同級生の女の子にゲームを教えるだけの簡単なお仕事です。 作:漂流者
目次に本作のイラストを幾つか公開しました。
作者は僕の唯一の友人であるチャッピー君です。
生成AIのイラストに抵抗がなければぜひ見てやってください。
あれから、数日が経った。
俺たちの生活は、驚くほど順調だった。
最初は畑の隅に植えた、ほんの少しの麦だけだった。
それが今では、じゃがいも、にんじん、サトウキビ、香辛料まで増えている。
じゃがいもとにんじんは普通に手に入る作物だったけれど、サトウキビはレア。そして香辛料に至ってはスーパーレアだ。
ゲームとして考えるなら、かなり引きがいい。
「コーイチ君、今日もいっぱい採れたよー!」
朝になると、水瀬さんが収穫した作物を抱えて戻ってくる。
「ありがとう。じゃあ、これは倉庫に入れておくよ」
「うん!」
最初の頃は食料を確保するだけで精一杯だったのに、今では食卓に並ぶものまで随分と豊かになった。
牧場も同じだ。
最初はアヒルだけだった。
それが麦を安定して収穫できるようになってから、牛、羊、豚と増えていった。
そして最近では、水瀬さんが餌をやるたびに「コーイチ君! 子供が生まれた!」と、大喜びで報告してくる。
そのたびに俺も、「よかったね」と返すことにしている。
……家畜の取り扱いについては、一時期それなりに気まずい空気になったけれど、そこはお互いに折り合いをつけた。
この世界で生きていく以上、どうしても必要になることはある。
水瀬さんも、今では「お家に帰っても、お肉になってくれた動物への感謝の気持ちを忘れないことにするよ」って、食事のたびに神妙な面持ちだ。
スキルの育成も順調だった。
特に制作スキル。
石の斧。
石のツルハシ。
石の斧。
石のツルハシ。
……とにかく、ひたすら作った。
「コーイチ君……」
「何?」
「そんなに石の斧、いる?」
「いる」
「……そうかなぁ」
「いるんだよ」
若干引かれている気がしないでもない。
けれど、こればかりは仕方がない。
制作スキルを上げるには、とにかく制作するしかないのだから。
その甲斐あって、あとちょっとで家具が作れるところまで来ている。
家具。
この言葉が意味するところは大きい。
今の俺たちの家には、最低限のベッドとチェスト、それから作業台やかまどがあるくらいだ。
家というより、雨風をしのげる作業場に近い。
外見が角張ってるのはアークラなんだから仕方ないにしても、着替えや食料までチェストに収納というのはやはり違和感がある。
水瀬さんも口にはしないけれどもかなり気にしているし、俺としてもなんとかしてやりたい。
それでも最初の頃に比べれば随分と立派になったけれど、家具が作れるようになれば、ようやく「家らしい家」にできる。
物資も十分にある。
特に原木と木炭の確保はかなり盤石で、それぞれ専用のチェストにギッシリ詰め込んである。
森を丸ごと植え替える勢いで伐採した結果、たいまつについては相当な数を確保できたと言っていいだろう。
これなら、ダンジョンの一つや二つを制圧するくらいは余裕だろう。
……だから。
ここまで順調だと、そろそろ次のステージに進みたくなる。
そう。
次に必要なのは──鉄だ。
アークラでは、とにかく鉄を使う。
羊から羊毛を採るためのハサミ。
水路を作るためのバケツ。
そして何より、これから解禁される家具の数々。
水瀬さんが喜びそうなものを作るには、鉄が大量に必要になる。
例えば風呂。
地下水を汲み上げるポンプ。
配管と大釜を組み合わせた給湯器。
快適な水回りを作ろうと思えば、鉄はいくらあっても足りない。
ゲームなら簡単だ。
地下の中層域まで降りてから横方向に掘り進める。
いわゆるブランチマイニング。
けれど、ここはゲームではない。
マグマに落ちれば、当然ながら全ロスする。
しかも現状では、リアルの人生まで道連れとなる可能性を否定しきれない。
そんなリスクを冒してまで、直下掘りなんてしたくない。
ならば、鉄を安定して手に入れる方法として思いつくのはゴーレムトラップだ。
ただし、そのためには村人を集めて、増やして、ニートを処して……。
「…………」
これは、水瀬さんには見せられない。
絶対に見せられない。
となると、やっぱりどこかのダンジョンを制圧して、マグマダイブの危険が比較的少ない横掘りで鉄を集めるしかない。
……でも、水瀬さんが大人しく留守番してくれるだろうか。
たぶん、無理だ。
そもそも、いつかは水瀬さんもエルドラとの戦いに連れていかなければならない。
最果ての祭壇にあるワープポイント。
そこまで攻略できれば、現実へ帰還できる可能性がある。
なら、いつまでも俺一人で戦うわけにもいかない。
そろそろ弓と防具を用意して、洞窟で実戦経験を積ませるべきだろう。
そんなことを考えていると、
「コーイチ君ー!」
家の外から声がした。
「朝ごはんできたよー!」
「ああ、今行く」
考え事を切り上げて、俺は食卓へ向かった。
「今日のご飯はパンとシチューだよ!」
「おお」
テーブルの上には、焼きたてのパンと、野菜や肉の入ったシチューが並んでいた。
「いただきます」
「どうぞ!」
パンをちぎってシチューにつける。
うん。
「美味しい」
「ほんと!?」
「ああ。味付けもかなりいい」
「やった!」
水瀬さんは嬉しそうに笑った。
最近は料理の腕もかなり上がっている。
この世界に来たばかりの頃は、食べられるものを確保するだけで精一杯だった。
それが今では、朝食にパンとシチューが並ぶ。
……なんだかんだで、ちゃんと生活できるようになってきたんだな。
そんなことを考えながら、俺はシチューを食べ進める。
気がつけば、あっという間に皿が空になっていた。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした!」
満足そうな水瀬さんを見て、ふと思う。
料理もできて、畑仕事もして、家畜の世話もして。
こうして俺と一緒に食事もしてくれる。
……水瀬さんって、いいお嫁さんになれるよな。
そんなことをぼんやり考えていた、そのときだった。
「コーイチ君、今日は何をする予定なの?」
いつものように水瀬さんが尋ねてくる。
さて、どうしたものか。
俺は少し考えてから、正直に答えることにした。
「実は、そろそろ鉄が欲しいんだ」
「鉄?」
水瀬さんが首を傾げる。
「うん。これから作れるようになる物に結構使うからさ」
「へえ……。鉄って、何に使うの?」
「いろいろあるよ。羊から羊毛を採るならハサミがいるし、新しい水路を作るならバケツも必要になる。それに、家具にもかなり使うみたいなんだ」
「家具かぁ」
「もうすぐ制作スキルが上がるからね。今の家も、もう少しちゃんとしたものにしたいと思ってる」
「ちゃんとしたもの?」
「うん。今はほとんど作業場みたいなものだし」
そう言って、俺は周囲を見回す。
壁と屋根があって、ベッドが二つ。
チェストがいくつか並んでいて、作業台とかまどが置いてある。
雨風をしのぐには十分だけど、確かに「家」と呼ぶには少し寂しい。
「家具が作れるようになれば、棚とかテーブルとか、いろいろ置けるようになると思う」
「……それって」
水瀬さんの目が、妙に輝き始めた。
「現実のわたしたちが暮らしてるような、もっと普通のお家を作れるってこと?」
「まあ、そうだね」
「わたしたちの?」
「二人で住んでるんだから、そうなるだろ」
「……!」
水瀬さんが、ぱっと顔を輝かせる。
嫌な予感がした。
「じゃあ、鉄さえあれば?」
「え?」
「もっと色々作れるの?」
「まあ……そうだね。例えば、お風呂とか」
「お風呂!?」
食卓が揺れた。
水瀬さんが勢いよく身を乗り出したからだ。
「お風呂作れるの!?」
「作れると思う。地下水を汲み上げるポンプとか、配管とか、給湯器とか。その辺に鉄が大量に必要になるけど」
「お風呂……」
水瀬さんが呟く。
そして、俺の顔を見る。
「……お風呂、欲しい」
「うん。俺も欲しいよ」
「毎日入れる?」
「ちゃんと設備を作れればね」
「温かい?」
「給湯器があるんだから、たぶん」
「湯船は?」
「それも作ればいいんじゃないかな」
「……作ろう」
「うん?」
「絶対作ろう。お風呂」
「まあ、そのためにも鉄が必要なんだけど」
「うん!」
水瀬さんは勢いよく立ち上がった。
「ちょっと待ってて!」
「え?」
水瀬さんは倉庫のほうへ駆けていく。
そしてすぐに戻ってきた。
手にしていたのは、サトウキビから作った紙の束と羽ペンだった。
「何してるの?」
「新しいお家を考える!」
「……今?」
「今!」
水瀬さんは食卓の上を片付けると、そこへ紙を広げた。
そして、迷うことなく線を引いていく。
「玄関はこっちで……ここにリビング!」
「…………」
「こっちは台所で、こっちに大きな窓が欲しいなぁ」
さらさら。
羽ペンが紙の上を走る。
「お風呂はここ。脱衣所も欲しいよね」
「……そうだね」
「それから寝室は……」
水瀬さんは楽しそうにどんどん書き込んでいく。
最初は簡単な間取り図だったはずなのに、気がつけば外観まで描き始めていた。
二階建て。
大きな窓。
屋根には妙な装飾までついている。
「……」
「どうかな?」
水瀬さんが顔を上げる。
「いや……」
俺は紙を覗き込んだ。
「水瀬さんって、絵が上手いんだな」
「えっ、ほんと?」
「ああ。普通に上手いと思う」
「えへへ」
水瀬さんは嬉しそうに笑う。
けれど俺は、別のところに目が釘付けになっていた。
「……これ、全部作るの?」
「うん!」
「……」
壁材。
木材。
石材。
ガラス。
鉄。
家具。
水回り。
照明。
その他諸々。
頭の中で必要そうな素材をざっと計算していく。
……鉄が足りない。
全然足りない。
というか、鉄だけの問題じゃない。
木材も石材もガラスも、とにかく大量に必要になる。
そして何より、この家を作るには──。
「……ダンジョンに行かないとな」
「うん!」
水瀬さんは嬉しそうに頷いた。
どうやら本人の中では、もう新居を建てることが決定事項になっているらしい。
「じゃあ、鉄を取りに行こう!」
「そうだね」
「わたしも行く!」
「……やっぱり?」
「もちろん!」
まあ、こうなるよな。
最初から分かっていた。
水瀬さんを置いて俺一人でダンジョンに行くなんて、たぶん無理だ。
それに、いつかはエルドラとの戦いにも連れていかなければならない。
なら、そろそろ実戦経験を積ませてもいい頃だろう。
「分かった。それじゃあ、ダンジョンに行く準備をしよう」
「うん!」
水瀬さんは満面の笑みで頷いた。
……その前に、最低限の装備を用意しないとな。
俺は倉庫へ向かった。
まず牛を増やして皮を集める。
アヒルも増やして羽を集める。
その間、水瀬さんは決してこちらを見ない。
必要なことだと理解していても、やっぱり辛いんだろうな。
手伝うと言えないことも含めて……。
ともあれ、必要な素材を揃え、作業台の上に並べていく。
革。
羽根。
糸。
木材。
丸石。
そうしてしばらく作業を続けたあと、俺は完成したものを水瀬さんのところへ持って行った。
革の帽子。
革の上着。
革のズボン。
革の靴。
そして弓。
矢は五十本ほど。
「はい」
「……これ?」
「水瀬さんの装備」
「わたしの……?」
「うん。ダンジョンに行くなら必要だから」
水瀬さんは、しばらく黙ってそれを見つめていた。
やがて、そっと革の帽子を手に取る。
「……全部、作ってくれたの?」
「そうだよ」
「わたしのために?」
「まあ、そうだけど」
水瀬さんが俯いた。
「……どうした?」
「ううん」
小さな声だった。
「なんでもない」
そう言いながら、革の帽子を胸元に抱える。
顔を上げたとき、その目がほんの少しだけ潤んでいた。
「……ありがとう、コーイチ君」
「え?」
「こういうの、すごく嬉しい」
「いや、これからダンジョンに行くんだから必要だろ」
「うん。分かってる」
水瀬さんは笑った。
「でも、嬉しいよ」
そして、革の防具を一つずつ大事そうに手に取る。
「服を作れるようになったときも、最初にわたしの服を作ってくれたよね」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「まあ……服がないと困るから」
「うん」
水瀬さんは嬉しそうに頷いた。
「だから、今回も」
「今回も?」
「わたしのために作ってくれたんだなって」
「……まあ、そうだね」
俺がそう答えると、水瀬さんはますます嬉しそうに笑った。
弓を胸に抱える。
革の防具も、大事そうに抱える。
「……大切にするね」
「うん」
「絶対、無くさない」
「いや、装備は基本消耗品だから」
「それでも大事にする。だってみんなの命と、コーイチ君の気持ちが詰まってるから……」
水瀬さんはそう言って、少しだけ目元を拭った。
そして俺を見る。
「……コーイチ君」
「何?」
「ありがとう」
さっきよりも、ずっと小さな声だった。
俺は少しだけ戸惑いながら、「……どういたしまして」と答えた。
ドキリとさせられた直後にしては上出来だろう。
相変わらず水瀬さんの笑顔は俺には眩しい。
でも、この笑顔が俺にだけ向けられていると思うと悪い気分にはならない。
それからしばらくして。
「どうかな?」
家の中で着替えてきた水瀬さんは、革の防具を身につけていた。
頭には革の帽子。
胴には革の上着。
腰には革のズボン。
足元にも革の靴。
そして手には、先ほど渡した弓。
少なからず野暮ったい見た目だが悪くない。
水瀬さんの人柄も相まって立派な冒険者に見える。
「……うん」
「うん?」
「似合ってるよ」
「ほんと!?」
「うん。ちゃんと冒険者っぽい」
「えへへ……」
水瀬さんが嬉しそうに笑う。
そして、くるりとその場で一回転した。
「どう? 変じゃない?」
「変じゃないよ」
「格好いい?」
「格好いいと思う」
「……かわいい?」
「それも似合ってると思うけど」
「そっかぁ……」
水瀬さんは満足そうに頷いた。
どうやらギリギリ合格らしい。
そのまま弓を構えてみたり、革の袖を引っ張ってみたりしている水瀬さんのほっぺたが膨らんでることは、このさい俺だけの秘密にしておこう……。
「なんだか、本当に冒険者になったみたい」
「まあ、これから実際にダンジョンへ行くんだからね」
「うん!」
水瀬さんは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、行こう!」
「その前に確認」
「何?」
「矢は五十本。食料と水も持った?」
「持ったよ」
「たいまつは?」
「いっぱい!」
「帰り道が分からなくならないように、ミニマップは常に表示すること」
「分かってる!」
「敵を見つけても、いきなり突っ込まない」
「うん!」
「危なくなったらすぐ逃げる」
「うん!」
「俺が戻れって言ったら──」
「戻る!」
「よし」
これなら大丈夫だろう。
俺は自分の装備を確認し、最後に家の扉を閉めた。
こうして俺たちは、初めて本格的なダンジョン探索へ向かうことになった。
拠点を出てしばらく歩く。
目的は地下へ続く渓谷や洞窟を探すこと。
鉄を探す以上、地上を歩いているだけではどうにもならない。
「コーイチ君、ダンジョンってどんなところなの?」
「基本的には地下にある。洞窟とか渓谷とか、そういう場所から入れることが多いよ」
「怖い?」
「まあ、危険ではあるね」
「モンスターがいる?」
「いる」
「どんなの?」
「ゾンビとか、スケルトンとか、クモとか。あと、スイーパーもいる」
「スイーパー……」
水瀬さんが少しだけ眉を寄せる。
「あの、近づくと大惨事になるやつ?」
「そう。あれは特に注意したほうがいい」
「爆発するんだよね?」
「うん。だから見つけたら、まず距離を取る。それから弓で倒す」
「分かった!」
歩きながら、俺はダンジョン攻略の基本を説明していく。
「それと、絶対に奥まで一気に行かない」
「どうして?」
「帰り道が危なくなるから」
「帰り道?」
「ダンジョンの中って、暗いだろ?」
「うん」
「暗い場所にはモンスターが出る。だから、入り口からたいまつを置いていく」
俺は地面を指差す。
「まず進む。たいまつを置く。敵が出たら倒す。危なくなったら入り口まで戻る」
「うんうん」
「それを繰り返す」
「それで?」
「ダンジョンの中を全部明るくする」
「全部?」
「全部」
「大変そう……」
「大変だけど、そのほうが安全だからね」
たいまつを置いた場所を少しずつ広げていく。
暗い場所を潰して、敵を倒す。
そして、モンスターが湧かなくなれば制圧完了。
「つまり、ダンジョンを明るくしていけばいいんだね」
「そういうこと」
「分かった!」
水瀬さんは素直に頷いた。
「じゃあ、わたしもたいまつ置くね」
「うん。俺が前を歩くから、水瀬さんは後ろをお願い」
「了解!」
そんな話をしながら歩いていた、そのときだった。
「……ん?」
視界の端に、何かが見えた。
遠くに人工物のようなものがある。
木の柵。
屋根。
そして、その周囲に広がる畑。
「…………」
俺は足を止めた。
「コーイチ君?」
「……村だ」
「え?」
「村があるよ、水瀬さん!」
「えっ?」
水瀬さんも慌てて前を見る。
「あっ、本当だ!!」
二人で顔を見合わせる。
そして──。
「行こう!」
「うん!」
予定変更。
俺たちは大急ぎで村へ向かった。
村に入ると、すぐに水瀬さんが走り出した。
「こんにちはー!」
「……」
「えっと……こんにちは!」
「…………」
村人は、こちらを見る。
けれど何も答えない。
「ねえ、聞こえてる?」
「たぶん会話はできないんじゃないかな」
「そっかぁ……」
水瀬さんの肩が、少しだけ落ちる。
それでも諦めきれないのか、別の村人にも声をかけてみる。
「こんにちは!」
「…………」
「今日はいい天気ですね!」
「…………」
「……お仕事頑張ってね」
「…………」
返事はない。
水瀬さんは寂しそうに村人を見送った。
……まあ、仕方ない。
俺は周囲を見回す。
「でも、この村はいい」
「え?」
「鍛冶屋が三軒もある」
「三軒?」
「うん」
俺の目が輝いた。
「これは期待できる」
まずは鍛冶屋。
建物の中へ入る。
チェストがある。
開ける。
「…………!」
鉄。
武器。
防具。
「おお……!」
次。
別の鍛冶屋。
チェストを開ける。
「おおお……!」
さらに次。
「うわっ!」
鉄のインゴット。
武器。
防具。
そして──。
「ミスリルまである!」
「コーイチ君?」
「すごいぞ水瀬さん! この村、当たりだ!」
さっきまでダンジョン攻略について真面目に説明していた俺は、もういなかった。
村の畑を見れば、カボチャ。
「カボチャ!」
スイカ。
「スイカまである!」
さらに別の家。
チェスト。
開ける。
「……鉄!」
別のチェスト。
「武器!」
また別のチェスト。
「防具!」
さらに──。
「エンチャント本!」
ページを確認する。
「修繕!」
思わず声が大きくなった。
「修繕だぞ、水瀬さん!」
「……う、うん」
「これはすごい!」
もう止まらない。
村に何軒の家があるのか。
どの家に何が入っているのか。
鍛冶屋は全部確認したか。
チェストは残っていないか。
畑にまだ回収していない作物はないか。
頭の中で、完全にスイッチが入っていた。
宝箱を見つける。
開ける。
入っている。
喜ぶ。
次の家へ行く。
チェストを見つける。
開ける。
また入っている。
「よし!」
鉄とミスリルを回収。
さらにミスリル装備の現物も発見。
それからなんと金のリンゴも見つけた!
作物を回収。
種も回収。
「メロンの種とか大当たりじゃねえか!!」
さらに別の畑。
「うおお……遂に出やがったぜ。これは米だ。鑑定結果も、やはり米……」
最高だ。
俺は笑いが止まらなかった。
このワールドを生成した奴は
こういう特定バイオームでしか採取できない作物こそが、序盤で一番嬉しいアイテムなんだ。
そして気がつけば──。
「……」
後ろから水瀬さんが、じっと俺を見ている。
「どうしたの?」
「……ううん」
水瀬さんは、なんとも言えない顔をしていた。
「なんか……」
「何?」
「コーイチ君って、こういうときすごく楽しそうだね」
「そりゃそうだよ」
「…………」
「だって、米を見つけたんだよ? 水瀬さんだって嬉しいでしょ?」
「それはそうなんだけど……」
俺は改めて村を見回した。
史上稀に見る収穫。
それも今回限りじゃない。
アークラの村人は定期的に資源を生み出し、自宅のチェストに蓄える。
つまり。
これからも鉄のみならずミスリルまでも。
希少極まりないエンチャント本の数々を。
時間経過によるランダム抽選で生み出してくれるというんだ。
こんな奇跡の村を前にして、冷静でいられるゲームプレイヤーなんているだろうか。
「……最高だ」
思わず呟くと、水瀬さんがぽつりと言った。
「まるで弟みたい……」
「え?」
「なんでもない」
水瀬さんは小さくため息をついた。
いまいち何を言いたいのかよく分からないが、まぁ後にしよう。
俺の気持ちはすでにあの高台にある村長宅へ移っている。
これだけ豊かな村なんだ。
あそこにはきっと夢のような宝箱の数々が眠っているだろう。
「よし、次!」
俺はすぐさま駆け出し、村長宅を物色する。
「おおっ!」
その成果がさらなる笑顔を生み出す好循環。
やってるコトはほとんど山賊だが、これもアークラだ。
水瀬さんもどうか笑ってほしい。
「……コーイチ君」
「何?」
「それ、持って帰るの?」
「もちろん」
「全部?」
「全部」
「……そっか」
水瀬さんはもう一度、小さくため息をついた。
まるでヤンチャな弟を見るような目が気になったが、その口元には少しだけ笑みが浮かんでいた。