「さて、先に部屋の引越しについてだ。お前達が今使っている通常の部屋より広い部屋に引越したいという事だが、ポイントを支払えば問題ない。しかしその場合、部屋の移動の為に準備してもらう事がある。備え付けの家具類はそのままで構わないが、お前達が購入し部屋に持ち込んだ物はお前達で移動してもらう」
持ち込んだ物って言うけど、歯ブラシやシャンプーとか、そういった日用品ばかりだしすぐに終わると思う。
「また、部屋の移動も今日すぐでは無く、明日の放課後にしてもらうことになる。構わんな?」
じゃあ明日の授業が終わったらそのまま新しい部屋に行くことになるんだ。
「それで構いません。ポイントは今支払ったらいいですか?」
「そうだな、ではポイントは私に支払え」
「はい。おにーちゃーん、生きてるー?」
指導室に来てから反応がないお兄ちゃんに声を掛けてみる。1人でもダメなのに同じ部屋に年上の女性が近い距離で2人もいたらもっと早く症状が出ると思う。でも吐いてもないし、気絶もしてないし、話は聞いていたと思う。
「何とかな...ポイント...頼んだ...」
スマホを私に渡してすぐに下を向いて黙っちゃった。多分めっちゃ我慢してる。大事な話だから気持ち悪いのも吐くのも頑張って抑えてるんだと思う。後でいっぱい吐かせてあげよう。もう少し頑張ってね。
「あ、ポイントっていくらですか?」
「引越しは2人同時なんだろう?なら2人分、8万支払ってもらう」
「...はい、送りました」
「確認した。では明日より2人は大部屋に移ってくれ」
「じゃあもう行っていいですか?お兄ちゃん死にそうです」
「悪いがもう少し待て。お前達についても話があると言ったろう」
「じゃあせめて保健室で寝かせてあげられません?そろそろ吐きますよお兄ちゃん」
顔も白いしそろそろ限界だと思う。少しでも落ち着こうとして呼吸もゆっくりになってるし。
「それは困るな。仕方ない、兄の方は真嶋先生、保健室に連れて行ってやってください」
「分かった。なら...火神さんは後でお兄さんにこの後する話について話しておいてくれ。これは君たちの問題なのだからな」
「私たちの問題...」
真嶋先生がお兄ちゃんを連れて去っていく。少し離れちゃうけど大丈夫だよね、お兄ちゃん。
「さて、本題と行こうか、星之宮先生」
「ねぇ火神さん、貴方たちは今どんな状況になっているか、理解しているかしら?」
「状況、ですか?」
「Aクラスの子から相談があったの。『火神兄妹は本当に兄妹か』って。貴方たち自身はお互いに兄と妹という認識を持っているかもしれない。でもそれ以外の、多くの他人は貴方たちをそう見ることは難しいの」
「つまり、男と女の関係に見えるって事ですか」
「そう見える人もいると思うし、実際居たハズよ?」
『兄ってだけで、出しゃばってんじゃねぇ!!』
かつて私に告白してきた男の子がお兄ちゃんに向けて叩きつけた言葉を思い出した。あの時はお兄ちゃんが私を守ってくれただけだけど、周りの人にはどう見えたんだろう?
「だから『あんな事件』が起きてしまったんじゃないかしら」
「知ってるんですね」
「この学校に入学する子たちの事は予め調査されるの。過去に何があったか、どんな問題を抱えているかとか。ホントは言っちゃいけないんだけどね」
「後で怒られても知らんぞ」
つまり先生、というより学校側は在籍している全生徒の過去やら問題やらを把握してるということ。こりゃ隠し事は出来ないかも。
「話を戻すと、貴方たちは兄妹では無く、恋人に見えるということ。どう?お兄さんの事、男の子として好きなのかな?」
『男』として好きか...そんなの答えはひとつしかない。
「そんなわけないじゃないですか。だってお兄ちゃんですよ?兄妹で恋愛とか、ありえないですって」
「あ、あれ?」
「...ふむ」
「きっとお兄ちゃんに聞いても同じ答えが返ってきますよ『妹と恋愛?ないない』とか言って。そりゃもちろんお兄ちゃんは好きです、愛してます。でもそれはあくまで家族として、兄妹としてなんです。所謂『家族愛』ってやつですよ」
兄妹で恋愛なんて、ゲームや漫画だけの話...と言い切れないけど、私たちに限ってそんなことは無い。
「それはお兄ちゃんも同じなんです。私のことを『妹』として愛してるんです。これまでもそうだったし、これからもそうなんです。それが私たち兄妹というものなんですよ」
私たちは兄妹。誰がなんと言おうとそれは未来永劫変わることは無い。死んでも、人類が滅んでも、地球や、宇宙が消えたとしても。何者にも変えられない絶対普遍の事実。
「...そう」
「だから、お兄ちゃんに彼女が出来ても、妹としては嬉しい限りなんですよ。結婚とかしても、幸せになって欲しいですし。まあ年上は絶対無理なんでしょうけど」
「私たち2人が近くにいるだけでああなっちゃうなら、その方がいいわね。...うん、私の話はこれでおしまいよ。素敵な兄妹愛を見せて貰ったわ」
「じゃあ行ってもいいですか?そろそろゲロ吐いて落ち着いてると思うので」
「女の子がゲロとか言っちゃダメよ?サエちゃんからは何かある?」
「いや、私の方からもない。火神、もう帰って構わんぞ」
「はい。今日はありがとうございました。あと星之宮先生の話、覚えておきます」
「ええ、外も暗くなってるから気をつけてねー」
「...そうか」
真嶋先生に保健室に運ばれ、結局吐いた俺は横になったまま話を聞かされた。俺と愛衣が恋人だって?笑わせてくれる。俺たちは何処にでもいる普通の兄妹だ。血は繋がっていないが。
「確かに俺は愛衣を愛してます。しかしそれは『兄』としてです。兄妹愛とか家族愛とか、そういうやつです。もし愛衣に彼氏が出来たとしても喜びますよ。結婚とかしたら、幸せになって欲しい。妹の幸せを願う。それが兄ってもんじゃないでしょうか」
「おにーちゃーん、吐いたー?」
保健室の扉を開け、愛衣が入ってくる。もう話を終わったのだろう。
「吐いた吐いた。気持ち悪いのも落ち着いた」
「落ち着いたのなら早く帰って休むといい。明日もあるのだからな」
「真嶋先生、ありがとうございました」
「気にするな」
そう言って真嶋先生は出ていった。
「お兄ちゃん食欲は?」
「あんまりない。今日はうどんにするか」
「無いから買いに行こ。薬味とかも」
「あんま荷物増やすなよ。重くなると持つの俺なんだから」
「たいして重くないでしょ。今日は私が持つ」
「ふーう」
うどんを食べて、荷物をまとめて、今日は俺が先に風呂に入ることになった。愛衣の方から
「後はやっとくから、先に入っちゃって」
と言われたのでお言葉に甘えたのだ。家庭的な女っていいねぇ(年上以外に限る)。
「お兄ちゃん、着替え忘れてたから、置いとくね」
「ごめん、ありがとう」
「気にしないでー」
...ごめんて、普段なら言わないよな。結構精神的にもきてるみたいだ。そろそろ上がって「ガチャ」寝るか...ん?
「私も入るね」
「ん、おお」
準備が終わったのか、服を脱いだ愛衣が風呂場に入ってきた。流石に2人が立っているとかなり狭く感じるので大人しく湯船に浸かり直す。愛衣は髪や身体を洗ってから、俺をあすなろ抱きのように後ろから抱きしめてきた。
「どうした、いつもは前に来るのに」
「今日は抱きしめたい気分なの」
「そっか、そういう日もあるか」
「明日から広い部屋だね、楽しみ」
「そうだな、どんな部屋か楽しみだ」
先に俺が風呂から上がり、少しして愛衣も上がって来た。髪を乾かし、狭いベッドに入ってきた。
「明日からは別々で寝る?」
「お前が寝られるならな」
「お兄ちゃんいないと安眠出来ないからなー、このままで」
「俺も愛衣がいないと落ち着かないし」
「ふふっ、おやすみ、お兄ちゃん」
「おやすみ、愛衣」
火神兄妹の秘密4
中学の修学旅行の際、部屋は男女で分けられ、3、4人でホテルに寝泊まりしていた。それは火神兄妹も例外では無かったが、お互いがいないと安眠出来ないため、修学旅行中は殆ど寝不足気味だった。修学旅行から戻ったその日の夜は一緒に10時間以上眠っていた。