Dクラスに入ると既に俺以外の生徒が揃って着席していた。
「お前で最後だ。早く席に着くように」
恐らく担任と思われる女教師に促され、空いている席に向かい、着席する。
「揃ったようだな。えー新入生諸君。私はDクラスを担任することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に体育館にて入学式が行われるが、その前にこの学校における特殊なルールについて説明しよう。今から資料を配布する」
資料を受け取りながら茶柱先生の発言をひとつひとつ噛み砕いていく。要するに、
・この学校の敷地内では現金ではなく、専用のポイントでやり取りする。また、敷地内でポイントで買えないものはない。
・今配られた学生証に既に10万ポイントが入っており、毎月1日に自動で振り込まれる。1ポイント1円として使える。
・ここを受かった俺たちにはそれだけの価値がある。
・実力で生徒を測り、これはその評価のようなもの。
・イジメやカツアゲには厳重な処罰がある。
・生徒間でもポイントのやり取りが出来る。
こんなところだろうか。...とりあえず後で愛衣からポイントを回収しておこう。あればあるだけ使ってしまうので、ちゃんと管理してやらないと。それはそうと、先生が居なくなった途端に騒がしくなる。どうやら話題は今貰ったばかりの10万ポイントの使い道らしい。
「皆、少し話を聞いて貰っていいかな?」
やや大きめの声が教室に響いた。立ち上がったのは、如何にも好青年といった雰囲気の男子生徒だった。
「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早くみんなが友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」
「さんせー! 私たち、まだみんなの名前とか、全然分からないし」
「じゃあ言い出しっぺの僕から、僕の名前は平田洋介。中学の時は皆から洋介って言われてたから、気軽に『洋介』って呼んでくれると嬉しいかな。趣味はスポーツ全般だけど、その中でもサッカーが好きで、サッカー部に入部する予定だよ。よろしく」
好青年...平田の自己紹介を皮切りに、1人ずつ自己紹介をしていく。2人目に自己紹介をしようとした女子は、緊張しているのか上手く喋れなかったが、平田や近くの席の女子に励まされ、落ち着いて自己紹介をしていった。率先して動けて、フォローも出来て、平田洋介という人間の強さを垣間見えた。
「じゃあ次は私だねっ」
次は最初の子を平田と一緒にフォローしていた女子だ。
「私は櫛田桔梗と言います。中学からの友達は1人も居ないので、早く皆さんの顔と名前を憶えて、友達になりたいと思ってます。だから私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。皆の自己紹介が終わったら、是非私と連絡先を交換してください」
なんというか、アイドルみたいな女子だ。アイドルに会ったことは無いけど。誰にでも好かれようとする、強欲な女って感じがする。
「じゃあ次の人──」
促すように次の生徒に視線を送る平田だが、その生徒は平田を睨みつけた。髪の毛を真っ赤に染め上げた、如何にもな不良少年。今どきこんなのがいるんだなぁ。
「俺らはガキかよ。自己紹介なんて、やりたい奴だけでやれ」
「僕に強制することは出来ない。不愉快な思いをさせたのなら、謝りたい」
そう言って平田は頭を深く下げた。聖人か?睨みつけられたのに謝罪するとか...俺じゃ絶対出来ない。というか殆どの人間は出来ないだろ。どれだけ人間が出来ているんだ。平田洋介...!というか、どう考えてもガキでしょ。ここにいる生徒全員。
「なによ、自己紹介くらい良いじゃない!」
「そうよそうよ!」
「ガキって言うけど、アンタの方がガキじゃない!」
「まあ落ち着きなって」
不良と女子の間に割って入る。
「何よあんた」
「俺は火神黎、よろしく。彼はきっとこう思ってるんだよ。『自己紹介拒否る俺カッケーw』てね」
「はぁ!?」
「ぷっ...」
「最近よく言うでしょ?キャンセル界隈ってやつだよ」
最近何でもかんでも『キャンセル界隈』が存在する。愛衣もキャンセル界隈がある。『兄の言う事キャンセル界隈』だ。今朝だってずっと頬擦りしていたし、多分そう。風呂キャンじゃないだけいいか。
「てめぇ...舐めてんのか?」
「俺としては、自己紹介も出来ない奴を舐めない方がバカだと思ってるよ」
「2人とも、喧嘩はよすんだ」
「大丈夫だよ平田、喧嘩ってのは同じレベルの人間同士で起きる事だ。俺は既に、こいつを下に見ている」
「こんの野郎!!」
「うお危な」
顔面のあった場所に拳が飛んでくる。目線から顔を狙っていたのは分かっていたので避けるのは簡単だった。喧嘩しかした事の無い奴は目線の先を攻撃する事が多いので、避けるくらい余裕だ。
「よけんじゃねぇ!」
「いや殴られたくないし」
「おらあ!」
「ちっ...いい加減に、しろ!」
向かって来る拳を避けて腕を掴む。勢いを利用して後ろに振り向きながら床に叩きつける。所謂背負い投げというやつだ。
「ガッ...!」
「しばらくそこで寝てろ...騒がしくしてすまなかった」
「大丈夫、なのかい?」
「強めに叩きつけたからしばらくは動けないと思う」
「強いんだね...」
「強くならなきゃいけない理由があるからな。さて、自己紹介を続けようか」
「それなら君からお願いするよ」
「じゃあ改めて...火神黎です。火の神様でかがみと読みます。Aクラスに妹がいるので妹共々どうぞよろしくお願いします。趣味は...妹を甘やかすことです」
「同い年って事は双子なの?」
「双子ではない、親の再婚で連れ子同士が兄妹になったんだ」
「でも凄いね、兄妹でここに入学出来るなんて」
確かに、ここは全国から募集をしている。血が繋がっていないからって兄妹でも入学出来るものだろうか?ただ運が良かっただけか?まあいいか。
「あーあと、苦手なものは母以外の年上の女です」
この騒動の間にこっそり居なくなった生徒が何人かいたが、協調性が無さすぎる...。
火神黎の秘密
妹を守る為にいっぱい鍛えた。そのせいで中学時代にある事件を引き起こしたが、事件の全容が明らかになると無罪放免となった。また、年上の女性が苦手なのは、別の事件が原因となっている。苦手というよりトラウマとなっており、母親以外の年上に対して女性恐怖症を発症している。