ようこそ実力至上主義の教室へ~女王の魂を宿す少女~ 作:仮面の観測者
数日後、生徒会の面接試験が始まろうとしていた。私はすでに生徒会室前の廊下に置かれた椅子に座っていた。と言っても、私が来たのは一番最後だ。他には男女二人が席に座っている。
男子はスキンヘッド、女子は鮮やかなピンク色のロングヘアが特徴的だった。私達は一言も交わさず、名前を呼ばれるのをじっと待っていた。
静寂の中、生徒会室の扉が開く。姿を現したのは橘先輩だった。
「今から生徒会の面接試験を開始します。名前を呼ばれたら生徒会室へ入ってください」
いよいよ面接が始まった。まず葛城康平と呼ばれた男子が入っていき、十数分後に固い表情で出てきた。次に呼ばれたのは一之瀬帆波という少女。同じようにしばらくの時間が経過したのち、彼女も部屋をあとにした。
前にいた二人の面接が終わり、最後は私——。
「刀祢リコさん」
私は静かに立ち上がる。生徒会室に入るのはこれで二度目だが、果たして今日はどんな景色が待っているのだろうか。
扉の前に立ち、ゆっくりとノックする。
「入れ」
「失礼します」
扉を開けて中に入り、向き直って静かに閉める。そして、改めて正面を向き直した。
「よろしくお願いします」
丁寧に深々とお辞儀をする。面接官を務めるのは橘先輩と堀北生徒会長、そして見知らぬ金髪の青年だった。
指示された椅子の横まで移動し、名乗る。
「刀祢リコです」
「座ってください」
橘先輩の言葉に従って着席する。
「これより生徒会の面接試験を始めます。あなたの志望動機を聞かせてください」
橘先輩が真剣な眼差しで私を見つめている。堀北生徒会長と金髪の青年は、私のわずかな挙動すら見逃さないと言わんばかりの視線を送ってきた。
「はい。私は生徒会に入り、努力する人が正当に報われる環境を作りたいと考えています」
「生徒会に入ったとして、あなたには何ができますか?」
「中学時代に生徒会長を務めた経験を活かし、組織の運営や生徒の意見を吸い上げて問題点を抽出することができます。また、与えられた役割は責任を持って最後までやり遂げます」
「あなたの長所は何ですか?」
「責任感の強さです。どんな困難な仕事であっても、最後まで投げ出さずに臨みます」
ここまでは順調だ。だが、ここからが私の弱さ、そして過去と向き合う本当の試練になるのだろう。
それまで黙って私を注視していた堀北生徒会長が口を開いた。
「では、お前の短所はなんだ?」
「すべてを一人で抱え込んでしまう点です。それで自分自身を追い詰めたことは一度や二度ではありません。ですが、仲間を信頼することの重要性に気づいた現在は、それを改善できるよう努めています」
綾小路、佐倉、池。あの三人との関わりを通じて、私が出した答えでもある。
「現在のお前はDクラスを統率できていない。その現状をどう捉えている?」
「事実です」
言い訳をするつもりなど最初からない。
「私の力不足であり、現在の私はクラス全体をまとめることに成功していません。……ですが、それを理由に生徒会への志望を取り下げるつもりはありません。失敗しているからこそ、今の自分に何が不足しているのかを深く見つめ直しています」
Dクラスをまとめられていないのは確かに私の未熟さゆえだ。けれど、だからといって進むべき道を諦める理由にはならない。
「中学校で生徒会長をやっていた際、かなり強硬な組織運営を行っていたと聞いているが?」
「はい、事実です」
「当時のことを振り返って、今の自分ならどう評価する」
「……当時の状況においては必要な判断だったと考えています。しかし、決して最善であったとは思っていません。当時の私は、相手を理解することよりも問題解決を最優先にしてしまいました。それには理由がありましたが……恐怖や命令だけでは人は真の意味で変われない、ということも学びました」
恐怖と命令だけでは人は変わらない。それぞれの悩みにぶつかり、時には擦れ違いながら……そうして今の私が形成された。
「では、ここでも同じやり方を繰り返すつもりか?」
「いいえ」
その言葉に、金髪の青年がふっと目を見開いた。堀北生徒会長と橘先輩は、私の次の言葉を待っている。
「同じ方法で、同じ結果が得られるとは限りません。それに……私は人が変われることを知っています。人の持つ変化の可能性を信じています」
「……仮に生徒会に入った結果、周囲の生徒からより嫌われることになったとしてもか? ここでも当時と同じ強硬策をとった方が、お前の目的のためになるかもしれないぞ?」
堀北生徒会長は私を試しているのだ。ならば、精一杯の覚悟を込めて答えよう。
「『嫌われること』と『間違っていること』は別です。それに先ほども申し上げた通り、私は人が変わる可能性を信じています。私が変えるのではなく、人が『自らの意思で変わる』のだと信じているのです」
「……なら最後に、俺から二つほど質問してもいいですかね、堀北生徒会長」
それまで静観していた金髪の青年が口を開いた。口角をニヤリと上げ、愉快そうに堀北生徒会長へ許可を求める。
「南雲……。いいだろう、許可する」
南雲と呼ばれた役員は、私を見つめながらさらに口角を深めた。堀北生徒会長にフランクな態度で許可を取れる立場からして、副会長あたりだろうと推測する。
今は思考を切り替え、質問に答えることへ集中しよう。
「君は生徒会で絶対に失敗しないと思っているのか、それとも自分を特別優秀だと思っているのか。……どっちだ?」
「私は自身の能力を客観的に理解しています。ですが、失敗することもあると考えています」
「どうして?」
「私も一人の人間だからです。至らない点があり、過ちを犯すこともあります。……ですが、自分自身の力を信じられない人間が人の上に立てるとも思っていません。だからこそ私は自分を信じますし、信じ続けるための努力も怠りません」
南雲先輩からの最初の質問にまっすぐ答える。
「そうか。じゃあ、もう一つ。君は生徒会長になれると思っているのか?」
「なります」
「……『なれる』じゃなくて、『なります』か」
「はい。私の目標は……生徒会長になることです」
私はこれまで以上に強い意志を込め、堀北生徒会長の目を真っ直ぐに見つめた。堀北生徒会長の口元が、ごくわずかに緩んだように見えた。
「……橘」
「はい。これにて生徒会の面接試験を終了します。結果は合否に関わらず、5月1日にお手元のポストへ投函されます。それでは、退席してください」
「本日はありがとうございました」
私は一礼したのち、静かに席を立つ。
「失礼します」
扉の前でもう一度深くお辞儀をし、生徒会室をあとにした。
静かな廊下をしばらく歩いたところで、ようやく胸の奥につかえていた緊張がふっと解けた。
「終わりましたね……」
あとは5月1日に届く結果を待つだけだ。どんな結果が待ち受けていようとも、今の自分にできる限りの全力を尽くした。そしてこれからも、自分にできることを愚直にやり続けるだけだ。