リベンジ ~霊たちの見た夢~    作:しょーもないおっさん

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第十二章


偽りの後の日常編 3 12-1

 

デスクのモニターに映し出されているのは、世間を騒がせているニュース番組の映像だった。

 

『――続いてのニュースです。人気インフルエンサーの高木美子さんが都内を移動中の車内で体調を崩し、

搬送先の病院で死亡が確認されました。警察は現場の状況から事件性はなく、病死と発表し――』

 

「……またですか」

 

薄暗い執務室で、女刑事の正田法子《しょうだ のりこ》は淹れたばかりのコーヒーを一口すする。

 

モニターの傍らには、事件直後にネット上へ一斉流出した「美子の編集前RAWデータ」の解析資料と、彼女の口座記録が山のように積み上げられていた。

 

「被害者ビジネスの真実に、母親の死すら金儲けの道具にした動画……世間は大炎上ですが、問題はそこではありません」

 

法子は眉をひそめ、資料をめくる。

 

「あまりにも杜撰な編集映像です。プロの鑑識が見れば一目で作り込みだと分かる程度の代物……

だというのに、なぜこれまで誰一人として違和感を抱かなかった? 」

 

「子供ならまだしも、映像のプロや、果ては億単位の人間があんな見苦しい嘘を疑いもせず信じ込む……あり得ません」

 

さらに不可解なのは、彼女の死の直前に裏社会へ打たれていた【一千万円の謎の懸賞金】。

表向きは健気な悲劇のヒロイン、その裏で半グレや情報屋を金で動かしていた事実。

 

「……考えづらい。ただの二十歳そこいらの小娘が、一人で仕切れる規模ではありません」

 

 

極めつけは、不可解すぎる死亡事案。

車載カメラの映像も確認したが、不審人物の影すら映っていなかった。

文字通り、突然糸が切れたように動かなくなったのだ。

 

下井清太。高木美代。そして娘の高木美子。

あまりにも不自然で、あまりにも理解不能な件。

 

「科学では説明がつかない……これは……何……?」

 

法子は手にしていた紙コップを静かに握り潰すと、壁のホワイトボードに貼られた捜査資料――

下井清太、高木美代、高木美子の写真を、赤いマーカーで一直線に結びつけた。

 

 

この街の人間たちはまだ、自分たちが「侵食されていた」ことに気づいていない。

 

 

巨大スクリーンに映し出されるニュースキャスターの無機質な声。

 

『――続いてのニュースです。

先日急逝した人気インフルエンサー・高木美子氏の「裏動画」として拡散されている映像について、

サイバー犯罪専門家は「最新の生成AIによる精密なディープフェイクの可能性が高い」との見解を示しました。

警察当局も現時点で事件性は確認されていないとしており――』

 

通り過ぎる若者たちが、スマホを片手に冷めた声で交わす。

 

「なんだ、やっぱAIの捏造かよ」

「マジ焦ったー。あんな可愛い子が裏でゲスいこと言ってるわけないもんね」

 

 

新聞を広げる中年サラリーマン。

一面に躍る見出し――『下井清太氏、高木美代氏、高木美子氏……相次ぐ著名人の突然死』。

 

「……なぁ、ちょっと聞きたいんだけどさ」

 

同僚がコーヒーを啜りながら、怪しむように首をかしげる。

 

「なにが?」

「いや……高木美代って慈善活動家のフリをしてたヤツ……だったよな? ホントはそんな活動なんか一切してなかったとかなんとか、ネットで話題になってなかったか?」

「は? なに言ってんだお前。疲れすぎてんじゃねえの? ちゃんと大々的に寄付支援をしてただろ」

「ほら見ろよ、ココにソースが……アレ? ない?」

 

同僚がスマホで検索画面を開く。

だが、そこに表示されるのは根拠のない噂話の記事ばかりで、つい先日まで確かに存在していたはずのデータは消え失せていた。

 

 

暗い部屋に並ぶいくつものモニター。

下井清太の会社から流出した「窃盗と横領のデータ」。

高木美代の「DV被害の虚偽申告」。

高木美子の「詐欺行為」。

 

画面を睨みつける捜査官たちが、頭を抱えて唸っている。

 

「……解析結果が出ましたが……やはり、捏造ではありません。データは本物です」

 

「どういうことだ? 我々の知っている事実と、まったく噛み合わんぞ」

 

「ですが、押収した証拠品を再度洗った結果、彼らの犯行を決定付ける証拠が次々と出てきています……」

 

「バカバカしい! どうせハッカーによる高度なサイバー攻撃だ!

これ以上、世間を混乱させるわけにはいかん。上からの指示だ、『原因不明のシステムエラーによるデータ流出』で処理しろ!」

 

 

夕暮れ時。雑踏を行き交う群衆。

 

――ピシッ。

 

都市そのものの空気に、目に見えない小さな「亀裂」が走った。

 

通りすがる人々はスマホの画面を見つめ、ヘッドホンで耳を塞ぎ、誰一人として世界の亀裂に気づかない。

 

ただ一人の男と、その傍らに浮かぶ幽霊だけが、静かに上を見上げていた――。

 

 

最初は小さな違和感だった。

誰もがそれを「よくある捏造」と笑い捨て、無かったことにしようとした。

だが、時間は静かに、しかし確実に信憑性を増していく。

 

【三日後】

静かに、一つの記事が公開された。

 

『第三者機関による解析結果――編集痕跡なし』

 

その数時間後。

 

ネットは爆発した。

 

【審議】高木美子の裏RAWデータ、マジで本物っぽい件について

12: 名無しさん

ディープフェイク説押してた専門家、手のひらクルックルで草

 

25: 名無しさん

メタデータ解析した職人が『編集痕跡ゼロ』って結論出してたな。

 

38: 名無しさん

某下井の会社も内部監査入って横領の裏帳簿出まくってるらしいぞ……。

 

51: 名無しさん

え、じゃあ今まで俺たちが信じてたニュースって何だったの??

 

 

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