「これでいいのか……?」
「?……ざこお兄ちゃん、どうしたの?」
『おねがいだからぁ、やめてえええええ――っ!!』
美代の絶叫が響き渡る中、タロウには美代の大仰な振る舞いに、違和感を感じていた。
そしてこれを無視すると取り返しの付かないことが起きそうなそんな予感であった。
『やめてくれるの?』
恐る恐る美代がタロウへと伺いを立てていた。
「(何だ……何を見落としている? この感覚……覚えがある。
そうだ……一郎の時にも感じていた。あいつが笑顔を作っていた時、言葉とは裏腹に感じた、あの違和感……」
「(……では『やめて』とは『やれ』ということか?)」
「黙ってないで何とか言いなさいよ!」
「ざこお兄ちゃん?」
黙り込んだことで調子を取り戻しつつある美代と、物思いにふけるタロウを心配そうな顔で見つめる真夜。
『ちょっと!無視するなんて―――!』
我慢の限界を迎えた真夜がタロウの目の前で手を振りまわしたことで、
タロウの視線にあの、巨大な彫像が掲げた黄金のトロフィーの頂に立つ女神に目が止まった。
「(なにか変だ、あの時に内見に見せてもらったトロフィーと違うような?確か、タワー型のトロフィーだったはず……ではあの先端の女神……はっ?……あれは女神像なんかじゃない!?あれは……美代? コイツ自分の像を据えてやがる! 自信過剰もここまでくると……? 待てよ、ひょっとして……)」
タロウは美代の方に向き直り、語りかけた。
「なぁ美代?……あのトロフィー、特に先端部分なんだが、随分と趣味が悪いと思わないか?」
「はぁ?」
「え! トロフィー? ここで? なんで??」
美代と真夜が同時に声を上げた、前者は挑む調子で声を上げ、後者は意味わからないという声を。
「あんた! 美的センス皆無ね! あの素晴らしい造詣がわからないなんて、生きてる価値無しよ! あれはまさに絶世!という言葉がふさわしい一品でしょうが!!!」
まくし立てるように美代がタロウに食って掛かった。
「あんたも、くだらないあの男と同じね、世界で一番美しいモノがわからないのよ!」
「ほう……?」
「なによ!その気持ち悪い笑みをやめなさい!」
タロウは確信した笑みを浮かべていた。
「ところであのトロフィー、実際のものと違うな? 本物はタワー型だ、そうだろ?」
「!?」
「あ!? ほんとだ、前見たのと違うじゃん!先端に像がくっついてる! アレ? しかも改造して? ……うっわ~自分の像って~おわってる~。きゃはは」
「ダサすぎ~。自画自賛!痛すぎ~。ざこざこナルシスト~。ぷぷ~」
ようやく気付いた真夜がチラリとタロウに視線を向け直後、
今までの鬱憤を晴らすように美代をあおり始めた。
「こ、このちんちくり……」
「ま~た、おんなじこと言おうとしてる~。他に語彙はないんでちゅか~?」
「う、うるさい!!」
「ていうか、いいの~? あたしにばかり構って? トロフィーのとこ見てみなよ~。
タロウ……もうたどり着いてるよ?」
「はぁっ?」
真夜はただ煽っていたのではなく、タロウが向うまでに時間を稼ぐことが目的でもあった。
一方。トロフィーの元にたどり着いたタロウは。
「おそらく、これが『核』だ。この先端の美代像を外せば、清太の王冠の時同様、
この世界は崩壊するはずだ……、しかし近くで見ると随分と雑だな、
ただ置いただけとは……まあいい、さて、やるか」
遠くでは美代がなにかを叫んでいるがタロウの耳には届かなかった。
そして。
美代像を外すと―――。
黄金のトロフィーが。
パリンッ!!
『イギャアアアアアアアアっ!!』
空間を振るわせる甲高いい音とともに、トロフィーは木っ端微塵に砕け散った。
それと同時に、美代の悲鳴も、無数の鏡も、歪んだ精神世界そのものがガラスのように一斉に破砕していく。
光の破片が舞い散る中、現実の世界が再構成されていく――。
~~~~~~
周囲を覆っていた歪んだ空気は一瞬で霧散し、緑豊かな木漏れ日が差し込む穏やかなキャンパスの景色が戻ってくる。
「あ……」
ベンチの近くに立っていた内見が、ハッと息を呑んだ。
タロウは静かに振り返り、何事もなかったかのように歩き出す。
その後ろから、いつものようにふわりと浮く真夜が小さく笑った。
「ねぇ、おわったね」
「……そうだな」
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『――続いてのニュースです。タレントの高木美代さんが、謎の不審死をとげました』
『さらに同氏が関わったとされる幾つかの疑いについても、検察は再捜査に踏み切る方針です――』
街を行き交う人々が立ち止まり、モニターを見上げる。
「え、この人凄く人気あったよね?いきなり不審死って ……」
「なんかさ、おかしな噂……あったよな?なんで気づかなかったんだろ……」
あちこちで、人々が自身の抱いていた違和感を取り戻し、首をかしげていた。
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薄暗いオフィスで、女刑事の正田法子《しょうだのりこ》がデスクの蛍光灯の下、分厚い捜査資料のページをめくっていた。
机の上に並べられているのは、美代に関する過去数年分の事件ファイル。
かつては「事件性なし」として処理され、暗闇に葬られていた訴えや失踪の記録だ。
法子は温くなったコーヒーを一口すすり、資料を見つめる。
「……またですか」
ぽつりと漏らされた呟き。
「この事件もそう。昔から証拠は揃っていた。不自然な点も、無数の矛盾も……最初からそこにあったのに」
法子は静かに資料を閉じ、窓の外の街を見つめた。
「そして、また一連の事件の中心人物の不審死……」
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第8話END