アーク製薬会社   作:ai試し2

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10話 新たな作戦

 翌朝。

 

 橋近くのホテル、その一室に、航空偵察で撮影された写真が並べられていた。机の上には昨日の夕方に撮影されたものと、今朝のものが分けて置かれている。EU側の指揮官は二組の写真を交互に見比べながら、違いを一枚ずつ確認していた。

 

「昨日よりは減っています」

 

 指揮官が写真を一枚持ち上げる。

 

「道路上に確認されるウーズの数は、昨日の掃討でかなり減ったようです」

 

 ハンクは向かい側から写真を覗き込んだ。

 

 確かに変化はある。昨日の写真では道路を塞ぐように集まっていたウーズが、今朝の写真では明らかに少なくなっている。部隊が進めた範囲も、その分だけ広がっていた。

 

 だが、すべてが減ったわけではない。

 

 ハンクの視線が、一枚の写真の隅で止まる。

 

「……あそこだな」

 

 指先が、テラグリジアに点在する大きなビルの一つを示した。

 

 その周囲には、道路だけでなく建物の周辺にも多数のウーズが確認できる。昨日の掃討である程度まで進んだはずの区域だった。

 

「昨日、このビル周辺はある程度掃討されたはずですが」

 

「ああ」

 

 ハンクは別の写真を手に取った。

 

「だが、かなり建物から出てきたようだ」

 

 建物の陰や入口に、異形の姿がいくつも写っている。

 

 道路だけを見れば、確実に前進している。

 

「この先の道路を確保するなら、ビルの中まで掃討する必要がある」

 

 ハンクが言うと、指揮官は静かに首を横へ振った。

 

「今は、その必要はありません」

 

 ハンクは指揮官を見る。

 

「……そうか」

 

「ええ」

 

 指揮官は別の資料を手に取った。

 

「今日で橋のフェンス設置が完了する予定です」

 

 ハンクの視線が資料へ移る。

 

「今日まで、ということか」

 

「その通りです」

 

 指揮官は頷いた。

 

「この一連の道路掃討作戦も、一旦今日で終わりとします」

 

 ハンクは再び写真へ目を落とした。

 

「建物内のウーズをすべて排除する必要はありません。道路を確保できる範囲まで進んでください」

 

「了解」

 

「ただし、無理はしないことです」

 

 指揮官は念を押す。

 

「今回の目的は病院間を結ぶ道路を可能な限り通行可能な状態にすることです」

 

 ハンクは黙って頷いた。

 

 その時、指揮官がもう一つ付け加えた。

 

「それと、掃討中に建物内で生存者を発見した場合は必ずこちらへ連絡してください」

 

「救出部隊を出すのか?」

 

「ええ、ヘリを手配します」

 

 ハンクは短く息を吐いた。

 

「分かった」

 

 写真をもう一度見る。

 

 道路には、まだウーズが残っている。

 

 建物の中にも、相当数が潜んでいるだろう。

 

 それでも今日が区切りになるのなら、残された時間で可能な限り先へ進むしかない。

 

「では、病院へ戻る」

 

 ハンクは席を立った。

 

 ホテルを出ると、ハンクは第一病院へ向かって歩き始めた。

 

 街には朝の静けさが残っている。

 

 だが、その静けさの下には、まだ数え切れないほどのウーズやB.O.W.が潜んでいる。

 

 今日が、この一連の道路掃討作戦の最終日だった。

 

     ◆

 

 その日の掃討作戦が終わった。

 

 ハンクも装備をまとめ終えると、周囲を一度見渡した。

 

「スティーブ、来い」

 

「俺?」

 

 突然呼ばれたスティーブが顔を上げる。

 

「ああ。ホテルへ報告に行く」

 

「了解」

 

 スティーブは椅子から立ち上がると、腰の装備を確認した。二丁の拳銃を確かめ、残弾を確認する。最後にベルトを締め直してから、ハンクの後を追った。

 

 二人が病院の出入口へ向かって歩いていく。

 

 その背中を、レディハンクとシェリーが並んで見送っていた。

 

「……ねえ」

 

 レディハンクが小声で言った。

 

「なに?」

 

「なんか嫌な予感しない?」

 

 シェリーは病院の入口へ目を向けたまま、ほとんど間を置かずに答えた。

 

「する」

 

 あまりにも迷いのない返事だった。

 

 レディハンクが隣を見る。

 

「だよね?」

 

「うん」

 

 シェリーは腕を組み、少し考えるように二人が出ていった方向を見つめた。

 

「ハンクさんがスティーブを連れていくって、ちょっと気になる」

 

 近くで装備を片付けていた隊員が、その会話を聞きつけて顔を上げた。

 

「まあ、今日の掃討結果を報告するだけだろ」

 

「それならハンク一人でもよくない?」

 

 レディハンクが腕を組む。

 

 隊員は手を止めた。

 

「……確かに」

 

 別の隊員も振り返る。

 

「スティーブまで連れていく理由は、普通の報告だけじゃ分からないな」

 

「何か追加の任務かも」

 

 シェリーが呟く。

 

 レディハンクは少し考えた。

 

「それだったら、私たちにも話があるはずだよね」

 

「まあ、そうだな」

 

 誰かが頷いた。

 

 それでもレディハンクは納得しきれない様子だった。

 

「やっぱり、何かあるよ」

 

「考えすぎじゃない?」

 

 別の隊員が苦笑する。

 

「ハンクさんが何か考えてる時なんて、いつもあんな感じだろ」

 

「それもそうだけど……」

 

 レディハンクは病院の入口へ視線を戻した。

 

 すでに二人の姿は見えなくなっている。

 

 シェリーも少し考え込んでから、静かに口を開いた。

 

「……うん。私もちょっと気になる」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

 周囲にいた隊員たちも、いつの間にか二人の会話へ耳を傾けている。理由は分からない。それでも、ハンクがスティーブだけを連れてホテルへ向かったことが、妙に引っ掛かっていた。

 

「まあ、帰ってくれば分かるか」

 

 誰かが言った。

 

「そうだね」

 

 レディハンクも頷く。

 

 ただ、その声にはまだ納得しきれないものが残っていた。

 

 彼女はもう一度、病院の入口を見た。

 

 ハンクもスティーブも、すでに建物の外へ消えている。

 

 何が待っているのかは分からない。

 

 ただ、普段ならそれほど気に留めないはずのことが、今日は妙に胸へ引っ掛かっていた。

 

     ◆

 

 ホテルへ到着したハンクとスティーブは、そのままEUの臨時指揮所へ向かった。

 

 廊下を進み、指定された部屋の扉を開ける。

 

「来たか」

 

 中で待っていたEUの指揮官が、二人へ顔を向けた。

 

「はい」

 

 ハンクが答える。

 

 指揮官は二人を手招きし、机の前に置かれた椅子へ促した。机の上にはテラグリジアの地図と、何枚かの資料が用意されている。

 

 ハンクは椅子へ腰を下ろす前に、地図へ一度目を向けた。

 

「新しい作戦が決まった」

 

 その言葉に、ハンクとスティーブが顔を見合わせる。

 

「新しい作戦?」

 

 スティーブが聞き返した。

 

「FBCから強い要望があった。EU、FBC、そして現地警察による合同作戦を行う」

 

 指揮官が地図を広げる。

 

 そこには、テラグリジア市街地を横切る主要道路が大きく示されていた。

 

「目的はメインストリートの奪還だ」

 

 ハンクは地図へ視線を落とした。

 

 これまで掃討してきた病院周辺の道路とは規模が違う。メインストリートは市街地の中央を通り、多くの建物や交差点へ繋がっている。その分、ウーズとB.O.W.が集まっている区域も広い。

 

「EUは橋側から進む」

 

 指揮官の指が地図の一端をなぞる。

 

「FBCと現地警察は、中央の行政本部側から掃討する」

 

「挟み撃ちですか」

 

 スティーブが尋ねる。

 

「そうだ」

 

 指揮官は頷いた。

 

「両側から同時に進めば、道路上にいるウーズを分散させられる。もし片側に敵が集中すしても、もう一方から前進する余地もできる」

 

 ハンクは黙って地図を見ていた。

 

 正面から一つの部隊だけで押し進むよりは合理的だ。

 

 ただし、それだけ広い区域を相手にする以上、作戦は長時間に及ぶ。

 

「そして、この作戦は一日を通して継続する」

 

 指揮官が続ける。

 

「昼間だけで終わらせるわけではない。夜間も掃討を続ける」

 

「夜ですか」

 

「ああ」

 

 スティーブが少し眉を上げた。

 

 これまでの道路掃討でも、夜間は視界の悪化によって危険が増している。そこへ、透明化するファルファレルロまで確認されている。

 

「君たちには、夜間の掃討を担当してもらう」

 

 ハンクは表情を変えなかった。

 

「アークから出向している部隊を二つに再編する。夜間は二交代制で対応してもらう予定だ」

 

 指揮官が一枚の資料を差し出した。

 

「メンバーはこちらで仮に選んである。確認してくれ」

 

 ハンクとスティーブが資料を受け取る。

 

 名前を一人ずつ目で追っていく。

 

 戦闘経験の豊富な隊員。

 

 偵察を担当していた隊員。

 

 これまでの掃討に参加していた者も含まれている。

 

 しばらくして、ハンクが資料から顔を上げた。

 

「このリストに入っていない連中は?」

 

「ホテルで予備として待機してもらう」

 

 ハンクは一度考えた。

 

「第一病院と第二病院に配置できないか?」

 

 スティーブも資料を見ながら頷いた。

 

「俺もそのほうがいいと思います。病院には避難民もいますし、何かあった時にすぐ動ける部隊がいたほうがいい」

 

「病院の警備隊だけでは不十分ということか」

 

「あくまで念のためです」

 

 ハンクが答える。

 

「特に今は、B.O.W.の出現地点が増えている」

 

 指揮官は二人を見比べた。

 

 少し考えたあと、頷く。

 

「構わない」

 

 すぐに資料へ書き込みを加える。

 

「第一病院と第二病院へ配置しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 スティーブが答える。

 

 指揮官はペンを置いた。

 

「しかし……」

 

 二人へ視線を戻す。

 

「君たちは、第一病院と第二病院が危険だと考えているのか?」

 

 ハンクはすぐには答えなかった。

 

 テラグリジアで確認されたB.O.W.は、道路だけに出現しているわけではない。病院も例外ではない。とくにハンターは一度病院を襲撃している。

 

 それでも、ハンクが出した答えは短かった。

 

「念のためだ」

 

 それ以上は語らなかった。

 

 スティーブも口を挟まない。

 

 指揮官は二人の表情をしばらく見たあと、追及することなく頷いた。

 

「分かった。配置についてはこちらで調整する」

 

「了解」

 

 ハンクは資料をまとめた。

 

「では、部隊の再編について確認しておきます」

 

「ああ。今日中に各部隊へ通達する」

 

 二人は資料を手に立ち上がった。

 

 これまで続けてきた道路掃討とは、規模も目的も違う。

 

 今度の相手は、テラグリジアの主要道路そのものだった。

 

 橋側から進むEU部隊。

 

 行政本部側から進むFBCと現地警察。

 

 そして、その間に広がるメインストリートには、未だ多数のウーズたちと放置車両が残されている。

 

 ハンクは扉へ向かう前に、もう一度だけ地図へ目を向けた。

 

 メインストリート。

 

 ここを取り戻せれば、テラグリジアの中枢へ通じる陸路が開く。

 

 同時に、これまで以上に激しい戦闘になることも予想できた。

 

「行くぞ」

 

 ハンクが言う。

 

 スティーブも頷いた。

 

「ああ」

 

 二人は指揮所を出た。

 

 新たな作戦が、動き始めようとしていた。

 

     ◆

 

 次の日。

 

 ホテルの会議室には、EU側で活動する各部隊の責任者が集まっていた。壁面のスクリーンには、テラグリジア市街地の地図が映し出されている。橋から中央部へ伸びるメインストリートと、その両側を走る道路がそれぞれ表示され、現在までに確保された区域には印が付けられていた。

 

 EU側の指揮官が壇上へ立つ。

 

「これより、新たな作戦について通達する」

 

 室内に残っていた私語が消える。

 

「本日正午より、メインストリートの奪還作戦を開始する」

 

「作戦目標は車両が通行できるようになるまで、メインストリートの掃討と車両の撤去」

 

 スクリーン上で、橋から市街地中央へ伸びる大通りが強調された。

 

「EU側は橋から前進する。目的は、FBC側との合流だ」

 

 続いて、メインストリートの両側にある二本の道路が表示される。

 

「部隊を三つに分ける」

 

 指揮官が地図を指した。

 

「第一部隊はメインストリートを進む。残る二部隊は、その両側にある道路をそれぞれ掃討しながら前進する」

 

 隊員たちが地図へ目を向ける。

 

 これまでアークの部隊が行ってきた道路掃討と、基本的な考え方は変わらない。複数の部隊を同時に進ませ、一つの道路へ戦力を集中させず、互いの位置を意識しながら周辺を確保していく。

 

「三方向から同時に進むことで、ウーズがメインストリートへ集中するのを防ぐ」

 

 指揮官が続ける。

 

「それぞれの部隊が道路を押し上げることで、メインストリートへの圧力を分散させる」

 

 数人の隊員が頷いた。

 

 そこへ、スクリーンの映像が切り替わる。

 

 今度は複数の軍用ヘリが映し出された。

 

「そして、今回から新たな戦力が加わる」

 

 会議室の視線がスクリーンへ集まる。

 

「イギリス、フランス、ドイツ、イタリア軍から派遣された熟練のヘリ部隊だ」

 

 小さなざわめきが起こった。

 

「彼らには、生存者の救出を担当してもらう」

 

 次に、市街地の建物が表示された。

 

「これまでの掃討でも、建物内に取り残された生存者が確認されている」

 

 建物の一つへ印が付く。

 

「しかし、道路から建物へ侵入すれば、掃討部隊自身が大きな危険にさらされる」

 

 指揮官は次の写真を表示した。

 

「そこで、ヘリ部隊が上空から建物へ進入する」

 

「屋上から?」

 

 後方の隊員が尋ねる。

 

「そうだ。屋上、あるいは上階から侵入し、生存者を救出する」

 

 スクリーンが再び市街地の地図へ戻った。

 

「その間、地上部隊は掃討を続ける」

 

 三つの部隊の進路が示される。

 

「地上や建物内で活動しているウーズを引きつけ、救助へ向かうヘリ部隊へ注意が向くのを出来るだけ防いでくれ」

 

 ハンクは黙って地図を見ていた。

 

 地上の部隊には、敵を排除するだけではなく、救助部隊が活動できる状況を作る役割もある。

 

 指揮官が続けた。

 

「特にトライコーンは最優先で排除する。遠距離から攻撃できるため、救助活動を行うヘリにとっても脅威になる」

 

 スクリーンにトライコーンの写真が表示される。

 

 指揮官は会議室を見渡した。

 

「地上部隊は前進とおとり。そしてヘリ部隊が救助」

 

 指揮官は続けた。

 

「互いの役割を理解して行動してくれ。独断で持ち場を離れるな」

 

 会議室に緊張が戻る。

 

 これまでの道路掃討とは違う。

 

 感染者が残る市街地を地上から押し上げながら、別の部隊がその上空から生存者を救い出す。

 

 さらに、そこへB.O.W.まで加わる可能性がある。

 

 複数の部隊が、それぞれの役割を果たさなければ成立しない作戦だった。

 

 指揮官は最後に、メインストリートへ視線を向けた。

 

「今回の目的は、道路を取り戻すことだけではない」

 

 スクリーンに、建物の内部へ取り残された生存者の映像が映る。

 

「そこに残されている人間も、できる限り救い出す」

 

 隊員たちはそれぞれ資料を受け取り、席を立った。

 

 テラグリジアの中心部へ続くメインストリート。

 

 その道路を奪還するため、そして取り残された人間を救うための新たな作戦が始まろうとしていた。

 

     ◆

 

 次の作戦について説明を受けた後、アークの隊員たちは第一病院へ戻った。

 

 各自が装備の確認や補給を行いながら、短い休息の時間を過ごしている。

 

 これから始まるのは夜間を含む長時間の作戦だった。

 

 その準備を進める中、隊員たちの間では自然と今回のテラグリジアで確認された状況について話が交わされていた。

 

「……噂、本当だったのか?」

 

 一人の隊員が小声で尋ねる。

 

「FBC、かなり苦戦してるって話だろ?」

 

「向こうはハンターの遭遇率が高いらしいな」

 

「こっちではそこまで見なかったけどな」

 

「ファルファレルロは?」

 

 問いかけに、別の隊員が肩をすくめる。

 

「第二病院周辺では確認されてるらしい」

 

「第二病院か……」

 

 何人かが顔を見合わせた。

 

 ファルファレルロ。

 

 姿を消し、視認しづらい状態から襲撃してくる新種のハンター。

 

 通常のハンターとは違う脅威として、各部隊で警戒対象になっていた。

 

「そういや、昨日来たヘリ部隊って軍の精鋭だったのか?」

 

「たぶんな。動きが普通じゃなかった」

 

「救助専門の部隊って話だろ」

 

 別の隊員が笑いながら口を挟む。

 

「最近は犬まで増えたしな」

 

「避難民向けのアニマルセラピーでも始めたのか?」

 

 冗談めかした言葉に、すぐ横から返事が飛ぶ。

 

「ファルファレルロ対策だろ」

 

 その言葉に、周囲から小さな笑いが起こった。

 

 張り詰めた状況の中で、わずかな余裕が戻る。

 

 だが、すぐにスティーブが手を叩いた。

 

「はいはい、そこまでだ」

 

 隊員たちの視線が集まる。

 

「部隊が再編成された」

 

 スティーブは手元の資料へ目を落とした。

 

「日没後から夜明けまでを四つに分ける。最初は俺の部隊。その後はハンクの部隊と交代しながら、二巡して夜明けまで掃討を続ける」

 

「了解!」

 

 レディハンクが元気よく返事をした。

 

 そのまま手を挙げる。

 

「質問!」

 

「なんだ?」

 

「私も含めて、私の部隊がほとんど入ってないんだけど」

 

 スティーブは資料を確認しながら答える。

 

「ああ」

 

 短く返した。

 

「今回、若い隊員たちは病院で留守番だ」

 

「え?」

 

 レディハンクが目を丸くする。

 

「私も掃討に行けるよ」

 

「分かってる」

 

 スティーブは苦笑した。

 

「実力の話じゃない」

 

「じゃあ……」

 

「今回は第一病院を頼む」

 

 レディハンクが少し黙る。

 

「私が?」

 

「ああ」

 

 スティーブは頷いた。

 

「おまえの副官には第二病院を任せる」

 

「でも――」

 

 レディハンクが言葉を続けようとする。

 

 その時、スティーブが真剣な声で遮った。

 

「レディ」

 

「……」

 

「頼む」

 

 短い言葉だった。

 

 レディハンクは少しだけ不満そうな顔をしたが、やがて息を吐いた。

 

「……分かった」

 

「その代わり、シェリーをつける」

 

「シェリーを?」

 

 レディハンクが隣を見る。

 

 シェリーは穏やかに笑って頷いた。

 

「一緒にいるよ」

 

「……なら、分かった」

 

 レディハンクは渋々ながら了承した。

 

 その横で、副官が資料へ目を向ける。

 

「スティーブ隊長」

 

「なんだ?」

 

「第二病院の配置人数が多いですね」

 

「ああ」

 

 スティーブの表情が少し引き締まる。

 

「さっき話にも出てたが、第二病院周辺ではハンターとファルファレルロの目撃報告がある」

 

「なるほど」

 

 副官は頷いた。

 

「任せてください」

 

「若い連中が多いが……頼む」

 

 スティーブは資料を閉じる。

 

「配置はこれでいく」

 

 その後、スティーブは第一病院に残る隊員たちへ視線を向けた。

 

「それと、もう一つ注意しておく」

 

 隊員たちが顔を上げる。

 

「レディハンクとシェリーが前へ出ても、後ろから無理についていくな」

 

 レディハンクが振り返った。

 

「え?」

 

「お前たちは退路の確保が役目だ」

 

 スティーブは続ける。

 

「二人が前へ出たからって、同じ速度で追う必要はない」

 

 隊員たちは黙って聞いている。

 

「戻ってくるための道を守れ。それが一番重要だ」

 

 一人の隊員が頷いた。

 

「了解です」

 

「レディハンクとシェリーなら、大抵の相手には対応できる」

 

 スティーブは二人へ視線を向ける。

 

「だからこそ、お前たちが無理に合わせようとすれば危険になる」

 

 隊員たちは、その意味を理解した。この二人は特別だ。

 

「二人が戻ってこられるようにする。それがお前たちの仕事だ」

 

「了解」

 

 隊員たちが返事をする。

 

 レディハンクは少し頬を膨らませた。

 

「私、そんなに突っ込むかな?」

 

 シェリーが横で苦笑する。

 

「……今までを考えると、結構」

 

「シェリーまで!」

 

 そのやり取りに、周囲から小さな笑いが起こった。

 

 スティーブも思わず笑う。

 

「自覚がないなら、なおさら気をつけろ」

 

 メインストリート奪還作戦まで、残された時間は多くない。

 

 隊員たちはそれぞれの配置へ向け、最後の準備を進め始めた。

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