ようこそ実力至上主義の教室へ~女王の魂を宿す少女~ 作:仮面の観測者
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放課後、私は教室の扉の前に綾小路達と一緒にいた。
「私は生徒会役員になりました」
「「おおっ~!」」
綾小路達は素直に喜びの表情を見せてくれた。
「おめでとう、刀祢ちゃん!」
「本当に凄いです!」
「……お前なら受かると信じてた」
池、佐倉、綾小路がそれぞれ言葉を送ってくれる。私も心から喜んでいたかった。だが、これから生徒会へ向かわなければならない。程よく笑みを浮かべた後、私は表情を引き締めて真剣な顔つきになった。
「ありがとうございます。ではそろそろ時間が迫っているので行ってきますね」
「おう、頑張れよ!」
「応援してます!」
「……期待してる」
3人の温かい言葉を背に受けながら、私は教室を後にするのだった。
重厚な生徒会室の前に立つ。ここへ足を踏み入れるのも、これで3度目だ。私は息を整え、静かに扉をノックした。
「失礼します」
声をかけて室内へと足を踏み入れる。中には堀北生徒会長と橘先輩、そして南雲先輩の姿があった。さらにそこにはもう一人、見知らぬ先輩が佇んでいる。
「来たか」
「ようこそ、生徒会へ」
堀北生徒会長と南雲先輩が私を歓迎するかのような、それでいて独特のプレッシャーを含んだ言葉を放つ。
「これからよろしくお願いします」
「はい! よろしくお願いしますね、刀祢さん!」
「……こいつが堀北生徒会長と南雲が認めた新人、か」
橘先輩はフレンドリーな笑みを返してくれた。対して見知らぬ先輩は、まるで品定めでもするかのように鋭い視線を私に向けている。
「俺と橘は既に名前を知っている。南雲、桐山、刀祢に自己紹介しろ」
「「分かりました(よ)」」
指示を受け、南雲先輩と桐山先輩が私の前に進み出た。質こそ違えど、2人の放つ気圧には重みがある。
「桐山生叶だ。生徒会では書記をしている」
「南雲雅。ここでは副会長をやっている。同じ生徒会長を目指している者同士、よろしく頼むぜ」
「はい。刀祢リコです。よろしくお願いします」
切り立ちそうな空気の中、私は桐山先輩と南雲副会長へしっかりと自己紹介を返した。
「所属クラスはどこなんだ?」
ここで桐山先輩が問いかけてきた。その瞳の奥には、かすかな期待の色が宿っている。
「Dクラス、ですが」
「D、だと!?」
その期待を真っ向から粉砕してしまったようで、少し悪いことをしただろうか。……いや、事実を述べただけだ。
南雲副会長は桐山先輩のあからさまな反応を見て、呆れたように肩を竦めた。
「おいおい、桐山。確かに刀祢はDクラスだ。だが俺と堀北生徒会長、ついでに橘先輩が認めたんだ。実力はこれから測るが、間違いなく本物だ」
「南雲の言う通りだ。面接試験をした俺達が生徒会入りを認めたのだ」
「しかし、Dクラスです。前代未聞で前例がありません」
「前例がないなら作れば良い。それとも俺達が認めたのに、何か言い分があるのか?」
南雲副会長が強い圧を込めて桐山先輩を射抜く。押された桐山先輩は、苦々しそうに目を逸らした。
「そ、それは……」
「大丈夫です、南雲副会長。実力に疑いがあるなら、これから晴らせば良いだけです」
「……流石だな。その言葉、忘れるんじゃねえぞ」
「勿論です。望むところだと言わせてもらいましょう」
南雲副会長は口角を不敵に上げて、桐山先輩に掛けていた圧を解いた。
私は気を取り直し、桐山先輩と南雲副会長の脇を通り過ぎて堀北生徒会長の元へと進み出た。
「刀祢、お前には書記に就いてもらう。生徒会と仕事についてはこれから橘と桐山に教わってくれ」
「分かりました」
指示を受け、私は再び橘先輩と桐山先輩の元へと向かう。明るい笑顔で迎えてくれる橘先輩と、依然として真面目な面持ちの桐山先輩。
それから生徒会室を回り、生徒会がどのような役割を担い、どんな業務をこなしていくのかを一から教わっていった。示される内容は、どれも学校の運用に関わる責任の重いものばかりだ。
レクチャーを受けている最中、校内放送で綾小路が茶柱先生に呼び出される声が響いた。
「綾小路君……」
「知り合いですか?」
「はい、友達です。……すみません、続きをお願いします」
「分かりました!」
綾小路がいったいどんな要件で呼び出されたのか、一瞬胸をかすめる。気になるのは確かだが、今は目の前の仕事に集中するべきだ。
初日から実際に仕事を体験することができたのは、幸先が良いスタートだと思えた。
茶柱先生に唐突に呼び出され、給湯室で堀北との会話を聞かされていたオレ——綾小路清隆は、「出なかったら退学」と脅されて給湯室を後にし、指導室へと足を踏み入れた。そして茶柱先生の手によって、オレの成績が白日の下に晒されることになった。全科目50点、小テストでも完璧に50点。オレはただの偶然だと主張したが、茶柱先生は言葉巧みに逃げ道をひとつずつ塞いでいった。
結果として堀北にも深く怪しまれる始末だ。最悪と言うほかない。
「……とまぁ、綾小路の異常性を語ったが、もう一人Dクラスで異常な生徒がいる」
「異常、ですか?」
もう一人の異常な生徒……まさか。
「刀祢だ。彼女の実績は異常としか言えん」
「お言葉を返すようですが、私にはそこまで異常な生徒とは思えません。正論を口にして、煙たがれている彼女の何処が異常なのですか」
確かにクラスで煙たがれているのは事実だが、刀祢がどんな想いを抱えてその言葉を発したのか、堀北は知らない。もしかすると、表面的な行動しか見ていない茶柱先生も気付いていない可能性があるな。
「刀祢は今日、生徒会役員になった」
「っ!?」
堀北の表情が、はっきりと分かるほど動揺に揺れた。胸中で何か渦巻くものがあるのだろう。
「しかも、刀祢は入学初日に生徒会長と会っている。1週間後には生徒会室を訪れていた。もしかしたら、この時点で学校のシステムに勘付いていたのかもしれんな」
堀北の顔に、驚きと同時に隠しきれない怒りの感情が浮かんでいた。その表情の真意すべてまでは読み切れないが……。あとは、先を越された刀祢への嫉妬だろうか。
茶柱先生はそんな堀北の反応を静かに観察したうえで、言葉を続けた。
「……刀祢は中学で生徒会長をやっていた。かなり強硬な組織運営から恐怖政治と揶揄されていた。それが原因でDクラス送りになった。本当ならここに刀祢も呼びたかったが、生徒会に入ったことで迂闊に手を出せなくなった。Dクラスが変わる起爆剤にしたかったのだがな」
なるほど、生徒会入りを果たしたことで、刀祢は茶柱先生の思惑から脱したわけか。……当の刀祢自身は、絶対にそんな計算をして動いてはいないだろうが。
だが、この会話の真の意図が見えてこない。茶柱先生は一体何を狙っているんだ?
「Aクラスに上がるには刀祢の力が必要不可欠だと思わないか? 堀北」
「……いいえ。刀祢さんでは実力不足です。もし先生の言う通りDクラスに正当に入れられたものなら、Aクラスには私が上げます」
「……そうか。話はこれで以上だ。これから職員会議がある。ここは閉めるから2人共出ろ」
堀北の固い拒絶を聞いた茶柱先生の顔に、落胆の色はなかった。むしろ、うっすらと歓喜すら滲ませているように見えた。まるで堀北からその言葉が引き出されるのを、ずっと待ち望んでいたかのように。
茶柱先生はまさか、最初からこの流れを狙っていたのだろうか。刀祢という存在を刺激として使い、堀北のプライドと嫉妬を煽ってやる気の糧にする。すべては、このクラスをAクラスへ叩き上げるために。
指導室を出たオレと堀北は、並んで歩きながら言葉を交わす。もっとも会話は堀北の一方通行であり、やはりオレのテストの点数に強い疑念を抱いているようだった。思わず危ういボロを見せそうにもなった。
「なぁ、本当にAクラスを目指すのか?」
「学校側のミスであることを願うわね。それでも私がDクラスなら、必ずAクラスに上がって見せる」
堀北の決意は揺るぎないものだったが、目の前には課題が山積みだ。それを自覚しているのか、堀北も自分なりの方針を口にする。
しかし、そこにオレの出番など無いはずだった。
「綾小路君にも協力をお願いしたいの」
「断っても良いんだよな?」
「断りたいの?」
「ああ、断る」
「協力する。そう言ってくれると信じてたわ」
「言ってねえし!?」
露骨に嫌そうな顔をして見せたものの、堀北はまったく意に介さない様子で話を推し進めた。オレのテストの点数には触れない体で動く仕事であり、クラスのポイントをプラスまで持っていく自信があるのだと堂々と言い切る。
「オレ以外にも頼れるようになれよ。協力してくれる人材ならいるだろ、平田とか」
「彼では駄目ね。一定の才能はあるようだけど、私はそれを受け入れられない。そう、例として挙げれば私が欲しい駒は、将棋で言えば歩なのよ」
「それはオレを歩って言っているのか……」
「事実そうでしょう」
あまりに直球な評価に反論の言葉も出ない。ただ、オレ個人の見立てとしては、刀祢だって話せば協力してくれるはずだと思っている。
「刀祢も協力してくれるはずだ。オレの方から言っておこうか?」
「余計なことは言わないで。私は、刀祢さんを認めない」
認めない、か。やはり刀祢が生徒会役員に選ばれたことを知り、強い対抗心と嫉妬を燃やしているらしい。
「それに、あなたは何も思わないの?」
「どういう意味だ?」
「刀祢さんは過去に恐怖政治と言われることをしてきたのよ。彼女と仲良くしていくのはあまりに危険じゃないかしら」
「そうか?」
「きっと恐怖でクラスをまとめようとするわ。それで真っ先に犠牲になるのは友達じゃない? あなたも彼女と仲良く友達でいるのも程々にしなさい」
「……それはこれから考えるよ」
頑なになっている今の堀北に対しては、そうやって曖昧に受け流すしかなかった。
「そう。じゃあ、考えがまとまったら連絡するから。その時はよろしく」
堀北はそれだけ言い残すと、背を向けて去っていく。
……恐怖政治、か。噂や過去のレッテルではなく、それが本当に彼女の本質なのかどうか確かめたくなった。周りの評価ではなく、刀祢自身の言葉で聞いてみたい。
オレは端末を取り出し、刀祢の個人チャットへ「今日、部屋で会えないか」とメッセージを送った。
送信ボタンを押した直後、オレは重要なことに気付いて立ち止まる。
「しまった。生徒会初日で疲れているはずなのに何やってんだ……」