アーク製薬会社 作:ai試し2
サドラーが完全に動かなくなった。
四本の脚から力が抜け、地面へ投げ出された巨体は、もう微動だにしない。触手も垂れ下がったまま動きを止めている。
レオンたちはしばらく銃を構えたまま、その姿を見つめていた。
やがて、完全に沈黙したことを確認すると、エイダは何事もなかったかのように身を翻した。
そのまま、この場を立ち去ろうとする。
だが――
足元へ銃弾が撃ち込まれた。
乾いた音とともに、地面が小さく弾ける。
エイダの足が止まった。
ゆっくりと振り返る。
銃を構えていたのはシェリーだった。
いつの間にかレオンのすぐそばまで戻っている。銃口は真っ直ぐエイダへ向けられていた。
「何を……」
レオンが思わず声を漏らす。
エイダは何も言わなかった。
ただ、ゆっくりと両手を上げる。
そして、手にしていた銃を地面へ落とした。
金属音が静かに響く。
「逃げないの?」
シェリーが尋ねる。
「あなたたちから逃げ切れるとは思っていないわ」
エイダは落ち着いた声で答えた。
「そう。殊勝なことね」
そのとき、別の声がした。
レオンたちが振り向く。
いつの間にか、少女が二人そこにいた。
リサが少女をお姫様抱っこしている。
「あっ」
シェリーの表情が変わった。
すぐにリサへ向かって手を振る。
リサもシェリーへうなづき返した。
レオンは二人の姿を見つめた。
そして、リサに抱かれている少女へ視線を移す。
その姿には、見覚えがあった。
レオンは目の前に現れた人物を見て、確信する。
――アレクシア・アシュフォード。
やがてリサは、抱いていたアレクシアを地面へ降ろした。
すると、シェリーがすぐにリサのもとへ歩み寄る。
「ちょっと待ってね」
そう言うと、シェリーはリサのドレスについた土埃を払い、乱れている部分を整え始めた。
リサは何も言わず、じっとシェリーに身を任せている。
それが終わると、今度はアレクシアへ手を伸ばした。
アレクシアもされるがままになっている。
シェリーはドレスについた土埃を払い、乱れたところを整えていく。
やがて、二人の身なりが整った。
アレクシアはシェリーへ微笑んだ。
「ありがとう、シェリー」
その光景は、周囲の状況から完全に浮いていた。
少し離れたところでは、エイダが銃を手放している。
その向こうには、先ほどまで激しく暴れていたサドラーの異形が倒れている。
そんな戦いの直後だというのに、シェリーは二人のドレスについた土埃を払っていた。
それでも、アークの面々は気にした様子もない。
「シェリー。クリスを呼びなさい」
「分かった」
シェリーはすぐに無線を取り出した。
「クリス、こちらシェリー。聞こえる?」
通信を始める。
その間に、アレクシアは視線を別の場所へ向けた。
「レディハンク」
「はい!」
呼ばれたレディハンクが、緊張した声で返事をする。
「あなたはエイダを拘束して。それから、バリーと一緒にプラーガの掃討にあたりなさい」
「はい!」
レディハンクはすぐにエイダへ向き直った。
エイダは抵抗する様子を見せない。
その一方で、少し離れた場所ではルイスがいつの間にか倒れた異形のもとへ近づいていた。
何かを調べている。
「ルイス?」
レオンが声をかけた。
ルイスが振り返る。
その表情には、何かを見つけたときのような色が浮かんでいた。
「レオン、あったぞ!」
そう言って、ルイスは手にしていたものを掲げる。
レオンにも見覚えがあった。
何度か見たことのある、プラーガのサンプルだった。
レオンの視線が、その手の中へ向く。
「ということは……」
そして、倒れている異形へ目を向ける。
「……この怪物は、本当にサドラーだったのか?」
ルイスは頷いた。
レディハンクは、エイダの拘束を終えたところだった。
両手と両足には、それぞれ手錠が掛けられている。
「ちょっと、ここまでする必要……」
エイダが抗議する。
だが、レディハンクはまるで聞こえていないかのように、そのままアレクシアへ向き直った。
「アレクシア様。鍵、どうしますか?」
「そちらの恋人さんに渡しなさい」
「恋人?」
レディハンクが首を傾げる。
それでも、指示された通りに鍵を持ってレオンのもとへ歩いていった。
「はい、これ」
「待て。俺は恋人じゃない」
レオンが即座に抗議する。
だが、誰もそれには答えなかった。
「レオン。お嬢ちゃんがいながら浮気か?」
ルイスがレオンの肩を小突く。
「両方違う」
レオンは間髪入れずに言い返した。
そんな二人のやり取りを気にする様子もなく、レディハンクは再びアレクシアへ向き直る。
「それじゃあ、私はバリーのところへ行きます」
「ええ。お願い」
レオンはその様子を見送った。
そして、ふと思い出す。
――そうだ。アシュリーを。
アレクシアに断りを入れようとした、そのときだった。
「レオン!」
シェリーがアシュリーを伴って戻ってきた。
「アシュリー?」
レオンが声を上げる。
アシュリーはそのままレオンのもとへ駆け寄ってきた。
次の瞬間、その身体がレオンへ抱きつく。
「無事でよかった……!」
レオンもアシュリーを受け止める。
しばらくしてアシュリーが離れると、改めて周囲を見渡した。
「それで、いったい何の集まりなの?」
不思議そうに尋ねる。
「それと、サドラーは?」
「サドラーなら、あれだ」
レオンが倒れている異形の死骸を指さす。
「死んだ」
「あれが……?」
アシュリーは恐る恐る異形へ目を向けた。
自分を誘拐した教団の指導者が、あんな姿になっていたことが信じられない。
「……本当に、あれがサドラーなの?」
アシュリーはおっかなびっくり、倒れた異形を見つめる。
「私は、よく分からないままシェリーに連れてこられたの」
そう言って、アシュリーはレオンへ説明した。
その一方で、少し離れたところではシェリーがアレクシアと何かを話している。
さらにその近くでは、エイダがレオンへ声をかけた。
「ねえ、これ外してくれない?」
レオンはエイダを見る。
そして、静かに首を横に振った。
「悪いが、それはできない」
今、エイダを自由にするわけにはいかなかった。
やがて、遠くから人の気配が近づいてくる。
レオンがそちらへ目を向けると、クリスがジルを伴ってこちらへ歩いてきていた。
「レオン!」
クリスが声をかける。
◆
その頃、アレクシアはリサのそばにいた。
何かを確認するように、アレクシアがリサへ話しかけている。
アレクシアは、リサの身振りに小さく頷いた。
それから、エイダへ視線を向ける。
「では、質問しますわ」
声は穏やかだった。
「この質問に『はい』と答えたら、あなたを殺します」
エイダの表情がわずかに強張る。
「あなたは、コネクション?」
エイダは首を横に振った。
「違うわ」
「でも、私の質問に『はい』と答えたら殺されると分かっていたのでしょう?」
アレクシアは淡々と尋ねる。
「それで、嘘ではないと証明してくださる?」
「……」
エイダは黙った。
さすがに、簡単に証明できるような話ではない。
「待て!」
レオンが二人の間に割って入った。
「そもそも、コネクションって何なんだ?」
アレクシアはレオンを見る。
それから、何気なくエイダへ視線を戻した。
「あなた、恋人に教えてさしあげていないの?」
「恋人?」
エイダが眉を上げる。
その言葉に、少し離れていたアシュリーも反応した。
「俺とエイダは、そういう関係じゃない」
レオンがすぐに否定する。
アレクシアは特に気にする様子もなく、エイダへ向き直った。
「いや、今はそれより……」
レオンは小さく頭を振る。
「コネクションって何なんだ?」
エイダは一度、周囲を見た。
そして、静かに口を開く。
「コネクションは、アメリカ合衆国を本拠地にしている裏の組織よ」
「裏の組織?」
「ええ。武器の密売、違法な研究、暗殺……表に出せないことなら、いろいろやっているわ」
レオンの表情が変わる。
「……そんな組織、聞いたことがない」
アシュリーも驚いたようにエイダを見た。
「私も……」
レオンはなおも疑うように尋ねる。
「本当に、そんな組織があるのか?」
「あるわ」
「でも、俺は聞いたことがない」
エイダは少し考えるように間を置いた。
「それは、私には分からないわ」
「……そうか」
レオンは短く頷いた。
そのとき、ふと周囲にいる者たちへ目を向ける。
クリスもジルも、特に驚いた様子を見せていない。
シェリーも、アレクシアも、リサも同じだった。
レオンはクリスとジルへ向き直った。
「コネクション……本当に実在するのか?」
「実在する」
クリスが答えた。
「信じにくいだろうがな」
ジルも頷く。
レオンは二人の顔を見つめた。
知らなかったのは、自分たちだけだったらしい。
「レオン」
シェリーが声をかけた。
「クレアから聞いたよ。レオンには黙っていてもらえるように頼んだって」
「なぜ?」
レオンが聞き返す。
シェリーが答えるより先に、エイダが口を挟んだ。
「危険だからでしょう」
レオンがエイダを見る。
エイダは小さく息を吐いた。
「このために、こんな無様な目に遭ってるわけね」
拘束された両手、両足へ目を落とす。
それから、再びレオンを見る。
「殺されそうだから、教えてあげるわ」
「殺されそう?」
「ラクーンシティの事件で、あなたがマークされているからよ」
レオンの表情から、わずかに笑みが消えた。
エイダは続ける。
「これは私が直接確認したわけじゃない。でも、確かな情報よ」
そこで一度、言葉を切る。
「ラクーンシティの事件に、コネクションは関わっている。それも、相当深くね」
レオンは黙り込んだ。
ラクーンシティ。
自分が生き残った、あの事件。
アンブレラが倒産し一旦は終わったと思っていた事件の裏側に、まだ知らない組織が存在していた。
その事実が、重く胸に残った。
その横では、アシュリーとルイスも言葉を失っていた。
特にアシュリーは、エイダの話をすぐには受け入れられないようだった。
彼女が知っているラクーンシティの事件では、アンブレラこそがすべての元凶だったはずだ。
「ラクーンシティって……アンブレラが黒幕だったんじゃないの?」
信じられないという顔で、アシュリーが尋ねる。
エイダは少しだけ間を置いた。
「半分はそうよ」
「半分……?」
「そして、もう半分はコネクション」
アシュリーの目が大きく開く。
「そんな……」
エイダは淡々と続けた。
「ラクーンシティの滅菌作戦。政府に干渉して、あれを実行させたのはコネクションらしいわ」
アシュリーは返す言葉を失った。
アンブレラが引き起こした惨劇。
その街を消滅させた滅菌作戦。
そこにまで別の組織が関わっていたというのなら、これまで知っていた事件の見え方そのものが変わってしまう。
エイダはそこで言葉を止め、アレクシアへ視線を向けた。
「このあたりの話は、あちらさんの方が詳しいんじゃない?」
アレクシアは黙ってエイダを見返す。
「元アンブレラの私が話したところで、信用できないでしょう?」
静かな口調だった。
アシュリーは二人を交互に見る。
自分が知らなかったことが、あまりにも多い。
「……私、何も知らなかった」
小さく漏らした声に、レオンも黙ったままだった。
ラクーンシティ。
アンブレラ。
コネクション。
そこには、自分たちが知らない繋がりがあった。
しばらくして、レオンが口を開いた。
「……なぜ、今になって教えた?」
アレクシアがレオンへ視線を向ける。
「もう、あれから五年も経ったでしょう?」
穏やかな声だった。
「それに、あなたが今ここにいるのも、ちょうどいい機会だわ」
レオンは黙ってアレクシアを見る。
「大統領の娘の奪還を任されて、単独でヨーロッパまで来た」
アレクシアがわずかに微笑む。
「それだけの任務を任される、あなたも昔とは違うということでしょう?」
レオンは少し考え、それから別の疑問を口にした。
「じゃあ、なぜコネクションはラクーンシティの滅菌作戦を実行させた?」
「理由は、アンブレラの地下秘密施設――ARKよ」
「ARKが?」
レオンの表情が変わる。
「だが、ARKは多国籍による合同捜査を受けて、解体されたはずじゃないのか?」
「その通りよ」
アレクシアは頷いた。
「だからこそ、コネクションにとっても誤算だったのでしょう」
レオンは眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
「あなたも、よく知っているはずよ」
「俺が?」
「リサお姉さまと一緒にいたのでしょう?」
その名を聞いた瞬間、レオンの表情が変わった。
「ARKがどこにあったのか」
アレクシアは一拍置く。
「孤児院の地下深くにあった、と言えば分かるかしら?」
レオンは息を呑んだ。
断片的だった記憶が、一つに繋がっていく。
「……そうか」
あのとき、リサはラクーンシティから脱出していなかった。
G生物を足止めするため、街に残った。
ならば、その後に向かった場所は――。
「……ARK」
レオンの口から、言葉が漏れた。
リサはARKへ向かった。
そこにコネクションの人間がいたのだとすれば、すべてが繋がる。
「……そういうことか」
その呟きを聞いたアシュリーが、レオンを見る。
「どういうこと?」
レオンはアシュリーへ向き直った。
「アシュリー。リサは、ラクーンシティの事件のとき、脱出してなかったんだ」
「え?」
「俺やシェリー、それにもう二人を逃がすために、リサは残ってくれた」
レオンの脳裏に、当時の光景が蘇る。
「B.O.W.と戦って、俺たちが逃げる時間を作ってくれていたんだ」
アシュリーは驚いたようにリサを見る。
自分が知っていたラクーンシティの事件。
その最後まで、リサはまだ街に残り、戦っていた。
アシュリーの視線の先で、リサは何も言わない。
ただ、静かに立っている。
レオンは黙り込み、ここまでに聞いた話を整理していた。
アレクシアとリサが、いつから一緒に行動していたのかは分からない。
それでも、二人はどこかの段階で手を組み、フランスでアンブレラを告発した。
そして、クレアがシェリーをヨーロッパへ逃がしたことも、その流れと無関係ではないのだろう。
コネクションがラクーンシティの事件に深く関わっていたのなら、シェリーをアメリカに残すのは危険だった。
だから、クレアはシェリーを国外へ――。
そこまで考えたところで、別の疑問が浮かんだ。
「……そういうことか」
レオンはアレクシアを見る。
「もしかして……お前がフランスでアンブレラを告発したのも、そのためなのか?」
アレクシアは答えない。
「アメリカには、コネクションの影響がある」
レオンは続けた。
「だから、アメリカじゃなくてフランスを選んだ。そういうことなのか?」
アレクシアは、しばらくレオンを見つめていた。
やがて――
ただ、微笑んだ。
肯定も否定もしない。
その反応だけで、レオンには十分だった。
しばらくして、アレクシアが口を開いた。
「アンブレラは、もう終わったわ」
レオンが顔を上げる。
「フランスで告発して、組織として追い詰めた。その後は、アークが残ったものを片づけていった」
アレクシアの声には、淡々とした確信があった。
「だから今後、私たちが向き合うのはコネクションよ」
レオンは何も言わず、アレクシアを見る。
「アークはEUで足場を固めながら、そのための準備を進めているわ」
ここまで聞いて、レオンはようやく理解した。
アンブレラの壊滅で終わりではなかった。
あの事件の裏にいた、もう一つの組織。
コネクション。
アレクシアたちは、最初からそこまで見据えて動いていたのだ。
「だから次は、コネクションを潰すわ」
アレクシアは、はっきりと言った。
ラクーンシティの崩壊。
フランスでのアンブレラ告発。
クレアによるシェリーの国外移送。
そして、ARKとコネクションの関係。
それぞれ別の出来事だと思っていたものが、少しずつ一つの流れとして繋がっていく。
「そのとき、あなたと協力できればいいわね」
アレクシアが静かに微笑む。
レオンはすぐには答えられなかった。
拒むこともできない。
かといって、簡単に受け入れることもできない。
自分がこれまで知っていたラクーンシティの事件は、一体何だったのか。
そして、その裏でクレアやシェリー、リサが何を知り、何を背負っていたのか。
新たな事実を知るたびに、さらに別の疑問が生まれてくる。
レオンはしばらく黙ったまま、アレクシアを見つめていた。
今すぐ答えを出せるほど、整理できてはいなかった。
だから、今は何も言わなかった。