暑さも本格化する7月。スマホに表示されたポイントは増加しておらず、まだ0ポイント生活を強いられる事になったクラスメイトはいるだろうが、ほとんど自業自得なのでなんとも思わない。
「んん〜?」
「どうかしたか?」
「ポイントが入ってなーい」
「どういう事だ?Aクラスも0になっちまったのか?」
そんな事が有り得るだろうか。いくら同い年といえど学校側から優秀な生徒とされる人間ばかりが居るAクラスのポイントが0になり得るだろうか。
「もしかしたら不具合とか?」
「それかポイントに関わる何かがあったか、だな。まあ今考えてもしょうがないな。さっさと支度して学校に行くぞ」
「おはよう諸君。今日はいつもに増して落ち着かない様子だな」
「佐枝ちゃん先生!俺たち今月も0ポイントだったんですか?朝チェックしたら1ポイントも振り込まれてなかったんだけど!」
「それで落ち着かなかったわけか、まず話をきけ。お前たちが実感を持っているように学校側も当然それを理解している。では早速クラスポイントを発表する」
先月頭と同じようにボードに紙が張り出される。各クラスのクラスポイントが記されている。Aクラスはまさかの1000ポイント。マイナスを取り戻した形になった。かく言うDクラスは...。
「80ポイント!俺たちプラスになったってこと!?」
「喜ぶのは早いぞ。他のクラスの連中は同等かそれ以上に点数を増やしているだろう。差は縮まってない。これは中間テストを乗り越えた1年へのご褒美だ。各クラスに最低100ポイント支給されることになっただけだ」
という事は100ポイント入った後でまた減点を食らったという事か。まあポイントは0以下のマイナス値まで行かなくて良かったよ。
「あれ、でもじゃあどうしてポイントが振り込まれてないんだ?」
「今回少しトラブルがあってな。1年生のポイント支給が遅れている。お前たちには悪いがもう少し待ってくれ」
「えー、学校側の不備なんだから、お詫びのポイントとかないんですかあ?」
その言葉に一堂が文句を言う。それに対して先生は一切取り合わず一言置いて去っていった。
「そう責めるな。学校側の判断だ。私にはどうすることもできん。トラブルが解消され次第ポイントは支給されるはずだ。...ポイントが残っていれば、な」
この日はとりあえず何も無かったが、詳細が明かされたのは翌日の朝のHRの時だった。
「今日はお前達に報告がある。先日学校でちょっとしたトラブルが起きた。そこに座っている須藤とCクラスの生徒との間でトラブルがあったようだ。端的に言えば喧嘩だな」
「結論が出ていないのは何故ですか?」
平田の質問に先生が答える。
「訴えはCクラスからだ。一方的に殴られたらしい。ところが真相を確認したところ、須藤はそれが事実ではないと言った。彼がいうには自分から仕掛けたのではなく、Cクラスの生徒達から呼び出され、喧嘩を売られたとな」
「俺は何も悪くねぇ、正当防衛だ正当防衛」
「だが証拠がない」
「あたりめーだろ、証拠とか、そんなもんあるわけないだろ」
「つまり今のところ真実がわからない。だから結論が保留になっている。どちらが悪かったのかで処遇も大きく変わるからな。どうだ、このクラスに目撃者いるか?」
まあ、いる訳ないよな。いたらこうなる前に申告するはず。1人の行動がそのまま評価、クラスポイントに、そしてクラスポイントはプライベートポイントに直結している以上、黙秘は悪手となる場合がある。
「残念だが須藤、このクラスには目撃者はいないようだ。ともかく話は以上だ。目撃者や証拠の有無等最終的な判断は来週の火曜日には下されるだろう。それではホームルームを終了する」
「変わったようで変わってないよね須藤のやつ。やっぱ退学させといた方がよかったんじゃない?」
「ホントそれなー」
近くの女子らがそんな会話をしていた。声を潜めて須藤には聞こえないようにしているが、女子のいじめって陰湿らしいから。単純な暴力よりも厄介になりやすい。恐ろしや恐ろしや。
「ねえ皆。少し私の話を聞いてもらってもいいかな?」
櫛田が声を上げる。
「確かに先生の言う通り須藤くんは喧嘩をしたかも知れない。でもね、須藤くんは巻き込まれただけなの」
「巻き込まれたって、櫛田ちゃんは須藤の言ったこと信じるわけ?」
「うん。実は昨日須藤くんから相談を受けたんだけど......」
要約すると、Cクラスのバスケ部員の、須藤に対する嫉妬。自分より格下の須藤が活躍するのが気に入らないらしくて須藤に絡んでいたのだそう。
「改めて聞くね。もし喧嘩の現場を見たって人がいたら教えて欲しいの。些細な情報でもいいので、よろしくお願いします」
何故この櫛田という女は赤の他人である須藤のためにここまで出来るのだろうか。古い付き合いでも無いはずだし、好感度稼ぎでも無いだろう。ならば何故積極的に動くのか。
「僕は信じたい」
続いて動いたのは平田だ。
「他クラスの人が疑うならまだ理解はできる。だけど仲間を最初に疑うなんて間違ってるよ。精一杯協力してあげるのが仲間なんじゃないかな?」
「あたしもさんせー。もし濡れ衣だったらそれこそ問題でしょ?とにかく無実なら可愛そうじゃない」
続くように平田の彼女、軽井沢も同意する。この流れなら須藤の無実を証明する方向になりそうだ。
何故そうなる?
「残念だが3人共、須藤の無実は勝ち取ることは絶対に出来ない」
「...は?」
「...火神君、どういう事?」
「お前たちがこの件に関してどのように調査するかは知らないが大事なのは『どっちが仕掛けた』じゃなく『どっちが先に手を出した』かだ。よく言うだろう、先に殴った方が悪いと」
「それも含めてこれから...」
「なら今聞こう。須藤、どっちが先に手を出した?」
「ああ?やられる前にやるのが当然だろ。でもよ、先に仕掛けて来たのは...」
「聞いたな?先に殴ったのは須藤だ。これで正当防衛は機能しないし無実でも無くなった」
結局は先に殴った方が悪い。安易に暴力を振るうバカな須藤を狙ったいい作戦だと思う。
「ふざけんなよ!先に仕掛けたのはあいつらだって言ってんだろ!」
「ただの口喧嘩ならそれで通ったろうよ。だけど手を出したら出した方が悪くなるのは当然だ。さっさと諦めて処罰を受けいれろ」
「火神君、そんな言い方...」
「何かおかしいか?悪い事をしたら罰を受ける。どんな子供でも知っていることだが? まぁコイツの場合、反省するかも怪しいが」
カバンを持って教室を出る。
「体調悪いから帰るわ。じゃーな」
『帰る』と愛衣にメールとポイントを送って職員室へ。調子悪いのはもちろん嘘。ただ須藤に殴られたくないだけ。勝てるけど。クラスポイントもっと減るし。
「茶柱先生いますか?」
「どうした火神、カバンを持って」
「急に体調が悪くなったんで早退します。ポイント払うんで出席扱いにして下さい」
「そうかわかった。1日で6000ポイントだ」
さっさとポイントを送る。
「確認した。体調管理を怠るなよ」
「はい、では失礼します」
廊下に出るとこっちに愛衣が歩いてきた。
「ちょっとまってて」
「ん」
愛衣のスマホにポイントを送り、そのまま待つ。愛衣はすぐに職員室から出てきたので並んで歩く。
「この事件、どうなると思う?」
「どうにか訴えを取り下げられなきゃDクラスはまた極貧生活だな。だけど簡単には取り下げないだろうな。なんせ怪我人が出て、加害者もやったって自白している」
「逆転勝利は夢のまた夢だねぇ」
俺の時みたいに情状酌量の余地がある事件だったら何とかなったかもしれないけど、多分キレて暴れるようにぶん殴ったんだろうし余地もないだろう。...なんでこんな単細胞が高校に入学出来たんだか。
「ところで...勢いでサボったけど、何しよう?」
勢いでサボる我が妹。そんな所も愛らしい。
火神黎の秘密3
過去に起こした事件とは暴力事件。事件後数週間後に数日間行方不明になる。後者の事件後に女性恐怖症になった。