アーク製薬会社   作:ai試し2

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15話 実地演習

 ヘリが大学の敷地内へ降り立った。

 

 ローターの回転が弱まり、機体の周囲を舞っていた砂埃が少しずつ収まっていく。スティーブたちが地上へ降りると、先に到着していたレディハンクがすぐに駆け寄ってきた。

 

「だめでした!」

 

 挨拶より先に告げられた言葉に、スティーブが眉を上げる。

 

「どうした?」

 

「大学の守備隊に話を聞こうとしたんだけど、みんな忙しいみたいで相手にしてもらえなかった」

 

「そうか」

 

 スティーブは苦笑した。

 

 周囲を見れば、その理由も分かる。大学の敷地内には避難民がまだ多く、EUの隊員たちは誘導や警戒、通信対応に追われている。今の状況では、外部から来た部隊へ時間を割く余裕もないのだろう。

 

 レディハンクはさほど気にしていないようだった。

 

「とりあえず、シェリーと二人で大学の周りを一周してくる」

 

「分かった。ただし、無理はするなよ」

 

「はーい!」

 

 元気よく返事をすると、レディハンクはシェリーと愛犬を連れて歩き出した。

 

 スティーブは手を上げ、その背中を見送る。

 

 そこへクリスとジルが近づいてきた。

 

「どうした?」

 

 クリスが尋ねる。

 

「レディハンクとシェリーが守備隊に話を聞こうとしたんだが、忙しくて相手にしてもらえなかったらしい」

 

「今の状況なら仕方ないな」

 

 クリスが大学の建物へ目を向ける。

 

 ジルも周囲の様子を確認した。

 

「それなら、私たちが直接隊長に話を聞いたほうが早そうね」

 

「ああ」

 

 三人は顔を見合わせ、大学の防衛を担当するEU部隊の指揮所へ向かった。

 

     ◆

 

 指揮所へ入ると、外から見た以上の慌ただしさが待っていた。

 

 通信機の前に座っている隊員。

 

 地図へ書き込みを続ける隊員。

 

 避難民の人数を確認し、別の区画へ連絡している隊員。

 

 誰もが手を止めることなく動いている。

 

「守備隊長はいるか?」

 

 スティーブが声を掛ける。

 

 近くにいた隊員が振り向いた。

 

「ああ。何か?」

 

「第三地区の状況を確認したい。大学周辺について分かっていることを教えてほしい」

 

 隊長は一瞬、手元の資料へ目を落とした。

 

「すまない。こちらも、まだ全体を把握できていないんだ」

 

「構わない。分かっている範囲でいい」

 

 スティーブが答える。

 

 隊長は少し考え、それから一人の男性警察官を呼び寄せた。

 

「代わりに彼から聞いてくれ。志願してここへ残っている現地警察の人間だ」

 

 警察官が三人へ軽く頭を下げる。

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

 スティーブはクリスとジルを連れ、指揮所の一角にある空き部屋へ移動した。

 

 警察官がテーブルの上へ地図を広げる。

 

「まず、大学は完全に孤立しています」

 

 指で大学を囲む道路を示す。

 

「第三病院も同じです。現在、どちらも周辺の道路が使えません」

 

 スティーブが地図を覗き込む。

 

「中央の行政本部とは?」

 

「陸路では繋がっていません」

 

 警察官は別の場所へ指を移した。

 

「それから、現在は中止されていますが、港からの脱出作戦で使う予定だった港への道路も、すでに放棄されています」

 

「つまり、ここから陸路で移動できる場所はかなり限られている」

 

「はい」

 

 警察官が頷く。

 

 クリスは地図の道路網を見ながら尋ねた。

 

「ハンターは?」

 

「メインストリート奪還作戦以降、こちらでは目撃情報がありません」

 

「ファルファレルロは?」

 

「それも今のところありません」

 

 ジルが確認するように続ける。

 

「ウーズ系は?」

 

「大学と病院両方の周辺からは掃討されています。港でスカルミリオーネが目撃されましたが撃破済みです」

 

 スティーブは頷いた。

 

「助かった。ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

 三人は部屋を出る。

 

 指揮所の外では、先ほどと変わらず隊員たちが動き続けていた。

 

 大学も第三病院も孤立している。

 

 そして、敵の動向も完全には掴めていない。

 

 第三地区へ入った以上、この情報だけで満足するわけにはいかなかった。

 

 スティーブは指揮所を出る前に、守備隊長へ振り返る。

 

「そういえば、俺たち遊撃部隊への指示は本部から来ているか?」

 

「いや。今のところ何もない」

 

「分かった」

 

 スティーブは少し考えた。

 

「この付近の航空写真はあるか?」

 

「航空写真?」

 

「できれば新しいものがいい」

 

 隊長は近くの隊員へ確認する。

 

 しばらくして、返事があった。

 

「一時間ほど前に撮影されたものならある」

 

「それを見せてもらえるか?」

 

「ああ。持ってこさせよう」

 

 ほどなくして、数枚の航空写真が届けられた。

 

 スティーブは受け取った写真へ目を落とす。

 

「ありがとう。もう一つ、大学周辺の詳細な地図も借りたい」

 

「分かった」

 

 地図が用意される。

 

 スティーブはそれらをまとめ、クリスとジルを連れて再び空いている部屋へ戻った。

 

 机の上へ航空写真を広げる。

 

 大学を中心として、周囲の道路や建物が細かく写っている。

 

「本部から、俺たち遊撃部隊への具体的な命令はまだない」

 

 クリスとジルが頷く。

 

「だったら、こっちから動こうと思う」

 

 スティーブは大学と第三病院を指で示した。

 

「大学と第三病院の間を、徒歩で通れるようにしたい」

 

「連絡路を作るのね」

 

 ジルが尋ねる。

 

「ああ。道路なら周囲を見渡しやすい。それに、建物の中へ入るよりB.O.W.への対応もしやすい」

 

 スティーブは航空写真へ目を落とした。

 

「それにBSAAの連中にも、実際にウーズたちと戦ってもらったほうがいい」

 

 クリスが写真を確認する。

 

「アークのほうが、この街での戦闘経験は多い」

 

「だから、一緒に動く」

 

 スティーブが答える。

 

「現地のB.O.W.がどういう相手なのか、直接覚えてもらったほうが早い」

 

「分かった」

 

 クリスが頷く。

 

 ジルも写真へ視線を落とした。

 

「どの道路を使う?」

 

「そこを今から決める」

 

 スティーブは二人へ条件を伝えた。

 

「放置車両が少ない道。できるだけ道幅が広くて、なるべく曲がっていない場所を探してくれ」

 

「了解」

 

 三人で航空写真と地図を照らし合わせる。

 

 何本かの候補が浮かんだ。

 

「ここは?」

 

 ジルが一本の道路を指した。

 

 スティーブは航空写真と見比べる。

 

「そこは駄目だ」

 

「どうして?」

 

「大きなビルに繋がっている」

 

 スティーブは写真の奥を指差した。

 

「テラグリジアでは、大きなビルは避けたほうがいい。外壁を上ってきたハンターに襲撃されて、中にいた連中が全滅している場所が多い」

 

 クリスの表情が変わる。

 

「ハンターが建物内に入り込んでいるのか」

 

「ああ」

 

 スティーブは写真の別の建物を示す。

 

「窓ガラスが割れていたら警戒したほうがいい。ハンターが入った跡かもしれない」

 

 ジルが写真へ目を落とす。

 

「FBC側でも同じ状況なのか、あとで確認してみよう」

 

「ああ」

 

 三人はその道路を候補から外した。

 

 今度はクリスが別の道路を指差す。

 

「ここは?」

 

 スティーブとジルが身を寄せて写真を見る。

 

 道幅は十分にある。

 

 路上に放置された車両も少ない。

 

 大きな建物へ直接繋がっているわけでもない。

 

 スティーブが頷く。

 

「……ここなら使えそうだな」

 

「こっちは?」

 

 ジルがさらに別の道路を示す。

 

 三人で確認する。

 

「こっちも悪くない」

 

 スティーブは二本の道路を地図へ印を付けた。

 

「よし。この二本を候補にする」

 

 航空写真をまとめる。

 

「実際の道路は、これから俺たちで確認する」

 

 クリスが立ち上がった。

 

「部隊を集めるか」

 

「ああ」

 

 スティーブも頷く。

 

「大学と第三病院を繋ぐ。まずは徒歩で通れる道を確保する」

 

 三人は資料をまとめ、部屋を出た。

 

 まだ本部から具体的な命令は来ていない。

 

 だからこそ、与えられた役割の範囲で自分たちにできることを始める。

 

 第三地区の孤立を少しでも解消するため、アークとBSAAの合同部隊は、動き始めようとしていた。

 

     ◆

 

 部隊が集まるまでの間、スティーブは無線機を手に取った。

 

「ハンク、聞こえるか?」

 

『ああ。どうした?』

 

「BSAAの実地訓練も兼ねて、大学と第三病院の間を徒歩で繋ぐ道路の掃討を始める。使えそうなルートを二つ選んだ」

 

『分かった』

 

「本部へ伝えて、許可を取ってくれ」

 

『了解』

 

 通信が切れる。

 

 それからしばらくして、無線機が再び鳴った。

 

『本部も了承した。BSAAには実戦での研修期間が必要だろう、とのことだ』

 

「分かった。助かる」

 

 スティーブは無線機を戻した。

 

 ちょうどその頃には、出発する隊員たちも集まり始めていた。

 

「よし、部隊を二つに分ける」

 

 スティーブが全員を見渡す。

 

 レディハンクがすぐに一歩前へ出た。

 

「私の部隊は?」

 

「第二候補の道路を頼む」

 

「了解!」

 

 レディハンクが元気よく返事をする。

 

「俺の部隊はBSAAをフォローする」

 

 スティーブはクリスとジルへ目を向けた。

 

「まずは実際の道路を見てみよう。航空写真だけじゃ判断できない部分もある」

 

「分かった」

 

 クリスが頷く。

 

 ジルも装備を確認しながら立ち上がった。

 

「行きましょう」

 

 部隊は大学の外へ出た。

 

     ◆

 

 最初に向かったのは第一候補の道路だった。

 

 航空写真で見た通り、放置された車両は比較的少ない。道幅にも余裕があり、周囲を見渡すこともできる。

 

 スティーブは道路の中央から両側を確認した。

 

「ここなら使えそうだな」

 

 クリスも周囲へ視線を巡らせる。

 

「少なくとも、大型車両を通すことはできそうだ」

 

「そうだな」

 

 続いて、第二候補の道路へ向かう。

 

 こちらも状況は似ていた。

 

「どっちも問題なさそうだな」

 

 クリスが言う。

 

「そうね」

 

 ジルも頷いた。

 

 しかし、三人が周囲の建物へ目を向けると、印象は変わった。

 

 窓ガラスが割れている建物も少なくない。

 

 スティーブはその一つを見上げた。

 

「……やっぱり、この手の建物は避けたほうがいい」

 

 これまでの情報が頭をよぎる。

 

 ハンターが外壁を上って侵入した建物では、内部にいた人間は全滅した可能性が高い。

 

「中に生存者がいる可能性は?」

 

 ジルが尋ねる。

 

「ゼロとは言えない。でも、確認するなら別の部隊が必要になる」

 

 スティーブは首を横に振った。

 

「今の任務は道路の確保だ。ここへ入る必要はない」

 

「分かった」

 

 クリスが頷いた。

 

 スティーブは第二候補の道路へ視線を戻す。

 

「レディ、そっちは頼めるか?」

 

「任せて!」

 

 レディハンクが答える。

 

「俺たちは第一候補の道路へ向かう」

 

 スティーブはクリス、ジル、そして自分の部隊へ目を向けた。

 

「BSAAの連中は、まず俺たちと一緒に動いてくれ。今日は実際にウーズと戦ってもらう」

 

「ああ」

 

 クリスが頷く。

 

「よろしく頼む」

 

 ジルも静かに答えた。

 

 二つの部隊が、それぞれ別の道路へ向かっていく。

 

 大学と第三病院の間に人を通せる道を作る。

 

 そのための掃討が始まった。

 

     ◆

 

 道路上の掃討を終えると、一行は一旦安全な場所で休憩を取った。

 

 隊員たちはそれぞれ壁や車両に背を預け、水分を補給する。

 

 BSAAの隊員たちは、先ほどまでの戦闘を思い返すように装備を確認していた。

 

「なるほどな……」

 

 一人が呟く。

 

「話に聞いていたより、ウーズって厄介だな」

 

 隣にいたアークの隊員が笑う。

 

「狭いところから突然出てくるだろ?」

 

「それだよ。最初、あんなところに潜んでるとは思わなかった」

 

「この街じゃ珍しくない」

 

 別の隊員が口を挟む。

 

「建物の中だけじゃない。車の陰や路地の奥にもいる」

 

 BSAAの隊員が頷いた。

 

「ピンサーも思ったより速かった」

 

「でも、近寄らせなければ何とかなる」

 

 アークの隊員が答える。

 

「一番面倒なのはトライコーンだ。遠くから骨を飛ばしてくるから、開けた場所では特に注意したほうがいい」

 

「次はそこを意識する」

 

 クリスは少し離れた場所から、その会話を聞いていた。

 

「実際に戦ってみて、どうだ?」

 

 クリスが尋ねる。

 

 BSAAの隊員が苦笑する。

 

「情報だけじゃ分からないですね。街の構造も敵の動きも、想像していたより複雑です」

 

 ジルも頷く。

 

「放置車両が視界を遮るし、建物の入口も常に気にしないといけない。いままでとは多少勝手が違うわ」

 

「だから今日は実戦で覚えてもらう」

 

 スティーブが言った。

 

「アークの連中は何日もここで戦ってる。分からないことがあれば聞いてくれ」

 

「その時はよろしく頼む」

 

 クリスが答えた。

 

 張り詰めていた空気が、少しずつ和らいでいく。

 

 隊員同士の会話も増え、先ほどまで険しかった表情にわずかな笑みが戻った。

 

     ◆

 

 休憩を終えると、今度は建物内での実地訓練が始まった。

 

 最初にスティーブ、クリス、ジルがBSAAの精鋭部隊を率いて建物へ入る。

 

 隊員たちは互いの死角を補いながら、慎重に廊下を進んでいく。

 

 その時、物陰からウーズが飛び出した。

 

スティーブが動いた。

 

 迫るウーズの動きを見極め、ウーズを床に倒す。

 

 攻撃を空振りさせ、足で首をへし折る。

 

 ウーズが床へ崩れ落ちた。

 

「こういう狭い場所では、出てきてから慌てるな、かなりの近接戦も想定しておいてくれ」

 

 スティーブは倒れた個体を確認しながら言った。

 

「物陰だけじゃない。天井や床下から出てくることもある」

 

 クリスとジルが周囲を見回す。

 

「なるほど」

 

 クリスが頷いた。

 

 訓練とはいえ、相手は実際のB.O.W.だ。

 

 安全な演習場とは違い、一瞬の判断を誤れば負傷する。

 

 その後もスティーブは先頭に立ち、実際の戦闘を通して建物内での動き方をBSAAへ伝えていった。

 

 最初の突入を終えると、今度はクリスとジルがアークの隊員たちを率いて建物へ入る。

 

 二人は、そこでアーク側の動きに違いを感じ取った。

 

 ウーズが突然現れても、隊員たちは驚かない。

 

 誰かが身を引けば、別の隊員が射線を確保する。

 

 敵の出現を前提に動いている。

 

 テラグリジアへ入ってから何度もウーズと戦ってきた経験が、そのまま動きに表れていた。

 

 純粋な技量だけを比べれば、アークの隊員たちはBSAAの精鋭より劣る。

 

 しかし、この街でウーズを相手にしてきた経験には明らかな差があった。

 

 クリスはその事実を実感した。

 

「敵そのものに慣れてるな」

 

「ええ」

 

 ジルも頷く。

 

 その後、二人は今度はBSAAの隊員たちを率いて再び建物へ入った。

 

 先ほどの経験を踏まえ、隊員へ細かく指示を出しながら前進する。

 

 数人が軽傷を負ったものの、大きな被害は出なかった。

 

 やがて外が暗くなり始め、実地訓練はそこで終了となった。

 

     ◆

 

 夕暮れの大学。

 

 建物内での実地訓練を終えた部隊が、次々と外へ戻ってきた。

 

 少し遅れて、別行動を取っていたレディハンクとシェリーの部隊も大学へ戻ってくる。

 

 全員が揃ったことを確認すると、スティーブが手を叩いた。

 

「よし。一度休憩に入る」

 

 隊員たちがそれぞれ装備を下ろし、壁際や車両の陰に腰を下ろす。

 

 スティーブはクリスとジルへ視線を向けた。

 

「俺は自分の部隊を率いて、第三病院へ移動する、遊撃部隊が必要だからな」

 

 スティーブは続ける。

 

「向こうにも戦力を置いておきたい」

 

 クリスが頷いた。

 

「分かった。大学のほうは俺たちが残る」

 

「ああ。こっちは任せる」

 

 スティーブは腕時計を確認した。

 

「三十分後に集合。俺の部隊は第三病院に向かう、それまでに装備を整えておいてくれ」

 

 そう告げると、自分の部隊をいったん解散させる。

 

 クリスとジルもBSAAの隊員たちへ休憩を指示した。

 

 それぞれが身体を休める中、スティーブはクリスとジルへ手招きする。

 

「ちょっと話しておこう」

 

 二人も頷いた。

 

 近くの空いている会議室へ入り、三人は椅子へ腰を下ろす。

 

「今日の訓練、どうだった?」

 

 スティーブが尋ねる。

 

 ジルが腕を組む。

 

「道路より建物の中のほうが厄介ね」

 

「特にウーズだな」

 

 クリスも頷いた。

 

「あれは経験がないと、どこから出てくるか分からない」

 

「BSAAの連中も、最初より後半のほうはかなり慣れていた」

 

 スティーブが苦笑する。

 

「アークの連中は、何日もあいつらとやり合ってるからな」

 

「動きがかなり違った」

 

 クリスが言った。

 

「敵の出方を予想しているというか、出てくる前から構えている」

 

「それだけ遭遇してきたってことだ」

 

 スティーブは椅子の背にもたれた。

 

「実際に戦えば、情報だけじゃ分からない部分も見えてくる」

 

 ジルが頷く。

 

「私たちも、この街の戦い方を覚える必要があるわね」

 

「ああ」

 

 しばらく今日の訓練について意見を交わしていたが、やがてスティーブが表情を変えた。

 

「それと、今日は出なかったが……ハンターとファルファレルロが追加される可能性がある」

 

「ファルファレルロか」

 

 クリスが眉を寄せる。

 

「透明になるやつね」

 

「ああ」

 

 スティーブが頷く。

 

「今日は確認されていない。ただ、テラグリジア全域で目撃情報がある。遭遇しないとは考えないほうがいい」

 

「分かった」

 

 ジルも頷いた。

 

「犬やセンサーで探知できることもあるのよね?」

 

「そうだ。だから、目だけを頼りしないで、詳しくは資料を確認してくれ」

 

 三人はそのほかにも、第三病院へ向かった後の連絡方法や、遊撃部隊が現地で取る行動について確認した。

 

 話が一段落すると、スティーブが立ち上がる。

 

「じゃあ、大学はクリスお義兄様とジルお姉様に任せる」

 

「だから、お義兄様じゃねぇって」

 

 クリスが即座に言い返す。

 

 ジルが小さく笑った。

 

「もう諦めたら?」

 

「お前まで言うなよ」

 

 クリスが呆れた顔をする。

 

 スティーブは笑いながら会議室を出た。

 

 そのまま、レディハンクとシェリーを探す。

 

 ほどなくして二人を見つけた。

 

「レディ」

 

「はい!」

 

 レディハンクが振り返る。

 

「シェリーと相談して、好きに動いていい。ただし、無茶はするなよ」

 

「分かった!」

 

 レディハンクが元気よく返事をする。

 

 スティーブは続いてシェリーのもとへ歩み寄った。

 

「それと、これ」

 

 ポケットから小さなケースを取り出す。

 

「さっきクレアから届いてた。預かっておいた」

 

 シェリーがケースを受け取る。

 

「……エルピス?」

 

「ああ。持っておけ」

 

「ありがとう、スティーブ」

 

 シェリーがケースを大切そうにしまう。

 

 スティーブは二人を交互に見た。

 

「朝、昼、夜に無線で連絡する。何かあったら、決めた時間を待たずに知らせてくれ」

 

「了解」

 

「分かった!」

 

 二人が返事をする。

 

 やがて、第三病院へ向かうスティーブの部隊が集合した。

 

 スティーブは隊員たちを見渡す。

 

「行くぞ」

 

「了解!」

 

 隊員たちが立ち上がる。

 

 大学のヘリポートへ向かう途中、スティーブは一度だけ振り返った。

 

 クリスとジルは大学に残る。

 

 レディハンクとシェリーも、ここで自分たちの任務を続ける。

 

 ヘリポートでは、すでにヘリが待機していた。

 

 ローターが回転を始め、夕暮れの大学に強い風が吹き抜ける。

 

 スティーブは搭乗前に、もう一度周囲を確認した。

 

 隊員たちも続いて機内へ収まっていく。

 

 ローターの回転がさらに速くなる。

 

 やがて機体がゆっくりと浮上した。

 

 夕暮れの大学を離れ、スティーブたちは第三病院へ向かって飛び立っていった。

 

 

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