アーク製薬会社 作:ai試し2
クリスはウェスカーと並んで屋上を歩いていた。
周囲を警戒しながらも、クリスは意識してウーズへ近づいていく。
銃は使わない。
拳だけで仕留める。
迫ってきたウーズの攻撃をかわし、身体を捻る。そのまま拳を叩き込むと、ウーズの身体が大きく揺れ、床へ崩れ落ちた。
通常のウーズなら、一撃で倒せる。
だが――。
次に現れたのはピンサーだった。
鋭い突起を備えた腕が振り上げられる。
クリスは攻撃をかわし、間合いへ踏み込む。
拳を叩き込む。
確かな手応えがあった。
それでも、ピンサーは倒れない。
「……くそっ」
クリスは舌打ちをこらえ、すぐにもう一度拳を繰り出した。
今度こそ、ピンサーの身体が大きく揺れる。
そのまま床へ崩れ落ちた。
クリスは短く息を吐く。
その横で、ウェスカーが満足げな表情を浮かべていた。
「少しは鍛え直したようだな、クリス」
クリスは答えず、乱れた呼吸を整える。
ウェスカーの視線が、クリスの呼吸へ向いた。
「だが――」
一拍置く。
「息が上がっている」
「……」
「力みすぎだ。もう少し力を抜け」
忠告なのか、それともからかっているのか。
クリスには判断がつかなかった。
ただ、その言葉に反論しきれないのも事実だった。
ウェスカーはそれ以上何も言わず、前方へ視線を戻す。
その直後、一体のピンサーが横手から飛びかかってきた。
ウェスカーは身体を僅かに沈め、攻撃を紙一重でかわす。
クリスが先ほど見せた動きと、よく似ていた。
だが、その後が違った。
ウェスカーは踏み込みと同時に拳を放つ。
一撃だった。
ピンサーの身体が弾けるように崩れ、そのまま床へ落ちる。
クリスは思わず、その動きを目で追った。
余計な力が入っていない。
大きな動作もない。
必要なところだけに力を通し、最小限の動きで最大限の威力を引き出している。
参考になる。
そう認めざるを得なかった。
やがて、屋上のヘリポートへ救助用のヘリが降下してくる。
ローターの風が屋上全体へ吹き渡った。
キースとクエントが救助者を誘導している。
二人の避難者が機内へ乗り込んでいく。
クリスはその様子を見守った。
ここまで来るだけでも相当な危険があった。
それでも、ようやく二人を安全な場所へ送り出せる。
ヘリが離陸し始める。
屋上を離れていく機体を見ながら、クリスはふと息を吐いた。
ヘリポートがあってよかった。
ウェスカー兄妹がいなければ――。
生存者を連れて、これほど早くここまで辿り着けただろうか。
答えは明白だった。
クリスは認めたくない現実を、静かに受け入れる。
今回の救助を成功させるうえで、ウェスカー兄妹の戦力はあまりにも大きかった。
やがてヘリは屋上を離れ、その姿が遠ざかっていく。
ローターの音が徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなった。
クリスはしばらく空を見上げていた。
そして、隣に立つウェスカーへ視線を向ける。
「……悔しいが、礼を言う」
ウェスカーが僅かに眉を上げた。
「礼?」
「ああ」
クリスは素直に認めた。
「この速さで救助を続けられるなら、今日中にモール全体を回れるかもしれない」
これまでの戦闘を振り返る。
通常なら、これほど大量のウーズを相手にしながら生存者を探し、連れて脱出するだけでも相当な時間が必要になる。
負傷者が出れば、さらに時間を取られる。
「お前たちがいなければ、途中で負傷者が大勢出て、救助そのものに失敗していたかもしれない」
クリスはそう言い切った。
ウェスカーはしばらく黙っていた。
やがて、口元に僅かな笑みを浮かべる。
「どうかな」
「何?」
「レディハンクとバーキンの娘。あの二人なら、似たようなことはできるはずだ」
クリスの表情が変わった。
「……何だと?」
ウェスカーは平然としている。
クリスはその言葉を頭の中で反芻した。
シェリーがウイルス適合者であることは知っている。
だが――。
「シェリーはともかく……レディハンクも、ウイルス適合者だったのか?」
思わず呟いた。
その反応を見て、ウェスカーが口元を緩める。
「やはり、妹からは何も聞いていないようだな」
「……!」
クリスは思わず顔をしかめた。
クレアからは、何も知らされていない。
それを見透かしたように笑うウェスカーを、クリスは睨みつけた。
――耳ざとい奴め。
胸の内で吐き捨てる。
ウェスカーはそんなクリスの苛立ちなど意に介さず、どこか愉快そうに立っていた。
◆
救助した二人をヘリへ送り届けると、クリスたちは再び屋内へ戻った。
次の救助地点は、屋上のすぐ下の階だった。
現地警察の情報によれば、そこにも生存者がいる可能性がある。
一行は階段を下り、目的の階へ向かった。
廊下へ出ると、クリスが周囲を見回す。
連絡のあった場所を確認する。
だが――。
そこに生存者の姿はなかった。
代わりに待ち構えていたのは、数体のウーズだった。
クリスは銃を構えたまま、その姿を見つめた。
嫌な考えが頭をよぎる。
これが、元は救助を待っていた人間だったのではないか。
そう考えるだけで胸が重くなる。
だが、それ以上考えるのはやめた。
今はまだ、このモールのどこかに生存者がいる。
「別の場所を探すぞ」
気持ちを切り替え、クリスは一行を先へ進ませる。
同じ階の別の区画へ向かう。
しばらく廊下を進んだところで、今度は人の気配があった。
閉じられた扉の向こうから、かすかな声が聞こえてくる。
クリスが手を上げ、全員を止めた。
扉へ近づき、慎重に中の様子を窺う。
間違いない。
そこには生存者がいた。
「救助に来た。もう大丈夫だ」
扉の向こうから、安堵したような声が返ってくる。
クリスたちは生存者を確保すると、すぐに屋上へ連絡を入れた。
ヘリを呼ぶ。
救助した生存者を連れて、一行は再び階段を上がっていった。
その間、クリスは意識してウェスカーの動きを見ていた。
敵の攻撃をかわす際の身体の使い方。
必要以上に力を込めず、相手の動きを利用するような身のこなし。
先ほど教えられたことも含め、参考になる部分は多い。
やがて、再び屋上へ辿り着く。
ヘリが来るまでの間、クリスたちは周囲を警戒しながら待機した。
すると、ウェスカーが横から声を掛けてくる。
「随分と熱心に見ていたな」
「……何のことだ?」
クリスが振り返る。
ウェスカーは薄く笑った。
「私の動きを見ていただろう」
「勝手に言ってろ」
クリスはそう返した。
ウェスカーは気にした様子もなく、前方へ視線を戻す。
しばらくして、ふと思い出したように尋ねた。
「妹とは不仲なのか?」
「……クレアと?」
「ああ」
クリスは少し間を置いてから首を横に振った。
「違う」
クレアとの関係を思い返す。
「お互いに立場があるだけだ」
BSAAにはBSAAの事情がある。
アークにもアークの事情がある。
「組織の内部のことまで、勝手に話すことはできない」
それ以上でも、それ以下でもない。
クリスがそう答えると、ウェスカーは黙って彼を見た。
やがて、ウェスカーが口を開く。
「BSAA……なかなかの練度だな」
クリスは横目でウェスカーを見る。
唐突な評価だった。
「何を見てそう思った?」
「特別なことではない」
ウェスカーは淡々と答えた。
「ここまで一緒に行動してきたキースとクエント。それにヘリの操縦士、機内で周囲を警戒していた隊員」
クリスは黙って聞いている。
どうやらウェスカーも、これまでの動きを見ていたらしい。
「それぞれの動きを見ていれば分かる。無駄が少ない」
「……よく見ているな」
「敵情視察だからな」
ウェスカーはそう言って笑った。
そして、ほんの少し機嫌がよさそうに続ける。
「今日は気分がいい。サービスしておこう」
「サービス?」
クリスが怪訝そうに眉を寄せる。
ウェスカーはしばらく前方を眺めていたが、やがて静かに話し始めた。
「ウェスカー計画については覚えているな」
「ああ」
「私たちは成功作だ。しかし最初から何の問題もなかったわけではない」
その言葉に、クリスの意識が向く。
「ウェスカー計画でウイルスを投与し、私は適合した」
ウェスカーは淡々と続ける。
そこで一度、言葉を切る。
「だが、時折体調を崩した」
「……副作用か?」
クリスが聞き返す。
「そうだ。私もアレックスもな」
ウェスカーの口調に、過去を振り返るような感情はほとんどなかった。
「ウイルスの働きを抑えるために、抑制剤を投与しなければならなかった」
クリスは黙り込んだ。
これまで目の前で見てきた圧倒的な身体能力。
それほどの力を持つ二人だからこそ、ウイルスによって身体に問題を抱えていたのか?
――一体、何を投与した?
聞きたいことはいくつも浮かんだ。
だが、ウェスカーのほうから情報を提供してくれるというのなら、今は無理に問い詰める必要もない。
クリスは余計な質問を挟まず、その話を聞き続けた。
ウェスカーは、そのまま話を続ける。
「私とアレックスは、ウイルスについて当然精通している」
自分たちの身体に何が起きているのか。
それを理解するため、二人はウイルスについて調べ続けた。
「私たちでも、この問題を解決することはできなかった」
その声に、僅かな苦みが混じる。
「結局、ウイルス抑制剤を使うという方法にしかたどり着かなかった。自分たち自身にハンデを課すような解決方法だ」
クリスは黙って聞いていた。
ウェスカーほどの男が、自らの身体に関する問題を解決できなかった。
それだけでも、ウイルスというものの難儀さが伝わってくる。
「だから、私たちは一つの決断をした」
「決断?」
クリスが尋ねる。
ウェスカーの目が、こちらを捉えた。
その視線には、明らかな含みがあった。
「ウイルスについて、より詳しい人物に解決を依頼するという決断をな」
その言葉に、クリスの胸の奥で嫌な予感が膨らむ。
「……まさか」
昼から、ウェスカーがクレアについて何か知っているような素振りを見せていた。
そのことが頭をよぎる。
ウェスカーは淡々と続けた。
「私たちが依頼したのは、アークのアレクシア・アシュフォードだ」
「……!」
クリスの表情が強張る。
「その時の交渉の場には、クレア・レッドフィールドもいた」
嘘だ。
そう言いたかった。
クレアがそんなことをするはずがない。
ウェスカーは生物兵器を広め、テロを引き起こすような男だ。
そんな人物に、クレアが協力するはずなどない。
それでも、ウェスカーは淡々と事実を告げていた。
クリスは言葉を探す。
そして、ようやく絞り出した。
「……何か、クレアにも理由があったはずだ」
ウェスカーが笑った。
その笑みが何を意味するのか、クリスには分からない。
ただ、それ以上問い詰めるより先に、ウェスカーが空を見上げた。
「ヘリが戻っていくぞ」
「……!」
クリスは、はっとしてヘリポートへ視線を向ける。
いつの間にかヘリは着陸を終えていた。
救助者を収容した機体が、再び上昇していく。
ローターの音が屋上へ響き渡る。
ヘリはそのまま遠ざかっていった。
入れ替わるように、キースとクエントがこちらへ戻ってくる。
クリスは深呼吸をする、頭を切り替えた。
今は考えている場合ではない。
クレアのことも。
ウェスカーの話も。
後でいい。
まだ、このモールには救助を待っている人間がいる。
「行くぞ」
クリスは二人へ声を掛けた。
今は、救助が最優先だった。
◆
救助を続ける中で、ジルはクリスの様子がおかしいことに気づいていた。
本人は何でもないような顔をしている。
先頭に立ち、周囲を警戒しながら進む姿も普段と変わらない。
だが、長い付き合いのあるジルには分かった。
何かあった。
クリスは、それを隠している。
ジルは周囲に聞こえないよう、小さく呟いた。
「……何かあったの?」
すると、隣を歩いていたアレックスが、聞こえていたのか口を開いた。
「兄さんに、何か言われたんじゃない?」
「……」
ジルは一瞬、アレックスを見る。
そして、否定できなかった。
あり得る。
むしろ、そう考えるとクリスの様子にも納得がいく。
ウェスカーはクリスに対して何度も意味ありげな言葉を投げていた。
そのたびに、クリスの表情が僅かに変わっていた。
――もし、本当にそうなら。
ジルは前方を歩くクリスへ視線を向ける。
余計なことを聞かされて、敵の言葉に惑わされているんじゃない。
そんな思いが胸の内から湧き上がる。
――しっかりしなさいよ、クリス。
心の中で、強く叱った。
◆
救助者を確保した一行は、再び屋上へ戻っていた。
ヘリが到着するまでの間、生存者たちはキースとクエントが預かっている。
クリスは周囲を警戒しながらも、先ほどから頭の中に引っかかっているウェスカーの話を忘れられずにいた。
クレアが、ウェスカーたちの治療に関わっていた。
クリスは意を決し、ウェスカーへ声を掛ける。
「……さっきの話、続きを聞かせろ」
ウェスカーが振り返った。
わざとらしく眉を上げる。
「さっきの話? 何のことだ?」
「とぼけるな」
クリスの声が低くなる。
ウェスカーは薄い笑みを浮かべたまま、答えようとしない。
それを見ていたアレックスが、隣にいるジルへ視線を向けた。
「ジルさん、少しこちらへ」
「え?」
突然の言葉に、ジルが戸惑う。
アレックスは微笑んだまま、ジルを連れてウェスカーの前まで歩いていった。
「兄さん」
穏やかな声だった。
「そろそろ話してあげたら?」
ウェスカーが妹へ目を向ける。
「私は別に、何も隠しているつもりはないが?」
「そう言いながら、クリスさんをからかっているでしょう?」
アレックスが小さく笑う。
「もう十分でしょう?」
ジルもそこで、アレックスが自分を連れてきた理由を察した。
自分も聞いておきたいことがある。
クリスの様子を見れば、なおさらだった。
「……あなたも気になってるんでしょう?」
アレックスにそう言われ、ジルはウェスカーへ視線を向ける。
確かに気になっていた。
クリスは明らかに何かを聞かされている。
その原因がウェスカーにあること、ほぼ間違いなかった。
アレックスに促され、ウェスカーは一度クリスを見る。
そして、楽しげに肩をすくめた。
「さて……どこまで話したかな?」
クリスが即座に答える。
「ウェスカー計画で投与したウイルスに問題があって、お前たちには副作用が出た。その治療に、アークのアレクシアとクレアが関わっていたところまでだ」
「……!」
ジルが驚いてクリスを見る。
クリスはウェスカーから視線を逸らさない。
ウェスカーはそんなクリスの様子を眺め、口元をわずかに上げた。
「そうそう。そこまでだったな」
ようやく続きを口にする。
「アークとは取引だった」
クリスの目が細くなる。
「アンブレラに関する情報と引き換えだった」
やはり、そこには理由があった。
クリスが抱いていた疑問の一つが、ようやくつながった。
しかし、すぐに別の疑問が浮かぶ。
「……それで、どんな情報だったんだ?」
クリスが問い掛ける。
だが、その途中で自分自身の疑問に気づく。
「いや、待て」
クリスはウェスカーを睨んだ。
「お前、アンブレラを裏切ったはずだろう」
ウェスカーが答えるより先に、アレックスが口を開いた。
「ラクーンシティの事件の後、オズウェル・E・スペンサーはロシアのテイロス計画と、自らの不老不死計画に再起をかけた」
ジルは黙ってアレックスを見る。
「そして、不老不死計画の実務を任されたのが、ウェスカー計画の生き残りである私だった」
「……お前が?」
クリスが驚く。
アレックスは静かに頷いた。
「ええ」
そして、兄へ視線を向ける。
「私は、ウェスカー計画の生き残りである兄さんと、裏でつながっていた」
クリスは眉をひそめる。
「スペンサーは、そのことにまったく気づいていなかった。私に恨まれていることも」
アレックスの声は淡々としている。
「スペンサーは私に莫大な資金と権限、それに施設まで与えた」
一度、言葉を切る。
「そして私は、それらをアークとの取引材料として使ったの」
クリスは黙ってアレックスを見つめた。
ウェスカーも口を挟まない。
その口元には、薄い笑みだけが浮かんでいた。
しばらくして、クリスがようやく口を開く。
「……そういうことか」
自分の中で、散らばっていた情報がつながっていく。
スペンサーがアレックスへ与えた資金と権限。
ウェスカーとの裏のつながり。
そして、それを利用したアークとの取引。
その先にいたのが、クレアだった。
クレアがウェスカーたちの治療に関わっていた。
その理由も、少なくとも一つは見えてきた。
アンブレラに関する情報を得るためだった。
クリスはそこで、これ以上考えるのを止めた。
クレアを疑いたいわけではない。
今聞いた情報だけで、妹の判断を否定するつもりもなかった。
ただ、自分の知らないところで、ここまでのことが動いていた。
その事実が重かった。
「……クレアは」
言葉が漏れる。
だが、その先が続かなかった。
何を聞けばいいのか、自分でも分からない。
どこまで知っていたのか。
なぜ自分には話さなかったのか。
問いは浮かぶ。
それでも、今ここで答えを求めることに意味があるとは思えなかった。
隣でジルがクリスを見つめていた。
クリスの様子がおかしいことには、気づいている。
だが、今は何も言わなかった。
ウェスカーはそんな二人を見ていた。
その視線に気づき、クリスはようやく理解する。
こいつは、情報を伝えるだけで終わるつもりではない。
自分が何を考え、どう反応するかまで見ている。
クリスは奥歯を噛みしめた。
それでも、耳を塞ぐことはできなかった。
ウェスカーは、まるで何でもないことのように話を続ける。
「そして、去年。その取引で得た情報をもとに、アークはスペンサー邸へ襲撃を仕掛けた」
クリスの表情が僅かに強張る。
「結果は知っているだろう。オズウェル・E・スペンサーは死亡した」
淡々とした口調だった。
ウェスカーは一度言葉を切る。
「そのうえで、一つ忠告しておこう」
クリスが顔を上げる。
「アークのアレクシアには気をつけろ」
「……アレクシア?」
クリスの眉が寄る。
ウェスカーは前方へ視線を向けたまま続ける。
「あれは生物兵器を拡散させている」
「……何だと?」
「私の勘だがな」
その言葉を最後に、ウェスカーは口を閉じた。
クリスはすぐには返せなかった。
だが、「勘」という一言には引っかかるものがあった。
S.T.A.R.S.に所属していた頃。
部隊を率いていたウェスカー。
任務中、誰よりも冷静に周囲を観察し、僅かな違和感から危険を察知していた男。
クリスは何度も、ウェスカーの判断に助けられていた。
理屈を説明されるより先に、ウェスカーが危険だと言えば、実際に何かが起きた。
根拠を聞いても、「勘だ」と返されることがあった。
そして――その勘は、よく当たっていた。
クリスは無意識に拳を握り込む。
だからこそ、今の言葉を完全に聞き流すことができなかった。
「生物兵器を拡散させているのは、お前も同じだろう」
クリスは吐き捨てるように言った。
ウェスカーが横目で見る。
怒りも、反論もない。
むしろ楽しそうだった。
「私、アレクシア、コネクション……」
淡々と名前を並べる。
「敵が多いな、クリス」
クリスは黙ってウェスカーを睨みつけた。
冗談のようにも聞こえる。
だが、その目は笑っていなかった。