リベンジ ~霊たちの見た夢~    作:しょーもないおっさん

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ぐにゃりと世界が歪み、降り立った場所――そこは、無機質な照明と大型モニターそして、編集用のパソコンとカメラ群に囲まれた「終わりのない生放送のスタジオ」だった。

 

スタジオの中心で、美子は笑顔を浮かべている。

いや――笑顔の練習ではなかった。

 

彼女の瞳は、無意識に何十台ものカメラの位置と角度を正確に探していた。

 

「ここから撮ると一番盛れる」

「この角度。この照明」

 

常に最高の自分であることを演出し続ける。

彼女にとって世界とは自分が動かしていることを証明し満たされる為の装置に過ぎなかった。

 

不意に、周囲のスクリーンに怒涛の勢いでSNSの弾幕とメディアの映像が流れ始める。

 

『犯人の娘として生きる私の告白』

『私は、犯罪者の娘です』

『それでも私は、前を向いて生きていきます』

 

画面の中で涙を流す美子に、惜しみない拍手と莫大な応援コメント、投げ銭、広告収入の数字が爆発的に群がる。

 

そして――スクリーンが暗転した裏側で、美子は嘲りの笑みを浮かべていた。

 

『ほんっと、チョロいんだから』

 

せせら笑う声とともに、美子の過去がスタジオの空間に次々と投影されていく――。

 

[カット1:カメラ]

幼い美子。

ファインダー越しに家族を撮影している。

たびたび角度と構図を変えている。しっくりきたところで笑顔。

 

[カット2:操作]

中学の教室。

目の前で泣きじゃくる友達。対面には必死に謝る友達。

美子は、少し離れた場所で誰にも気づかれずに小さく嘲笑っていた。

 

[カット3:SNS]

高校時代。

スマホの画面。投稿ボタン。

教師が生徒を掴んでる場面。切り抜き動画を投稿し炎上。

スマートフォンの青い光の中、美子の口元だけが吊り上がる。

 

[カット4:父の事件]

テレビのニュース速報。

『――機密情報漏洩の疑い』

画面を見つめる美子。

無表情に、ただ静かにカメラを構え。

カシャ――。

 

[カット5:冤罪の夜]

絶望した義父・一郎に向けられるレンズ。

「家族ごっこ、結構面白かったよ?」

カシャ――。

 

暗転。

 

タロウは無言のまま、見つめている。

 

 

スタジオの最深部に祀られていたのは、台座の上に鎮座する一台の巨大なWebカメラ。

 

そしてそのすぐ奥には、ポツンと置かれた埃をかぶった古い金庫。

 

タロウが静かに歩み寄ろうとした、その時――。

 

『……やっと突き止めたよ』

 

スタジオ全体に、美子のどこか粘つくような声が響き渡った。

声のした方――金庫の後方へと目を向ける。

 

『あなたがあたしの本当の父親なんだ……ねぇ……黒田真一さん』

 

「……っ!?」

 

タロウの足が、ぴたりと止まる。

不意に突きつけられた、あまりにも残酷な真実。

 

(連れ子なことは知ってはいた……。だが美子が、真一の……実の娘……?)

 

衝撃の大きさに、タロウの瞳が激しく動揺に揺れる。息が詰まり、思考が一瞬真っ白に染まった。

 

「……っ、タ、タロウ……?」

 

いつもなら「ざこお兄ちゃん!」と真っ先に煽り散らかすはずの真夜だった。

だが、今まで見たこともないタロウの激しい動揺を前に、真夜は思わず言葉を飲んだ。

 

宙でそっとタロウの顔を覗き込み、生意気な口調を崩さないまま、どこかいたわるような視線を向ける。

 

「……な、なに固まってんのさ。こんな性根の腐ったやつ、アンタの娘なわけないじゃん……! ほら、あの金庫開けてみようよ……っ!きっとスゴイお宝だよ!」

 

煽りたい気持ちを必死に抑え、懸命にタロウの意識を前へ向けさせようとする真夜。

 

タロウは深く息を吐き出し、強引に胸の動揺をねじ伏せた。

 

「……ああ」

 

気を取り直し、タロウは金庫へ手を伸ばす。

鍵は――かかっていない。

 

重い扉を開けると、そこにはどこか見覚えのある古いビデオカメラが、大型モニターへと接続された状態で置かれていた。

 

(これは……たしか美子が幼い頃に使っていた……?)

 

タロウが小さく呟いた、その時。スタジオ中に聞き覚えのある叫びが響き渡った。

 

『やめろぉぉぉっ!!』

 

ホログラムのように浮かびあがった、ホログラムの美子が般若のような形相で現れ、往生際の悪い絶叫を上げる。

 

『壊させない! あたしは負けてない! 世間はみんなあたしの味方にしたの!あたしは勝者、常に勝ち組で、世界を動かしているのよぉぉぉっ!!』

 

「な~にが、みんなが味方よ? ……どこにもいないじゃん! カワイソ~! 無能すぎ~マジウケる~!」

 

コレ幸いと、ここぞとばかりにひたすら煽り倒す真夜。

 

タロウは美子の狂乱を一切無視し、慣れた手つきでビデオカメラの点滅する「再生」ボタンを押そうとしたが、手を止めた。

 

「(これで3度目だ。さすがにこれは露骨すぎる……あそこのモニターへも繋がっている。要は、これを使わせたいのだろう……)」

 

「(だが、だとするとどうする? 配信はさっぱりだ)」

と考えている最中、視界には美子を煽り続ける真夜の姿があった。

 

「真夜」

 

お手上げとばかりに真夜の名を呼び、任せることにした

 

「ん~?なに~?……あ!わかっちゃった~!真夜ちゃんの助けが必要なんだ~そうなんでしょう?いっひひ~」

 

「ああ、お前の助けが必要だ」

短くタロウは答えた。

 

「え!?……あ!?……そう!?……なんだ……うん!何でも言いなさいよ!あたしにかかればちょちょいのちょいよ」

 

「このビデオカメラ。再生以外に使い道はあるか?」

 

「え!?そりゃ……再生だけじゃないよ? 撮れるし、ズームもできるし……あ、パソコンに繋げてウェブカメラにもできる!」

 

パソコンと接続という単語が出た瞬間美子の表情が凍ったのをタロウは見逃さなかった。

 

「……なるほどな、そういうことか」

 

『まってまって!やめて!それは洒落にならないから。考え直そうね!』

 

タロウが呟くとあわてた様子で美子が止めようとした。

 

「お前はそう言われて考え直したことがあるのか?」

 

『え?それはモチロンありますとも。人のいやがることはしちゃいけないって習わなかった?』

 

「うッわ~。自分で言っちゃうんだ~」

胸をはり堂々と答えた美子に、真夜が引いた様子見をみせるがタロウの様子は違った。

 

「そうか?偉いな……だが俺は人のいやがることはしましょうって習ったな」

 

そういってパソコンとビデオカメラを接続する。

 

軽快な電子音が鳴り。

 

ビデオカメラのデータがパソコンに自動で送られた。

 

その瞬間―――。

 

『ギャアアアアアアアアっ!!』

 

美子の叫びと、核であるWebカメラがパキンと音を立てて亀裂を刻み、激しく砕け散る!

 

核の崩壊とともに、カメラに保存されていた「編集前のRAWデータ」が、現実世界のネット空間、SNS、すべての配信プラットフォームへと一気に逆流・流出を始めた。

 

 

 

 【現実世界:流出したRAWデータ(裏動画)】

[加工データ(配信)]

「お母さんが死んで……本当に悲しかった……」

涙を流す美子。

 

[RAWデータ(現実)]

「あー違う違う! 涙のタイミング遅い! もう一回撮り直し!」

目薬を差す美子。

 

[加工データ(配信)]

「父親のしたことは、絶対に許せません……」

 

[RAWデータ(現実)]

「ふふっ、使えるじゃん一郎お義父さん。最後まであたしが利用してあげるから」

嘲笑いながら鼻で笑う美子。

 

[加工データ(配信)]

「みんなの応援のおかげで、前を向けます!」

 

[RAWデータ(現実)]

「っしゃ、今日の配信でトレンド入りした? ホント、チョロすぎ」

 

ネット世界は大炎上を引き起こした。

 

『はっ!? ……これマジ?』

『うわっ……全部演技だったのかよ』

『母親の死も親父の冤罪も、全部金稼ぎのネタ!?』

『最低すぎる……返金しろ!』

 

名声の消滅。信者の離散。絶賛のコメントは一瞬で苛烈な誹謗中傷と炎上の嵐へと塗り替わる。

美子が心血を注いで築き上げた「最高の自分」は、跡形もなく崩壊した。

 

『あ……あ……嘘……あたしの……あたしのファンが……あたしの世界が……っ!!』

 

精神世界のあちこちにひびが入り、崩れ始める中、ホログラムの美子は己の髪をかきむしりながら狂乱の悲鳴を上げ続ける。

 

やがて――数日後。

検死の結果、高木美子は不審死と断定された。

 

 

第11話 END

 

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