4月も中旬、入学してあっという間に2週間が過ぎた。我がDクラスはあいも変わらず私語、遅刻欠席、居眠りに携帯やゲームまで最早学級崩壊している。これも全て先生やクラスの誰もが一切注意をしないから何をしてもいいと思い込んでいるのだろう。これで来月も10万ポイント貰えるとか本気で思っているのだろうか。
逆に愛衣のいるAクラスでは学級崩壊どころか遅刻欠席も居眠りも無く、全員真面目に授業を受けているそうだ。最初の頃に騒がしくしていた男子がいたそうだが、すぐに態度を改めたという。同じ高校1年でもここまでクラス単位で差が出来るのはどうしてだろうか。
「おはよう山内!」
「おはよう池!」
いつもやかましい池と山内という男子2人が、いつも以上にハイテンションで教室に入ってくる。何が2人をこんなに滾らせるのか。
「いやあー、授業が楽しみすぎて目が冴えちゃってさー。眠れなかったんだよな」
「なはは、分かるぜ。何せ俺もだからな。この学校は最高だぜ、四月から水泳の授業が行われるんだから!」
池や山内の言う通り、体育では今日から室内プールで水泳の授業が開始される。オレの聞き違いでなければ授業は男女合同。つまり男子生徒は合法的に女子生徒の水着姿を拝む事が出来るという訳だ。だからさっきから女子がおよそ人間に向けていいものではない、汚物を見るような目で男子(主に池と山内)を睨んでいる。
「綾小路ー、火神ー」
呼ばれてしまった。呼ばれたからには行くしかない。池達の周囲には、俺が初日に投げ飛ばした、須藤と言うらしい男や、クラスメイトから『博士』と呼ばれている外村なども集まっている。
「なに」
「どうかしたのか?」
「実は今俺たち、クラスの女子の胸の大きさを賭けようってことになってるんだけどさ」
「オッズ表もあるやで」
「悪いな、辞退させて貰う」
「同じく」
「まあまあ、そう言うなよ! お前らも気になるだろ?」
勝手に決めつけるな。須藤は俺が近づいてからこっちを睨んでいる。初日以来ずっとこんなだ。悪いのはそっちだろうに。無視して綾小路に渡されたタブレットを覗く。画面にはクラス全員の女子生徒の名前が載っていた。しかもオッズ付きというかなりガチなヤツだ。でも俺、誰が誰だかまだ名前と顔が一致しきれてないんだよな。平田の彼女の軽井沢恵と櫛田桔梗くらいしか知らない。興味無さすぎる。
「ちなみに、誰が有力候補なんだ?」
「よくぞ聞いてくれた! 現在頭角を表しているのは長谷部だ。オッズは1.8倍。次は佐倉かな」
この時点で男子のキモイ集まりから距離をとった。こんな犯罪者予備軍と一緒にはされたくない。こいつらは一生彼女出来ないだろ。というか池、お前自己紹介の時に彼女募集中とか言ってなかったか?
「実は俺、佐倉に告白されたんだ。けどま、ブスだから断ったんだけどな!」
「嘘吐くなよ」
「う、嘘じゃねえよ!」
その声量じゃあ本人にも聞こえるだろうが、山内は周りを気にしていない様子だった。デリカシーってやつを学ばなかったのか。それとも男だらけの地域にでもいたか。
「お兄ちゃんこの後水泳だよね。見に行っていい?」
昼休み、学食で弁当を食べていた愛衣が急にこんな事を言ってきた。
「自分の授業はいいのかよ」
「ポイント払えば出席扱いにしてくれるって。見学もポイントを払えばいいって」
「ポイントって便利だな...というかうちの授業見てどうすんだよ。自分のクラスので十分だろ」
「えーお兄ちゃんの泳ぎが見たいだけー」
「わざわざ見たいか...ポイント使ってまで」
「私、コレになってからマトモにプールも行けないけどさ、お兄ちゃんが近くにいたらもしかしたらって思う時もあるんだよ」
「...キツいと思ったらさっさと戻れよ」
愛衣のスマホに1万ポイントを送る。これくらいあれば足りるだろう。
「止めないんだ?」
「止めたって無駄だって知ってるし」
「...へへー、ありがと」
「でもあんま目立つなよ」
「はーい」
「うひょー! 待ちに待った授業が開始されるぜ!」
俺はあそこまで欲望に正直にはなれないので、欲望のままに生きている池が少し羨ましく思える。移動時ですら男女で対照的で、テンションの高い男子といつもより多少静かな女子に分かれていた。
更衣室では既に何人かが着替えていた。
「うひゃあ! やっぱりこの学校はすげぇなぁ!街の施設より凄いんじゃね!?」
更衣室の外では既に着替え終わった池と思われる声が響いていた。そりゃあ国が力入れてんだから、しょぼいものは作らないだろう。だが早く見てみたいからさっさと着替えよう。
「火神くんの身体、よく鍛えられてるんだね」
「平田も、いい筋肉だと思うぞ。流石スポーツマン」
結局俺は平田と一緒に出てきた。俺はそれなりに鍛えていたが、平田もなかなかの身体をしている。スポーツ好きとはよく言ったもんだ。
「女子は? 女子はまだなのかっ?」
「着替えに時間が掛かるだろうからまだだろうな」
綾小路の冷静な分析に、池はガックリと肩を落とす。
「なぁ綾小路。もし俺が血迷って女子更衣室に飛び込んだらどうなると思う?
」
とりあえず死ねばいいと思う。社会的にも肉体的にも。
「......聞きたいか?」
「い、いややっぱりやめておく。だからその真顔をやめてくれ。めっちゃ怖いから!」
「これは個人的な意見なんだけどな。露骨すぎると女子に嫌われるぞ?」
「うぐっ...反省するよ......」
プールサイド、の上の観客席に目を向けると、既に愛衣がいた。他にも見学を選んだ女子が10人以上。そりゃあ教室であんなに騒がれればプールに入りたく無くなるだろう。俺が女子だったらそうしてる。
「来たぞ.....!」
誰かの声が小さく響く。そしてその声に反応して男子共が身構える。上にいる女子達からすればさぞ滑稽に映っているだろう。
「長谷部が居ないぞ!!?佐倉もだ! 博士、これは一体どういうことだ!? 神はオレたちを手放したのか!?」
「ンゴゴゴゴ!?」
「に、二階だ!皆、二階を見るんだ!」
現実を突きつけられ、あるものは頭を抱え、あるものは顔に絶望を浮かべたりと様々な反応だった。
「どうしたの皆? 元気ないけど......」
しかし──天使が舞い降りる。クラスで男女問わずの人気者らしい、櫛田の降臨だ。学校指定のスクール水着を着た櫛田は、思春期男子にとっては毒だろう。出るとこは出て締まっている所は締まっている、高校1年ではほぼお目にかかれない悩殺ボディを持っていた。...愛衣の方が好みだな(重症)。
「よーしお前ら、集合しろー」
男子共が己との戦いに没頭している間に体育教師が集合をかける。
「見学者は......17人か。随分と多いようだが、まあ良いだろう。ただし、次回からは正当な理由なしでの欠席は認めないからな」
今反応したやつは次回サボろうとしたのだろうか。
「早速だが、どれだけ泳げるか見てみたい。個々で準備運動をするように」
「すみません、先生。俺あんまり泳げないんですけど...」
「そうか。泳ぎに自信がない者は正直に手を挙げろ」
1人を皮切りに複数人が手を挙げる。人間って陸上で生きる生物だから泳げなくてもいいと思う。
「なるほど、よく分かった。だが安心しろ、夏までに俺がお前たちを泳げるように指導してやるな」
「えぇー。別に大丈夫ですよ、別に海に行けませんから」
「まぁそう言うな。泳げる奴はモテるぞ? それに泳げるようになれば必ず後で役に立つからな」
まあ確かに、出来ない事より出来る事の方が多くても困ることは無い。でも『必ず』と言うあたり、水泳大会でもあるんだろうか。先生の言う通り、個々で準備運動をする。教師がいる手前、皆真面目に取り組んでいた。そして、五十メートルを軽く泳ぐように指示が出される。全員が五十メートルを泳ぎ終わると、先生はプールサイドに上がるよう指示を出した。
「よし。それでは今から男女別に五十メートルの競泳を行う。泳ぎ方は自由だ」
初日にいきなり競泳か。別に水泳は今日だけではないのだから急ぐ事はないハズだが。
「お前らにやる気が起こるように配慮してある。一位を取得した生徒には俺から報酬として5000ポイントを進呈しよう。一年生のお前らの中には、早速ポイントを浪費して残りが少ない者も居るはずだ。どうだ? やる気が出るだろう」
出るのは自信のあるやつだけだろう。自信のないやつのモチベーションは変わらないだろう。
「逆に、ワースト一位になった生徒には放課後を使い補習を受けさせるからそのつもりで」
放課後は学生にとって貴重な自由時間だ。それを補習に奪われたくないのか、悲鳴が響く。
「今日参加している女子は十人と少ないから、五人を二組に分けてタイムが一番速い生徒にポイントを進呈しよう。男子は上位五人に絞ってから決勝だ」
そう言い放ち、準備をするように促した。最初は女子から行うそうで、男子は散らばる。結果は水泳部の小野寺が圧勝。やはり本職は強かった。
男子の方に水泳部員はおらず、自由人の名を欲しいままにした高円寺が総合一位を取ってみせた。その次に須藤、平田と続いていく。高円寺は高校生離れした肉体を持ち、他の追随を許さない完璧な泳ぎを披露していた。俺は8位に落ち着いた。得意って訳でもないし、補習にならなかったのでよしとしよう。面白い事に誰も愛衣の存在には気づかなかった。
火神黎の秘密2
異性の身体を見ても無意識に愛衣と比較し、大体愛衣が勝つ。本人も気づかないうちに愛衣にハマっており、櫛田程の身体を見てもさほど反応しない。つまり妹以外では興奮しない身体になっている。これも愛。