一方その頃。
陽だまりの住宅地で、一人の男が何かに気づき、上空を見上げていた。
「入口が開いた!? ばかな……!! “真実を知る者”は始末した、いるわけがない!……!?」
「……そういうことか!! 黒田涼二!! やってくれたな! 黒田香澄……母も目撃していたのかー!!」
激昂し、その場で八つ当たりのように壁を蹴っていた真一。そのもとに、家の中から女性が顔を出し、何事かと尋ねた。
「どうしたの? 突然大きな声を上げて、何かあったの?」
そんな声を聞いた真一は振り向き、何事もないかのような顔で返事をした。
「ああ、なんでもないよ。ちょっと足元に虫がいてね、驚いてしまったんだ。それより、ちょっと急用を思い出したから出かけてくるよ」
そう言うと、真一は足早に駆け出していった。
◇
そんな事を知る由もなく、精神世界へと侵入を果たしたタロウと真夜が見たのは、何の変哲もない一軒家だった。
「!!」
「なにこれ? え!? ここって前に来たあんたの生家? だよね? これがあのざこ黒幕の?」
言葉を失っているタロウの横で、真夜が目を白黒させていた。
「行こう。……核を見つけ出す」
「え? でも、どこにあるかわからないよ?」
絞り出すようなタロウの言葉に、真夜が尋ねる。
「ここは、田中一郎……俺の育った家だ。誰よりもよく知っているし。アイツなら、核は一郎の部屋だ。
真っ直ぐに歩き出すタロウの後ろを、真夜が追う。
玄関から中に入り、階段を上ると、脇目も振らずに歩を進めていく。
直後、空間が激しく明滅し、真一の過去がスクリーンのように連続して映し出された。
カット1:一郎の家族が和気藹々と談笑している。その光景を羨ましげに眺める真一。
カット2:一郎と光が楽しそうに笑い合っている。それを憎らしげに見つめる真一。
カット3:夕暮れ。迎えに来ている見ず知らずの母子を眺めている真一。
カット4:公園でキャッチボールをしている父子を、遠くから見つめる真一。
カット5:光と二人きり。告白し、断られる真一。
カット6:蔵で本を読み漁り、歓喜の笑みを浮かべる真一。
カット7:美代に賭けを持ちかけ、その後車に細工を行う真一。
カット8:遺影の前で泣き崩れる一郎の後ろで、口元を歪める真一。
カット9:美子が得意げな顔で、真一と話している。
カット10:清太が金を前に大喜びし、その後ろでほくそ笑む真一。
映像がノイズと共に弾け飛ぶ。
そして目の前には木製のドアが現れ、そこには『一郎』と書かれたプレートが掛かっていた。
「ここ?」
真夜が指差すと、タロウが静かに頷いた。
ガチャッ―――。
扉を開けると、壁に掛けられたペナントやキャンバス画がまず目に飛び込んできた。机の上には手書きのメッセージカードやミニ色紙、そして右側に寄った二人が笑顔で写る写真立てが、ひっそりと置かれている。
そして、こちらに背を向けたまま椅子に腰掛けている男がいた。
「まったく、人の精神に土足で誰が入ってきたのかと思えば……。」
「ここは君たちのようなクズが入っていい場所ではない。即刻立ち去れ。そうすれば、命だけは助けてやろう」
後ろを向いたまま、男が語りかける。
「え!? なんでいんの!? ここってあたしたちしか入れないんじゃなかったの!? 聞いてないし!!?」
「当たり前さ。あんな劣化物と一緒にされては困るよ。俺こそが正式な契約者。これくらいできるとも、なによりあいつらはただのおまけ。分体だ」
真一がこちらに振り向き、肩をすくめながら語る。
「それにしても、なるほどね。道理で最近、駒の分際で弁えない連中が静かだと思っていたが……君たちの仕業だったのか」
「なるほど、なるほど。つまり、君たちが怨念の集合体“レギオン”というヤツなわけだ」
真一はタロウと真夜を観察するように見つめた。
「ふわ! なんかバレてんじゃん!! なんで!!?」
「当然それも知っているさ。精神世界に入れる存在のことはね」
混乱する真夜に対して、真一が事もなげに答える。
「知ってるなら話は早いな。ここでお前の核を破壊する」
「君たちには無理さ。俺のことを何も知らない君たちにはね……」
「いいや、知ってるさ。よーくな……お前の核はこれだろ?」
タロウはおもむろに、窓際に置かれていた『右側に寄った二人が笑顔で写る写真立て』を手に取った。
そして、自分の懐に入っていた『3人が並んで写った写真』を取り出す。
「!? ……なぜ!それが!?」
真一が驚愕の表情を浮かべていたが、タロウは取り合わず、二枚の写真を入れ替えた。
その瞬間――。
バキッ――――。
世界に亀裂が入る音が響き渡る。
「ばかな! なぜだ!?」
「まだわからないのか、真一。お前を地獄に落とすために戻ってきたんだよ」
そう言って、タロウは自分の姿を「一郎」へと変化させた。
「はっ……!? 一郎……!? なぜ……? そうか、レギオン、集合体……。またか……またなのかー!!!」
突然、声を荒げる真一。
「いつもいつもいつもいつもーー!! なぜお前なんだ! 特段容姿も優れていない! 頭脳が明晰でもない! 何もない!! それがぁぁぁ! お前だぁぁぁ!!」
「……なのになぜ、いつもお前の周りには人が集まる!? なぜそこにいるのが俺じゃないんだ……!」
「今もそうだ! こんな場所に、そんな姿になったお前の隣には……また誰かがいる!」
真一は叫びながら真夜を指差し、一郎を糾弾した。
「え!? あたし? いや~、やっぱあたしって重要? 重要だってさ~? ざこざこお兄ちゃん! いっひひ~」
煽る真夜を無視し、一郎は冷ややかに言い放つ。
「……だから?」
「はっ? だから、だと!? お前―――」
バキバキッ――――。
世界の亀裂がさらに大きく入る音が響き渡る。
「真一。要はただの嫉妬じゃないか。お前はただ、羨ましいだけなんだろ?」
「そうじゃない!一郎!俺が憎くないのか!!」
「俺はお前を嵌め、光たちの命を奪ったんだぞ!」
「なぜ!もっと憎しみの目を向けない!?あの時のように……」
そんな真一に対し、タロウはもはや眼中にないといわんばかりに、視線を外し冷静に告げていた。
「なぁ?真一……お前のことは今でも、許せない。怒りも憎しみもある。だがソレだけには俺は囚われはしない」
「今ここでお前の世界を破壊するのは……ケジメだ」
「ふ、ふざけるなよ!一郎ー!!お前だって堕ちたんだ!なぜまた這い上がれる!なぜそんな落ち着いている!憎いんだろ!」
「お前もさっき言ってたろ?俺の周りにはいるんだよ……前を向かせてくれるそんなヤツラがな」
「そんな……俺は……俺がやったことは」
落胆し肩を下げる真一に、一郎は告げる。
「真一。お別れだ。じゃあな」
踵を返し、出口へと向かい始める。
「!?……待て! 一郎! せめて、せめてお前の手で―――」
バキバキバキンッ――――。
最後のセリフを言い切る前に、真一の姿は光の粒子となってその場から消え去った。
「うっわ~! 最後まで聞いてあげないとか、ざこ鬼畜すぎ~! ……でもこれでよかったの?」
「ああ……最後にアイツの願いなんて、聞いてやる必要はないさ」
その言葉を最後に、世界は眩い光に包み込まれた。