
「俺の方でも、収穫無しだ。
昼間のボガールの件もあって、余計見失ったかもな…」
結局、旧防の目的は何だったのか。
本当に無能故の悪あがき?それとも背後で大きなものが動いたのか。
「まさかですけどベンさん。
あの【プロトタイプ】が…」
「なくは無い話や。
今回の件でまだまだコネを持っとった事も分かった。
厄介な技術持ちとネンゴロかもしれへん」
「全く証拠がないのが歯痒いな、ベン。
旧防本体はこれで完全に死に絶えるだろうが」
肝心な部分は、未だ闇の中だ。
話せる話題も尽きた、と3人は一息付く。
時刻は深夜…カズヤからしてみれば、家の怪獣娘たちは既に寝ていると思われる時間だ。
「またラン子が飲み散らかしてなきゃいいが…」
「あ、聞いたぞ?
彼女、ついにドクターストップって」
「あの子素直に聞くん?ソレ」
さあどうでしょう…保護者は遠い目をした。
なる様にしかならない事実を、ただ受け入れたくないばかりに。
「…まあ、記録上最初の怪獣娘だしな。
ガタくるのも早いんじゃねぇか」
「…アイツそんなヤワじゃねぇ」
「カズ…。
それ"どっち"や」
「どっちも、でしょうね」
噛み締める愛憎が、誰にでもわかる様に漏れ出す。
その微妙な表情一つが、内面のケイオスを物語る。
ただソレが、本質の象徴とも言わんばかりに。
「…なんであれ、振替も半年先ですかね」
「せやね。
当分また忙しくなる…年末まで待ってくれや」
「今年はそろそろレツとの約束も果たしたいですね。
毎年不貞腐れるのも、そろそろ疲れて来た」
「案件次第だよなぁ」
三者三様に、手すりへと寄りかかった。
前のめりで寄りかかるベンは、葉巻に火をつけようとする。
だが、マッチを切らしていた事を今思い出した。
しぶしぶ───本当に苦虫を潰し切った様な顔で───ジッポライターを取り出した。
だが、突如葉巻に火がつく。
「トルコ巻きだろ?
勿体ねぇ事すんなよ」
「いんや、今日のはニカラグアや」
「どっちにしろ高級品じゃねぇか」
どうやらアラスターの仕業らしい。
光線技の応用で発火した様だ。
熱源に移る臭いがないので、葉巻の味わいを損なわない。
「…ひとまず俺はここいらで。
本当にラン子と、あとレツが心配だし」
「おう、お疲れさん。
嬢ちゃん達によろしくやで」
「まあごもたん辺りとよろしく「おい」いやスマン」
上官らが喫煙タイムに入ったのを確認し、カズヤはひと足先に帰って行った。
おそらく次の纏まった休暇は"クリスマス"辺りか。
そんな憂鬱を抱えながら。
…なんでこんな長くなってんの?
無理に1話に収めようとした弊害っスね。
次回からまた怪獣娘ハーレム、ハーレム?やりますので。