アーク製薬会社 作:ai試し2
夜。
第一病院の屋上では、シェリーとレディハンクが並んで周囲を見張っていた。
街の明かりはほとんど消えている。窓から漏れるわずかな光と、遠くを走る車両のヘッドライトが、暗闇の中に点々と浮かんでいた。
その静けさを、ときおり銃声が切り裂く。
メインストリートの方向だった。
今夜も地上部隊による掃討が続いている。
レディハンクは手すりへ身体を預け、暗い街を眺めた。
「……置いていかれたね」
「置いていかれた」
シェリーも素直に認めた。
二人はしばらく黙っていた。
不満がないわけではない。
けれど、どうして自分たちがここに残されたのかは分かっている。
「クレアとスティーブは優しいよ」
シェリーがぽつりと言った。
「うん」
レディハンクも頷いた。
夜の街を見つめる。
メインストリートでは、今までより大規模な掃討が始まっている。暗闇の中でウーズとB.O.W.と戦いながら前進しなければならない。大量の放置車両もウーズの味方をする。さらに透明化するファルファレルロまで確認されている以上、昼間の道路掃討とは危険度が違う。
二人をそこへ出したくなかったのだろう。
「アンブレラが倒産したのって、三年前だよね」
「うん」
「私たち、あのとき十四歳だった」
シェリーが頷く。
アンブレラの崩壊から、まだそれほど長い年月は経っていない。
アークで働く隊員たちの中には、その当時まだ若かった者も多い。元U.S.S.の隊員たちも例外ではない。アンブレラからアークへ移った時点では、未成年だった者さえいる。
アークでは年齢だけを理由に排除することはなかった。特にアンブレラからの転向者にはその傾向が強かった。
本人に能力があり、必要な訓練をこなせるなら、できる範囲で仕事を任せてきた。
ただし、十八歳未満の隊員を危険な前線へ出すことは原則として避けられている。
その例外が、シェリーとレディハンクだった。
レディハンクは、現在のアーク前線部隊でもっとも若い。
「私たち、結構特別扱いされてるよね」
レディハンクが苦笑した。
「そうだね」
シェリーも笑う。
今回前線から外されたのは年齢だけが理由ではない。
アンブレラ時代の犯罪行為が比較的軽かった者もいる。
「……ハンクたち、今回かなり厳しいと思ってるのかな」
シェリーが呟く。
「たぶん」
レディハンクは少し考えてから答えた。
「スティーブも、昨日から妙に念を押してくるし」
二人は再び街へ目を向けた。
遠くから銃声が響く。
一度途切れたかと思うと、別の場所からまた銃声が返ってくる。
「だから、私たちはここを守る」
レディハンクが言った。
「うん」
シェリーも頷いた。
置いていかれたことに納得するためにも、ここで自分たちの役目を果たすしかない。
◆
しばらくして、シェリーがふと思い出したように口を開いた。
「でも、私たちって結構信頼されてるよ」
「私たちが?」
レディハンクが首を傾げる。
「うん」
シェリーは頷いた。
「朝スティーブが言ってたでしょ。私たちが前へ出ても、後ろからついてくるなって」
「うん」
「あれって、いざというときは二人で突っ込めって意味だと思う」
「……そうかな?」
レディハンクはまだ納得しきれない顔をする。
シェリーは昼間に聞いたスティーブの言葉を思い返した。
二人が前へ出たからといって、無理についてくる必要はない。
戻ってくるための道を確保しておけ。
確かに、それは二人の能力を信頼しているからこそ出せる指示だった。
「だって、私たちなら大抵の相手は何とかできるって言ってたし」
シェリーは続ける。
「だから、私たちが前に出たときは任せろってことなんじゃないかな」
「……なるほど」
レディハンクは少し考えたあと、ようやく頷いた。
「それなら、悪くないか」
「うん」
シェリーが微笑む。
「それに、第二病院に戦力を多めに振らないといけないみたいだったし」
「ハンターとファルファレルロがよく目撃されているから?」
「そう。私たちのところより危険なんだと思う」
レディハンクは第二病院のある方向を見た。
「じゃあ、副官に任せるしかないか」
「そういうこと」
「……でも、ちょっとだけ前線に出たかったな」
レディハンクがぼやく。
「そのうち出番は来るよ」
「だといいけど」
二人は再び夜の街を見つめた。
遠くの銃声はまだ続いている。
自分たちがそこにいないことを意識すると、少しだけ落ち着かない。
それでも、今はこの場所を守る。
それが自分たちに与えられた任務だった。
◆
次の日の夜。
第一病院の屋上では、昨夜と同じようにシェリーとレディハンクが並んで警戒に立っていた。
遠くでは今夜も銃声が断続的に響いている。
メインストリート奪還作戦は続いていた。
シェリーが口を開いた。
「一人、病院送りになったみたい」
「えっ」
レディハンクが振り向いた。
「大怪我したの?」
「うん。でも、後遺症はないらしいよ」
「……よかった」
レディハンクが胸を撫で下ろす。
しばらくして、シェリーが続けた。
「それと、結構救助できたみたいだよ」
「本当に?」
レディハンクの表情が明るくなる。
「すごいじゃん」
「うん。結構多いって」
メインストリートの奪還が少しずつ進むにつれ、救助される人数も増えている。
少しずつではある。
それでも、確実に変化は起きていた。
「それに、噂だけど……今回の奪還作戦、地元警察がかなり強く要望したみたい」
「なるほど」
レディハンクが頷く。
「地元の人たちなら、残ってる人を放っておけないよね」
「うん」
シェリーも街へ目を戻した。
「一週間以上か……」
レディハンクが呟いた。
事件が始まってから、すでに一週間以上が経っている。
「うん」
シェリーが頷く。
「物資が残っていたとしても、ウーズたちが街を徘徊してるんだよ。そろそろ限界だと思う」
建物の中に食料や水が残っていたとしても、いつまでも閉じこもっていられるわけではない。
外へ出ればウーズとハンターがいる。屋内にいても気まぐれにハンターが襲ってくる。
救助を求めようにも、道路そのものが危険地帯になっている。
「だから、地元の人たちとしては……どうしても助けたいよね」
レディハンクが静かに言う。
「うん」
シェリーも頷いた。
二人はしばらく何も言わず、暗い街を眺め続けた。
「そういえば……」
シェリーが思い出したように言った。
「軍のヘリの人たちも、かなりすごいらしいよ」
「そんなに?」
レディハンクが興味を示す。
「うん。ヘリボーンだけじゃなくて、屋内戦闘もかなり熟練してるみたい」
「ウーズとか、苦戦しそうだけど?」
レディハンクは市街地の建物へ目を向ける。
「特に建物の中じゃ、普通の戦闘とは勝手が違うでしょ」
「それが、一応テラグリジアで三日くらい訓練したらしいよ」
「ちょっと前から来てたんだね」
「うん。最初は苦戦したけど、すぐにコツを掴んで対応したって」
レディハンクが感心したように息を漏らした。
「元々精鋭らしいけど……すごいね」
「そうだね」
シェリーも頷いた。
レディハンクは少し考え込んだ。
「……帰ったら、ヘリボーンの訓練、もっと厳しくなるかな」
「たぶんね」
「やだなぁ……」
そう言いながらも、レディハンクの口元には笑みが浮かんでいた。
やがて、ふっと顔を上げる。
「よし。帰ったらシェリーの記録、破ってやる」
「え?」
シェリーが振り向く。
「ヘリボーン訓練の記録」
レディハンクが胸を張る。
「私が一番になってやる」
シェリーは少しだけ笑った。
「負けないよ」
「言ったな?」
「言った」
二人は顔を見合わせる。
夜の警戒中だというのに、ほんの少しだけ表情が和らいだ。
レディハンクが、ふと思い出したように口を開いた。
「新種が出たみたいだね」
「私とスティーブが見たやつらしいね」
シェリーが答えた。
「頭が二つあるやつ」
「そう、それ」
レディハンクが頷く。
「まあ、あんまりよく分からないうちにやられたみたいだけどね」
「そうなの?」
「うん。腕がチェンソーみたいになってたらしいけど、一斉射撃であっさり倒されたみたい」
シェリーは少し考えた。
「硬いほうじゃなくてよかった」
「硬いほう?」
「この前、私たちが見つけたやつ」
シェリーが記憶を辿る。
「あれがメインストリートに出てきてたら、ちょっと面倒だったと思う。放置車両が大量にあるから、側面にも回りにくいし」
「確かに」
レディハンクも頷いた。
「まあ、硬いほうはいざとなったら……」
そこで少し考える。
「トゲとかはなかったし、踏み台にもできそうだったし。多分、大丈夫だよ」
「普通の人は、そこまで身軽じゃないと思うよ」
シェリーが即座に返した。
「……そう?」
「そうだよ」
レディハンクは少し考えてから肩をすくめる。
「じゃあ、普通じゃない私たちなら大丈夫ってことで」
シェリーは呆れたように笑った。
二人の笑い声は、夜の病院の屋上で小さく響いた。
その向こうでは、まだ戦いが続いている。
メインストリートを取り戻すための戦闘。
救助を待つ人々を迎えに行くための戦闘。
そして、テラグリジアに残された者たちを一人でも多く生き延びさせるための戦い。
それが終わるまで、夜が静かになることはなかった。
それでも二人は、並んで街を見張り続けていた。
◆
次の日の夜。
第一病院の屋上では、シェリーとレディハンクが並んで周囲を警戒していた。
昼間と比べれば、街は別の場所に見える。建物の明かりはほとんど消え、道路には暗闇が広がっている。その向こうでは、メインストリートの奪還作戦が続いていた。
断続的な銃声が夜空を震わせる。
遠くで一度銃声が途切れると、今度は別の場所から連続した発砲音が響いた。
シェリーは手すりへ軽く身体を預け、音のした方向へ目を向けた。
「昨日、病院送りになった人、三人出たみたい」
「三人も?」
レディハンクの表情が曇る。
「うん。でも、命に別状はないって」
「……そっか」
レディハンクは胸の奥に溜めていた息をゆっくり吐いた。
良かった。
「やっぱり、スティーブとハンクの考えてた通り、かなり厳しいみたいだね」
「うん」
シェリーも頷いた。
再び二人は街へ目を向けた。
しばらく言葉が途切れる。
レディハンクは遠くの銃声を聞きながら、何度も同じことを考えていた。
自分たちは、ここに残されている。
仲間たちは前線へ出ている。
その理由も分かっている。
それでも、気持ちが簡単に納得するわけではなかった。
「……私も作戦に参加したい」
ぽつりと漏れた言葉だった。
シェリーがレディハンクを見る。
「レディちゃん」
「分かってるよ。危ないってことでしょ?」
レディハンクは先回りするように言った。
「でも、そのためにエルピスを断ったんだよ」
シェリーは何も答えなかった。
「シェリーもそうでしょ?」
「……うん」
今度は、シェリーも素直に認めた。
レディハンクはそれを聞いて小さく頷く。
「だったら――」
「でも、今はスティーブとハンクを信じよう」
シェリーが静かに遮った。
レディハンクが口を閉じる。
「二人が危険だからって判断したんだと思う」
「……」
「私たちが前に出たいって気持ちも分かる。でも、だからって二人の判断を無視する理由にはならないよ」
レディハンクは手すりへ両手を置いた。
納得できない。
けれど、反論する言葉も浮かばなかった。
ハンクもスティーブも、今回の作戦がどれだけ危険なのかを知っている。
それを理解したうえで、自分たちを残したのだ。
しばらく黙り込んだあと、レディハンクが小さく息を吐いた。
「……分かった」
シェリーはそれ以上何も言わなかった。
ただ、再び夜の街へ視線を向ける。
その横で、シェリーの中にも別の記憶が浮かんでいた。
エルピス。
それを使えば、ウイルスの影響を完全に除去できる。
いや――シェリーの場合、エルピスに頼らなくてもどうとでもなった。
普通の人間として人生を歩む。
そんな道を選ぶこともできたはずだった。
それでも、エルピスを打たなかった。
なぜなのか。
シェリー自身、すべてを一言で説明できるわけではない。
怖かったのもある。
自分の身体に何が起こるのか。
これから先、自分がどうなっていくのか。
そう考えれば、不安にならないわけがなかった。
それでも――。
リサとクレアなら、絶対に自分を守ってくれる。
その確信だけはあった。
だからこそ、ただ守られているだけでは嫌だった。
自分も何かの役に立ちたかった。
ウイルス適合者としての能力を持っているなら、それを誰かを助けるために使いたい。
ラクーンシティで自分を助けてくれたリサ。
そして、クレアとレオン。母のアネット共々あの頃は随分と世話になった。
あの事件を生き延びてから今まで、受け取ったものは数えきれない。
その恩を忘れたわけではない。
ただ、EUへ来てからはレオンと母には会えていなかった。特にレオンには謝らなければならない。
そんなことまでふと思い出していた。
「……私もね」
レディハンクがこちらを見ていた。
シェリーは顔を上げる。
「ただ守られてるだけは、嫌だったんだ」
「シェリー?」
「ううん。なんでもない」
シェリーは小さく笑った。
「だから今は、ここで頑張ろう」
レディハンクはしばらくシェリーを見つめていた。
やがて、ゆっくり頷く。
「……うん」
二人は再び前を向いた。
屋上を吹き抜ける風が、二人の髪を揺らしていた。
シェリーはしばらく街を眺めていたが、ふと何かを思い出したように隣へ顔を向けた。
「そういえば……」
「ん?」
レディハンクが振り返る。
「レディちゃんは、大学どうするの?」
「大学?」
「うん」
意外な質問だったのか、レディハンクが少し目を丸くする。
シェリーは再び街へ視線を戻した。
「私は大学に行くつもりだよ」
「シェリーも行くんだ」
「うん」
シェリーは小さく頷いた。
「今回、作戦から外されたことも……たぶん、クレアやスティーブからのメッセージなんだと思う」
「メッセージ?」
「うん」
シェリーは少し考えてから続けた。
「危ないから行かせないってだけじゃなくて、これから先のことも考えてほしいってことなんじゃないかな」
レディハンクは黙った。
これまで前線へ出られないことを、単純に不満だと思っていた。
自分には戦える力がある。
任務にも参加できる。
それなのに、どうして自分たちは残されるのか。
そんな疑問ばかりを考えていた。
けれど、別の見方もできる。
危険な場所へ送り出すのではなく、その先にある人生まで考えてほしい。
クレアやスティーブが今回の判断に込めたものが、もしそういう意味なら――。
「……そっか」
レディハンクが小さく呟いた。
シェリーが隣を見る。
「どう?」
「うん……少し分かった気がする」
レディハンクは手すりへ視線を落とした。
「私も、大学は行くよ」
「うん」
「せっかくこうして言われたんだし……クレアやスティーブの気持ち、ちゃんと受け取っておく」
そう言って、レディハンクは夜の街を見つめた。
メインストリートでは、まだ銃声が続いている。
生物兵器テロをなくすための戦い。
けれど、その戦いが終わった先には、自分たちにも別の人生が待っている。
大学へ行くこと。
勉強すること。
戦いとは関係のない場所で、自分の未来を選ぶこと。
「シェリー」
レディハンクが呼びかける。
「なに?」
「勉強、教えてね」
シェリーが笑った。
「もちろん」
「一緒に勉強しようよ」
「うん。約束ね」
二人の間に、少しだけ明るい空気が戻る。
「レディちゃんも、アレクシア様に教えてもらったらいいよ」
「アレクシア様に?」
「うん」
シェリーは頷いた。
「教えるの、すごく上手だよ。アレクシア様」
「……うーん」
レディハンクは難しい顔をした。
「アレクシア様に教えてもらうのは、なんていうか……恐れ多いというか」
「そう?」
「それに、私のことで時間を取らせるのは、ちょっと……」
シェリーが苦笑する。
「大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん」
シェリーは少しだけ考えてから、いたずらっぽく笑った。
「アレクシア様、ウイルスに適合している人には基本的に優しいから」
「……そうかなぁ」
「それに、暇になると悪だくみするだけだから」
「え?」
レディハンクが目を丸くする。
シェリーは何でもないことのように続けた。
「だから、もっと頼ったほうがいいと思う」
「うーん……」
レディハンクは腕を組み、しばらく考え込んだ。
やがて、諦めたように肩を落とす。
「……考えとく」
「うん。それでいいよ」
二人は顔を見合わせる。
レディハンクが小さく笑い、シェリーもつられて笑った。
屋上を吹き抜けていた風が、少しだけ強くなった。
レディハンクは手すりに寄りかかったまま、暗い街を眺めている。シェリーも隣に立ち、遠くで続く銃声へ時折視線を向けていた。
しばらくして、レディハンクが何かを思い出したように口を開く。
「そういえば、アレクシア様と言えば……」
「うん?」
「リサとアレクシア様、今どこにいるの?」
シェリーは少しだけ返事に迷った。
「あー……」
言葉を濁したことで、レディハンクが振り向く。
「何?」
「クレアが言ってたんだけど……二人とも行方が分からないって」
「行方が分からない?」
レディハンクが目を見開く。
「うん」
「どうして?」
「どうも、日本での視察が終わってから、何かに妨害されたみたいに移動できなくなってたみたい」
シェリーは街の向こうへ目を戻した。
「それで、予定していた帰国も遅れてるらしいの」
「妨害って……」
レディハンクが眉を寄せる。
「事故とかじゃなくて?」
「そこまでは分からないみたい」
シェリーは首を振った。
「ただ、偶然にしては変なことが続いてるから、アレクシア様はかなり怒ってたらしいよ」
「アレクシア様が?」
「うん」
その光景を想像したのか、シェリーの口元に苦笑が浮かぶ。
「かなり機嫌が悪かったみたい」
「それは怖いな……」
レディハンクが小さく呟いた。
少し考えてから、ふと顔を上げる。
「コネクションとか?」
「……それは、分からないの」
シェリーは首を横に振った。
「クレアも、確かな情報はないって言ってた。何かが関係してる可能性はあるけど、証拠はないって」
「そっか……」
レディハンクは再び街へ視線を戻した。
「リサも一緒なんだよね?」
「うん。二人とも日本にいたはず」
「ふーん……」
レディハンクは腕を組み、しばらく考えた。
それから、ぽつりと言う。
「あの二人がいれば、今頃メインストリートは通れるようになってるんじゃない?」
「どうだろう?」
シェリーも考え込む。
「確かに、あの二人ならウーズやファルファレルロなんて、苦にもならないと思うけど……」
「でしょ?」
「でも……」
シェリーは何か嫌なものを想像したように、少し眉を寄せた。
「なんか、やらかしそうじゃない?」
「やらかし?」
レディハンクが聞き返す。
「うん」
シェリーは街を指差した。
「ほら、放置車両が大量にあるでしょ?」
「あるね」
「リサもアレクシア様も電撃と炎を使えるから……」
シェリーは、その状況を頭の中で思い描く。
「二人で一気に片付けようとしたら、ウーズだけじゃなくて放置車両に電撃や炎が引火して、大爆発させそう」
「大爆発!」
レディハンクが吹き出した。
「いや、さすがに二人でもそんなことは……」
笑いながら否定しかける。
だが、途中で声が止まった。
レディハンクの表情から、少しずつ笑みが消えていく。
「……ない、よね?」
「私も、そう思いたいんだけど」
シェリーは苦笑した。
「あの二人が揃って何かしようとすると、ろくなことにならない気がするんだよね」
「そんなに?」
「そうそう、だって、アンブレラの南極基地でも、ロシアの基地でも……」
シェリーは指を折りながら思い出していく。
「それに、自縛装置がないはずのスペンサー邸でも大爆発させてたし」
「……確かに」
レディハンクも真顔で頷いた。
しばらく、二人の間に沈黙が落ちる。
遠くでは銃声が続いている。
「救助には向いてないよね、あの二人」
「うん」
シェリーも素直に同意した。
「戦う分には頼りになるんだけどね」
「それは間違いない」
レディハンクが頷いた。
二人は顔を見合わせる。
そして、ほとんど同時に小さく笑った。
その時だった。
メインストリートの方向から、大きな爆発音が響いた。
夜の街が一瞬だけ明るくなる。
二人の笑いが止まった。
「……まさかね」
レディハンクが呟く。
「まさかだよ」
シェリーも答えた。
二人はしばらく爆発のあった方角を見つめていた。
やがて、レディハンクが首を傾げる。
「……でも、ちょっとだけ気になる」
「私も」
二人は顔を見合わせたあと、笑いあった。
空が、少しずつ色を変え始めていた。
夜の黒に覆われていたテラグリジアの街が、遠くの水平線から薄い青へと塗り替えられていく。やがてその下に淡い橙色が混じり、建物の輪郭が少しずつ浮かび上がってきた。
長い夜だった。
「もうすぐ朝だね」
レディハンクが手すりから身体を起こした。
「うん」
シェリーも空を見上げる。
朝が来ることは少しだけ安心できることだった。暗闇が薄れれば、周囲を見渡しやすくなる。
レディハンクが目を細めた。
「……シェリー」
「どうしたの?」
「あれ……」
レディハンクが遠くを指差した。
シェリーは指の先へ視線を向ける。
最初は大型の車両かと思った。
だが、違う。
何かが動いている。
しかも、人間にしては大きすぎる。
「……何、あれ」
シェリーが身を乗り出す。
朝焼けに照らされ、遠くの道路に巨大な人影が浮かび上がった。
徐々に輪郭がはっきりしていく。
大きい。
三メートル近い巨体だった。
分厚い身体。
異様に発達した筋肉。
人間の形を残しているにもかかわらず、その姿からは生物兵器特有の圧迫感が漂っている。
シェリーの表情が固まった。
「……嘘」
レディハンクも、しばらく言葉が出なかった。
見間違えるはずがない。
あの姿を、二人は知っている。
「……タイラント」
シェリーの声が、わずかに震えた。
レディハンクも息を呑む。
かつてアンブレラが最高傑作と謳った生物兵器。
圧倒的な肉体と異常な耐久力を持ち、通常の人間が正面から相手にできる存在ではない。
アンブレラを知る者にとって、その姿はただのB.O.W.ではない。
過去の悪夢そのものだった。
「なんで……ここにいるの?」
レディハンクが呟く。
シェリーは答えられなかった。
タイラントは病院に向かってきている。
だが、その周囲に動く影がある。
一つ。
二つ。
さらに増える。
「……シェリー」
「分かってる」
シェリーが双眼鏡を取り出した。
タイラントの周囲へ視線を移す。
「ハンター……」
道路には複数のハンターがいた。
タイラントの周囲を徘徊している。
レディハンクが唇を引き結ぶ。
「ハンターまで一緒にいる……」
「数、結構いるよ」
シェリーが双眼鏡を下ろす。
先ほどまで眠気を感じていた身体から、一気に疲れが消えたようだった。
「……病院に報告しよう」
「うん」
レディハンクが無線機へ手を伸ばす。
しかし、その前にもう一度、遠くの巨体へ目を向けた。
朝焼けの中、タイラントがゆっくりと歩いている。
その周囲を、複数のハンターが動き回っていた。
メインストリートの奪還作戦が始まって以来、これまでにも数え切れないほどのウーズやB.O.W.が確認されてきた。
それでも、今あそこに見えているものは別格だった。