アーク製薬会社 作:ai試し2
翌日。
前日から続いていた混乱は、まだ完全に収まってはいない。それでも、EU本部として使用されているホテルの会議室には、各部隊の隊長や指揮官が集められていた。
ハンクとスティーブも、その中にいる。
誰の顔にも疲労が残っていた。メインストリートでの戦闘は、それほど激しかった。タイラントの出現によって各地の状況が一変し、負傷者の搬送や部隊の再配置まで重なっている。
やがて、EU側の指揮官が壇上へ立った。
「まず、メインストリート奪還作戦は中止になった」
室内から話し声が消える。
指揮官の背後に映し出されたスクリーンへ、昨夜の被害状況が表示された。
「昨夜の戦闘によって、作戦を継続できる状況ではなくなった」
最初に表示されたのは、FBC側の区域だった。
「FBC側では、特に警察本部が大規模な襲撃を受けた。タイラント二体、ハンター、さらにファルファレルロまで確認され、大きな損害が出ている」
ハンクは黙って映像を見ていた。
「タイラント二体については、すでに撃破されている」
画面が切り替わる。
続いて表示されたのは、行政本部周辺の記録だった。
「行政本部側も襲撃を受けた。こちらではタイラント二体とハンターが確認されている」
指揮官が淡々と説明を続ける。
「タイラント一体は撃破済み。もう一体は戦闘の途中で撤退した」
会議室に重い沈黙が落ちた。
さらに別の映像が表示された。
警察本部で撮影されたものらしい。
そこには、巨大な生物が街路を破壊しながら進む姿が映っていた。
人間に似た形をしている。
しかし、人間とは比較にならない巨体。
そして、異様に発達した腕。
「……なんだ、あれは」
隊長の一人が思わず呟いた。
その声を聞いたクレアが席を立つ。
今回の説明にはアドバイザーからの説明が必要だった。
「この生物兵器はタイラント。かつてアンブレラが開発したものです」
会議室の視線が一斉にクレアへ集まる。
クレアはスクリーンへ資料を表示した。
「高い筋力と防御力を持ち、通常の人間が単独で相手にするのは非常に危険です。また、単純な命令であれば理解し、実行することもできます。コートも分厚く防刃、防弾、耐爆が付与されたものを着用しています」
次に表示されたのは、既存のタイラントに関する資料だった。
「アンブレラでは、大きく分けて二つのタイプが存在していました」
一体は二メートルほど。
「比較的小型で、潜入や特殊任務を想定したタイプ」
続いて、より大きな個体が表示される。
「そして、身体能力をさらに強化した戦闘型」
クレアは昨夜確認されたタイラントの写真へ視線を向けた。
「今回確認された個体は、おそらく後者に分類されます」
隊長たちの間に緊張が広がる。
クレアはそのまま説明を続けた。
「もう一つ、重要な特徴があります」
スクリーンに、異形の姿へ変化したタイラントの映像が映る。
「タイラントは生命の危機を感じるほどの損傷を受けると、暴走する場合があります。その際に身体がさらに変化し、より攻撃的な形態へ移行する」
その姿を見た何人かが息を呑んだ。
「アンブレラでは、スーパータイラントと呼称されていたようです」
クレアが説明を終えると、再びEU側の指揮官が前へ出た。
「以上を踏まえ、今後タイラントと遭遇した場合の対応を通達する」
各部隊の責任者へ視線を向ける。
「タイラントを発見した場合、完全に撃破できる準備が整うまでは足止めに徹すること」
ハンクとスティーブが静かに頷いた。
「無理に撃破を狙うな。特にスーパータイラントへの変化を避けることを最優先とする」
昨日、ハンクが取った判断そのものだった。
指揮官はさらに資料を切り替える。
「それから、避難作戦のために重火器を降ろしていたヘリを再整備した」
スクリーンに三機のヘリが表示された。
「重火器を再搭載し、三機をいつでも出せる状態にしてある」
会議室の全員が画面を見つめる。
「今後タイラントと遭遇した場合は、必ず無線で報告してくれ。こちらから重武装の支援を送る」
隊長たちが一斉に頷いた。
メインストリート奪還作戦は中止された。
しかし、テラグリジアでの戦闘そのものが終わったわけではない。
むしろ、これまで以上に慎重な対応が必要になっていた。
指揮官はそこで一度言葉を切った。
「それから、FBC側から新たな要望が入っている」
スクリーンに、テラグリジアの別の区域が表示された。
「第三地区を、我々EU側でも防衛してほしいとのことだ」
地図上の一角が強調される。
「第三地区には、避難所として使用されている第三病院がある」
続いて、もう一つの施設へ印が付く。
「それに加えて、大学も避難施設として機能している」
ハンクは地図を見つめた。
第三病院。
そして大学。
どちらも、この先守らなければならない場所になる。
「派遣する部隊については、これから改めて通達する」
指揮官が続けた。
「今後の基本方針は変わらない。各拠点の防衛を維持しながら、生存者の救出と避難民の脱出を続ける」
短い沈黙が流れる。
「以上だ。各部隊は指示を待て」
会議はそこで終了した。
隊員たちが席を立つ。
ハンクとスティーブも立ち上がった。
昨夜まで続いていたメインストリートの奪還は失敗した。
タイラントまで各地に現れた。
それでも、やるべきことは変わらない。
拠点を守る。
生存者を救う。
そして、一人でも多くの避難民をテラグリジアから脱出させる。
戦況がどれだけ変わっても、その任務だけは変わらなかった。
◆
全体会議が終わった。
隊員たちが次々と会議室を出ていく中、ハンク、スティーブの二人が、EU側の指揮官から呼び止められた。
「アークの部隊には、新しい任務を頼みたい」
指揮官は机の上へ新しい資料を広げた。
「先ほど説明した第三地区の防衛についてだ。アークの部隊を二つに再編成する。一隊は増援部隊を率いて第三地区へ向かってくれ」
地図上で第三地区が示される。
そこには第三病院と大学が記されていた。
「第三病院は現在も避難所として使用されている。大学にも避難している市民がいる。どちらも守る必要がある」
ハンクが地図から顔を上げた。
「移動手段は?」
「第一病院にヘリを用意してある。準備が整い次第、順次移動してくれ」
「了解」
ハンクが短く答える。
「もう一隊は?」
スティーブが尋ねた。
「こちらは本部で待機してもらう。今後、タイラントのような強力なB.O.W.が確認された場合、重武装ヘリによる支援が必要になる可能性がある」
「ヘリボーン部隊ってことですね」
「ああ。必要になれば、すぐに出動できる状態にしておきたい」
スティーブは頷いた。
「分かりました」
指揮官は最後にクレアへ視線を向けた。
「増援部隊については、アドバイザーに案内してもらってくれ」
「分かったわ」
三人は会議室を出た。
廊下へ出ると、クレアが先頭に立って歩き始める。ハンクとスティーブがその後ろに続いた。
「今回の増援、誰が来ているんだ?」
スティーブが尋ねる。
「会えば分かるわ」
クレアはそれだけ答えた。
やがて三人は、増援部隊が待機している区画へ到着した。
扉が開く。
そこには、統一された装備を身につけた兵士たちが整然と並んでいた。
その装備を見た瞬間、ハンクの足が止まる。
スティーブも目を見開いた。
「……まさか」
クレアが二人の反応を見て、わずかに笑った。
「そうよ」
隊列の向こうから、二人の男女が歩いてくる。
「久しぶりだな、スティーブ」
先に声を掛けたのはクリスだった。
その隣にはジルがいる。
「ハンク、スティーブ。私たちもこの戦いに参加するわ」
ジルが二人へ告げた。
その背後では、BSAAの隊員たちが静かに待機している。
スティーブが思わず笑う。
「なるほど。これは頼もしい増援だな」
クリスが肩をすくめる。
「そう言ってもらえると助かる」
ハンクはBSAAの隊員たちを一通り見渡した。
「第三地区の防衛は、任せられそうだな」
「ああ」
クリスが頷いた。
「第三病院と大学を中心に守る。避難民にも手を出させない」
「頼む」
ハンクの返事は短かった。
クレアも頷く。
「これなら、第三地区の防衛にかなり余裕ができるはずよ」
ハンクは地図へ目を落とした。
「問題は、その間に別の場所で大型B.O.W.が出た場合だ」
「だから、もう一隊を本部に残す」
指揮官の言葉を思い返すように、スティーブが答えた。
「重武装ヘリをすぐ動かせるようにしておく」
ハンクが頷く。
「俺が本部に残る」
「ハンクが?」
スティーブが尋ねる。
「ああ。ヘリボーン部隊を指揮する」
ハンクは淡々と続けた。
「第三地区は、お前たちに任せる」
スティーブは一瞬だけクリスとジルを見る。
そして頷いた。
「分かった」
これで役割が決まった。
第三地区へ向かう部隊。
本部で待機するヘリボーン部隊。
それぞれが別の場所を担当することになる。
◆
出発の準備が始まった。
第一病院へ向かう隊員たちが装備を確認し、BSAAの隊員たちも武器や通信機器を点検している。
その様子を見ながら、クレアはスティーブのもとへ歩み寄った。
「第三地区、頼んだわよ」
「ああ。任せてくれ」
スティーブが答える。
クレアは続いてクリスへ向き直った。
「兄さん、気をつけてね」
「ああ。クレアもな」
二人は短く言葉を交わす。
ほんの一瞬、互いを気遣うように抱擁した。
別れを惜しむ時間は長くない。
すぐにクレアはスティーブへ向き直った。
「スティーブも、無茶しないで」
「クレアこそ」
スティーブが軽く笑う。
「分かってるわ」
クレアも微笑んだ。
最後に、ハンクへ目を向ける。
「ハンク、頼んだわよ」
「ああ」
ハンクは短く答えた。
クレアは三人へ小さく手を振ると、その場を離れた。
「クレアは?」
スティーブが尋ねる。
「アーク本社へ戻るそうだ」
ハンクが答えた。
「本社から各部署の調整をする」
「なるほど」
スティーブが頷く。
クレアにはアークの指揮系統を維持し、各地へ派遣されている部隊や医療班、ワクチンの供給を統括する役割がある。
テラグリジアの外にも、やるべき仕事は残っていた。
◆
ホテルの外では、ヘリが待機していた。
クレアがアーク本社へ戻るための機体だ。
ローターが回り始める。
クレアが搭乗すると、機体はゆっくりと浮上した。
地上では、第一病院へ向かうスティーブとBSAAの隊員たちが出発準備を進めている。
少し離れた場所では、ハンクが本部に残る隊員たちへ指示を出していた。
それぞれの役割が、はっきりと分かれていく。
クレアは上空から地上を見下ろした。
スティーブたちの姿が小さくなっていく。
やがてホテルも遠ざかり、テラグリジアの街並みが眼下に広がった。
まだ煙が上がっている。
まだ避難できていない人間もいる。
そして、次にどこからB.O.W.が現れるのかも分からない。
ヘリはそのままアーク本社へ向けて飛び去っていった。
◆
地上では、スティーブがBSAAの隊員たちとともに第一病院へ向かう準備を整えていた。
クリスとジルも、その隊列に加わる。
「行くぞ」
クリスが声を掛ける。
「了解」
スティーブが答えた。
その先にあるのは第三地区。
第三病院と大学を守り、そこに避難している人々を守る。
一方、ホテルに残ったハンクは、重武装ヘリと待機部隊の準備状況を確認していた。
いずれ大型B.O.W.が再び姿を現す可能性は高い。
その時に備え、即座に動ける戦力を残しておく。
クレアはアーク本社へ。
スティーブはクリス、ジル、BSAAとともに第三地区へ。
ハンクは本部でヘリボーン部隊を率いる。
三人は、それぞれ別の場所へ散っていった。
テラグリジアでの戦いは、まだ終わっていない。
むしろ、これからは市街地の各地を守るため、より広い範囲で戦力を動かす必要があった。
◆
ホテルを出たスティーブたちは、第一病院へ向かった。
先頭を歩くスティーブの後ろには、クリスとジル、そして第三地区の防衛に参加するBSAAの隊員たちが続いている。出発前の説明は済んでいたものの、実際に現地へ入れば状況が変わる可能性は高い。
テラグリジアの街路を進み、やがて第一病院の建物が見えてきた。
入口付近では、アークの隊員たちが出発準備を進めていた。
その中に、見慣れた二人の姿がある。
「いた」
スティーブが足を止める。
シェリーとレディハンクも、こちらに気づいた。
「スティーブ?」
「二人とも、ちょっといいか」
スティーブが声を掛ける。
シェリーが二人へ近づいてきた。
「どうしたの?」
「これから俺たちは、BSAAと一緒に第三地区の防衛へ向かうことになった」
「第三地区?」
レディハンクが聞き返す。
「ああ。第三病院と大学が避難所になっている。そこを守るためだ」
スティーブは一度、後ろへ振り返った。
「それと、二人を紹介しておく」
クリスとジルが前へ出る。
「クリス・レッドフィールド。そしてジル・バレンタインだ」
シェリーとレディハンクの視線が、二人へ向かった。
スティーブは何気ない顔で続ける。
「クリスお義兄様と、ジルお姉様」
「誰がお義兄様だ」
クリスが即座に突っ込んだ。
スティーブは肩をすくめる。
「細かいことはいいだろ」
「細かくないだろ」
クリスが呆れた顔をする。
思わずジルの口元にも笑みが浮かんだ。
その様子を少し離れた場所から見ていたアークの隊員が、小声で仲間へ話しかける。
「……あれが噂のS.T.A.R.S.か」
周囲にいた隊員たちも、クリスとジルへ目を向けた。
元U.S.S.の隊員たちにとって、二人の名前は知らないものではない。
ラクーンシティでアンブレラと戦い、生き延びたS.T.A.R.S.隊員。
実際にその実力を目にした者はいなくても、その戦歴を知らない者は少なかった。
スティーブは改めてクリスたちへ向き直る。
「こっちはアークの部隊だ」
集まっている隊員たちへ手を向ける。
「今回の部隊は若い連中が中心だ」
クリスは隊員たちを見渡した。
ジルも同じように一人ずつ顔を確認する。
確かに若い。
それでも、その顔には戦場を経験した者特有の緊張感があった。
ここまでテラグリジアで生き残り、戦い続けてきた者たちだ。
クリスが短く声を掛ける。
「よろしく頼む」
「よろしくお願いします!」
隊員たちから次々と返事が返ってくる。
第三地区へ向かう新たな部隊が、第一病院で合流した。
◆
ヘリの準備が整うまで、スティーブたちは第一病院で待機することになった。
待機時間を無駄にしないため、スティーブはクリス、ジル、レディハンクを連れて、病院内の一角に用意されたテーブルへ向かった。
広げられた地図には第三地区の道路や施設が細かく記されている。
スティーブが地図の二か所を指で示した。
「第三地区には避難所として使われている施設が二つある。第三病院と大学だ」
クリスが身を乗り出して地図を確認する。
「それぞれ、EUから守備隊が派遣されている」
スティーブは続けた。
「今はFBC側の部隊から引き継いでいるところだ」
「俺たちは?」
クリスが尋ねる。
「アークとBSAAの合同部隊は遊撃だ」
スティーブは地図上を指でなぞった。
「ただ、どこを誰が担当するかは現地を見てから決める。実際に入ってみないと分からないことも多いからな」
「分かった」
クリスが頷く。
ジルも静かに地図を見ながら頷いた。
その時、レディハンクが手を挙げる。
「はい!」
「どうした?」
スティーブが視線を向ける。
「BSAAって、今まで何してたの?」
クリスの表情がわずかに曇った。
「……テラグリジアの橋の手前で待機していた」
苦いものを飲み込むような声音だった。
ジルも黙ったまま視線を地図へ落とす。
クリスは説明を続けた。
「BSAAの代表であるクライヴ・R・オブライエンは、FBCと一緒にオブザーバーとして行動している」
一度言葉を切る。
「だが、それ以外の隊員はテラグリジアに入ることができなかった」
「どうして?」
レディハンクが首を傾げる。
「ワクチンの問題だ」
クリスが答える。
「感染の危険があるのに、十分なワクチンを確保できなかった。それで、現地入りを止められていた」
レディハンクが頷く。
「それで、昨日の夜になってようやくワクチンが届いた」
「今朝になって、やっと現地へ入れた」
「なるほど」
レディハンクが納得したように頷く。
「それで、ウーズたちについては?」
今度はクリスが少し困ったような顔をした。
「正直、ほとんど何も知らない」
「何も?」
「ああ」
クリスは地図から顔を上げた。
「FBC側から、こちらには十分な情報が提供されていない」
ジルも言葉を添える。
「BSAAがテラグリジアへ入れなかったこともあって、現地のB.O.W.について詳しい情報を集められていないの」
「そっか……」
レディハンクが小さく頷いた。
スティーブは腕を組み、しばらく考えた。
第三地区へ入る以上、敵についての知識がないまま進むわけにはいかない。
アークには、これまで実際に戦ってきたことで蓄積された情報がある。
「だったら、一旦みんなを集めて会議したほうがいいか」
スティーブが提案した。
「アークの連中が持っている情報もある。今まで遭遇したウーズとB.O.W.について、まとめて伝えよう」
「お願いするわ」
ジルが即座に答えた。
「俺たちも知っていることは共有する」
クリスも頷く。
スティーブは地図を畳みながら立ち上がった。
「じゃあ、ヘリの準備ができる前にやろう」
「了解」
クリスとジルが答える。
「了解です!」
レディハンクも元気よく頷いた。
第三地区へ向かう前に、アークとBSAAは、それぞれが持つ情報を可能な限り共有することになった。
これまで積み重ねてきた戦闘経験と、これから向かう場所の情報。
少しでも多くを共有しておくことが、生きて戻るための準備になる。
スティーブは病院内を見渡した。
次に始まるのは、戦闘ではない。
敵を知り、仲間をまもるための準備だった。
◆
シェリーは、少し離れた場所で愛犬と戯れていた。
床にしゃがみ込み、首元へ手を回して撫でてやる。愛犬は気持ちよさそうに目を細め、シェリーの手へ頭を預けていた。
その様子を見つけたレディハンクが、こちらへ歩いてくる。
「レディちゃん、会議終わった?」
シェリーが顔を上げる。
「ううん。これから全体会議。集合!」
「全体会議?」
「そう。スティーブがみんなに説明するって」
レディハンクはそう言って、シェリーを促した。
二人は愛犬を連れて会議室へ向かう。
中へ入ると、すでにアークの隊員たちとBSAAの隊員たちが集まり始めていた。互いの組織から来た者同士、まだ馴染みきっていない者もいる。だが、これから同じ任務に就く以上、そんなことを気にしている余裕はなかった。
やがて全員が揃う。
スティーブは部屋を見渡してから、スクリーンの前へ立った。
「まず、テラグリジアで何が起きたのか、俺たちが確認している範囲で説明する」
隊員たちが静かになった。
スティーブが最初の資料を映す。
「発端はUAVによるバイオテロだ。上空からウイルスを含んだ液体が散布され、多数の市民が感染した」
スクリーンに、テラグリジアの航空写真が映し出される。
「その後、各地でB.O.W.が確認された。ハンターによる襲撃も繰り返され、病院や橋まで襲われている」
次の写真が表示される。
「さらに、UAVによるヘリへの攻撃も発生した。病院関係者を乗せたヘリが狙われ、複数の機体が撃墜されている。そのUAVは最終的に海軍によって撃墜された」
続いて、透明化した個体の写真が映った。
「そして、透明化するハンター――ファルファレルロも確認された」
何人かのBSAA隊員が身を乗り出す。
「この個体による襲撃も、避難の遅れにつながった」
スティーブは一度言葉を切った。
次に、メインストリートの映像を表示する。
「その後、EUとFBC、地元警察によるメインストリート奪還作戦が実施された」
画面には、掃討部隊が市街地を進んでいく様子が映っている。
「だが、作戦中にタイラントが出現した」
その瞬間、会議室の空気が変わった。
「複数のタイラントによる襲撃を受け、作戦は中止された。以降、各部隊は拠点の防衛と生存者の救出を優先している」
スティーブは全員の顔を見渡した。
ここまでは、テラグリジアで何が起きたのかを知るための概要に過ぎない。
問題は、その先だった。
「ここからは、タイラントによる襲撃について詳しく説明する。特にFBC側で起きたことだ」
スティーブが地図を切り替える。
スクリーンには、FBCが拠点として使用していた行政本部が映し出された。
「まず、FBCが拠点を置いていた行政本部が、タイラント二体とハンターの襲撃を受けた」
隊員たちが画面へ目を向ける。
「タイラント一体は撃破された。だが、もう一体は戦闘の途中で撤退し、その後の行方が分かっていない」
次に、別の施設が表示された。
「そして、地元警察が拠点としていた警察本部も襲撃を受けた」
施設は傷つき施設周辺にも激しい戦闘の痕跡が残されている。
「こちらはタイラント二体、ハンター、そしてファルファレルロが確認されている」
スティーブが続ける。
「タイラント二体は、どちらも撃破されたと思われた」
クリスとジルも、黙ってスクリーンを見つめていた。
スティーブは一度息をつく。
「だが、問題はその後だ」
映像が切り替わる。
そこに映し出されたのは、通常のタイラントとは明らかに姿の違う巨大な個体だった。
腕は異形へ変化し、身体もさらに膨れ上がっている。
「二体とも戦闘中にスーパータイラントへ変化した」
会議室のあちこちから、低いざわめきが起こる。
「その結果、地元警察は甚大な被害を受けた」
スティーブは映像を止めた。
「この一連の襲撃を受けて、これまでFBCと地元警察が担当していた第三地区の殆どは、EU側が管轄することになった」
地図上の第三地区が強調される。
「そこで、今回俺たちアークとBSAAの合同部隊が遊撃部隊として派遣される」
レディハンクが地図へ目を向ける。
「第三病院と大学には、別にEUの守備隊が入る。俺たちの任務は、その守備隊だけでは対応しきれない場所へ動くことだ」
スティーブは全員を見渡した。
「第三地区で何が起きるかは分からない。だから、今までの情報を頭に入れておいてくれ」
隊員たちの表情が変わる。
単なる説明ではない。
これから自分たちが入る場所で、生き残るために必要な情報だった。
「次に、今回新たに確認されたウーズ系の個体と、生物兵器について説明する」
スティーブが画面を切り替えた。
最初に表示されたのは、もっとも多く確認されているウーズだった。
「まず、通常のウーズ。特別な能力はないが、数が多い。さらにウーズ系は建物内の狭い場所にも入り込む。ロッカーやダクトのような、人間なら入りにくい場所から奇襲してくる可能性がある」
次の写真。
「ピンサー。両手が発達していて、鋭い棘を持っている。近距離では注意してくれ」
続いてトライコーン。
「トライコーン。腕から骨を飛ばしてくる。遠距離から攻撃してくるから、遮蔽物がない場所では特に注意が必要だ」
さらに別の写真が映る。
「チャンク。攻撃を受けると爆発する。接近してきたら、むやみに撃ち込まないように」
次に映ったのは、水中を進む大型の個体だった。
「グロブスター。陸上では動きが鈍いが、水中を泳ぐことができる」
その特徴的な器官を映した写真が続く。
「スカルミリオーネ。剣のような器官と盾のような器官を持つ大型個体だ。正面からの攻撃は通りにくい」
さらに別の個体。
「スキャグデッド。二つの頭を持つ大型個体で、腕がチェンソーのような形状になっている」
最後に表示されたのは、全身を硬質な甲殻で覆った巨大な個体だった。
「そしてドラギナッツォ。これも二つの頭を持つ大型個体だ。ほぼ全身が甲殻に覆われている」
スティーブは最後の資料を切り替える。
「それから、通常のハンターも確認されている」
続いて、透明化した個体が表示される。
「ファルファレルロ。透明化する能力を持ったハンターだ。視認するのが難しい」
スティーブは隊員たちへ視線を向けた。
「EUの部隊では、ファルファレルロを犬や各種センサーや特殊なカメラで探知している。目だけに頼らないようにしてくれ」
資料をまとめる。
「詳しい特徴や対処法については、あとで配布する。各自、よく確認しておいてくれ」
スクリーンには、今回確認されたB.O.W.の一覧が並んだ。
アークの隊員たちもBSAAの隊員たちも、黙ってそれを見つめている。
これから向かう第三地区が、どれほど危険な場所なのか。
写真だけでも十分に伝わっていた。
◆
ヘリの準備が整ったとの連絡が入った。
スティーブは壁の時計へ目を向け、それから会議室に残っていたクリスとジルを見た。
「そろそろ行くか」
「ああ」
クリスが立ち上がる。
ジルも装備を確認しながら椅子を離れた。
先に移動するレディハンクとシェリー、それにシェリーの愛犬は、すでに搭乗を終えようとしている。
スティーブたちが外へ出ると、ヘリのローターが勢いよく回転していた。
「じゃあ、私たちが先に行くね!」
レディハンクが振り返る。
「ああ。大学に着いたら、守備隊に話しを聞いておいてくれ」
スティーブが返す。
「了解!」
シェリーも頷いた。
「向こうで待ってるね」
シェリーが愛犬へ声を掛けると、犬は素直に機内へ入っていった。
二人もそれに続く。
「気をつけろよ!」
「そっちも!」
シェリーが窓越しに手を振る。
やがてヘリが浮上し、大学方面へ飛び去っていった。
その姿を見送りながら、クリスがぽつりと尋ねる。
「シェリー元気にしているようだな?」
「ああ、元気いっぱいだ」
「そうか」
クリスは僅かに口をほころばす。
ジルも遠ざかっていくヘリを見上げる。
「二人ずいぶん若いわね」
「若いが、実力はある」
スティーブが答える。
スティーブは近くの通信担当へ目を向けた。
「大学と第三病院の守備隊へ、後続の遊撃部隊が向かうと伝えてくれ」
「了解です」
隊員が通信を始める。
クリスはその横で、自分の装備を確認した。
「現地の状況を確認してから動く。それでいいわね」
「それでいい」
スティーブが地図を閉じる。
「第三病院と大学は守備隊が担当している。俺たちは遊撃だ。必要な場所が出たら、そこへ回る」
クリスが肩に武器を掛ける。
「了解した」
「じゃあ、行きましょう」
ジルがヘリの方へ歩き出す。
スティーブとクリスも続いた。
遠ざかる先行便の向こうには、第三地区の市街地が広がっている。
そこに何が待っているのかは分からない。
ただ、今度はアークとBSAAが同じ部隊として動く。
それぞれ別の経験を持つ者たちが、同じ場所で同じ人間を守るために戦うことになる。
後続のヘリが、ゆっくりと上昇を始めた。