アーク製薬会社 作:ai試し2
メインストリート。
空が少しずつ朝の色へ変わっていく中、ハンクたちの部隊はなおも前線に残っていた。
長い夜の掃討も、もうすぐ交代の時間を迎える。後方からは次の任務を引き継ぐ部隊が近づいており、隊員たちもあと少しだけ持ち場を維持すればいいと思い始めていた。
その時だった。
前方を監視していた隊員から、緊張した声が無線へ飛び込んできた。
『何か飛んできます!』
ハンクが顔を上げた。
「何だ?」
返事が来るより早く、道路の向こうから巨大な物体が飛んできた。
「――伏せろ!」
隊員たちが一斉に身を低くする。
頭上を何かが猛烈な速度で通過した。
直後、後方で金属が潰れる凄まじい音が響く。
ハンクが振り返る。
放置されていた車両に、途中から折れた街灯が突き刺さっていた。
車体が大きく歪み、ガラスが粉々に砕け散っている。
次の瞬間、漏れ出した燃料へ火が移った。
炎が車両を包み、黒煙が朝焼けの空へ立ち上っていく。
「何があった?」
ハンクが無線へ問いかける。
『分かりません! 突然、道路の向こうから飛んできました!』
ハンクは燃える車両から視線を戻した。
「前方を確認しろ」
『了解!』
しかし、別の隊員から切迫した声が割り込んできた。
『――あれは……』
一瞬、声が途切れる。
『タイラントだ!』
ハンクの表情が変わった。
「何?」
『タイラントを確認! メインストリートの先です!』
その報告に、隊員たちの間へ緊張が走る。
ハンクは前方へ視線を固定した。
朝焼けの向こう。
建物の間から、巨大な影がゆっくりと近づいている。
次の瞬間、再び何かが飛来した。
「来るぞ!」
隊員たちが散開する。
二本目の街灯が道路を横切り、別の放置車両へ叩きつけられた。車体が押し潰され、金属が耳障りな音を立てる。
無線が続く。
『ハンターも確認しました! 複数です!』
ハンクは即座に後方へ振り返った。
交代のため近づいていた部隊がいる。
このままでは、新たな脅威と接触する可能性が高い。
「交代部隊を下がらせろ!」
『了解!』
隊員たちが後方へ向かって合図を送る。
「ここから離れろ!」
交代部隊が動きを止め、距離を取っていく。
ハンクは再び前方へ向き直った。
朝焼けに照らされ、巨大な影が少しずつはっきりしてくる。
その周囲には、複数のハンターがいた。
「ファルファレルロは?」
ハンクが無線へ尋ねる。
『現在確認できません』
前方を監視していた隊員が即座に答えた。
『ただし、タイラントを二体確認。どちらも三メートル近い大型個体です』
双眼鏡を覗いていた隊員が続ける。
『体格から判断して、潜入や隠密行動を考慮したタイプではありません』
一瞬の間。
『戦闘用と思われます』
ハンクは二体の巨体を見据えた。
朝焼けの中を進んでくるタイラント。
その周囲を徘徊する複数のハンター。
通常のウーズやハンターとは、明らかに意味が違う。
前線を押し潰すために投入された存在だった。
「全隊に通達」
ハンクの声が低く響く。
「足止めに徹しろ」
隊員たちが無線を通じて復唱する。
「絶対にスーパータイラントにさせるな」
『了解』
タイラントは大きな損傷を受けることで、さらに危険な形態へ移行する可能性がある。
中途半端な攻撃で追い詰めれば、かえって状況が悪化する。
今、必要なのは撃破ではない。
時間を稼ぐことだった。
ハンクは無線機のチャンネルを切り替えた。
「スティーブ、本部につなげ」
数秒後、スティーブの声が返ってくる。
『こっちも騒ぎになってる』
「タイラント二体を確認した。完全撃破できる火力が必要だ」
『分かってる』
だが、いつものスティーブとは少し違っていた。
声に緊張が混じっている。
「何があった?」
『本部も混乱してる』
「理由は?」
『第一病院から報告が入った』
ハンクの目が細くなる。
『タイラントとハンターを確認したらしい』
第一病院。
そこにはシェリーとレディハンクがいる。
ハンクの表情がわずかに変わった。
スティーブが続ける。
『今まさに、メインストリートの部隊と第二病院へタイラント出現を知らせようとしてたところだ』
ハンクは短く息を吐いた。
同時多発。
偶然とは考えにくい。
『本部では、第一病院へ重火器を持った部隊を派遣する準備も始まってる』
ハンクは前方へ目を戻した。
二体のタイラントが、確実に距離を詰めている。
その後方には、複数のハンター。
さらに無線から、スティーブの声が続いた。
『……第二病院でも確認された』
「何?」
『タイラントが一体。それとファルファレルロ、ハンターも確認された』
ハンクは言葉を返さず、前方を見つめた。
第一病院。
第二病院。
そしてメインストリート。
複数の場所で、同時に大型B.O.W.が現れている。
『まず第二病院に増援を送らないとまずい』
「同意する」
ハンクは即座に答えた。
第二病院にはまだ多くの避難民がいる。
そこへタイラントだけでなく、透明化能力を持つファルファレルロまで出現している。
やがて、EU側の指揮所からも判断が伝えられた。
『EU側も同じ判断だ。第二病院を優先する』
スティーブが続ける。
『避難民の数が多い。まずはそっちへ部隊を回す』
「了解」
ハンクは短く返した。
その間にも、タイラントの一体が道路脇へ腕を伸ばす。
折れた街灯を掴んだ。
次の瞬間、巨体がそれを力任せに投げ飛ばす。
「来るぞ!」
隊員たちが散開する。
街灯が道路を何度も跳ねながら、後方の放置車両へ激突した。
さらにその向こうでは、ハンターが身を低くしていた。
車両や建物を利用しながら、こちらへ近づいてくる。
姿を見せては遮蔽物へ潜り、別の場所から再び現れる。
『重火器をそっちへ届ける。それまで耐えてくれ』
スティーブの声が無線から響いた。
「分かった」
『無茶するなよ、ハンク』
「お前もな」
短く返して通信を切る。
ハンクは周囲の隊員へ向き直った。
「状況を伝える」
隊員たちの視線が集まる。
「第一病院、第二病院でもタイラントを確認。第二病院にはファルファレルロも出ている。増援はそちらが優先される」
隊員たちの表情が引き締まった。
ハンクは再び前方へ目を向ける。
二体のタイラント。
その周囲を動く複数のハンター。
大型B.O.W.へ集中すれば、ハンターに側面を突かれる。
逆にハンターへ意識を向ければ、タイラントが距離を詰めてくる。
ならば、順番を間違えるわけにはいかなかった。
「まずハンターを排除しろ」
ハンクが命じる。
「タイラントは足止めに徹する。重火器が届くまで、耐えろ」
『了解!』
隊員たちが一斉に銃を構える。
朝焼けのメインストリートに、再び銃声が響き始めた。
長い夜が終わろうとしている。
だが、夜明けと同時に始まったのは、新たな戦いだった。
◆
第一病院。
屋上に立つレディハンクは、朝焼けに染まり始めた街を見渡しながら無線機を手に取った。
「こちら第一病院。タイラントを確認。ハンターも複数いる」
まずアークの部隊へ連絡を入れる。
続けて病院の守備隊、それからEU側の指揮所へと、必要な情報を順番に伝えていった。
「病院周辺にタイラントとハンターを確認。こちらのアーク部隊で対処します」
間もなく、病院の守備隊から返答が入った。
『了解。こちらは病院の警戒を継続する』
「お願いします」
レディハンクは無線を耳から離し、もう一度街へ目を向けた。
その視線の先には、遠くで動く巨大な影がある。
「それと、ファルファレルロにも注意してください」
『了解』
通信を終える。
レディハンクは無線機を戻すと、シェリーとともに階段へ向かった。
屋上を下り、病院の外へ出る。
すでに周辺には、アークの隊員たちが集まっていた。銃を構えた者、周囲の建物を警戒する者、道路の先を監視する者。それぞれが迫る脅威を待ち受けている。
レディハンクが隊員たちの前で足を止めた。
「タイラントは私たち二人が引き付けるから!」
隣のシェリーを見る。
「シェリー、いける?」
「うん」
迷いのない返事だった。
「じゃあ、みんなはハンターよろしく!」
隊員たちが頷く。
「了解!」
レディハンクはもう一度、全員へ念を押す。
「それと、スティーブの言葉、忘れないでね!」
その一言で、隊員たちの表情が引き締まった。
ここを守る。
タイラントを病院へ近づけさせない。
それぞれの役割を理解した隊員たちが、改めて武器を構える。
レディハンクとシェリーは並んで前へ出た。
朝焼けの街の向こうに、巨大なタイラントが立っている。
二人はその巨体へ向かって道路を進んでいった。
タイラントも、こちらの存在に気づいたらしい。
巨大な身体が止まる。
次の瞬間、その腕が道路脇へ伸びた。
「えっ」
レディハンクが目を見開く。
タイラントの手が、道路脇へ寄せられていた小型車両を掴んだ。
そのまま力任せに投げつける。
「来るよ!」
「うん!」
二人が左右へ散る。
車両が唸りを上げながら頭上を横切った。
次の瞬間、道路の先へ落下する。
衝撃音が朝の街へ響いた。
レディハンクがタイラントへ視線を戻す。
その時、無線が鳴った。
『隊長、シェリー、聞こえるか?』
仲間の声だった。
「聞こえてるよ!」
『ハンターの一部がそっちへ向かっている。上空から監視している部隊が確認した』
「分かった!」
病院から借りれたヘリが、現在上空から周囲を監視しているらしい。
レディハンクは再び目の前の巨体へ視線を固定した。
「どうする?」
シェリーは少しだけ考えた。
そして、タイラントを見据えたまま答える。
「ネメシスじゃないから、大丈夫だよ」
「……そうだね」
レディハンクの口元に笑みが浮かぶ。
「じゃあ、やれるね」
シェリーが腰のポーチへ手を入れた。
取り出したのは一本の注射器だった。
朝の光を受け、内部の液体がわずかに揺れる。
「エルピスを隙を見て打ち込むから、援護よろしく」
「了解!」
レディハンクも武器を握り直した。
「じゃあ、私たちで倒しちゃおう」
タイラントが再び歩き始めた。
一歩。
また一歩。
巨体が道路を踏みしめるたび、重い足音が響く。
レディハンクが笑う。
「がんばっていこー!」
「うん、がんばっていこー!」
その直後だった。
先ほどタイラントが投げ飛ばした車両が道路脇へ落下した。
破損した燃料系統から火が移り、一気に爆発する。
轟音と炎が二人の背後で膨れ上がった。
しかし、二人は振り返らなかった。
目の前のタイラントだけを見据え、そのまま駆け出す。
距離が縮まる。
その時、前方の車両の陰から影が飛び出した。
「来た!」
レディハンクが身を低くする。
ハンターの爪が振り下ろされる。
二人は左右へ分かれた。
シェリーが側面へ回り込む。
レディハンクが正面から攻撃を叩き込む。
ハンターの身体が揺らいだ。
その隙を逃さず、二人が続けて攻撃する。
ハンターが路面へ転がった。
「次!」
二人は足を止めない。
別の個体が建物の陰から飛び出してくる。
今度はシェリーが先に踏み込んだ。
攻撃をかわし、トマホークを振り抜く。
ハンターが大きく体勢を崩したところへ、レディハンクが追撃を加える。
二体目が倒れた。
二人は再びタイラントへ向き直った。
しかし、敵はハンターだけではなかった。
周囲の建物から物音が響き始める。
戦闘の音に反応したのか、出入口や窓からウーズたちが姿を現した。
「出てきたね」
シェリーが横目で確認する。
「放っておこう!」
レディハンクは迷わなかった。
「今はあいつ!」
二人の視線はタイラントから外れない。
ただ、すべてを無視できるわけでもなかった。
建物の奥から、腕を異様な形へ変化させた個体が現れる。
「シェリー!」
「見えてる!」
トライコーンが腕を振り上げた。
硬質な棘が飛んでくる。
二人は左右へ跳んでかわした。
「こいつだけは先に!」
シェリーが銃を構え、トライコーンへ撃ち込む。
レディハンクも続けて射撃する。
集中攻撃を受けたトライコーンが崩れ落ちた。
「よし!」
二人はすぐにタイラントへ向き直る。
周囲ではウーズがいる。
だが、今はそれに構っている余裕はない。
タイラントが二人へ身体を向けた。
しばらく、その巨体が二人を見据える。
「……来るよ」
シェリーが呟く。
レディハンクも身構える。
タイラントが腰を落とした。
そして――。
巨体が、二人めがけて一気に走り出した。
道路が震える。
シェリーもトマホークを抜き、タイラントへ向けて構えた。
タイラントは二人を見据えたまま、走り出した勢いを殺さずに距離を詰めてくる。
巨体が迫る。
次の瞬間、タイラントが拳を大きく振り上げた。
狙いはシェリーだった。
巨大な拳が、頭上から叩き潰すような勢いで振り下ろされる。
シェリーは慌てなかった。
拳の軌道を見極め、余裕を持って横へ身体を運ぶ。
直後、タイラントの拳が路面へ突き刺さった。
轟音とともにコンクリートが砕け、蜘蛛の巣状の亀裂が一気に広がる。
シェリーはそのままタイラントの横を駆け抜けた。
「そこ!」
すれ違いざま、トマホークを振り抜く。
刃がタイラントの腕を捉え、分厚いコートを切り裂いた。
同時に、レディハンクがハンドガンを連射する。
銃声が重なり、弾丸がタイラントの脚や肩へ次々と命中した。
だが、タイラントは怯まない。
レディハンクが目を見開く。
「防弾!」
シェリーも腕の傷を確認する。
「防刃!」
斬撃と銃弾を受けたコートには傷が残っている。
防弾。
防刃。
かつて二人が知っていたタイラントと同じように、この巨体もまた、通常の武器では簡単に止められない。
二人は素早く距離を取った。
タイラントが振り返る。
さっきまで拳が叩き込まれていた路面には、大きな亀裂が残っていた。
あの一撃をまともに受ければ、ただでは済まない。
それでも、二人の表情に怯えはなかった。
その時、レディハンクの側面からウーズが飛び込んできた。
「っ!」
レディハンクは反射的に身をかわす。
伸びてきた腕を外へ流し、その勢いを利用して身体を回転させる。
そして、すれ違いざまにウーズの身体を蹴り飛ばした。
巨体が道路を跳ねるように飛び、そのままタイラントの方向へ転がっていく。
タイラントがそちらを見る。
迫ってきたウーズへ、片手を伸ばした。
大きな手が、ウーズの首を掴む。
ウーズが身体を激しくよじらせる。
しかし、タイラントの腕はびくともしない。
そのまま握り締められ、ウーズの抵抗が徐々に弱くなっていく。
やがて、身体から力が抜けた。
「相変わらずのパワー……」
レディハンクが呟いた。
その直後、今度はピンサーがシェリーへ飛びかかった。
大きく変形した腕が迫る。
シェリーはトマホークを振り、爪をまともに受けるのではなく、刃を滑らせるようにして攻撃の軌道を逸らした。
ピンサーの身体が大きく崩れる。
その勢いのまま、タイラントのいる方向へ押し出した。
タイラントが振り返る。
そして、迫ってきたピンサーへ拳を叩き込んだ。
轟音。
ピンサーが一撃で吹き飛ばされる。
ピンサーは道路脇の建物へ叩きつけられ、壁面に赤黒い跡を残し動かなくなった。
レディハンクが唖然とした顔でタイラントを見る。
「……私たちの知ってるタイラントと、たいして変わらなさそうだね」
「うん」
シェリーも頷いた。
圧倒的な怪力。
高い耐久力。
目の前に立つ巨体は、かつて二人が知っていたタイラントと同じように、戦場そのものを変えてしまうほどの力を持っていた。
二人は改めて武器を構え直す。
タイラントが低く身を沈めた。
次の瞬間、巨体が踏み込む。
巨大な腕が横薙ぎに振られた。
「来る!」
二人はそれぞれ反対方向へ散る。
腕が二人の間を通り抜け、空気を激しく押しのけた。
その直後、無線機から声が飛び込んできた。
『すまん、一体ハンターが抜けた!』
レディハンクはタイラントから視線を外さず、短く返す。
「了解」
シェリーも周囲へ目を走らせた。
道路の先から、何かが近づいてくる。
低い姿勢。
車両の陰を抜ける影。
ハンターだ。
「シェリー、そっちはお願い」
「わかった」
二人は慌てない。
レディハンクはタイラントの動きを追い、シェリーは迫ってくるハンターへ身体を向けた。
同時に二つの脅威が近づいてくる。
タイラントが再び足を踏み出した。
巨大な腕が振り下ろされる。
レディハンクが横へ滑り、拳をかわす。
シェリーも反対側へ身体を運んだ。
道路の先から、ハンターが姿を現す。
低い姿勢のまま、こちらへ向かって一気に走ってくる。
シェリーがタイラントの脇を抜けた。
ハンターが跳びかかってくる。
シェリーは一歩だけ横へずれ、伸ばされた爪をかわした。
すれ違いざま、トマホークを振り抜く。
刃がハンターの胴へ食い込んだ。
ハンターが着地する。
振り返るより早く、シェリーが踏み込んだ。
「終わり!」
トマホークが頭部へ叩き込まれる、ハンドガンが連射される。
ハンターが崩れ落ちた。
シェリーはその場で周囲を確認する。
動く気配はない。
「こっちは終わったよ!」
「了解!」
レディハンクが応じる。
その直後、タイラントの拳が再び迫った。
レディハンクは身体を捻ってかわし、すぐに距離を取る。
ハンターを片付けたシェリーも振り返り、再びタイラントへ向き直った。
二人の視線が揃う。
目の前には、まだ三メートル近い巨体が立っている。
戦いは終わっていない。
タイラントが道路脇へ目を向けた。
そこに立っていた標識へ手を伸ばす。
金属製の支柱ごと引き抜き、そのまま巨大な腕を振り回した。
「危ない!」
二人がそれぞれ後方へ飛ぶ。
標識が二人の間を薙ぎ払い、勢い余って近くの車両へ激突した。
タイラントが標識を振り回している間にも、周囲の建物からウーズが姿を現していた。
だが、二人はタイラントとの距離を保ちつつ、近づいてくる個体だけを確実に排除していく。
タイラントへはハンドガンによる牽制に留め、無理に接近しない。
今は一撃を狙うより、隙を待つ方が重要だった。
「ハンターとウーズは?」
レディハンクが無線へ問いかける。
『こっちは大体処理が終わった!』
「了解。それじゃ、すぐ逃げていいから、上空から一回だけ牽制お願い!」
『了解!』
返答から間もなく、上空でヘリのローター音が大きくなった。
旋回していた機体が高度を下げ、機上から銃撃を開始する。
銃弾がタイラントの周囲へ降り注いだ。
タイラントが顔を上げる。
その意識が、一瞬だけ上空へ向いた。
「今!」
レディハンクとシェリーが同時に走り出した。
タイラントはまだ標識を握っている。
シェリーがその手へ銃口を向ける。
引き金を引いた。
銃弾が標識を掴んでいる指へ命中する。
タイラントの手がわずかに開いた。
支えを失った標識が宙へ放り出され、道路へ落下する。
シェリーはそのまま踏み込んだ。
「いくよ!」
トマホークを振り上げる。
タイラントが腕を上げ、受け止めようとする。
刃が腕へ当たった瞬間、シェリーの身体がわずかに弾かれた。
しかし、その一瞬で十分だった。
レディハンクが横を抜ける。
タイラントの背後へ回り込んだ。
マグナムを構える。
狙いは脚。
「そこ!」
連続した銃声が響いた。
レディハンクはタイラントの両膝、その裏側へ次々と弾丸を撃ち込む。
巨体が大きく揺れた。
タイラントが踏みとどまろうとする。
だが、膝へ撃ち込まれた弾丸が脚の力を奪っていく。
片膝が落ちる。
続いて、もう一方の脚も崩れた。
タイラントの巨体が傾く。
そのまま地面へ倒れ込んだ。
道路が大きく震えた。
シェリーが駆け出す。
ケースからエルピスを取り出した。
倒れたタイラントへ近づき、首元を狙う。
注射器を構える。
そして――。
首筋へ、エルピスを打ち込んだ。
エルピスを打ち込み、シェリーはすぐにレディハンクのもとに駆け寄る。
倒れていたタイラントが、ゆっくりと身体を起こし始める。
片手を路面へつき、巨体を支えながら立ち上がっていく。
シェリーはトマホークを構え直した。
「すぐに効いてくるはずだよね?」
「そのはず」
レディハンクも銃口を下げない。
二人が見守る中、タイラントが完全に立ち上がった。
だが――。
次の瞬間、巨体が再び二人へ向かって突進した。
「来るよ!」
「うん!」
二人は左右へ散る。
タイラントの拳が空を切った。
レディハンクは距離を保ちながらハンドガンを撃つ。シェリーもタイラントの側面を回り込み、隙を見てトマホークを振り抜いた。
攻撃を受けても、タイラントは止まらない。
何度も拳を振り下ろす。
二人はそれぞれの動きに合わせてかわし、その合間に銃弾と斬撃を叩き込んでいった。
すぐに、タイラントの動きに変化が現れ始めた。
最初の勢いがない。
拳を振り上げる動作がわずかに遅れ、踏み込んだ足も以前ほど強く路面を捉えていない。
シェリーはその変化を見逃さなかった。
「……効いてる」
レディハンクも頷く。
「うん。さっきより明らかに遅い」
二人は無理に倒そうとはしなかった。
距離を保つ。
攻撃をかわす。
隙ができれば撃つ。
そして、また離れる。
それを繰り返していく。
タイラントが拳を振る。
シェリーが横へ抜ける。
レディハンクの銃声が続く。
タイラントが身体を向ける。
今度はレディハンクが背後へ回り、シェリーが正面から気を引く。
巨大な身体が少しずつ重くなっていく。
やがて、タイラントの動きは明らかに鈍っていた。
レディハンクとシェリーが一瞬だけ目を合わせる。
言葉は必要なかった。
シェリーがハンドガンを構える。
狙いはタイラントの脚。
引き金を引いた。
一発。
二発。
続けて数発の銃弾が足へ食い込む。
タイラントの身体が揺らぐ。
踏み止まろうとした巨体から、急に力が抜けた。
片膝が落ちる。
そのまま身体が傾き、大きな音を立てて路面へ倒れ込んだ。
「今度こそ!」
レディハンクが駆け寄った。
マグナムを抜き、倒れているタイラントの頭部へ照準を合わせる。
引き金を引いた。
銃声が朝の街に響く。
一発。
さらに一発。
続けて何発も撃ち込む。
タイラントの身体がわずかに動いた。
しかし、それだけだった。
それ以上、立ち上がろうとする気配はない。
「……まだ」
シェリーが慎重に近づく。
タイラントの身体を確認し、コートへ手を掛けた。
「念のため」
レディハンクが頷く。
マグナムを構え直す。
露出した胸部へ照準を合わせた。
一瞬だけ呼吸を整える。
そして、引き金を引いた。
銃声が何度も響く。
胸部へ数発の弾丸が撃ち込まれた。
タイラントの身体は動かない。
二人はすぐには武器を下ろさなかった。
少し離れた位置から様子を見つめ、再び動き出す気配がないことを確認する。
ようやく、レディハンクが息を吐いた。
「タイラント、撃破」
無線機へ報告する。
『了解。こちらでも確認した』
返事を聞いてから、レディハンクはマグナムを下ろした。
「帰ろう、シェリー」
「うん」
二人はそれぞれ武器を収める。
周囲にはまだウーズの姿が残っている。
しかし、先ほどまでとは違う。
目の前に立っていた最大の脅威は、もう動かない。
朝の光が、テラグリジアの街を少しずつ照らし始めていた。
二人は警戒を続けながら、第一病院へ向かって歩き出した。