リベンジ ~霊たちの見た夢~    作:しょーもないおっさん

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全ての虚構が脆く崩れ去った、現実の世界。

禍々しい空気を孕んでいた黒田邸をあとにし、タロウと真夜の二人は静まり返った街を歩いていた。

 

いつものアパートへと続く道すがら、真夜がふと立ち止まり、道の端を指差した。

 

「ねえ? あそこ。うずくまってるざこがいるね?」

 

真夜が指をさす先、街灯の薄暗い影の中に、一人の子供が膝を抱えて座り込んでいた。着古した服は汚れ、肩を細かく震わせている。

 

タロウは無言のまま足音を忍ばせて近づくと、低い声で問いかけた。

 

「おい。どうした?」

 

子供はおそるおそる顔を上げた。その瞳は涙で濡れ、深い絶望と怒りに彩られている。

 

「母さんが……ひき逃げにあって殺されたんだ。警察に言ったのに、誰も信じてくれなくて、それで……」

 

子供の掠れた声が夜の静寂に落ちる。隠された罪、揉み消された真相。虚構の世界を破った後もなお、現実には救いのない理不尽が渦巻いている。

 

タロウは何も言わず、静かにその言葉を受け止めていた。

 

「うっわ~、まだそんな酷いことするヤツがいるんだ! 懲らしめてやるからね。タロウが……」

 

真夜が呆れたように呟く。

 

タロウは深く息を吐き出すと、子供の前に屈み、差し出すように手を向けた。

 

「立て。とりあえず飯を食いに行くぞ」

 

「え!? うわ!」

 

突然腕を引かれ、子供は驚きながらも立ち上がった。その小さく冷え切った手をしっかりと握り締め、タロウは迷いのない足取りで歩き出す。

 

 

たどり着いた道の先には、温かな灯りが漏れる孤児院があった。

建物の前で掃除をしていた朝日が、近づいてくる人影に気づいてパッと表情を明るくし、手を振る。

 

「おはよう。タロウお兄ちゃん! ……えっと? その子は?」

 

「とりあえず、飯を食わせてやってくれ」

 

多くは語らず、タロウは驚く子供の背中を優しく押し、朝日にその身を任せた。朝日はすぐに事態を察したように頷き、子供の手を温かく包み込む。

 

「あれ? タロウお兄ちゃんはどこ行くの?」

 

くるりと踵を返して歩き出すタロウに、朝日が不思議そうに問いかける。

 

タロウは振り返ることもなく、ただ一言だけ残して去っていった。

 

「デザートを買いに行ってくる」

 

 

その日の夕方。街のテレビから流れるニュースが、ある事件の進展を報じた。

『――本日午後、未解決となっていたひき逃げ事件の容疑者が、警察署に突如自首しました。容疑者は酷く怯えた様子で……』

 

その日を境に、この街の片隅で、ある噂が静かに囁かれるようになった。

 

「なー、知ってるか? あの噂」

 

「噂? どんなよ?」

 

「なんでも、この街にはいるらしいぜ? 法で裁けない悪に制裁を下すヒーローがよ」

 

「なんだよそれ? 漫画の読みすぎだろ。それに、それだと『ヒーロー』っていうより『ダークヒーロー』だろ」

 

「それもそうだな」と男二人が笑い合いながら立ち去っていく。

 

その二人組の姿が遠ざかった後、しんと静まり返った薄暗い路地裏から、黒いジャケットを着た男――タロウが姿を現した。

 

タロウは、己の横にいる存在へ語りかけるように呟いた。

 

「朝日への土産はケーキでいいよな?」

 

即座に、真夜の呆れた声が隣の空間から響く。

 

「ま~た、ざこの一つ覚えにケーキ~。この前も、その前もケーキだったじゃん! たまには変えないと朝日ちゃんに愛想尽かされちゃうよ~。いっひひ~」

 

「待て! この前はチーズケーキで、その前はショートケーキだったはずだ。そして、今回はチョコレートケーキだ。同じじゃない」

 

真面目な顔で反論するタロウに、真夜は深々とため息をついた。

 

「……え~と、ホンキで言ってる? ホンキなら処置なしじゃん。朝日ちゃんに嫌われコースまっしぐら~寂しい老後コース!きゃはは!」

 

「むっ。そ、そうか……ならどうするか?」

 

真剣に悩み始めたタロウを見て、真夜はドヤ顔を浮かべる気配を見せる。

 

「やっぱ、ざこお兄ちゃんにはあたしがいないとダメなんだから。ま、これからもメンドー見てあげるから、感謝しなさいよね」

 

「ああ、これからも頼む」

 

短いやり取りを交わし、男は再び歩き出す。

理不尽な現実に立ち向かい、闇の中で誰かの明日を守るために。その足取りに迷いはなかった。

 

 

 

 

 




リベンジ ~霊たちの見た夢~ 完結 となります。

お読みいただきありがとうございました。
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