アーク製薬会社 作:ai試し2
少し時は戻る。
レディハンクたちとレオンたちは、ルイスの案内で島の奥へ進み、やがて巨大な砦へと辿り着いていた。
ルイスが砦を見上げる。
「この砦には、大量のガナードがいる」
その顔から、いつもの軽さが消えていた。
「ここは先に落としておいたほうがいい」
レディハンクは砦を見渡し、すぐに頷いた。
「分かった。じゃあ、始めよう」
輸送用のヘリが砦の近くまで進む。
機体が高度を落とすと、隊員たちは次々に地上へ降りた。着地した者から周囲へ散開し、警戒線を広げながら砦へ向けて進んでいく。
一方、シェリーはアシュリーとともに汎用ヘリへ乗り込んでいた。
アシュリーは座席に身体を預けたまま、窓越しに地上を見下ろしている。
シェリーの役目は、上空から部隊の進路を確認しながら援護することだった。
地上へ降りたレオンは砦の近くにある岩陰へ身を滑り込ませた。
頭だけをわずかに出し、砦の様子をうかがう。
ガナードたちが武器を手に歩き回っている。見張り役と巡回役が分かれているらしく、油断なく周囲を監視していた。
その時だった。
「レオン」
どこからか、聞き覚えのある声がした。
レオンの動きが止まる。
まさか。
そう思いながら、ゆっくりと声のした方向へ顔を向ける。
「……」
次の瞬間、レオンの表情が険しくなった。
「クラウザー!」
砦の向こうから、男の声が返ってくる。
「会えてうれしいぜ、レオン」
やはり間違いない。
ジャック・クラウザーだった。
その瞬間。
鋭い発砲音が一度だけ響いた。
レディハンクの銃撃だった。
クラウザーは反射的に身体をひねる。
弾丸が頭上を掠め、被っていた帽子を吹き飛ばした。
「……!」
クラウザーはすぐ近くの遮蔽物へ飛び込み、姿を隠す。
レディハンクがレオンへ視線を向けた。
「レオン!」
「あいつ、強化されてるよ」
「そうなのか?」
レオンが警戒しながら尋ねる。
近くにいたルイスが頷いた。
「ああ。あいつには上位種のプラーガが与えられている」
ルイスの視線が、クラウザーの隠れた方向へ向く。
「普通のガナードとは違う。気をつけろ、レオン」
「分かった」
レオンが銃を握り直す。
次の瞬間、レディハンクが岩陰から飛び出した。
「それじゃあ、行こう!」
その号令を合図に、隊員たちも一斉に前へ出る。
砦攻略が始まった。
◆
最初に隊員たちの進路を阻んだのは、砦に設置された機関銃座だった。
重い連射音が地面を震わせ、弾丸が次々と土煙を上げていく。
隊員たちは遮蔽物を利用しながら前進する。
レディハンクは機関銃座の位置を見極めると、姿をさらすことなく照準を合わせた。
数発。
機関銃座の周囲にいたガナードが倒れ、射手が慌てて身を隠す。
さらに別の銃座へ狙いを移す。
そこへ、上空からも援護が加わった。
かなり高い位置を飛ぶヘリの側面から、シェリーが地上を見下ろしている。
隊員の動きを妨げそうな敵を見つけると、迷いなく狙いを定めた。
地上と上空。
二つの射線に挟まれ、機関銃座は次々と沈黙していった。
だが、ガナードたちも黙ってはいない。
城壁の上からクロスボウが放たれ、火のついたダイナマイトが投げ込まれる。
さらに少数ながらロケットランチャーまで持ち出してきた。
それでも、相手は組織だった戦闘を繰り返してきたアークの隊員たちだ。
弾道を見極め、遮蔽物を移りながら着実に距離を詰めていく。
ガナード側も数では上回っている。
しかし、武器の運用も連携も、訓練された兵士たちには到底及ばない。
防衛線が一つ。
また一つと崩れていった。
一方、クラウザーは砦の複雑な構造を利用して戦い続けていた。
建物の陰から姿を現しては発砲し、反撃を受ける前に身を隠す。
時には高所へ移動し、別の角度から隊員を狙った。
だが、ほんのわずかでも姿をさらせば――
乾いた一発が遠くから飛んでくる。
レディハンクの狙撃だった。
クラウザーは咄嗟に身体を引き、弾丸を避ける。
「チッ……!」
舌打ちを残して別の遮蔽物へ移る。
当然、クラウザーも反撃する。
隙を見つけて銃弾を送り込み、隊員たちの進撃を遅らせようとする。
しかし、一人だけでは限界があった。
味方のガナードが蹂躙される一方で、隊員たちは数を殆ど減らさず前進してくる。
そして何より厄介なのが、上空のシェリーだった。
ヘリはかなり高い位置を維持している。
地上からでは狙いづらい高度。
そこからシェリーが砦全体を見下ろしていた。
ロケットランチャーを構えようとしたガナードを見つければ、すぐに射撃が飛んでくる。
別の機関銃座へ向かおうとすれば、レディハンクが先に潰す。
クラウザーが何度位置を変えても、上と下の両方から圧力を受け続ける。
砦の防衛線は、少しずつ後退していた。
このままでは、砦そのものを奪われる。
クラウザーにも、それが分かっていた。
◆
その時だった。
空から、別のローター音が近づいてきた。
レディハンクが顔を上げる。
一機のヘリが砦へ接近していた。
次の瞬間、機体下部から機銃が火を噴く。
連続する射撃が砦の外周をなぎ払い、ガナードたちが次々と身を伏せた。
「……あれは?」
レディハンクが空を見上げる。
「援軍の要請はしてたけど……」
レオンも同じ機体を見た。
「たぶん、俺たちの援護だ!」
レディハンクが無線を取る。
「そこのヘリ! 聞こえる!?」
応答はない。
「どこのヘリなの!?」
それでも沈黙が続く。
レオンも無線機を取り出した。
「俺が要請していたヘリだ! 今、来たんだろう!」
何度か呼びかける。
ようやく、ノイズの向こうから声が返ってきた。
『こちら――』
途切れ途切れの通信だった。
「もっと高度を上げろ! 危険だ!」
レオンが叫ぶ。
ヘリが上昇する。
その直後。
「ロケットランチャー!」
レディハンクの声が飛んだ。
砦の一角から、一発のロケット弾が放たれる。
白煙を引きながら、ヘリに一直線に迫っていく。
「まずい!」
レオンが空を見上げた。
しかし、着弾する寸前だった。
別方向から飛んできた銃弾がロケット弾へ命中し、空中で炸裂した。
直撃は免れた。
だが、爆風までは消せない。
ヘリが大きく揺れた。
『うわっ!』
機体が傾き、そのまま回転を始める。
「おい!」
レオンが走り出す。
ルイスも反射的に後を追おうとした。
だが、その肩をアークの隊員が掴んだ。
「ルイス、ここは俺たちに任せろ!」
同時に、周囲の隊員たちがレオンの進路を確保する。
銃撃でガナードを押し返しながら、墜落地点へ向かう道を開いていく。
レオンは全力で走った。
やがて地面へ激突したヘリが見えてくる。
「大丈夫か!」
機体の側面へ駆け寄り、操縦席からパイロットを引きずり出す。
だが、その直後だった。
ヘリの内部から火が吹き上がった。
「くっ!」
レオンはパイロットの身体を抱えたまま、その場を離れる。
次の瞬間、機体が爆発した。
爆風が二人へ迫る。
レオンは周囲を見回し、近くにあった横穴へパイロットを抱えて飛び込んだ。
背後で爆炎が弾ける。
轟音が洞窟内を震わせた。
やがてレオンが振り返ると、入口付近には炎が広がっている。
外へ戻るのは難しい。
さらに、その先に見えるはずだったアークの隊員たちの姿もなかった。
どうやら、爆発したヘリと砦の構造によって部隊は分断されたらしい。
◆
しばらく横穴を進んだところで、レオンは足を止めた。
「ここなら大丈夫そうだな」
炎の明かりが届かない場所まで来た。
レオンはパイロットをゆっくりと地面へ横たえる。
男は荒い呼吸を整えながら、口を開いた。
「……済まねえ」
「気にするな」
レオンは肩をすくめた。
「今度、カフェで何かおごってくれ」
男――マイクは、苦しそうな顔のまま、それでも笑った。
「分かった。最高のごちそうをおごるよ」
「約束だぞ」
レオンは立ち上がる。
「ここで待っていてくれ。助けを呼んでくる」
「ああ」
マイクが頷く。
レオンは手を上げた。
「じゃあ、また後でな」
そう言って、横穴の奥へ歩き出した。
◆
さらに進んだ先で、レオンは開けた場所へ出た。
すぐには姿をさらさず、岩陰へ身を寄せて周囲を見回す。
その時だった。
「レオン!」
どこからか声が響いた。
聞き覚えのある声だった。
「……クラウザーか!」
レオンが声を返す。
「砦はいいのか!」
「まずは、お前からだ!」
その返答と同時に、暗がりからクラウザーが姿を現した。
そして、身体が異様に変化し始める。
特に左腕の変化は凄まじかった。
筋肉が膨張し、骨格そのものが組み替えられるように形を変えていく。
やがて、人間の腕とは呼べないほど巨大な異形へと変貌した。
まるで巨大な斧を思わせる姿だった。
「……!」
レオンは息を呑む。
クラウザーが異形化した左腕を振り上げた。
「レオン!」
そのまま横穴から飛び出し、一直線に迫ってくる。
だが、その姿は上空からもはっきり見えていた。
銃弾が降り注ぐ。
クラウザーは咄嗟に左腕を頭上へ掲げた。
巨大な腕が盾のように身体を覆い、上空からの射撃を弾いていく。
それでも速度は落ちない。
異形の左腕を構えたまま、レオンとの距離を一気に詰めてくる。
「どうして、こんなことをするんだ!」
レオンが叫んだ。
クラウザーは答えながら、巨大な左腕を横薙ぎに振るった。
「決まっているだろう!」
凄まじい風圧が巻き起こる。
レオンは身体を低く沈め、攻撃をかわした。
「力だ!」
クラウザーが叫ぶ。
「世界を変えるのは、力しかない!」
再び左腕が持ち上がる。
巨大な腕が振り下ろされる。
レオンは横へ飛び、地面を転がって直撃を避けた。
その直後、上空から銃撃が降り注ぐ。
シェリーの援護だった。
「ぐっ!」
クラウザーの肩が弾かれ、巨体がよろめく。
レオンはその一瞬を逃さない。
銃を構え、連続して撃ち込む。
何発もの弾丸がクラウザーの身体へ食い込んだ。
「チッ!」
クラウザーが舌打ちする。
それでも倒れない。
むしろ怒りを露わにし、再び左腕を頭上へ掲げた。
空からの攻撃を防ぎながら、レオンへ突進してくる。
「お前も、かつて見ただろう!」
クラウザーの声が響く。
「そして、今も見ているだろう!」
巨腕を盾にしたまま、さらに距離を詰める。
「この素晴らしい力を!」
異形の姿が眼前へ迫った。
だが、レオンは退かなかった。
冷静に相手の動きを見ていた。
上空からはシェリーが狙っている。
正面からは自分が抑える。
本来のクラウザーなら、この状況を見ればもっと慎重に動くはずだった。
――クラウザー。
お前は、もっと冷静だっただろ。
上からも狙われる。
正面からも攻撃を受ける。
それでも力を振り回すだけなのか。
力に酔っている。
そんな言葉が頭をよぎる。
レオンはマグナムを抜いた。
狙うのは巨大な左腕ではない。
足だ。
クラウザーが腕を頭上へ掲げた瞬間、レオンが引き金を引いた。
重い一発が足へ食い込む。
「ぐっ!」
クラウザーの身体が大きく傾いた。
片腕で上空を防いでいる以上、全方向を同時に守ることはできない。
その隙を、シェリーは逃さなかった。
上空から再び射撃が降り注ぐ。
「ぐあっ!」
クラウザーの身体が激しく揺れた。
それでも、まだ倒れない。
だが、確実に隙が生まれていた。
レオンはマグナムを構え直した。
照準を頭部へ合わせる。
クラウザーが顔を上げる。
視線が交わった。
次の瞬間、引き金が引かれた。
轟音が一発だけ響いた。
放たれた弾丸がクラウザーの眼球を貫き、そのまま後ろへ抜ける。
「……!」
クラウザーの巨体が大きく揺らぐ。
異形と化していた左腕から力が抜ける。
そして、その身体はそのまま崖の向こうへ落ちていった。
レオンはしばらく銃口を下ろさなかった。
やがて、静かになった空間を見つめる。
クラウザーはもう、どこにもいなかった。