Millennium's Sky High 作:リンクス志望者
新しく書いたssを投稿する。
心配だ……。けれどそれより、ずっと楽しみです。
(空力要素は次回以降登場予定です……。)
鳴り止まぬ銃声。爆発音と、コーラルの焼ける音。
二機の人型兵器による戦闘は、終局を迎えようとしていた。
「コーラルを焼けば……俺たちの仕事は終わる……」
機体を瞬時に修復する『リペアキット』、それを先に使い切ったのは敵機 HAL 826 。わたしの───大切な飼い主だった男、ハンドラー・ウォルターの駆る機体だ。
対してわたしの機体はまだ余裕がある。
わたしは、突如として発生した機体、及び肉体の不調に悩まされていた。
ディスプレイが何故か水に濡れたように滲んでいて、見えずらい。
射撃トリガーがいつもより重い。
何故か手が震えている。
目が、身体が熱い。
なにか───苦しい感じがする。
ディスプレイの不調に関しては、被弾の衝撃でカメラがおかしくなったのだろう。何せこの機体のヘッドパーツは
『……いいえ、レイヴン。機体には何の異変も起こっていません』
と、あなたの脳内のコーラル管理デバイスを介し、『交信』で語りかけるのはエア。『Cパルス変異波形』、実体を持たぬルビコニアン。
一体どういう事だろうか。機体に異常が発生していないのなら、このディスプレイの滲みは何だ。
『レイヴン……その《ディスプレイの滲み》は───あなたの流した、涙によるものです』
涙? という事は……泣いている? わたしが? 旧世代型、第四世代の強化人間である───感情の起伏に乏しく
……うそだ、そんな事は。
『いいえ、嘘ではありません』
『確かに、あなたは感情の起伏に乏しかった』
エアの声を見ながら、直感に任せてクイックブーストを吹かす。水平方向への瞬間的加速により、相手の攻撃を回避する───わたしとこの
『ですが……それはあなたの中から完全に消え去った訳ではありません』
『あなたの感情は、私やラスティ、ウォルター達との交流を通して徐々に豊かさを取り戻し、───再び、あなたの心に火をつけました』
『……《一度生まれたものは、そう簡単には死なない》』
そう言われた瞬間。
わたしは、身体の内に宿る熱い感覚を自覚した。
久しく、忘れていた感覚。
そうだ、これが、これが───
感情の爆発。
『泣くこと』。
わたしがかつて奪われたことの一つ。
……それを取り戻したのは良い事だったけれど、今は状況が悪かった。
『───っ、レイヴン、後ろです!』
身体の内から湧き上がるような感覚に気を取られた私は、ウォルターの放ったコーラルミサイルが背後から迫っているのに気付かなかった。
避けきれず、被弾。
〈AP 残り30% ───リペアキット 残数 1〉
無機質な音声が二回、コックピットに響いた。
「お前が稼いだ金だ……」
それと同時に、暖かい声が聞こえた。
「……再手術をして、普通の人生を……」
……歯を、食いしばる。そうしていないと、もう心が折れてしまって闘えそうにないから。そうしないと───『この一撃』を叩き込む為の覚悟ができないから。
肩部武装ハンガーを使用。左肩のレーザーダガーと、左手のマシンガンを入れ替えた。
左手武装の射撃トリガーを、……今までにない位の力で、引く。
レーザーダガーが展開され、光の刃を形作った。
ブースターが起動し、青い噴射炎が機体を押し出して───
「62……1………」
振り抜いた光刃は、敵機の腹部を横一文字に切りつけた。
───
「使命を……友人達の、意志を……!」
うめくように絞り出された声と共に、ウォルターは機体右手の武装をわたしに向けた。
コーラルの紅い光が収束する。───攻撃が、来る。
避けなければいけない。
わたしにはまだやるべき事がある。
『人とコーラルの共存』。わたしが、大切な人たちを裏切ってでも成し遂げたかった目的。
けれど、けれども。
『このまま、ウォルターに殺られるのも悪くないな』なんて。『わたしが居なくなっても、解放戦線の人達が上手くやるんじゃないか』なんて。
そんな思いが、僅かに頭の中に忍び込んで。
銃を向けられているというのに、驚く程の無抵抗な姿勢で、わたしはウォルターと向き合っていた。
「……そうか、621」
ウォルターが口を開いた。同時に、わたしに向けていた銃口を下ろした。
彼の事を、もっと鮮明に眼に焼き付けたくて。でも、涙で視界が滲んでいて。
わたしは手の甲で涙を拭った。何度も何度も。けれど、その度にまた流れた涙が、わたしの視界を遮る。
「お前にも、友人が出来た───」
……わたしは、限界を迎えた。
自力で出す事の叶わない声を張り上げ、包帯の絡みついた両の手のひらで顔を覆って。
わたしは感情を爆発させた。
『ウォルター……! ……行きましょう、レイヴン……! ……レイヴン?』
けれど、この世界では───それが、出来なかった。
感情を取り戻し
大気圏へと突入する、墜ちるザイレム。大気との摩擦で全てが燃える。
物語の初め、似たような事があったが───あの時とは状況が違う。大気圏突入用のポッドはなく、搭乗している機体は余りにも脆い。
耐えられないのだ。───あの時と同じ状況に。
『……分かりました、レイヴン。あなたは、《その選択》をするのですね。……では、───』
声が見える。それは、この世界でレイヴンが最期に見る声。
『私は、最期まであなたと共に在ります』
『───あなたを、独りにはしません』
脳内の変異波形と共に、炎に包み込まれた。
視界が、全てが赤く染まっていく。
その、刹那───
透き通るような、青を見た。
『レイヴン』
声が見える。
もう二度と見れないはずの声が、もう一度。
『目を覚まして下さい、レイヴン』
自分は死んだはずだ。エアの声なんてもう見えないはず。
そういえば、人は死の間際に『走馬灯』なるものを見るという。これがその走馬灯というものなのだろうか。
『違います、レイヴン』
違ったらしい。
それでは、この声は一体なんだ。
わたしは死んだはずなのに、何故エアの声が見えるのだろうか。
ゆっくりと、眼を開いた。
……知らない天井が見える。
ここはどこだろうか。
どうやら何らかの医療的措置をされているようで、機器類が規則的な電子音を奏で、腕には点滴の管が刺さっている。
その時、喉元に強烈な違和感と異物感を感じて、咳き込んだ。
ころん、と、喉から何かが飛び出した。唾液が絡みついてぬめっとしているこの小型装置は───
『これは……発声補助装置のようですね』
発声補助装置。
強化手術の際、身体に埋め込まれた様々なデバイスの一つ。手術によって失われた発音機能を補うもの。
……少し咳をした位で飛び出るようなものではないが、これは一体……。
『ところでレイヴン、あなたが眠っている間に色々な事があったのですが……』
なるほど、是非聞かせて欲しい。
『はい。まずは、この場所について…』
『待って下さい、誰かがこの部屋に接近しています。人数は……三人、でしょうか』
エアの言う通り、三人組が早足で近づいて来るような足音が聞こえる。強化人間の聴力は伊達ではない。
『この場所についての説明は……彼女達にしてもらうのが良いでしょう』
……相手が話の通じる人間であれば良いのだが。
次の瞬間、ばたん、と扉が勢いよく開かれた。
膝まで届く長い黒髪、赤目の長身。頭上に謎の光輪。
腰まで届く長い薄紫髪、髪色と同じ色の目。こちらも頭上に謎の光輪。
橙に近い短髪、低身長。やはり、頭上に謎の光輪。
三人とも銃を持っている。生身では勝ち目が無い。
わたしは、大人しく両手をあげて投降の意を示す事にした。
『ミレニアムサイエンススクール、セミナー会長の調月リオ、エンジニア部部長の白石ウタハ、そしてC&Cのリーダー、美甘ネル。特に橙色の髪の美甘ネルは、その類い稀なる戦闘能力と100%を記録する依頼成功率から、約束された勝利の象徴と呼ばれているようです』
なるほど、流石はエアだ。相変わらずの情報収集能力である。
「目を……覚ましたのね」
「良かった、もう何週間も眠りっぱなしだったからね。……ああ、それと、こちらに君を害すつもりはないから、安心してくれ」
「……ただし、テメェが妙なマネしない限りな」
そう言うと、美甘ネルというらしい少女は鎖で繋がれた二丁のマシンガンをわたしに向けた。
……なるほど、マシンガンのダブルトリガー。彼女とはとても気が合いそうだ。
「……ネル、いきなり銃を向けるのはやめなさい。相手はついさっきまで意識不明だったのよ」
「……別に死にやしねぇんだから良いだろ」
と言いつつも、美甘ネルは構えていた銃を下ろし───『別に死にやしない』?
どういう事だ。この生身の身体を銃で撃っても死なないと言ったのか? 金属で出来ている訳でもないこの身体を?
『レイヴン』
そこへ、エアからの交信が入った。視界が紅く染まる。声が見える。
『あなたが眠っている間に、この土地の事を調べてみたのですが……』
『どうやらこの土地の人間は、銃撃や爆破といった凡ゆる攻撃に対して非常に強い耐性を持っているようです』
『恐らくは……ACに搭載される兵装の攻撃をまともに受けても、気絶で済む程度の被害しか受けないでしょう』
『そしてその耐性は、あなたも獲得している……』
「……! おい! 聞いてんのか!? 何をボケーっとしてんだ!」
耳に飛び込んできた大きな声に意識を引き戻されたわたしは、憤る少女に意識が回復した直後で少し朦朧としていた、申し訳ないと謝罪を述べた。
「……何を無言で口も開かずあたしの顔をじっと見つめてんだよ! 何とか言え!」
……そうだ、今は発声補助装置が無いんだった。
となると困る、アレが無いとわたしはエア以外との会話による意思疎通が出来ない。こうなったら身振り手振りで……
わたしは自分の喉を指さし、その後手で✕を作った。
「君は……もしかして、喋れないのかい?」
こくこくと首を縦に振る。
「マジかよ……。あー……悪かったな、怒鳴りつけちまって」
「……」
良かった、私は喋れないということが無事に伝わった様だ。
しかし調月リオと言うらしい人物は怪訝そうな顔をしている。どうかしたのだろうか?
「そうだな、……よし。 それなら私のスマホを貸そう。文字入力は出来るね? それを使ってやり取りをしようか」
と、白石ウタハと言うらしい少女がポケットから端末を取り出して、それを起動した───次の瞬間。
非常に大音量な音声が再生された。
「発明や開発が
必要なら!
私たちエンジニ───」
わーっ!?
……しまった、驚いてつい大きな……声を……だし、て……?
「すまない! 我々エンジニア部のPR動画……って、君、声が………出せた様だね?」
「なるほどな。あたしらにウソついてたってわけか。……中々良い度胸してんじゃあねぇか、え?」
「……ちょっと待って頂戴、ネル。この件についてはまた後にしましょう。今は用件を済ませるのが先決よ」
……用件?
わたしに何の用があるのだろうか。
困惑しつつも、とりあえず私は自力で声を出せる事を受け入れた。
「ただの質問よ」
……なるほど。答えられる範囲で答えよう。ただし、こちらの質問にも答えて貰えるなら、だが。
「は? ……てめぇ、この状況でそんな言い分が通る訳が───」
「通るわ、ネル。私は構わない。……気持ちは分かるけれど、今は一旦呑み込んで」
「……チッ」
「……ごめんなさい。それで、何が聞きたいの?」
その後、わたしは調月リオから様々な事を聞き出し
た。
ここは『学園都市キヴォトス』の『ミレニアムサイエンススクール』という高校の自治区の郊外にある、調月リオが個人で所有する施設であること。
彼女たちの頭上に浮かんでいる謎の光輪は、『ヘイロー』と呼ばれるものであること。(何故か聞いたら怪訝な顔をされた)
墜落したわたしを最初に見つけたのは、たまたま付近を散歩していたエンジニア部の部長、紫髪の少女白石ウタハであること。
事が重大であると悟った彼女は、美甘ネルがリーダーを務めるC&Cに連絡を入れ───そこを経由し、セミナーの会長である調月リオに話が伝わったこと。
そして───秘密裏に、わたしの身柄と
そう。巨大人型兵器。
「状況からして、貴女とコレが無関係であるとは思えない。一つ目の質問よ。───一体、これは何? 一応言っておくけれど、私たちはこの手の分野にある程度の知識を持っている。貴女が口を開かなくても、時間があればアレを解析できるわ」
「……ふふっ、望むところだね。ん"ん"っ、リオ。そういう脅すような言い方は……」
「虚偽の申告や黙秘を事前に防ぐ、合理的な言い方と言って頂戴。……話を戻すわ。例え貴女が私たちに虚偽を述べたり、黙秘したりしても、私たちはいずれそれを看破できるわ。発言には気をつける事ね」
調月リオは、端末に映し出された写真をわたしに見せた。そこに映されたもの。
暗い青を基調としたカラーリング、胸部の白い渡鴉のエンブレム、搭載されている各種武装、及び機体パーツ。
紛れもない、わたしのACである。
「貴女の───えーしー。それがこの兵器の呼称? 貴女はこの兵器のパイロット、という事よね? 詳しく聞かせて貰えるかしら」
『レイヴン、どうやらこの惑星にはACやMTといった兵器が存在していない様です。』
なるほど、と調月リオの発言とエアの交信から状況を把握した私は、ACという兵器の説明をする事にした。
「なるほど……アーマード・コア、略称AC。機体の各種パーツを組み替える事で様々な状況に対応できる人型兵器……」
「なんて事だ……まさにロマンの塊じゃないか! 今日というこの日を迎えられて良かった……! リオ! 私はこの高校に入学できて本っ当に嬉しいよ!」
「……かっけぇ………。なあ、もっと近くに行って見に行っても良いか?」
「……どうかしら?」
と、調月リオが問いかけるようにわたしを見つめるので、了承する事にした。見るだけなら構わない、と。
「っしゃあ! 行くぞウタハ!」
「ああっ、望むところだ!」
二人の少女は、眩しい笑顔を浮かべながら部屋の外へと走っていってしまった。
……いい表情だった。正直、あんな顔ができる事が羨ましい。
わたしも、いつかあんな笑顔を浮かべられるのだろうか。
感情の豊かさを取り戻した、今なら。
「さて……二つ目の質問よ。本当は真っ先に聞くべきだったけれど……貴女の素性についてよ。……その前に、一つだけ」
と、少し緊張した様に目を泳がせながら、調月リオは口を開いた。
「私は……貴女を保護した後、身体検査の目的で貴女の身体をスキャンさせて貰ったわ。CTスキャンやMRI、と言えば分かるかしら。異常があれば、外部の医療機関に治療を依頼するつもりだった。けれど───」
彼女は端末を操作し、画像をわたしに見せながら言った。
「声帯。眼球。そして……脳の深く。貴女の身体には……不明な機器がいくつか埋め込まれている事が判明したわ」
声帯の発声補助装置。
眼球の音声再生デバイス。*1
脳深部コーラル管理デバイス。
それらは、かつてわたしが受けた強化人間手術の結果だった。
「……言いたくなければ、何も言わなくて良いわ。出来れば、で構わない」
調月リオは、ベッドに横になっているわたしに視線を合わせるように屈んで、冷静な、そして僅かに緊張を含んでいる声色で言った。
「これは……一体、何なの? わたしの予測では、特に脳内にあるこの装置は───」
……脳深部コーラル管理デバイス。
わたしの意識の覚醒・休眠の他、戦闘モードや通常モード等への移行を外部からの入力で行えるようにする装置だ。
「……っ! どうして、こんなものが……!」
……?
なぜ彼女はこんなにショックを受けているのだろうか。強化人間手術なんてよくある話だと言うのに。
いや、まあ、『あ、そうなんだ。で? それが何か問題?』みたいに血も涙も心も無い反応を返されるよりはずっと嬉しいが。
それに、モノ扱いが当然のわたしの処遇にこんな反応をしてくれるのは、それは彼女が人間としてあるべき良心と常識を兼ね備えた素晴らしい人物であることの証拠だ。
早い話、わたしは調月リオという人物に好感を覚えた。
『レイヴン、先程は伝え損ねてしまったのですが……』
と、またもやエアからの交信が。
『どうやらこの星の文明は、未だ恒星間航行を実現出来ていない様です』
という事は、つまり───
『この惑星の人々は、かつて地球から宇宙へと飛び立ったあなた達《人類》と別の《人類》である可能性が高い……という事ですね』
なるほど、要するにこの惑星は、太陽系の第三惑星である地球で誕生したわたし達人類が未だ発見できていなかった完全に未知の惑星で、尚且つそこには既に人類によく似た知的生命体が文明を築いていた、と。
どうやってあの状況からそんな惑星まで漂流を……?
『……すみません、それは私にも分かりません。ACの稼働ログを確認すれば、得られる情報もあるかも知れません。……それと、もう一つ』
『この惑星では、私達で言う所の強化手術が禁忌とされている様です』
『あなたが受けた強化手術は、この惑星の人々にとって私たちが感じる以上に残酷なものとして映る……』
『そして、どうやら彼女はあなたを《この惑星で生まれ育った人物である》と、誤解しています』
『先程の調月リオの反応は、恐らくはこれらの理由が原因でしょう』
……なるほど、彼女がわたしの諸々にあのような反応をしたのにはそんな理由が。
しかしわたしの調月リオへの好感は揺るがない。
彼女が受けたショックを、少しでも緩和させたい、と考えたわたしは、自分が遠い惑星からやって来たという説明と共に、わたし達の過ごしていた惑星ではこうした強化手術の例が割とありふれている事などを説明することにした。
……見た目こそかなり似ているが、恐らくわたしと調月リオは異星人という関係になる。わたしはルビコン3という辺境の開発惑星で活動していた独立傭兵の一人だ。
恒星間航行が一般化され、人類が故郷なる星、地球を飛び出し、宇宙の───
「……ちょっと、待って頂戴。今、『地球』と言ったわね?」
なるほど、地球の事は知っていたようだ。
残念ながら、わたしは行ったことが無いのだが……話によると、地球という惑星には『サクラ』という綺麗な木があるらしい。それで……
「ここは地球よ」
「あなたが今いるこの星は」
「……紛れもなく、太陽系第三惑星の、地球よ」
……えっ?
読んでくださりありがとうございました!
LOADER4は出ない予定ですが、要望などが多ければ出します。
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