結局あの日から俺は勉強会に参加する事は無くなった。放課後になるとさっさと帰って愛衣とテスト勉強をする日々を送っていた。そういえば赤点候補の3馬鹿と言われていた3人は平田の勉強会ではなく、別のグループにて必死に勉強しているらしい。なんか一悶着あったらしいが、Dクラスのアイドル、櫛田桔梗とのデートを勝ち取る為に教材に齧り付いているとか。バカは単純だから扱いやすくていい。そしていつの間にかテストまで1週間を切っており、今日も変わらず部屋に戻って勉強を始めようとしていた。
「愛衣、そこは範囲外じゃないか?」
「何言ってるの、今日テスト範囲が変更されたって言われたじゃん」
「いや...今初めて聞いた...マジで変更されたのか?」
「ほらこれ、新しい範囲」
渡されたプリントを確認する。そこには確かに変更されたテスト範囲が記されていた。
「まさか聞かされてないの?ヤバくない?」
「職務怠慢もいいところだな...まあ放っておくか。今は自分の勉強が優先だし、月曜には知れるだろうし」
「いいの?」
「最悪月曜の放課後には知らせるつもりだ。慌てふためくあいつらの顔が見たいしな」
ここ数日の間に、クラスの女共が愛衣の悪口を漏らしていた。やれ良いのは顔だけだの、性根が腐ってるだの、減るポイントが無いからって好き放題言いやがっていた。一度しか話していない癖に愛衣に対しての誹謗中傷など許す訳が無い。その制裁のつもりで情報の公開を遅らせて貰おう。精々焦るがいい。
「そうだ、そろそろお米が無くなりそうだよ。あと朝のおかずとかも欲しいかも、買いに行かなきゃ」
「じゃあ気分転換ついでに買いに行くか。最近ずっと勉強ばっかりだし」
「たまには身体動かさないとね」
月曜、朝のHRで範囲変更の知らせはなく、帰りのHRでもその話は挙がらなかった。つまりマジで忘れている恐れがある。
「平田、ちょっといいか」
「うん、どうかしたの?」
「中間テストの範囲が変更されてるのは知ってるか」
「えっ...?どういうこと?」
「その様子だと知らないか...Dクラス以外のクラスは先週の金曜の時点で中間テストの範囲が変更されたという通達があったらしい」
「どうして、Dクラスだけ...」
「真意は分からないが、とにかく確認した方がいいだろうな」
「そうだね、ちょっと職員室に行って確認してくるよ」
そう言うと平田は1人、職員室に向かっていった。
「ねえ火神君」
声をかけてきたのはDクラスのアイドル的な存在、櫛田桔梗。皆と仲良くなるとか酔狂なことを言っていた女子だ。豊満な胸を備えた恵まれた肉体を持ち、男子共のキモイ視線があっても水泳の授業にちゃんと参加して、そんなキモイ視線を送っていた男子共とも仲良くしようとする、俺からすれば変わった女子だ。あそこまで露骨だったら他の女子達みたいにサボろうと思うのだが、真面目なのかもしれない。確かに出るとこは出て締まるところは締まっている理想的な身体だが、個人的にはやはり愛衣の方が好みである。
「なんだ櫛田」
「試験範囲が変わった話本当なの?」
「間違いない。新しい範囲の紙もある」
「そっか...ちょっとマズイかもしれないなぁ...」
「確かに今までの勉強が無駄になる可能性はあるな」
「それもだけど、問題は池くん達なの」
そういえばあの3馬鹿の勉強は誰かが見ていると聞いたが、櫛田だったのか。
「櫛田が3人の面倒見ているのか?」
「実際に面倒見てるのは堀北さんだよ。私はそのお手伝いってところかな」
「...堀北って誰」
多分自己紹介の時に出て行った内の誰かだろう。名前も聞いた事無いな...。
「...そういえば自己紹介の時堀北さんいなくなってたね」
ということで堀北について少し教えてもらった(櫛田に主観で)。他人と関わりたがらず、基本的に1人。隣の席の綾小路清隆とも会話は殆どない。勉強会を開ける程度には勉強ができる。不出来な人間を見下す傾向が強い等。まあ堀北も癖の強い人間という事がわかった。
「今はAクラスに上がる為に3人の勉強を見てるの」
「相手の為の勉強会では無く自分のための勉強会って事か」
「まさに『情けは人の為ならず』ってところかな」
「情けでは無いと思うがな...。櫛田は何故堀北に協力している?」
「せっかく同じクラスになったんだもん、もうお別れなんて寂しいよ」
「そんなもんか」
「もう帰っちゃうの?勉強会には出ないの?」
「出ない。それに平田に伝えることは伝えた。残る理由もないしな」
廊下に出ると平田が戻ってきたところだった。
「火神くんの言った通りだったよ。範囲は変更されていたみたいだ」
「櫛田がまだ教室にいる。急いだ方がいいんじゃないか」
「そっか、ありがとう」
そう言って平田は教室に戻って行った。櫛田は今日も堀北とやらの勉強会に行くだろうから3馬鹿にも話は届くだろう。俺はさっさと帰って夕飯の支度をしよう。
チート。意味、ズル、イカサマ。
チートデイ。普段している制限を計画的に無視してストレス発散、解消を行い、ダイエットなどの苦行を継続させやすくする効果を期待出来る、所謂休憩日のような日。俺も愛衣もここしばらくずっと勉強漬けでストレスが溜まりに溜まっている。今日をチートデイとしてストレスを発散させる事となった。その方法とは、
「ぎゅー」
「ぎゅー」
ハグだ。ハグにはリラックス効果があり、すぐ、簡単に出来る利点がある。もちろん他にも方法はあるが、一番効率がいいのはやはりハグだ。強く締め付ければ締め付けるほど互いの身体を押し付け合う力も強くなっていく。
「ん...もっと強くして...」
「こうか?」
「ふあぁ...いいよぉ。ストレスが消えていくぅ...」
「あと数日、頑張れるか?」
「うん...」
「眠いなら寝ていいぞ」
「すぅ...」
ベッドに横になってハグしていたのであっという間に眠ってしまった。環境が変わってまだ1ヶ月程度。慣れない環境の中ここ最近は勉強ばかりで思った以上に疲労も蓄積させてしまっていたのだろう。今はぐっすり眠って欲しいものだ。ただ、今の俺たちはハグに加えて足も絡めており、愛衣が起きるまで俺も起き上がれなくなっている。だがそれで愛衣が安眠出来るなら全然構わないが。
「やっぱ愛衣は美人だよなぁ」
サラサラの髪を撫でながら呟く。中学時代から多くの男に告白されて来ただけあって、愛衣は間違いなく美少女の部類だ。顔立ちは整っており、キズひとつだって無い綺麗な肌。胸や尻も小さ過ぎず大き過ぎず。まさに(俺にとっては)理想の体型をしており、女性としてのやわらかさも備えている。
性格だって問題などなく、今までに自分から問題を起こしたこともない所謂優等生。そんな愛衣と付き合えるだろう未来の彼氏や旦那はきっと幸せ者だろう。そんな男に出会えるまでは、兄である俺が守ってやらないといけない。
「ん...」
「あ、起きた」
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。愛衣は既に起きていたようで、ハグされたまま俺の顔を見ていた。
「どうする?まだ寝てる?」
「腹減ったし、起きる」
足を解き、密着していた身体も離す。身体が軽く感じるのは気のせいでは無いだろう。時計を見るともう夜になっていた。随分眠っていたみたいだ。
あと何故か分からないが愛衣の足が絡んでいた右足の膝ら辺が湿っている気がした。寝汗か?
「あ、お米炊いてないや」
「今日はもう外食でいいだろ。何か食いたいものあるか?」
「んー?肉?」
「じゃあ肉にするか」
ケヤキモールにあるファミレスに向かう。こっちの方が肉料理が多いからだ。愛衣は牛タン定食、俺はロースカツ定食にした。メニューにはリーズナブルな定食から、誰が食べるのかシャトーブリアンまで載せられていた。流石国立高校の敷地内。希少部位も扱っているとは。いつか食べてみたいものだ。今日注文したカツや牛タンもファミレスにしてはレベルが高く、他ではなかなかお目にかかれないほどの美味さだった。値段も一般的なファミレスに近い設定なハズなので得した気分だった。安くて美味い、これが最高。
寮への帰り道。すっかり暗くなってしまった。
「これで今週も頑張れそうか?」
「いっぱいリフレッシュ出来たからね。ありがとうお兄ちゃん、付き合ってくれて。あと数日頑張っちゃうよ!」
「俺もいいリフレッシュになったんだ。それに付き合うのは当然だろ。兄妹なんだから」
こうしてリフレッシュの日も過ぎていき、あっという間にテスト当日となった。テスト範囲の変更というアクシデントはあったが、Dクラスでも赤点は出ないだろう。何故ならこの中間テストには、『過去問』があるのだから。
火神愛衣の秘密2
基本的に朝起きるのは黎の方が早く、愛衣はその後すぐに目が覚める。しかしごく稀に、愛衣の方が先に起きる時がある。その時に限り、黎に抱きしめられて身動きはしにくいが、黎の太腿を自身の秘部に擦り当てて快感を得ている。黎が寝汗と勘違いしているのは、実は愛衣の愛液である。身動き出来ない時は自分の指でシている。兄の事は愛しているので問題ない(兄として)。