アーク製薬会社 作:ai試し2
アレックス・ウェスカーは、静かに撤退の準備を進めていた。
島へ潜入した目的は一つだった。
ルイスが用意したプラーガのサンプルを手に入れること。
クラウザーから得た情報を手掛かりに島内を探り、その途中でサドラーにも手を出した。だが、肝心のサンプルを確保するには至らなかった。
時間だけが、容赦なく過ぎていった。
「……やっぱり、サンプルはサドラーが持っているのよね」
アレックスは独り言のように呟いた。
ここに留まり続けることはできない。
間もなく、リサとアレクシアがこの島へやって来る。
あの二人を相手にして勝ち目があるとは思えなかった。自分だけではない。今の戦力では、正面からぶつかること自体が死を意味する。
「兄さんに連絡しないと」
アレックスは通信機を取り出した。
通信が繋がる。
案の定、兄はクリスの話になるとすぐに熱くなった。声を聞いているだけでも、それが分かる。
それでも、最終的には撤退に応じた。
これなら、すぐに合流できる。
通信を終えたアレックスは、少し離れた場所に立っていたエイダへ視線を向けた。
「さあ、行きましょう」
そう言って、手を差し出す。
エイダは、その手を見つめた。
けれど、動かなかった。
沈黙だけが二人の間に残る。
しばらくして、アレックスの唇に薄い笑みが浮かんだ。
「……ふふ」
差し出していた手を、ゆっくりと下ろす。
「それが、あなたの選択なのね」
それ以上は何も言わない。
アレックスは背を向けた。
足音が遠ざかっていく。
エイダは追わなかった。
呼び止めることもない。
ただ、その背中が視界から消えるまで立っていた。
差し出された手を取らない。
それが何を意味するのかは、エイダ自身が一番理解していた。
◆
砦では戦闘の大勢が決していた。
アークの部隊が主要な防衛線を攻略し、残っているのは砦の末端に散ったガナードたちだけだった。
「そういえば、ルイス」
レオンが声をかける。
「何かあったのか?」
「そうだな……」
ルイスが少し考える。
「U-3と呼ばれていた、あれが出てきたらしい」
「U-3?」
「ああ。かなり厄介なやつだったんだが……」
ルイスはそこで言葉を切った。
「そこらへんに落ちていたロケットランチャーで、雑にあれされた」
「……そうか」
レオンの表情が微妙に固まる。
ひとまず、砦の制圧はほぼ完了していた。
アークの隊員たちの半分は、ここに残ることになった。
「ここなら、まだ島に残っているガナードから守りやすいからね」
レディハンクが説明する。
レオンにも異論はなかった。
マイクも砦に預け、残った隊員たちに任せる。
その頃には、シェリーとアシュリーもヘリから降りていた。
「シェリー」
レオンが声をかける。
「クラウザーのときは助かった。援護、ありがとう」
「ううん」
シェリーは首を横に振った。
「レオンが無事でよかったよ」
短い言葉を交わし、レオンたちは砦を後にした。
向かう先は旧施設。
ルイスの案内を頼りに、崖沿いの道を進んでいく。
しばらくして、前方に旧施設の入口が見えてきた。
その瞬間だった。
轟音が大地を揺らした。
「なに!?」
レディハンクが足を止める。
旧施設の入口が、内側から吹き飛んだ。
壁の破片と大量の瓦礫が飛び散り、爆煙が一帯を覆う。
「何か出てくるぞ!」
レオンが叫ぶ。
全員が身構えた。
煙の向こうで、巨大な何かが動いている。
やがて、その輪郭がはっきりと浮かび上がった。
「何だ、あれは?」
レオンがルイスを見る。
しかし、ルイスは首を横に振った。
「俺にも分からない!」
レオンは眉をひそめた。
ルイスが知らない。
教団でプラーガの研究をしていた男でさえ、目の前の存在を知らない。
ならば、サドラーが隠していた最後の切り札なのか。
そう考えるしかなかった。
だが、レオンたちはまだ知らなかった。
目の前にいるのは、サドラーそのものだった。
アレックス・ウェスカーにちょっかいを掛けられ、追い詰められたサドラーは、もはや人間の姿に留まっている余裕を失っていた。
自らのプラーガの力を解放し、人間の姿が崩れ、身体が異形へと変わっていた。
大きく伸びた四本の脚。
身体から伸びる触手。
◆
異形が動いた。
四本の脚が地面を叩き、その巨体が一気に前へ突っ込んでくる。
「散開!」
レディハンクの声が飛ぶ。
全員が左右へ散った。
異形の脚が、さっきまで人間が立っていた場所を叩き潰す。
シェリーは間髪入れずに銃を構えた。
狙うのは、脚に付いた目玉。
銃声。
弾丸が一つを撃ち抜く。
「ギィィィィィッ!」
異形が耳障りな叫びを上げた。
だが、巨体は止まらない。
「大して効いてない!」
シェリーが叫ぶ。
ルイスも銃を抜き、別の目玉へ狙いをつける。
しかし、相手の動きが激しすぎる。
四本の脚が絶え間なく動き、触手まで周囲を薙ぎ払っている。
「レディちゃん!」
シェリーが叫んだ。
レディハンクはすぐに意図を察した。
「撃つのやめて! 私が突っ込むから!」
「いくよ!」
シェリーが応じる。
レディハンクが走り出した。
ほぼ同時に、シェリーも距離を詰める。
脚が振り下ろされる。
二人はそれぞれ紙一重でかわしながら、異形の側面へ回り込んだ。
挟み込む。
レディハンクが異形の反対側へ視線を走らせた。
「こっちの脚にも目玉がある!」
次の瞬間。
二つの銃声が重なった。
レディハンクとシェリーが、それぞれの側から目玉を撃ち抜く。
「ギィィィィィッ!」
異形が大きく身を震わせた。
中央にある顔のような部分が、ぐっと開く。
その奥から、新たな目玉が現れた。
「レオン!」
異形がレオンへ向かって覆いかぶさる。
「くっ!」
レオンは後退する。
ルイスも銃を構え、中央の目玉へ狙いをつけた。
レオンも続く。
二人の射撃が集中する。
しかし、異形の脚が激しく振り回された。
巨大な脚が二人のすぐ脇を薙ぐ。
「危ない!」
ルイスが叫ぶ。
レオンは身をかわした。
「ルイス、大丈夫か!?」
「大丈夫だ!」
ルイスが答える。
その直後だった。
ルイスの視線が異形へ吸い寄せられる。
何かを思い出したように、表情が変わった。
「……もしかしたら、こいつ……サドラーかもしれない!」
「サドラー!?」
レオンが聞き返す。
「こいつが?」
シェリーも目を見開く。
「サドラーって、あの教団の……?」
レディハンクも異形を見る。
「これがサドラーなの!?」
「たぶん間違いない」
ルイスは目を離さない。
「よく見ると……なんとなく面影がある」
「面影って……」
レオンは絶句した。
四本の脚。
触手。
無数の目。
目の前の存在と、人間だった頃のサドラーを結びつけるのは難しい。
「本当に、こいつがサドラーなのか?」
問いかける。
しかし、答えを待つ時間はなかった。
異形が再び動き出す。
脚が地面を叩き、触手が周囲を薙ぎ払った。
「散れ!」
四人が一斉に動いた。
怪物の動きは止まらない。
そして――
◆
高度一万メートルを超える空。
静かに飛ぶ一機の航空機、その機体にはアークのロゴが描かれていた。
こんな高度なのに機体側面のドアが開く。
次の瞬間、二つの人影が外へ吸い込まれるように投げ出された。
航空機は速度を落とさない。
そのまま大きく旋回し、やがて来た方向へ戻っていった。
取り残された二人は、互いに重なるようにして落下していく。
減速することなく高度を失い続け――
地面へ激突した。
轟音とともに土砂が巻き上がり、地面が大きく抉れる。
落ちた一つ影が身を起こした。
リサ・トレヴァー。
身体には、落下の衝撃によるダメージがある。
だが、それも瞬く間に癒えていく。
リサは立ち上がると、少し遅れて落ちてきたもう一つの身体へ手を伸ばした。
アレクシア・アシュフォード。
リサは彼女をしっかりと受け止める。
「ありがとうございます、リサお姉さま」
アレクシアがそう言いながら地面へ降りる。
まず自分のドレスについた土埃を払う。
それからリサを見る。
「リサお姉さまも、汚れていますわ」
今度はアレクシアがリサの衣服についた土を払っていく。
二人が身なりを整え終える。
リサは島の一角に顔向ける。
アレクシアもその視線の先へ目を向けた。
「あちらに何かいますの?」
リサは答えない。
ただ、興味を無くしたように、アレクシアの髪についていたゴミを払っていた。
◆
サドラーの動きが止まった。
脚に埋め込まれた目が、一斉に同じ方向へ向く。
触手の動きも止まる。
巨大な身体そのものが、何かを感じ取ったかのように静止した。
レオンはその異変を見逃さなかった。
プラーガが逃げようと身を翻そうとする。
だが、その一瞬が隙になった。
レオンが撃つ。
ルイスが撃つ。
レディハンクも撃つ。
シェリーも撃つ。
ほぼ同時に放たれた弾丸が、脚に残された目を次々と撃ち抜いていく。
「ギィィィィィッ!」
サドラーが絶叫する。
巨体が激しく揺れる。
その直後だった。
「レオン!」
聞き覚えのある声とともに、エイダが姿を現した。
彼女は迷いなくロケットランチャーをレオンへ投げ渡す。
レオンは反射的に受け取った。
その存在を確かめるより先に、照準をサドラーへ向ける。
中央。
巨大な目が露出している。
レオンは引き金を引いた。
ロケット弾が一直線に飛び、サドラーの巨大な眼球へ直撃する。
轟音。
爆炎が巨体を覆った。
「ギィィィィィッ!」
サドラーの身体が大きく痙攣する。
四本の脚から力が抜けていく。
巨体が傾いた。
そして、そのまま地面へ崩れ落ちた。
土煙が舞う。
やがて、それすら静まっていく。
サドラーは動かなかった。
ルイスが倒れた異形を見つめる。
それから、レオンの手に残されたロケットランチャーへ視線を移した。
「それ……プラーガ用の特殊弾頭か?よく見つけたな」
驚きの色が声に混じる。
レオンは答えなかった。
ただ、倒れたサドラーを見つめていた。
ロス・イルミナドスの教祖、オズムンド・サドラー。
その最後の姿は、もはや人間と呼べるものではなかった。