PM:10:00 秋名山
仕事を終えて制服から私服に着替えた池谷とイツキは、池谷のRZ34に乗って秋名山へ来るが、そこに停まってる車を見る。
「峠の走り屋文化も絶滅して久しいけど…。結構車出てるんですね…。それっぽくない車ばかりだけど」
「モノ好きなことだなぁ」
秋名山には、池谷達が現役で走っていた頃と打って変わり、コンパクトカーやミニバンなど。昔では考えられない車がひしめき。時代が移り変わってることを嘆くのであった。
「ところで、タケルの方はどうだったんだ?あいつは来るって言ったのか」
「ええ、工場の後片付けと家事を済ましたら、こっちに駆けつけると言ってましたので、多分来ると思いますよ」
「そっか…。じゃあ、あいつが来るまでここで待ってやるとするか」
そう話していると、麓の方から聞き慣れない車のエンジン音が響き。二人はエキゾースト音のする方角を見ていく。
「お、ここまで車のエンジン音が響く感じからして、タケルが来たんじゃないっすか」
「あの野郎…散々待たせやがって…。ちょっくら文句の1つでも言ってやらねえとな」
遅れてきたタケルに文句を言ってやろうと奮起する池谷だが、タケルがここへ来るのに、乗って来たであろう車を見た瞬間、言葉を失う。
「な、なぁ…イツキ…。ひょっとして、タケルが乗ってきたカローラって、これのことだよな…?」
「ええ、タブン、ソウダトオモイマスヨ…」
「お前、呂律が回ってねえぞ…。タケルがこいつに乗って来たことのがそんなにショックなのか?」
イツキが自分達の前に立ち停まった車を見てパクパクと口を開くも。車から一人の男が降りてくるやイツキ達に声を掛ける。
「悪い。子供が中々寝付かなくて、来るのに遅れたよ」
車から出てきたのは、正真正銘タケルであり。タケルが気安く二人に挨拶するや、イツキは憎たらしげにタケルに近づく。
「た、た…タケルー!!」
「うわっ、どうしたんだよイツキ…?急に詰め寄って、遅れて来たのがそんなにマズかったの?」
「お前…カローラに乗ってると聞いて、落ち着いたなって思ってたのに…それが、それが…」
イツキは口を震わせながら、タケルに向かって言い放つ。
「まさかお前が…GRカローラに乗ってるだなんて、羨ましすぎるぞぉオオオオ!!」
タケルが乗ってきたGRカローラ(GZEA14H)を見たイツキは、スポーツカーに乗れるタケルを羨ましく思いながら叫ぶのだった。
「な、泣くなよイツキ…。そんなに羨ましいなら、自分で買えばいいだけの話だろ…」
「何を!?お前、結婚して自由にお金を使えない俺に対して、嫌味を言ってるのか…!?」
「いや、別にそのつもりで言ったわけじゃ…」
「にしても驚いたな。まさかタケルが、現役を退いたとはいえ、スポーツカーに乗っていたとは…」
「いえ。この車はつい最近納車したばっかで、手に入れるのに苦労したんですよ…。ついこの間ようやく抽選が当たって買えたんですから…」
タケルはGRカローラを買うのに苦労したと二人に語っていくが、イツキはGRカローラに乗ってるタケルを憎たらしげに見つめるのである。
「それで、二人揃って秋名に来たのも、例の幽霊騒動に関してですよね?」
「ああ、そいつを確かめようとここへ来たんだが、お前ここへ来る途中、何か見かけなかったか?」
「いえ、特に何も見かけませんでしたけど…」
「そうか…。とりあえず、もう少し様子を見てからにしようか」
池谷がそう決めつけると、タケルも含めた三人で幽霊が出てくるのを待つが、数分待っても何も出てこず。池谷達はその場から離れるのを決意した。
「よしっ、時間も経ったことだし…戻るか」
「…僕はもう少し、ここに残りますので…二人は先に戻っていただいてもいいですよ」
「そうか。んじゃ、また明日スタンドに来たら成果を聞かせてくれよな」
池谷はそう言ってイツキを乗せるや、秋名山を後にしていくも、それを見送ったタケルは辺りを見回しながら呟く。
「…うん、さっきからずっと見られている気がするけど…。もしかして、幽霊騒動と何か関係があるのかな…」
タケルは、何者かが自分達を見ていると勘付き、辺りを見回すが、聞こえるのは風の音とフクロウの鳴き声だけで。
このまま残っても仕方ないと判断したか、乗って来たGRカローラに戻ろうとした。
ピリリリリ
「ん?…イツキからだ。急に連絡してどうしたんだ…?」
車に乗り込んだタケルが、エンジンを始動しようとするタイミングで、ズボンのポケットに閉まっていたスマホから着信音が鳴り響き、それを取り出したタケルはイツキからの電話に出る。
「もしもし…どうしたんだイツキ。急に電話してきて…」
『た、タケル…!!で、で、出たんだよォ!!』
「出たって、何が?」
『ゆ、ゆ、幽霊が出たんだよォ!!道路の横からババアの幽霊が現れて、俺達の乗る車を追っかけてくるんだ!!』
「何だって!?」
先に帰ってる筈のイツキから幽霊が現れたと聞いたタケルは、そのことについて詳しく聞こうとしたが、イツキはパニクってるからか、電話が切れてしまった。
「…仕方ない、急いでイツキ達の元に向かわないと」
タケルはイツキ達に急いで向かおうと、エンジンを始動させて、ギアを1速に入れ。車を急発進して猛スピードでイツキ達の元に向かい始める。
話は池谷とイツキがRZ34に乗って、秋名の下りを走ってた場面に遡る…。
池谷がRZ34のステアリングを切り込み、コーナーを繋いで、出口からの加速でアクセルを雑に踏んでアンダーを出しては車体を揺らすが。RZ34に内蔵されているVDCが効いてるからか、トラクションを制御して姿勢を立て直す。
「死ぬほど羨ましいです…。スポーツカーなんて夢のまた夢。やっぱ所長のように独身かタケルみたいに金持ってる奴でないとフルローン組んで、こんな高い車乗れませんよ」
「ローンの話はしない約束だろ。タケルはプロで走ってたから、金の方は問題ないけど…」
イツキはスポーツカーに乗ることができる池谷を羨ましげに言っては泣いていくが、ローンを組んで乗ってる池谷はそれを口にしないよう注意していきながら、ステアリングを握る。
「でも、夜中の峠って、久々に来るとかなり気持ち悪いものですね…」
昔は秋名を走っていたイツキも、久しぶりに来た秋名に幽霊が出ることに怖気づきながら身体を震わせ、池谷もいつ出てくるのかわからない幽霊と遭遇しないよう慎重に走らせる。
「なんか、賑やかな音楽かけて欲しいです。どんどん怖いムードになってしまうんで…」
「そう簡単に言うけどなイツキ、どーやって音楽聴くのか分からないんだよ。この車、CDプレイヤーついてなくて…」
「そりゃそうですよ今時の車は、どんだけ昭和なんですか。ラジオでいいじゃないですか」
未だに時代の流れについていけてない池谷に、イツキが呆れていると、次に曲がろうとしていた左コーナーの闇から、四つん這いの影が滑るように飛び出してきた。
にょっ
「ん?」
しゅぱーん
「「ぎゃあああああ」」
左コーナーの出口から現れたのは、痩せこけた四足歩行のババアの幽霊で、高速ばばあはRZ34の横を素通りするや、その場で方向転換して池谷達の後を追い始めた。
「やべぇよ、俺…。呪われたかも…目が合ってしまった」
「俺もですよぉ。真っ黒な目見ちゃいましたあ」
高速ばばあと遭遇してしまった二人は、背筋が凍っていくも、イツキが池谷に向かい必死に叫ぶ。
「一刻も早くこの場を離れたいっすー!!RZ34のパワー全開でお願いします!!」
イツキに言われながら、池谷はアクセルを床まで踏み込み、RZ34の甲高い音を上げ、加速させながら逃げようとするが、高速ばばあが追ってきていないか恐る恐るバックミラーを見ると、高速ばばあはRZ34のスピードについてくるのだった。
「やべぇ…追っかけられてる…」
「またまたあー嘘ですよね所長〜!!」
「俺だって信じたくねーよ!!」
池谷は高速ばばあが出てきたのを信じられないかのように言っていくが、イツキは震える手でスマホを取り出し、タケルに連絡する。
「た、タケル…!!で、で、出たんだよォ!!」
そこからイツキが秋名に高速ばばあが出たとタケルに伝えて助けを求めるが、伝えた直後に手を震わせスマホを車の床に落とし、震えながら池谷に叫ぶ。
「に…に…逃げましょう…池谷先輩ーっ!!」
イツキはパニクるあまり、スタンドの上司である池谷への呼び方が昔の時に戻るが、必死で逃げるようお願いする。
「元走り屋なんだから、こーゆう時こそ鍛えたテクニック見せてください!!」
「お…おう任せとけ!!今こそ日産の底力見せてやる、吠えろVR30DETT!!ストレートでぶっちぎってやる!!」
そう雄叫びをあげながらアクセルを限界まで踏み込んで、時速120キロもスピードを出していく池谷だが、高速ばばあはそのスピードについて来ながら距離を詰める。
「ホーコクしていいですかタケウチ君、敵はめっちゃ速いんですけど。RZ34のパワーを持ってしても、振り切れない模様です!!」
「そんなホーコク聞きたくないっすよおー!!秋名スピードスターズのリーダーとしてのプライドは髪と一緒に抜けちまったんすかー」
「ムリなものはムリなんだよー」
「弱気になるな、諦めちゃダメだ!!頑張ってよ薄毛所長ーっ!!」
「なんだとてめえ、俺は上司だぞ!!」
パニクるあまり口喧嘩を続ける二人だったが、その時、異変が起きた。バックミラーに映る高速ばばあのさらに後ろから、鋭いヘッドライトの光が猛スピードでこちらに近づいてくるのだった。
「し、所長…あれはもしかしたら…」
「ああ、タケルの奴…。俺達を心配して駆け付けてきてくれたんだな…」
後ろから来るシャープな切れ目のヘッドライトに察したか、二人がバックミラーを注視していくと、そこに映るのは、正真正銘タケルが駆るGRカローラだった。
プルルルル
床に落ちてるイツキのスマホに着信音が鳴り、イツキがそれを拾い電話に出るや、聞き慣れた声が出る。
『イツキ、聞こえるか?』
「た、タケル…」
『今、二人が乗ってるRZ34の真後ろにいるけど、目の前にいる幽霊について教えてくれる?』
「あ、ああ…。俺達もついさっき遭遇したばっかりで、追っかけられてるけど…。どういうわけか、所長のRZ34の走りに問題なくついてくるんだ」
『…そうか、今から僕が前に出るから、スピードを緩めて道を譲るように言っといてくれる?』
「わ、わかった…。所長、タケルが先行を取るから退いてくれと言ってます…」
「お、おう…助かった…」
池谷は安堵の息を吐きながら、ブレーキを踏むが。急にブレーキを踏んだ反動でリアが流れてしまった。
「やめてー!!」
「死にたくないー!!」
ガキョン
「あ…」
痛恨のミスをしてしまったか、RZ34はその場でスピンしては右端のガードレールにリアをぶつけてしまったが、幸い速度は落ちていたため、大きな損傷には至らず。それでも車体は斜めに道路を塞ぐ形になってしまっていた。
「はぁ…余計な仕事が増えちゃったか…。とりあえず、二人の様子を確認しないと」
そう落ち込みながら、車から降りたタケルは二人の様子を確認しに、目の前で道を塞ぐRZ34の前に向かうのだった。
評価・感想をお願いします。