アーク製薬会社   作:ai試し2

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6話 砦

 少し時は戻る。

 

 レディハンクたちとレオンたちは、ルイスの案内で島の奥へ進み、やがて巨大な砦へと辿り着いていた。

 

 ルイスが砦を見上げる。

 

「この砦には、大量のガナードがいる」

 

 その顔から、いつもの軽さが消えていた。

 

「ここは先に落としておいたほうがいい」

 

 レディハンクは砦を見渡し、すぐに頷いた。

 

「分かった。じゃあ、始めよう」

 

 輸送用のヘリが砦の近くまで進む。

 

 機体が高度を落とすと、隊員たちは次々に地上へ降りた。着地した者から周囲へ散開し、警戒線を広げながら砦へ向けて進んでいく。

 

 一方、シェリーはアシュリーとともに汎用ヘリへ乗り込んでいた。

 

 アシュリーは座席に身体を預けたまま、窓越しに地上を見下ろしている。

 

 シェリーの役目は、上空から部隊の進路を確認しながら援護することだった。

 

 地上へ降りたレオンは砦の近くにある岩陰へ身を滑り込ませた。

 

 頭だけをわずかに出し、砦の様子をうかがう。

 

 ガナードたちが武器を手に歩き回っている。見張り役と巡回役が分かれているらしく、油断なく周囲を監視していた。

 

 その時だった。

 

「レオン」

 

 どこからか、聞き覚えのある声がした。

 

 レオンの動きが止まる。

 

 まさか。

 

 そう思いながら、ゆっくりと声のした方向へ顔を向ける。

 

「……」

 

 次の瞬間、レオンの表情が険しくなった。

 

「クラウザー!」

 

 砦の向こうから、男の声が返ってくる。

 

「会えてうれしいぜ、レオン」

 

 やはり間違いない。

 

 ジャック・クラウザーだった。

 

 その瞬間。

 

 鋭い発砲音が一度だけ響いた。

 

 レディハンクの銃撃だった。

 

 クラウザーは反射的に身体をひねる。

 

 弾丸が頭上を掠め、被っていた帽子を吹き飛ばした。

 

「……!」

 

 クラウザーはすぐ近くの遮蔽物へ飛び込み、姿を隠す。

 

 レディハンクがレオンへ視線を向けた。

 

「レオン!」

 

「あいつ、強化されてるよ」

 

「そうなのか?」

 

 レオンが警戒しながら尋ねる。

 

 近くにいたルイスが頷いた。

 

「ああ。あいつには上位種のプラーガが与えられている」

 

 ルイスの視線が、クラウザーの隠れた方向へ向く。

 

「普通のガナードとは違う。気をつけろ、レオン」

 

「分かった」

 

 レオンが銃を握り直す。

 

 次の瞬間、レディハンクが岩陰から飛び出した。

 

「それじゃあ、行こう!」

 

 その号令を合図に、隊員たちも一斉に前へ出る。

 

 砦攻略が始まった。

 

     ◆

 

 最初に隊員たちの進路を阻んだのは、砦に設置された機関銃座だった。

 

 重い連射音が地面を震わせ、弾丸が次々と土煙を上げていく。

 

 隊員たちは遮蔽物を利用しながら前進する。

 

 レディハンクは機関銃座の位置を見極めると、姿をさらすことなく照準を合わせた。

 

 数発。

 

 機関銃座の周囲にいたガナードが倒れ、射手が慌てて身を隠す。

 

 さらに別の銃座へ狙いを移す。

 

 そこへ、上空からも援護が加わった。

 

 かなり高い位置を飛ぶヘリの側面から、シェリーが地上を見下ろしている。

 

 隊員の動きを妨げそうな敵を見つけると、迷いなく狙いを定めた。

 

 地上と上空。

 

 二つの射線に挟まれ、機関銃座は次々と沈黙していった。

 

 だが、ガナードたちも黙ってはいない。

 

 城壁の上からクロスボウが放たれ、火のついたダイナマイトが投げ込まれる。

 

 さらに少数ながらロケットランチャーまで持ち出してきた。

 

 それでも、相手は組織だった戦闘を繰り返してきたアークの隊員たちだ。

 

 弾道を見極め、遮蔽物を移りながら着実に距離を詰めていく。

 

 ガナード側も数では上回っている。

 

 しかし、武器の運用も連携も、訓練された兵士たちには到底及ばない。

 

 防衛線が一つ。

 

 また一つと崩れていった。

 

 一方、クラウザーは砦の複雑な構造を利用して戦い続けていた。

 

 建物の陰から姿を現しては発砲し、反撃を受ける前に身を隠す。

 

 時には高所へ移動し、別の角度から隊員を狙った。

 

 だが、ほんのわずかでも姿をさらせば――

 

 乾いた一発が遠くから飛んでくる。

 

 レディハンクの狙撃だった。

 

 クラウザーは咄嗟に身体を引き、弾丸を避ける。

 

「チッ……!」

 

 舌打ちを残して別の遮蔽物へ移る。

 

 当然、クラウザーも反撃する。

 

 隙を見つけて銃弾を送り込み、隊員たちの進撃を遅らせようとする。

 

 しかし、一人だけでは限界があった。

 

 味方のガナードが蹂躙される一方で、隊員たちは数を殆ど減らさず前進してくる。

 

 そして何より厄介なのが、上空のシェリーだった。

 

 ヘリはかなり高い位置を維持している。

 

 地上からでは狙いづらい高度。

 

 そこからシェリーが砦全体を見下ろしていた。

 

 ロケットランチャーを構えようとしたガナードを見つければ、すぐに射撃が飛んでくる。

 

 別の機関銃座へ向かおうとすれば、レディハンクが先に潰す。

 

 クラウザーが何度位置を変えても、上と下の両方から圧力を受け続ける。

 

 砦の防衛線は、少しずつ後退していた。

 

 このままでは、砦そのものを奪われる。

 

 クラウザーにも、それが分かっていた。

 

     ◆

 

 その時だった。

 

 空から、別のローター音が近づいてきた。

 

 レディハンクが顔を上げる。

 

 一機のヘリが砦へ接近していた。

 

 次の瞬間、機体下部から機銃が火を噴く。

 

 連続する射撃が砦の外周をなぎ払い、ガナードたちが次々と身を伏せた。

 

「……あれは?」

 

 レディハンクが空を見上げる。

 

「援軍の要請はしてたけど……」

 

 レオンも同じ機体を見た。

 

「たぶん、俺たちの援護だ!」

 

 レディハンクが無線を取る。

 

「そこのヘリ! 聞こえる!?」

 

 応答はない。

 

「どこのヘリなの!?」

 

 それでも沈黙が続く。

 

 レオンも無線機を取り出した。

 

「俺が要請していたヘリだ! 今、来たんだろう!」

 

 何度か呼びかける。

 

 ようやく、ノイズの向こうから声が返ってきた。

 

『こちら――』

 

 途切れ途切れの通信だった。

 

「もっと高度を上げろ! 危険だ!」

 

 レオンが叫ぶ。

 

 ヘリが上昇する。

 

 その直後。

 

「ロケットランチャー!」

 

 レディハンクの声が飛んだ。

 

 砦の一角から、一発のロケット弾が放たれる。

 

 白煙を引きながら、ヘリに一直線に迫っていく。

 

「まずい!」

 

 レオンが空を見上げた。

 

 しかし、着弾する寸前だった。

 

 別方向から飛んできた銃弾がロケット弾へ命中し、空中で炸裂した。

 

 直撃は免れた。

 

 だが、爆風までは消せない。

 

 ヘリが大きく揺れた。

 

『うわっ!』

 

 機体が傾き、そのまま回転を始める。

 

「おい!」

 

 レオンが走り出す。

 

 ルイスも反射的に後を追おうとした。

 

 だが、その肩をアークの隊員が掴んだ。

 

「ルイス、ここは俺たちに任せろ!」

 

 同時に、周囲の隊員たちがレオンの進路を確保する。

 

 銃撃でガナードを押し返しながら、墜落地点へ向かう道を開いていく。

 

 レオンは全力で走った。

 

 やがて地面へ激突したヘリが見えてくる。

 

「大丈夫か!」

 

 機体の側面へ駆け寄り、操縦席からパイロットを引きずり出す。

 

 だが、その直後だった。

 

 ヘリの内部から火が吹き上がった。

 

「くっ!」

 

 レオンはパイロットの身体を抱えたまま、その場を離れる。

 

 次の瞬間、機体が爆発した。

 

 爆風が二人へ迫る。

 

 レオンは周囲を見回し、近くにあった横穴へパイロットを抱えて飛び込んだ。

 

 背後で爆炎が弾ける。

 

 轟音が洞窟内を震わせた。

 

 やがてレオンが振り返ると、入口付近には炎が広がっている。

 

 外へ戻るのは難しい。

 

 さらに、その先に見えるはずだったアークの隊員たちの姿もなかった。

 

 どうやら、爆発したヘリと砦の構造によって部隊は分断されたらしい。

 

     ◆

 

 しばらく横穴を進んだところで、レオンは足を止めた。

 

「ここなら大丈夫そうだな」

 

 炎の明かりが届かない場所まで来た。

 

 レオンはパイロットをゆっくりと地面へ横たえる。

 

 男は荒い呼吸を整えながら、口を開いた。

 

「……済まねえ」

 

「気にするな」

 

 レオンは肩をすくめた。

 

「今度、カフェで何かおごってくれ」

 

 男――マイクは、苦しそうな顔のまま、それでも笑った。

 

「分かった。最高のごちそうをおごるよ」

 

「約束だぞ」

 

 レオンは立ち上がる。

 

「ここで待っていてくれ。助けを呼んでくる」

 

「ああ」

 

 マイクが頷く。

 

 レオンは手を上げた。

 

「じゃあ、また後でな」

 

 そう言って、横穴の奥へ歩き出した。

 

     ◆

 

 さらに進んだ先で、レオンは開けた場所へ出た。

 

 すぐには姿をさらさず、岩陰へ身を寄せて周囲を見回す。

 

 その時だった。

 

「レオン!」

 

 どこからか声が響いた。

 

 聞き覚えのある声だった。

 

「……クラウザーか!」

 

 レオンが声を返す。

 

「砦はいいのか!」

 

「まずは、お前からだ!」

 

 その返答と同時に、暗がりからクラウザーが姿を現した。

 

 そして、身体が異様に変化し始める。

 

 特に左腕の変化は凄まじかった。

 

 筋肉が膨張し、骨格そのものが組み替えられるように形を変えていく。

 

 やがて、人間の腕とは呼べないほど巨大な異形へと変貌した。

 

 まるで巨大な斧を思わせる姿だった。

 

「……!」

 

 レオンは息を呑む。

 

 クラウザーが異形化した左腕を振り上げた。

 

「レオン!」

 

 そのまま横穴から飛び出し、一直線に迫ってくる。

 

 だが、その姿は上空からもはっきり見えていた。

 

 銃弾が降り注ぐ。

 

 クラウザーは咄嗟に左腕を頭上へ掲げた。

 

 巨大な腕が盾のように身体を覆い、上空からの射撃を弾いていく。

 

 それでも速度は落ちない。

 

 異形の左腕を構えたまま、レオンとの距離を一気に詰めてくる。

 

「どうして、こんなことをするんだ!」

 

 レオンが叫んだ。

 

 クラウザーは答えながら、巨大な左腕を横薙ぎに振るった。

 

「決まっているだろう!」

 

 凄まじい風圧が巻き起こる。

 

 レオンは身体を低く沈め、攻撃をかわした。

 

「力だ!」

 

 クラウザーが叫ぶ。

 

「世界を変えるのは、力しかない!」

 

 再び左腕が持ち上がる。

 

 巨大な腕が振り下ろされる。

 

 レオンは横へ飛び、地面を転がって直撃を避けた。

 

 その直後、上空から銃撃が降り注ぐ。

 

 シェリーの援護だった。

 

「ぐっ!」

 

 クラウザーの肩が弾かれ、巨体がよろめく。

 

 レオンはその一瞬を逃さない。

 

 銃を構え、連続して撃ち込む。

 

 何発もの弾丸がクラウザーの身体へ食い込んだ。

 

「チッ!」

 

 クラウザーが舌打ちする。

 

 それでも倒れない。

 

 むしろ怒りを露わにし、再び左腕を頭上へ掲げた。

 

 空からの攻撃を防ぎながら、レオンへ突進してくる。

 

「お前も、かつて見ただろう!」

 

 クラウザーの声が響く。

 

「そして、今も見ているだろう!」

 

 巨腕を盾にしたまま、さらに距離を詰める。

 

「この素晴らしい力を!」

 

 異形の姿が眼前へ迫った。

 

 だが、レオンは退かなかった。

 

 冷静に相手の動きを見ていた。

 

 上空からはシェリーが狙っている。

 

 正面からは自分が抑える。

 

 本来のクラウザーなら、この状況を見ればもっと慎重に動くはずだった。

 

 ――クラウザー。

 

 お前は、もっと冷静だっただろ。

 

 上からも狙われる。

 

 正面からも攻撃を受ける。

 

 それでも力を振り回すだけなのか。

 

 力に酔っている。

 

 そんな言葉が頭をよぎる。

 

 レオンはマグナムを抜いた。

 

 狙うのは巨大な左腕ではない。

 

 足だ。

 

 クラウザーが腕を頭上へ掲げた瞬間、レオンが引き金を引いた。

 

 重い一発が足へ食い込む。

 

「ぐっ!」

 

 クラウザーの身体が大きく傾いた。

 

 片腕で上空を防いでいる以上、全方向を同時に守ることはできない。

 

 その隙を、シェリーは逃さなかった。

 

 上空から再び射撃が降り注ぐ。

 

「ぐあっ!」

 

 クラウザーの身体が激しく揺れた。

 

 それでも、まだ倒れない。

 

 だが、確実に隙が生まれていた。

 

 レオンはマグナムを構え直した。

 

 照準を頭部へ合わせる。

 

 クラウザーが顔を上げる。

 

 視線が交わった。

 

 次の瞬間、引き金が引かれた。

 

 轟音が一発だけ響いた。

 

 放たれた弾丸がクラウザーの眼球を貫き、そのまま後ろへ抜ける。

 

「……!」

 

 クラウザーの巨体が大きく揺らぐ。

 

 異形と化していた左腕から力が抜ける。

 

 そして、その身体はそのまま崖の向こうへ落ちていった。

 

 レオンはしばらく銃口を下ろさなかった。

 

 やがて、静かになった空間を見つめる。

 

 クラウザーはもう、どこにもいなかった。

 

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