移動させる荷物は袋ひとつにまとまり、部屋の出入口近くに置いていく。後で管理人さんが新しい部屋に持って行ってくれるらしい。なので俺たちは学校から戻ったらそのまま新しい部屋に向かうことになる。鍵についても、先生に返却して新しい鍵を貰う事になる。Aクラスに愛衣を置いて戻ろうとしたが、朝のHR開始ギリギリまで離れてはくれなかった。多分、昨日吐いたからまだ心配しているんだと思う。仕方ないので、気が済むまで一緒にいた。
「流石にそろそろ時間がまずい。もう行くぞ」
「うん、無理しないでね」
「分かってるよ」
愛衣の頭を撫でてDクラスに向かう。なんだろう、授業以外の時間はAクラスにいる時間の方が多い気がする。まあ変な事も悪い事もしてないから大丈夫だろう。悪い事と言えば...。
すげえうるさい。今授業中なんだけど...。嘘みたいだろ、これ...高校生なんだぜ?あっちこっちからやれゲームを買っただの、アクセサリーがどうだの、またカラオケ行こうだの、授業と全く関係ない話ばかりが飛び交っている。これが国の将来を背負う学生の姿か?お先真っ暗じゃねーか。喋っていない者もいるにはいるが、我関せずといった様子で授業に集中して...いるのか?というか先生方も一切注意せず、淡々と授業を進めている。時々ノートを取り出して何かを書き込んでいるように見えるが、よく分からない。まあ分かることといえば。
こんな好き勝手してる奴らに、俺だったら10万円なんて払いたくないって事くらいだ。
放課後に愛衣は拾い、遂に新しい我が家(部屋)の鍵を手に入れる。為に職員室に向かう。
「失礼します。茶柱先生いますか」
「いるぞ。昨日の件か」
「はい、今までの部屋の鍵です」
「確かに受け取った。ではこれがお前たちの新しい部屋の鍵だ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
鍵を受け取り早速その新しい部屋に向かう。寮の1階の奥の方になる。
「うわぁ、広いねー」
「思った以上にいい部屋だな」
内装は通常の部屋をそのまま大きくした感じで、入口付近には今朝まとめて置いてあったシャンプーとかがダンボールに入っている。ダンボールから歯ブラシやシャンプーを取り出し、風呂場に置いてくる。浴室を覗いて見ると、2人一緒に入っても余裕があるほどの広さがある。リビングにはベッドと机とイスがあり、こちらもなかなかの広さがある。リビングの奥に襖があり開けてみると、殆ど同じレイアウトで家具の置かれた部屋があった。広さに余裕があるので追加で本棚とかソファとかあってもいいかもしれない。ポイント次第では検討してみようか。あとはキッチンだが、こちらはコンロや水周りは前の部屋と変わりなく、テーブルとイスが2脚あるだけだ。
「今日は外に食べに行こ?お米炊いてないし」
「そうだな、引越し祝いってことで。何食べたい?」
「とりあえずファミレス行こ。見てから決める」
「じゃあさっさと行くか」
引越しで8万ポイント使ってしまったからなるべく出費は抑えたいが、米は炊いてないので仕方ない。やっぱ日本人は米だ。
「なーにしよっかなー」
「ここのファミレスは色々あるんだな」
「ここ、寮から近いし、食べたいものも時々で違うし、ニーズに対応するためだね。調理してる人は凄い大変だよきっと」
「ある程度流用出来ればそこまで大変ではないんじゃないか?学食の定食みたいに」
学食にある定食メニューはメイン以外の汁物や付け合せは殆ど一緒になっている。効率や回転を考えるとその方が合理的だ。このファミレスは米ひとつとっても、白米、玄米、五穀米とバリエーションがある。スープやサラダにもだ。ニーズに答えるためとはいえやり過ぎな気がしなくもない。これが多様性ってやつか。
「美味しかったねー」
「たまにはファミレスもいいもんだな」
「あれ、火神くん?」
ファミレスを出て部屋へ戻る途中、平田と遭遇した。部活帰りか。
「よう平田、部活帰りか?」
「うん、さっき終わったところなんだ。ところでそちらの子は?」
「そういえばDクラスに知ってる奴はいなかったか?自己紹介でも言ってた妹だ。愛衣、こっちは平田洋介、俺のクラスメイトだ」
「こんばんは、妹の火神愛衣です」
「平田洋介です。よろしく...この子が火神くんの妹さんか」
「うん、兄共々よろしく」
「平田はこれから夕飯か?」
「そうだね、いい時間だし。ファミレスにでも行こうと思ってるんだ」
「なら引き止めて悪かった」
「全然気にしてないよ。じゃあね」
「おーまた明日な」
平田はさっきまで俺たちがいたファミレスに向かっていった。運動してるからめっちゃ食うのかな。
「行こ、お兄ちゃん」
俺は愛衣に手を引かれながら寮に戻った。
「ふぃー」
戻ってくるなり愛衣はベッドに倒れる。
「食ってすぐ横になると...」
「豚か牛になるってぇ?そんなわけなー...」
「胃液が逆流して癌になるらしいぞ」
「...」
無言+真顔で上体を起こす。
「まだ死にたくないから横にならないよう気をつけます...」
「そうしてくれ」
その後は風呂に入って、明日の米を炊いて、おかずを作り置いて、少し勉強してベッドに入る。風呂が広くなって、密着する必要は無かったのだが、そんなことはお構いなく愛衣はくっついてきた。せっかく広いのになんか勿体ないな...。ベッドだって2人分あるのに、相変わらず一緒に横になって抱き合っている。まぁいつもの事だしいいか。俺がリビングで愛衣が奥の部屋ってことになったが、多分殆ど使われないのかもしれない。せいぜい勉強か着替えくらいか?
「おやすみお兄ちゃん」
「おやすみ」
まあまだ初日だし、これから機会はいくらでもあるだろう。明日管理人さんに連絡して合鍵を誰にも渡さないようにしてもらおう。
火神兄妹の秘密5
あまり外食はしない。何か祝い事がない限りは自分たちで作る。2人共料理は出来る。母直伝なので、味は大体一緒になる。