アーク製薬会社   作:ai試し2

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14話 説明会

 翌日。

 

 前日から続いていた混乱は、まだ完全に収まってはいない。それでも、EU本部として使用されているホテルの会議室には、各部隊の隊長や指揮官が集められていた。

 

 ハンクとスティーブも、その中にいる。

 

 誰の顔にも疲労が残っていた。メインストリートでの戦闘は、それほど激しかった。タイラントの出現によって各地の状況が一変し、負傷者の搬送や部隊の再配置まで重なっている。

 

 やがて、EU側の指揮官が壇上へ立った。

 

「まず、メインストリート奪還作戦は中止になった」

 

 室内から話し声が消える。

 

 指揮官の背後に映し出されたスクリーンへ、昨夜の被害状況が表示された。

 

「昨夜の戦闘によって、作戦を継続できる状況ではなくなった」

 

 最初に表示されたのは、FBC側の区域だった。

 

「FBC側では、特に警察本部が大規模な襲撃を受けた。タイラント二体、ハンター、さらにファルファレルロまで確認され、大きな損害が出ている」

 

 ハンクは黙って映像を見ていた。

 

「タイラント二体については、すでに撃破されている」

 

 画面が切り替わる。

 

 続いて表示されたのは、行政本部周辺の記録だった。

 

「行政本部側も襲撃を受けた。こちらではタイラント二体とハンターが確認されている」

 

 指揮官が淡々と説明を続ける。

 

「タイラント一体は撃破済み。もう一体は戦闘の途中で撤退した」

 

 会議室に重い沈黙が落ちた。

 

 さらに別の映像が表示された。

 

 警察本部で撮影されたものらしい。

 

 そこには、巨大な生物が街路を破壊しながら進む姿が映っていた。

 

 人間に似た形をしている。

 

 しかし、人間とは比較にならない巨体。

 

 そして、異様に発達した腕。

 

「……なんだ、あれは」

 

 隊長の一人が思わず呟いた。

 

 その声を聞いたクレアが席を立つ。

 

今回の説明にはアドバイザーからの説明が必要だった。

 

「この生物兵器はタイラント。かつてアンブレラが開発したものです」

 

 会議室の視線が一斉にクレアへ集まる。

 

 クレアはスクリーンへ資料を表示した。

 

「高い筋力と防御力を持ち、通常の人間が単独で相手にするのは非常に危険です。また、単純な命令であれば理解し、実行することもできます。コートも分厚く防刃、防弾、耐爆が付与されたものを着用しています」

 

 次に表示されたのは、既存のタイラントに関する資料だった。

 

「アンブレラでは、大きく分けて二つのタイプが存在していました」

 

 一体は二メートルほど。

 

「比較的小型で、潜入や特殊任務を想定したタイプ」

 

 続いて、より大きな個体が表示される。

 

「そして、身体能力をさらに強化した戦闘型」

 

 クレアは昨夜確認されたタイラントの写真へ視線を向けた。

 

「今回確認された個体は、おそらく後者に分類されます」

 

 隊長たちの間に緊張が広がる。

 

 クレアはそのまま説明を続けた。

 

「もう一つ、重要な特徴があります」

 

 スクリーンに、異形の姿へ変化したタイラントの映像が映る。

 

「タイラントは生命の危機を感じるほどの損傷を受けると、暴走する場合があります。その際に身体がさらに変化し、より攻撃的な形態へ移行する」

 

 その姿を見た何人かが息を呑んだ。

 

「アンブレラでは、スーパータイラントと呼称されていたようです」

 

 クレアが説明を終えると、再びEU側の指揮官が前へ出た。

 

「以上を踏まえ、今後タイラントと遭遇した場合の対応を通達する」

 

 各部隊の責任者へ視線を向ける。

 

「タイラントを発見した場合、完全に撃破できる準備が整うまでは足止めに徹すること」

 

 ハンクとスティーブが静かに頷いた。

 

「無理に撃破を狙うな。特にスーパータイラントへの変化を避けることを最優先とする」

 

 昨日、ハンクが取った判断そのものだった。

 

 指揮官はさらに資料を切り替える。

 

「それから、避難作戦のために重火器を降ろしていたヘリを再整備した」

 

 スクリーンに三機のヘリが表示された。

 

「重火器を再搭載し、三機をいつでも出せる状態にしてある」

 

 会議室の全員が画面を見つめる。

 

「今後タイラントと遭遇した場合は、必ず無線で報告してくれ。こちらから重武装の支援を送る」

 

 隊長たちが一斉に頷いた。

 

 メインストリート奪還作戦は中止された。

 

 しかし、テラグリジアでの戦闘そのものが終わったわけではない。

 

 むしろ、これまで以上に慎重な対応が必要になっていた。

 

 指揮官はそこで一度言葉を切った。

 

「それから、FBC側から新たな要望が入っている」

 

 スクリーンに、テラグリジアの別の区域が表示された。

 

「第三地区を、我々EU側でも防衛してほしいとのことだ」

 

 地図上の一角が強調される。

 

「第三地区には、避難所として使用されている第三病院がある」

 

 続いて、もう一つの施設へ印が付く。

 

「それに加えて、大学も避難施設として機能している」

 

 ハンクは地図を見つめた。

 

 第三病院。

 

 そして大学。

 

 どちらも、この先守らなければならない場所になる。

 

「派遣する部隊については、これから改めて通達する」

 

 指揮官が続けた。

 

「今後の基本方針は変わらない。各拠点の防衛を維持しながら、生存者の救出と避難民の脱出を続ける」

 

 短い沈黙が流れる。

 

「以上だ。各部隊は指示を待て」

 

 会議はそこで終了した。

 

 隊員たちが席を立つ。

 

 ハンクとスティーブも立ち上がった。

 

 昨夜まで続いていたメインストリートの奪還は失敗した。

 

 タイラントまで各地に現れた。

 

 それでも、やるべきことは変わらない。

 

 拠点を守る。

 

 生存者を救う。

 

 そして、一人でも多くの避難民をテラグリジアから脱出させる。

 

 戦況がどれだけ変わっても、その任務だけは変わらなかった。

 

     ◆

 

 全体会議が終わった。

 

 隊員たちが次々と会議室を出ていく中、ハンク、スティーブの二人が、EU側の指揮官から呼び止められた。

 

「アークの部隊には、新しい任務を頼みたい」

 

 指揮官は机の上へ新しい資料を広げた。

 

「先ほど説明した第三地区の防衛についてだ。アークの部隊を二つに再編成する。一隊は増援部隊を率いて第三地区へ向かってくれ」

 

 地図上で第三地区が示される。

 

 そこには第三病院と大学が記されていた。

 

「第三病院は現在も避難所として使用されている。大学にも避難している市民がいる。どちらも守る必要がある」

 

 ハンクが地図から顔を上げた。

 

「移動手段は?」

 

「第一病院にヘリを用意してある。準備が整い次第、順次移動してくれ」

 

「了解」

 

 ハンクが短く答える。

 

「もう一隊は?」

 

 スティーブが尋ねた。

 

「こちらは本部で待機してもらう。今後、タイラントのような強力なB.O.W.が確認された場合、重武装ヘリによる支援が必要になる可能性がある」

 

「ヘリボーン部隊ってことですね」

 

「ああ。必要になれば、すぐに出動できる状態にしておきたい」

 

 スティーブは頷いた。

 

「分かりました」

 

 指揮官は最後にクレアへ視線を向けた。

 

「増援部隊については、アドバイザーに案内してもらってくれ」

 

「分かったわ」

 

 三人は会議室を出た。

 

 廊下へ出ると、クレアが先頭に立って歩き始める。ハンクとスティーブがその後ろに続いた。

 

「今回の増援、誰が来ているんだ?」

 

 スティーブが尋ねる。

 

「会えば分かるわ」

 

 クレアはそれだけ答えた。

 

 やがて三人は、増援部隊が待機している区画へ到着した。

 

 扉が開く。

 

 そこには、統一された装備を身につけた兵士たちが整然と並んでいた。

 

 その装備を見た瞬間、ハンクの足が止まる。

 

 スティーブも目を見開いた。

 

「……まさか」

 

 クレアが二人の反応を見て、わずかに笑った。

 

「そうよ」

 

 隊列の向こうから、二人の男女が歩いてくる。

 

「久しぶりだな、スティーブ」

 

 先に声を掛けたのはクリスだった。

 

 その隣にはジルがいる。

 

「ハンク、スティーブ。私たちもこの戦いに参加するわ」

 

 ジルが二人へ告げた。

 

 その背後では、BSAAの隊員たちが静かに待機している。

 

 スティーブが思わず笑う。

 

「なるほど。これは頼もしい増援だな」

 

 クリスが肩をすくめる。

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 ハンクはBSAAの隊員たちを一通り見渡した。

 

「第三地区の防衛は、任せられそうだな」

 

「ああ」

 

 クリスが頷いた。

 

「第三病院と大学を中心に守る。避難民にも手を出させない」

 

「頼む」

 

 ハンクの返事は短かった。

 

 クレアも頷く。

 

「これなら、第三地区の防衛にかなり余裕ができるはずよ」

 

 ハンクは地図へ目を落とした。

 

「問題は、その間に別の場所で大型B.O.W.が出た場合だ」

 

「だから、もう一隊を本部に残す」

 

 指揮官の言葉を思い返すように、スティーブが答えた。

 

「重武装ヘリをすぐ動かせるようにしておく」

 

 ハンクが頷く。

 

「俺が本部に残る」

 

「ハンクが?」

 

 スティーブが尋ねる。

 

「ああ。ヘリボーン部隊を指揮する」

 

 ハンクは淡々と続けた。

 

「第三地区は、お前たちに任せる」

 

 スティーブは一瞬だけクリスとジルを見る。

 

 そして頷いた。

 

「分かった」

 

 これで役割が決まった。

 

 第三地区へ向かう部隊。

 

 本部で待機するヘリボーン部隊。

 

 それぞれが別の場所を担当することになる。

 

     ◆

 

 出発の準備が始まった。

 

 第一病院へ向かう隊員たちが装備を確認し、BSAAの隊員たちも武器や通信機器を点検している。

 

 その様子を見ながら、クレアはスティーブのもとへ歩み寄った。

 

「第三地区、頼んだわよ」

 

「ああ。任せてくれ」

 

 スティーブが答える。

 

 クレアは続いてクリスへ向き直った。

 

「兄さん、気をつけてね」

 

「ああ。クレアもな」

 

 二人は短く言葉を交わす。

 

 ほんの一瞬、互いを気遣うように抱擁した。

 

 別れを惜しむ時間は長くない。

 

 すぐにクレアはスティーブへ向き直った。

 

「スティーブも、無茶しないで」

 

「クレアこそ」

 

 スティーブが軽く笑う。

 

「分かってるわ」

 

 クレアも微笑んだ。

 

 最後に、ハンクへ目を向ける。

 

「ハンク、頼んだわよ」

 

「ああ」

 

 ハンクは短く答えた。

 

 クレアは三人へ小さく手を振ると、その場を離れた。

 

「クレアは?」

 

 スティーブが尋ねる。

 

「アーク本社へ戻るそうだ」

 

 ハンクが答えた。

 

「本社から各部署の調整をする」

 

「なるほど」

 

 スティーブが頷く。

 

 クレアにはアークの指揮系統を維持し、各地へ派遣されている部隊や医療班、ワクチンの供給を統括する役割がある。

 

 テラグリジアの外にも、やるべき仕事は残っていた。

 

     ◆

 

 ホテルの外では、ヘリが待機していた。

 

 クレアがアーク本社へ戻るための機体だ。

 

 ローターが回り始める。

 

 クレアが搭乗すると、機体はゆっくりと浮上した。

 

 地上では、第一病院へ向かうスティーブとBSAAの隊員たちが出発準備を進めている。

 

 少し離れた場所では、ハンクが本部に残る隊員たちへ指示を出していた。

 

 それぞれの役割が、はっきりと分かれていく。

 

 クレアは上空から地上を見下ろした。

 

 スティーブたちの姿が小さくなっていく。

 

 やがてホテルも遠ざかり、テラグリジアの街並みが眼下に広がった。

 

 まだ煙が上がっている。

 

 まだ避難できていない人間もいる。

 

 そして、次にどこからB.O.W.が現れるのかも分からない。

 

 ヘリはそのままアーク本社へ向けて飛び去っていった。

 

     ◆

 

 地上では、スティーブがBSAAの隊員たちとともに第一病院へ向かう準備を整えていた。

 

 クリスとジルも、その隊列に加わる。

 

「行くぞ」

 

 クリスが声を掛ける。

 

「了解」

 

 スティーブが答えた。

 

 その先にあるのは第三地区。

 

 第三病院と大学を守り、そこに避難している人々を守る。

 

 一方、ホテルに残ったハンクは、重武装ヘリと待機部隊の準備状況を確認していた。

 

 いずれ大型B.O.W.が再び姿を現す可能性は高い。

 

 その時に備え、即座に動ける戦力を残しておく。

 

 クレアはアーク本社へ。

 

 スティーブはクリス、ジル、BSAAとともに第三地区へ。

 

 ハンクは本部でヘリボーン部隊を率いる。

 

 三人は、それぞれ別の場所へ散っていった。

 

 テラグリジアでの戦いは、まだ終わっていない。

 

 むしろ、これからは市街地の各地を守るため、より広い範囲で戦力を動かす必要があった。

 

   ◆

 

 ホテルを出たスティーブたちは、第一病院へ向かった。

 

 先頭を歩くスティーブの後ろには、クリスとジル、そして第三地区の防衛に参加するBSAAの隊員たちが続いている。出発前の説明は済んでいたものの、実際に現地へ入れば状況が変わる可能性は高い。

 

 テラグリジアの街路を進み、やがて第一病院の建物が見えてきた。

 

 入口付近では、アークの隊員たちが出発準備を進めていた。

 

 その中に、見慣れた二人の姿がある。

 

「いた」

 

 スティーブが足を止める。

 

 シェリーとレディハンクも、こちらに気づいた。

 

「スティーブ?」

 

「二人とも、ちょっといいか」

 

 スティーブが声を掛ける。

 

 シェリーが二人へ近づいてきた。

 

「どうしたの?」

 

「これから俺たちは、BSAAと一緒に第三地区の防衛へ向かうことになった」

 

「第三地区?」

 

 レディハンクが聞き返す。

 

「ああ。第三病院と大学が避難所になっている。そこを守るためだ」

 

 スティーブは一度、後ろへ振り返った。

 

「それと、二人を紹介しておく」

 

 クリスとジルが前へ出る。

 

「クリス・レッドフィールド。そしてジル・バレンタインだ」

 

 シェリーとレディハンクの視線が、二人へ向かった。

 

 スティーブは何気ない顔で続ける。

 

「クリスお義兄様と、ジルお姉様」

 

「誰がお義兄様だ」

 

 クリスが即座に突っ込んだ。

 

 スティーブは肩をすくめる。

 

「細かいことはいいだろ」

 

「細かくないだろ」

 

 クリスが呆れた顔をする。

 

 思わずジルの口元にも笑みが浮かんだ。

 

 その様子を少し離れた場所から見ていたアークの隊員が、小声で仲間へ話しかける。

 

「……あれが噂のS.T.A.R.S.か」

 

 周囲にいた隊員たちも、クリスとジルへ目を向けた。

 

 元U.S.S.の隊員たちにとって、二人の名前は知らないものではない。

 

 ラクーンシティでアンブレラと戦い、生き延びたS.T.A.R.S.隊員。

 

 実際にその実力を目にした者はいなくても、その戦歴を知らない者は少なかった。

 

 スティーブは改めてクリスたちへ向き直る。

 

「こっちはアークの部隊だ」

 

 集まっている隊員たちへ手を向ける。

 

「今回の部隊は若い連中が中心だ」

 

 クリスは隊員たちを見渡した。

 

 ジルも同じように一人ずつ顔を確認する。

 

 確かに若い。

 

 それでも、その顔には戦場を経験した者特有の緊張感があった。

 

 ここまでテラグリジアで生き残り、戦い続けてきた者たちだ。

 

 クリスが短く声を掛ける。

 

「よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします!」

 

 隊員たちから次々と返事が返ってくる。

 

 第三地区へ向かう新たな部隊が、第一病院で合流した。

 

     ◆

 

 ヘリの準備が整うまで、スティーブたちは第一病院で待機することになった。

 

 待機時間を無駄にしないため、スティーブはクリス、ジル、レディハンクを連れて、病院内の一角に用意されたテーブルへ向かった。

 

 広げられた地図には第三地区の道路や施設が細かく記されている。

 

 スティーブが地図の二か所を指で示した。

 

「第三地区には避難所として使われている施設が二つある。第三病院と大学だ」

 

 クリスが身を乗り出して地図を確認する。

 

「それぞれ、EUから守備隊が派遣されている」

 

 スティーブは続けた。

 

「今はFBC側の部隊から引き継いでいるところだ」

 

「俺たちは?」

 

 クリスが尋ねる。

 

「アークとBSAAの合同部隊は遊撃だ」

 

 スティーブは地図上を指でなぞった。

 

「ただ、どこを誰が担当するかは現地を見てから決める。実際に入ってみないと分からないことも多いからな」

 

「分かった」

 

 クリスが頷く。

 

 ジルも静かに地図を見ながら頷いた。

 

 その時、レディハンクが手を挙げる。

 

「はい!」

 

「どうした?」

 

 スティーブが視線を向ける。

 

「BSAAって、今まで何してたの?」

 

 クリスの表情がわずかに曇った。

 

「……テラグリジアの橋の手前で待機していた」

 

 苦いものを飲み込むような声音だった。

 

 ジルも黙ったまま視線を地図へ落とす。

 

 クリスは説明を続けた。

 

「BSAAの代表であるクライヴ・R・オブライエンは、FBCと一緒にオブザーバーとして行動している」

 

 一度言葉を切る。

 

「だが、それ以外の隊員はテラグリジアに入ることができなかった」

 

「どうして?」

 

 レディハンクが首を傾げる。

 

「ワクチンの問題だ」

 

 クリスが答える。

 

「感染の危険があるのに、十分なワクチンを確保できなかった。それで、現地入りを止められていた」

 

 レディハンクが頷く。

 

「それで、昨日の夜になってようやくワクチンが届いた」

 

「今朝になって、やっと現地へ入れた」

 

「なるほど」

 

 レディハンクが納得したように頷く。

 

「それで、ウーズたちについては?」

 

 今度はクリスが少し困ったような顔をした。

 

「正直、ほとんど何も知らない」

 

「何も?」

 

「ああ」

 

 クリスは地図から顔を上げた。

 

「FBC側から、こちらには十分な情報が提供されていない」

 

 ジルも言葉を添える。

 

「BSAAがテラグリジアへ入れなかったこともあって、現地のB.O.W.について詳しい情報を集められていないの」

 

「そっか……」

 

 レディハンクが小さく頷いた。

 

 スティーブは腕を組み、しばらく考えた。

 

 第三地区へ入る以上、敵についての知識がないまま進むわけにはいかない。

 

 アークには、これまで実際に戦ってきたことで蓄積された情報がある。

 

「だったら、一旦みんなを集めて会議したほうがいいか」

 

 スティーブが提案した。

 

「アークの連中が持っている情報もある。今まで遭遇したウーズとB.O.W.について、まとめて伝えよう」

 

「お願いするわ」

 

 ジルが即座に答えた。

 

「俺たちも知っていることは共有する」

 

 クリスも頷く。

 

 スティーブは地図を畳みながら立ち上がった。

 

「じゃあ、ヘリの準備ができる前にやろう」

 

「了解」

 

 クリスとジルが答える。

 

「了解です!」

 

 レディハンクも元気よく頷いた。

 

 第三地区へ向かう前に、アークとBSAAは、それぞれが持つ情報を可能な限り共有することになった。

 

 これまで積み重ねてきた戦闘経験と、これから向かう場所の情報。

 

 少しでも多くを共有しておくことが、生きて戻るための準備になる。

 

 スティーブは病院内を見渡した。

 

 次に始まるのは、戦闘ではない。

 

 敵を知り、仲間をまもるための準備だった。

 

     ◆

 

 シェリーは、少し離れた場所で愛犬と戯れていた。

 

 床にしゃがみ込み、首元へ手を回して撫でてやる。愛犬は気持ちよさそうに目を細め、シェリーの手へ頭を預けていた。

 

 その様子を見つけたレディハンクが、こちらへ歩いてくる。

 

「レディちゃん、会議終わった?」

 

 シェリーが顔を上げる。

 

「ううん。これから全体会議。集合!」

 

「全体会議?」

 

「そう。スティーブがみんなに説明するって」

 

 レディハンクはそう言って、シェリーを促した。

 

 二人は愛犬を連れて会議室へ向かう。

 

 中へ入ると、すでにアークの隊員たちとBSAAの隊員たちが集まり始めていた。互いの組織から来た者同士、まだ馴染みきっていない者もいる。だが、これから同じ任務に就く以上、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 

 やがて全員が揃う。

 

 スティーブは部屋を見渡してから、スクリーンの前へ立った。

 

「まず、テラグリジアで何が起きたのか、俺たちが確認している範囲で説明する」

 

 隊員たちが静かになった。

 

 スティーブが最初の資料を映す。

 

「発端はUAVによるバイオテロだ。上空からウイルスを含んだ液体が散布され、多数の市民が感染した」

 

 スクリーンに、テラグリジアの航空写真が映し出される。

 

「その後、各地でB.O.W.が確認された。ハンターによる襲撃も繰り返され、病院や橋まで襲われている」

 

 次の写真が表示される。

 

「さらに、UAVによるヘリへの攻撃も発生した。病院関係者を乗せたヘリが狙われ、複数の機体が撃墜されている。そのUAVは最終的に海軍によって撃墜された」

 

 続いて、透明化した個体の写真が映った。

 

「そして、透明化するハンター――ファルファレルロも確認された」

 

 何人かのBSAA隊員が身を乗り出す。

 

「この個体による襲撃も、避難の遅れにつながった」

 

 スティーブは一度言葉を切った。

 

 次に、メインストリートの映像を表示する。

 

「その後、EUとFBC、地元警察によるメインストリート奪還作戦が実施された」

 

 画面には、掃討部隊が市街地を進んでいく様子が映っている。

 

「だが、作戦中にタイラントが出現した」

 

 その瞬間、会議室の空気が変わった。

 

「複数のタイラントによる襲撃を受け、作戦は中止された。以降、各部隊は拠点の防衛と生存者の救出を優先している」

 

 スティーブは全員の顔を見渡した。

 

 ここまでは、テラグリジアで何が起きたのかを知るための概要に過ぎない。

 

 問題は、その先だった。

 

「ここからは、タイラントによる襲撃について詳しく説明する。特にFBC側で起きたことだ」

 

 スティーブが地図を切り替える。

 

 スクリーンには、FBCが拠点として使用していた行政本部が映し出された。

 

「まず、FBCが拠点を置いていた行政本部が、タイラント二体とハンターの襲撃を受けた」

 

 隊員たちが画面へ目を向ける。

 

「タイラント一体は撃破された。だが、もう一体は戦闘の途中で撤退し、その後の行方が分かっていない」

 

 次に、別の施設が表示された。

 

「そして、地元警察が拠点としていた警察本部も襲撃を受けた」

 

 施設は傷つき施設周辺にも激しい戦闘の痕跡が残されている。

 

「こちらはタイラント二体、ハンター、そしてファルファレルロが確認されている」

 

 スティーブが続ける。

 

「タイラント二体は、どちらも撃破されたと思われた」

 

 クリスとジルも、黙ってスクリーンを見つめていた。

 

 スティーブは一度息をつく。

 

「だが、問題はその後だ」

 

 映像が切り替わる。

 

 そこに映し出されたのは、通常のタイラントとは明らかに姿の違う巨大な個体だった。

 

 腕は異形へ変化し、身体もさらに膨れ上がっている。

 

「二体とも戦闘中にスーパータイラントへ変化した」

 

 会議室のあちこちから、低いざわめきが起こる。

 

「その結果、地元警察は甚大な被害を受けた」

 

 スティーブは映像を止めた。

 

「この一連の襲撃を受けて、これまでFBCと地元警察が担当していた第三地区の殆どは、EU側が管轄することになった」

 

 地図上の第三地区が強調される。

 

「そこで、今回俺たちアークとBSAAの合同部隊が遊撃部隊として派遣される」

 

 レディハンクが地図へ目を向ける。

 

「第三病院と大学には、別にEUの守備隊が入る。俺たちの任務は、その守備隊だけでは対応しきれない場所へ動くことだ」

 

 スティーブは全員を見渡した。

 

「第三地区で何が起きるかは分からない。だから、今までの情報を頭に入れておいてくれ」

 

 隊員たちの表情が変わる。

 

 単なる説明ではない。

 

 これから自分たちが入る場所で、生き残るために必要な情報だった。

 

「次に、今回新たに確認されたウーズ系の個体と、生物兵器について説明する」

 

 スティーブが画面を切り替えた。

 

 最初に表示されたのは、もっとも多く確認されているウーズだった。

 

「まず、通常のウーズ。特別な能力はないが、数が多い。さらにウーズ系は建物内の狭い場所にも入り込む。ロッカーやダクトのような、人間なら入りにくい場所から奇襲してくる可能性がある」

 

 次の写真。

 

「ピンサー。両手が発達していて、鋭い棘を持っている。近距離では注意してくれ」

 

 続いてトライコーン。

 

「トライコーン。腕から骨を飛ばしてくる。遠距離から攻撃してくるから、遮蔽物がない場所では特に注意が必要だ」

 

 さらに別の写真が映る。

 

「チャンク。攻撃を受けると爆発する。接近してきたら、むやみに撃ち込まないように」

 

 次に映ったのは、水中を進む大型の個体だった。

 

「グロブスター。陸上では動きが鈍いが、水中を泳ぐことができる」

 

 その特徴的な器官を映した写真が続く。

 

「スカルミリオーネ。剣のような器官と盾のような器官を持つ大型個体だ。正面からの攻撃は通りにくい」

 

 さらに別の個体。

 

「スキャグデッド。二つの頭を持つ大型個体で、腕がチェンソーのような形状になっている」

 

 最後に表示されたのは、全身を硬質な甲殻で覆った巨大な個体だった。

 

「そしてドラギナッツォ。これも二つの頭を持つ大型個体だ。ほぼ全身が甲殻に覆われている」

 

 スティーブは最後の資料を切り替える。

 

「それから、通常のハンターも確認されている」

 

 続いて、透明化した個体が表示される。

 

「ファルファレルロ。透明化する能力を持ったハンターだ。視認するのが難しい」

 

 スティーブは隊員たちへ視線を向けた。

 

「EUの部隊では、ファルファレルロを犬や各種センサーや特殊なカメラで探知している。目だけに頼らないようにしてくれ」

 

 資料をまとめる。

 

「詳しい特徴や対処法については、あとで配布する。各自、よく確認しておいてくれ」

 

 スクリーンには、今回確認されたB.O.W.の一覧が並んだ。

 

 アークの隊員たちもBSAAの隊員たちも、黙ってそれを見つめている。

 

 これから向かう第三地区が、どれほど危険な場所なのか。

 

 写真だけでも十分に伝わっていた。

 

   ◆

 

 ヘリの準備が整ったとの連絡が入った。

 

 スティーブは壁の時計へ目を向け、それから会議室に残っていたクリスとジルを見た。

 

「そろそろ行くか」

 

「ああ」

 

 クリスが立ち上がる。

 

 ジルも装備を確認しながら椅子を離れた。

 

 先に移動するレディハンクとシェリー、それにシェリーの愛犬は、すでに搭乗を終えようとしている。

 

 スティーブたちが外へ出ると、ヘリのローターが勢いよく回転していた。

 

「じゃあ、私たちが先に行くね!」

 

 レディハンクが振り返る。

 

「ああ。大学に着いたら、守備隊に話しを聞いておいてくれ」

 

 スティーブが返す。

 

「了解!」

 

 シェリーも頷いた。

 

「向こうで待ってるね」

 

 シェリーが愛犬へ声を掛けると、犬は素直に機内へ入っていった。

 

 二人もそれに続く。

 

「気をつけろよ!」

 

「そっちも!」

 

 シェリーが窓越しに手を振る。

 

 やがてヘリが浮上し、大学方面へ飛び去っていった。

 

 その姿を見送りながら、クリスがぽつりと尋ねる。

 

「シェリー元気にしているようだな?」

 

「ああ、元気いっぱいだ」

 

「そうか」

 

 クリスは僅かに口をほころばす。

 

 ジルも遠ざかっていくヘリを見上げる。

 

「二人ずいぶん若いわね」

 

「若いが、実力はある」

 

 スティーブが答える。

 

 スティーブは近くの通信担当へ目を向けた。

 

「大学と第三病院の守備隊へ、後続の遊撃部隊が向かうと伝えてくれ」

 

「了解です」

 

 隊員が通信を始める。

 

 クリスはその横で、自分の装備を確認した。

 

「現地の状況を確認してから動く。それでいいわね」

 

「それでいい」

 

 スティーブが地図を閉じる。

 

「第三病院と大学は守備隊が担当している。俺たちは遊撃だ。必要な場所が出たら、そこへ回る」

 

 クリスが肩に武器を掛ける。

 

「了解した」

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 ジルがヘリの方へ歩き出す。

 

 スティーブとクリスも続いた。

 

 遠ざかる先行便の向こうには、第三地区の市街地が広がっている。

 

 そこに何が待っているのかは分からない。

 

 ただ、今度はアークとBSAAが同じ部隊として動く。

 

 それぞれ別の経験を持つ者たちが、同じ場所で同じ人間を守るために戦うことになる。

 

 後続のヘリが、ゆっくりと上昇を始めた。

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