気づいたらなんか横顔がコブダイみたいな男に憑依していた話   作:凍傷(ぜろくろ)

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 あの時こうであれば そう悔やんだ大人の君が 幼き自分に憧れた

 大人であるから出来ることが 子供の君には眩しく見えた

 渇望し やがて大人になった君こそが 子供の自分に戻りたがる

 だが やり直せた君は大して変わらぬ日々を歩き

 やがてまた大人となり 子供の自分に憧れた

 我々が人である限り 後に来る悔やみが消えることはない

 それは何度転び 幾度生を受けようと 満たされることはない

 後悔なさい

 我々は常に 未来に期待し 今に怯え 後に悔やむ生き物だ

 だのに悪しを望む者よりも 善きを目指す人ほど渇望は尽きぬもの

 より良きを目指す者が 最善に辿り着くことなど

 人が人として溢れる限り 永遠に有りはしないからだ



声は中田和宏さんらしい

 神様転生とかってあるよな。転生っていうか、憑依っていうのもある。うんある。

 トラックの運転手の人生を『五形頭(げげつぶり)』並みにぶっ潰して得られる新たな人生だったり、なんかいつの間にか死んで、知らん世界に飛んでたりとか。

 俺の場合は───某ツアーに参加しての初心者体験型スキューバダイビング中に、なにをトチ狂ったのか顔面目掛けて激突してきたコブダイによっての……うん、なんだろう。死んだのかなぁ俺。そっからの記憶がないんだよ。

 

 ……で、気づいたらおかしな場所に居た。

 知らん場所だし知らん姿だしで、もちろん混乱した。

 なにより驚いたのが、顔がコブダイみたいな顔だったこと。

 グーグル先生にコブダイって打ち込んで検索したら、一番に目につくくらいにコブダイしてる顔だった。

 混乱している俺に声をかけてくれたのは、どっかで見たことのあるような、特徴的な唇と顎をした男だった。

 なんとなーく『この人は兄だ』という感覚があって、混乱しつつも質問をした。

 ───ら、彼が『兕丹坊(じだんぼう)』という名であり、自分が『慈楼坊(じろうぼう)』という名であることを知った。

 

  OH……ここ、BLEACHの世界じゃん。

 

 軽く絶望した。

 いや……いや、主要キャラになって最前線で地獄見るよりゃマシだけどさ。なんで慈楼坊? ええぇ……? なんで慈楼坊……?

 そうは思ったけど、困ったことに……いやほんと、誰にも共感持ってもらえないだろうけどさ?

 俺、BLEACHで一番好きなキャラ誰? って言われたら、迷わず一貫坂慈楼坊って答えられるくらいには、慈楼坊好きだったのよ。

 知り合い・友人は『慈楼坊は有り得ない』とか冗談として受け取って笑ってたけどさ、彼が言ってたことってあんまり間違ってないのよ、いやほんと。

 

 RPGやってて敵が集団で出てきたら、一発で倒せそうなヤツをまず狙うよね?(織姫襲撃)

 敵を倒す殺意もないのにとりあえず攻撃されたら忠告だってするでしょ?(戦場(いくさば)を遊戯場とでもお思いか)

 女ばかりを狙うったって、じゃあその女の人、なにもしないの? なにもしないし誰も回復しないんだったらほっといてもいいけど、なにかしらするでしょ? 隙を作るでも気を逸らすでもなんでも。するよね? 敵だよ? 旅禍だよ? 処刑する人助けようってんだよ? 無視したら自分が罰受けるんよ?

 まともな誇りを持っていたらなどとよくぞ言ってくださいました。そんなあなたの思想優先の誇りなぞでその娘がもし、自分らの未来を脅かす行為を為すとしたら、敵を迎え撃つ死神なんて居る価値すらないよね?

 

 アニメではかなーり無様に仕上がっておりましたが、むしろ最後まで足掻いたことに拍手を送りたい。

 でもやっぱり言おう。なんで慈楼坊? 

 正直特徴的な顔だなーとは本誌で追ってた時も思ってたけど、実際にナマでこうして顔を見て、ここまでコブダイだとは思わなかったよ。

 

「……いいでしょう。ならばこれより後悔の時間を始めます」

 

 なんでかやたらと後悔という言葉に拘っていた慈楼坊。

 そんな彼の未来を自分の後悔で溺れさせぬよう、俺はこれから努力と後悔の時間を始めたいと思います。

 幸いにしてまだまだ子供。顔は既にコブダイだけど、鍛えることはいくらでも出来そうなので。

 さ、死神になるまでまだまだ時間が───あるといいなぁ。

 まだ死神にはなっていない流魂街ボーイっぽいので、成長する素質があるのなら成長させねばもったいないし。

 

……。

 

 真央霊術院に入学を果たした。

 正直才能と呼べるものなぞこれっぽっちもなかったので、勉強はものすんごい大変だ。

 そらそーだ、魂葬された流魂街ボーイ(たぶん)なだけの俺だ、元の魂が才能に溢れていたかといえば、そうじゃないだろう。

 元の俺だって漫画好きなだけの中年だったし。

 なので必死に勉強した。かといって人との関係も無視しちゃいけません。

 仲間を作り、親しくし、仲良くし、ともに学びを得ていった。

 

 知ってるキャラ誰か居るかなーと探してみたけど、山爺くらいしか見かけられなかった。それも入学……入院の方が合ってる? の時の挨拶で見たくらいで、あとは知らん顔ぶれと斬拳走鬼の毎日。

 入学時に支給された斬魄刀を宝物のように愛し、けれど宝物のままにせず、振るい、手入れし、語り掛け、ともに有った。

 毎日の刃禅を日課とし、寝食をともにし、浅打が俺の魂に染まる前から我が子、我が友、我が同胞、我が双子の兄弟のように接し続けた。

 

 我が覚悟も未来への意思もとっくに決まっている。

 その魂の在り方を受け取り、吸収し、やがて成長する刀はいったいどういう形になるのやら。

 やっぱり『劈烏』(つんざきがらす)? うん、それでもいい。全然いい。ともに往こう、ともに在ろう。

 俺は……私は、どんなあなたであっても愛し続けると誓いましょう。

 

 未来がどれだけ残酷で有ろうと悲しく在ろうと、後で悔やむから後悔というのです。

 存分に後悔なさい。

 それが、私という一貫坂慈楼坊が進む、未来の果てなのですから。

 ただし、石田雨竜殿。

 もはやこの私の鎖結(さけつ)魄睡(はくすい)、やすやす撃ち抜けるなどとは思わぬことです。

 

……。

 

 最初っから愛し尽くしていたからだろうか。

 なんか一年経たずに『劈烏』(つんざきがらす)が解放出来た。ていうかやっぱり劈烏だった。

 それからはわざわざ解放するのでなく、常に解放する努力をした。

 相棒を、同胞を、閉じ込める趣味など私にはないのです。

 なので己の力が続く限り、とことんまでに解放しました。

 あ、もちろん外に飛ばし続けるのはさすがに他の死神たちの邪魔になってしまうので、原作にあった通りに解放したまま鞘に収まっててもらったのです。

 必要な時に柄を引けば、鞘から飛び出すのは刀身ではなく手裏剣のような姿、というわけです。

 

 どうです? 美しいでしょう、華麗なる死への前奏曲(プレリュード)

 解放したら終わり、ではありません。

 ともに在ることを喜び、さらなる高みを目指すのです。

 さあ行きましょう劈烏! これから直走(ひたはし)る我らの道に、後悔と、その先の幸福のあらんことを!

 

……。

 

 卒業した。

 真面目に勤勉に、教師らの評価もひたすらに高く、斬魄刀には愛を注ぎ。

 どこぞの怠惰担当が居たら素晴らしいと拍手をくれるであろうほど、愛に勤勉に卒業した。

 結果、卍解を習得した。

 名を、『鎌鼬劈烏』(れんゆうつんざきがらす)

 まさか卍解に『鎌鼬』(かまいたち)の名を授かるとは思わんかった。

 

 え? キミほんとにその名でいいの?

 最強の飛び道具使いの称号なんて、途中で絶対忘れ去られていただろうに。

 けど、嬉しかったのでもちろんめっちゃ歓迎した。

 受け入れ、受け止め、恋人のように愛した。

 だって彼女───劈烏ってば、こんなコブダイな私が相手でも愛してくれるっていうんだもの! 愛さないわけがないじゃないですか!

 

 霊術院では色々な出会いがありました……ですが、私がモテたことなどただの一度として無し!

 お陰で勉強が捗って、教師からとてもありがたくも高い評価を得られましたよ!

 他の院生が同級の女性とキャッキャウフフしている中で、時折男どもが私に向けるあの視線!

 『どうだ羨ましいか成績だけのがり勉野郎……あっ、魚頭(うおあたま)には人様の感情は分かんねぇかwww』みたいなあの表情!

 ンンンンンン!! 許せません!! いいえ私が許す許さないなどどうでもよいのです! 後悔なさい! 学ぶことより色恋にうつつを抜かしたことを、のちに存分に悔やめばよいのです!

 

 そんな私が斬拳走鬼に勤勉になるのは当然のことでしょう。だって他にすることないんですもの。

 才能無いから、それこそ自分の時間の全てを以って挑むしかありませんでしたがね。

 ですが劈烏を解放出来てからは、劈烏と対話しつつ、ともに学ぶ毎日でした。

 そんな私たちだったからこそ、ともに素晴らしい速度で成長できたのでしょう。

 

 刀が恋人のコブダイでなにが悪いのです? 私にはもう劈烏しか居ないのですよ! ほうっておいてください!

 そんな魂の在り方と、滲み出る愛を受け取ってくれたからか、劈烏の力も私の力も二人三脚のように日に日に合わさり、高まっていきました。

 あなた一人に羽搏(はばた)かせたりなどしません。ともに羽搏きましょう、劈烏。

 あ、ちなみに劈烏の名前の影響なのか、斬拳走鬼のうちの拳、白打(はくだ)戦において、劈拳(へきけん)を使うとやたらと威力が出るようになりました。

 他の白打はフツーです。

 

 なお、卍解を使用出来るようになってからは、今度はその状態を常に維持できるよう努めました。

 彼女の真の姿を解放するのです……私への負担など些細なもの。

 彼女はとても喜んでくれました。私は毎日死に物狂いで解放を維持しました。

 卍解には服装すら変えるものが大体でしたが、私のものは服装に変更はありませんでした。斬魄刀だって、形こそ見た目は浅打のままです。

 ですがひとたび刀身を鞘から引きずり出すと、千本桜と見紛うほどの見事な無数の刃が広がります。

 

 それはあたかもダイヤモンドダストのよう。輝きにしか見えぬほどの細かく、だが確かな切れ味を持った幾千もの刃……それが、『鎌鼬劈烏』(れんゆうつんざきがらす)の正体です。

 そしてその砂よりも小さき一粒は、対象に触れた途端に目には見えぬ真空の刃を発します。つまり、一粒は目に見えぬほど小さくとも、触れれば見た目以上の幅を切り刻んで来る、というわけです。

 ああ……この美しい刀身を以って、旅禍を迎える日が今から楽しみでなりません。

 存分に後悔してくれるのといいのですが……!

 未来において私の死神としての力を奪おうなどと、そんな考えを持ってしまったことを存分に後悔なさい、石田雨竜!

 

……。

 

 どれほど時間が経ったのか。

 私は交友関係を大事にし、七番隊での仕事も丁寧にこなしながら、しかし席官の地位は辞退しながら生きました。

 そんなままに警備をしつつ、手が空けば他の誰かの手伝いをし、信頼を、友情を得ながら、どこまでも親愛を受け取れるような存在を目指しました。

 コブダイみたいな私ですが友人は多いのですよ? 後輩からは随分と慕われておりますし。女性の後輩からも頼れる先輩などと、院生の頃から慕われていたものです。

 

 まあその女性の後輩が、頼れるけど恋愛対象としてはないよねー、と話していたのも聞いたので、今さら女性関係に期待などはしておりません。

 むしろ一層に劈烏を愛する心が増すというもの。

 そんな愛をずっと傍で受け止めた劈烏も、もはや卍解状態が当然のままでそこに在ります。

 卍解の解放のために膨れ上がった霊圧。それを抑えることを常としていたために、霊圧のコントロールも大したもの。私自身の霊圧も随分と上昇しております。

 

 が、席官や隊長などといった地位にはなんの興味もございません。

 私が目指す今の目標は、とりあえず石田雨竜にやられないことを第一に、しっかりと井上織姫に戦いというものをご教授すること。

 戦場で殺意を持たぬなど自殺行為です。

 それを、早いうちから教えてあげなければならないのです。

 たとえ、以降私が悪役だのクズだのと呼ばれようともです。

 

 知りなさい。そして後悔なさい。

 なんの犠牲も無しに得られる後悔ほど、幸福な『学び』などそうそうないのですから

 

……。

 

 いつかの年、いつかの日。

 つい間が差して、ある行動を取ってしまった。

 何年経ったかも知らん。兄が白道門の門番に就いてから100年は過ぎた? 覚えてない。200年かもしれんし300年かもしれん。

 え? 260年くらい? ……んー、どうでしょう。

 ともかく、なんか見覚えがあるやつらが霊術院に居て、教師からの覚えもよかった私が補佐を頼まれた結果───緊急事態において、雛森桃らを颯爽と駆け付け助けてしまったわけで。

 あ、やばい、これ、アレの場面か、と気づいた時には、たぶんもう藍染惣右介に目を付けられてた。 

 

 ……後悔なさい。

 これで私の平和で幸福な未来へ向かう、後悔の道は閉ざされたのでしょう。

 でも、この結果、阿散井恋次、吉良イヅル、雛森桃らが「先輩せんぱーい!」って慕ってくれるのは、私にかつてない喜びをくれました。

 今だけ集中し、十数える間だけ後悔するとしましょう。

 それが終わったならば、彼ら彼女らを見るたびに自分の行動を後悔することなど無い様───。

 救った命と行動に、私は後悔などしていないのですから。

 

……。

 

 さて。

 BLEACHを知るものならば当然完全詠唱出来るのが黒棺。

 ですが、『君臨者よ』から始まる赤火砲の詠唱も私は大好きです。

 常に卍解をしながら生きて、そろそろ300年くらいもなろうという時、ふと思い立って破道を詠唱。

 赤火砲は結構威力の高いものとなり、的を砕いた。

 

「お見事」

 

 自分と、なにより自分の霊力をここまで引き上げてくれた劈烏に感謝。

 そんな中でやっぱり気になり、出来るかなーと完全詠唱を開始。

 

「滲みだす混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる」

 

 唱えながら、劈烏に手を添え、彼女の力も借りるように。

 

「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ!!」

 

 そうして砕けた的を標的に、霊力を注ぎ、解放した。

 

「破道の九十 『黒棺(くろひつぎ)』!!」

 

 すると、的を囲うようにそれは出現した。

 人なぞよりもよっぽど小さな的だけど、それを囲うように乱重力の場が形成された。

 ギシッ、と強い軋みの音が突如響き、大きくはない黒の箱が消え去ると……そこにはズタボロにへしゃげた的だけが残された。

 

「う、おおお……!? 九十番台……!? すげぇ、初めて見た……!!」

「ややっ!? あなたは阿散井くん! いつからそこに……!?」

 

 なにせあの詠唱である。

 誰かに聞かれるのは恥ずかしかったので、誰も居ないことは確認していたのですが……よもやよもや、詠唱に集中するあまり、気配の察知を忘れていました。

 後悔ですね、これは。

 でも成功した……どうやら霊力だけは無駄に膨れ上がっているのは、自分の勘違いでもなんでもない模様。

 

「うっす、慈楼坊先輩! ちっと体動かしたくて、訓練所の確認に来ました!」

 

 なるほど、つまり今着いたと。

 そうしたら、どこぞの冴えないコブダイ先輩が九十番台をせっせと詠唱、なんとかちっこい術を完成させていたと。

 ……成功してよかった……!

 失敗してなにも発動していなかったら、慕ってくれている後輩に残念な目で見られるところでしたよ……!!

 しかしある意味での天啓を得た気分です。

 愛染は巨大な黒棺で対象を潰してみせておりましたが、そこを一点集中。範囲を絞りに絞って、捻り潰すという使用方法はどうでしょう。

 いろいろ試してみましょう。斬拳走鬼は使い様。それを、学べてきましたし。

 

「フフ、みっともないものを見せてしまいましたね。私の実力程度では、こんな小さな術を完成させるのが手一杯。……どうです? こんな先輩ですが、体を動かすための相手くらいにはなれるといいのですが」

「相手って……いいんですか!? お願いします!」

「もちろんです。私もたまには体を動かさなければいけませんので」

 

 戦うことになった。もちろん相手の全てを受け止めるように。

 さっさと終わらせるなどというもったいないことなどしませんよ。私も戦闘経験値は欲しいですから。

 

……。

 

 さすがに卑怯卑劣と呼ばれそうなことは、後輩の手前、実行には移さなかった。

 私も丸くなったものです。後悔なさい。

 

「ぶっはっ……はぁっ……! はぁっ……!」

「強くなりましたね阿散井くん。ここまで付いてこれるとは中々の腕前、お見事」

「へっ!? ~……あ、ありがとうございますっ!!」

 

 いやほんと強かった。

 訓練だから全力でやってないだろうし、なのに結構そのー……なに? 本気の気迫っぽいのを感じたし。

 けど褒められたのが嬉しかったのか、こんな地位もない雑用係に褒められて、テレテレしております。

 褒めてくれる人が居なかったのかもしれません。

 褒め慣れていないのでしょうねぇ。

 褒めてこなかった方は後悔するべきですね。

 

「さて、では私もこれで御暇させていただきましょう。席を持たない死神は、まだまだ暇ですから」

「……慈楼坊先輩は、全然強いじゃないすか。そういやなんでそう、地位に拘らないんです?」

「ふむ、よい質問です。一言でいうのであれば───好きな時に動けるのがそこしかなかった、ですかね。もちろん、勝手な行動と取られて罰せられる弱みも同時にありますが」

「あ…………じゃあ、あの時も」

「フフ、あれはたまたまですよ。手が空いている私がたまたま付き添いに任命されただけです。なにせ時間が有り余っていましたから」

「~……!!」

 

 ……おや。ほんとにただのたまたまだったのですが、阿散井くんがなにやら感激しております。

 ここはヘタにつついて差し上げるべきではないでしょう。戒めと自重の時ですよ、私。

 

 

……。

 

 そうして七番隊の隊舎に戻ると。

 

「あっ、慈楼坊先輩!」

 

 飼い主の帰還に気づいたお犬様のように、シュザァアンヌッと瞬歩で素っ飛んでくるのは七番隊第四席、雛森桃である。

 

「これはこれは第四席殿、お疲れ様です」

「も、もうっ! やめてください慈楼坊先輩! 大体、先輩が地位は要りませんとか言うから、せめてもの発言権くらいはって私が……!!」

「構いませんよ。というより雛森くんならば副隊長の席も夢ではないと思っているくらいです。なにせとても優秀ですから。実にお見事」

「うー……! 慈楼坊先輩だって、なろうと思えば席官なんてあっという間に───」

「いいえ結構。私にはそこいらの見回り程度がお似合いです。そうして、暇している時に駆り出されては、誰かの助けになれれば幸い。それ以上を望むなど罰当たりというものです」

「先輩……」

 

 じー、っと憧れの眼差しのようなものを向けられる。

 はい、憧れの、ですよ。勘違いしてはいけません、後悔します。

 そこに恋する乙女のような熱っぽい思いはありません。 

 いえ、鈍感がどうのこうのではないのです。マジで、本気でこれっぽっちもありません。信じてください。信じないなら無様に泣きますよ私。

 これがヨン様だったら熱っぽくもとろけるような赤みがさした表情なのでしょうが、私に向けられてるのはマジで憧れの恩人への目だけです。

 

 なんなら『玉井サン、チッス! あン時はケツ持ってくれてありあとっした!』くらいの気安さしかないのです。

 熱量でいったら阿散井くんに負けてますよ。吉良くんにも感謝は向けられていますが、そちらも感謝のみですので。

 やはりこのコブダイフェイスがお好み適用外なのでしょう。こんな顔に産まれたことを存分に後悔なさい、私。

 

 ……正直にいえば。ええ、馬鹿正直に心内を吐露するのならば、助けてしまった時はたまたまとはいえ、もしかしたらワンチャンあるかも……とか思っていましたよ。ええ思っていました。

 けれどもそこにあるのはコブダイの現実です。

 所詮私は周囲からの評価だけはある、図体のデカいコブダイですからね。

 憧れは持たれています。七番隊の兄貴先輩、世話焼きのアニキ、とは私のことです。

 ですが、あくまでそこまでなのです。

 なので雛森第四席に感謝を述べて、隊舎へ入って休憩。

 これからのことを存分に考えるのでした。

 

……。

 

 ───そうして、その日はやってきました。

 その日は随分と平凡で、当たり障りのない一日になる筈でした。

 暇潰しと称して更木隊長殿に訓練所に誘われたり、吉良くんに相談に乗ってほしいと誘われたり。

 なぜか第四席が私の身の回りの世話を焼きたがり、知らぬ間に私の私物が消えていたり……恐ろしい、いったい私の身になにが起きていると……? もしや私の知らぬ後悔が、私を襲い始めて……!?

 いえ、今はいいでしょう。それよりも、ついに来ました。旅禍の報せです。ここで動かねば後悔しかありません。

 

「とうとうこの日が来たというのですね……。では彼と彼女に相応しい後悔の時間を。そして私には、平穏無事な未来のためのさらなる後悔の時間を」

 

 頭を振り、今は旅禍に集中するように切り替えます。どのタイミングで向かったものかと考えつつ、しかしとりあえず『弓親花火』が『たーまー……やー!』と空に咲くまでは、そこまで慌てるものではなかった筈。と慎重になる。

 いえ、まずは煙幕からだったでしょうか。なにせもはや300年ほどは昔の話です。

 ともあれ、高い位置から気を付けていれば見つけることもできましょう。

 

  とか思い、高い位置までを瞬歩で移動して、霊絡探知を開始してみる。

 

 赤は死神。ならば人か、滅却師を探せばいいのです。

 さあどこに居るのです? この300年で鍛えた私と、主に劈烏から身を隠すことなど不可能と知り、敵に回したことを存分に後悔なさい!

 ───とか思ってたら、そんな高い位置の屋根の上までズシャアンヌと移動してきなすった第四席殿。───速いよ! なんなのキミ! 最近パワーアップが激しすぎませんか!?

 

「これはこれは第四席。どうかなさいましたか?」

「先輩! 旅禍が現れたって!」

「ええ、もちろん聞いています。今は見晴らしの良いこの場から、存在を探っているところ。すぐにでも辿り着けるようにと───」

「……先輩?」

「む? なにか?」

「もしかして、なにか知っていますか? 先輩でしたら騒ぎの中心までひとまず突っ走ると思ったんですけど」

「それは誤解ですよ。死神同士の諍い、止めれば治まる物事などは、私が突っ込めば済むこと。しかし今回は旅禍といいます。無策に突っ込むほど愚かではありませんよ」

 

 あとやっぱこの子、あくまで恩人としてしか私を扱ってないよ。

 ほらほらどうです御覧なさい、今のを聞きましたでしょう? 私のことを騒ぎがあれば突っ込む猪死神としか思ってません。好意があればこのような言い方……も、もうちょっと言葉を選んで言うでしょう!? そうですよね!? それとも非モテの私がそういう知識に乏しいだけなのですか!?

 

「……やっぱり先輩は頼りになります。あの、四席程度ですが、そこまでの権力でもよければいつでも言ってくださいね? 私、いつでも交代できますから……!」

「───」

 

 そして恩を返したら『これで貸し借り無しだこのコブダイ野郎……! 生臭いんだよ顔が……!』と去っていくのですよね? ええ分かっていますとも。

 顔が生臭いってなんですか! 自分で想像していて滅茶苦茶傷ついたのですが!?

 あと第四席を程度とか言わないでくださいます!? そこ、元は慈楼坊ポジですからね!? 才能のないこの体の元人格が、300年近くかけてやっとこさ辿り着いた地位ですから!

 兄が白道門の門番になって300年頑張ってる間、こっちはこっちできっと頑張ってたんだろうから!

 い、いつか後悔させてやるんだからね!? 可愛いからって人の心傷つけていいわけじゃないんだからね!?

 

 などと心で泣きながら、表面で「それを頼る時が来ないことを願います」とだけ言って、探知を続けました。

 第四席も「その時には第三席か、副隊長くらい目指せてたらと思います。私、頑張りますっ」と小さくガッツポーズを決めて、ゾヒャアとモノスゲー速さの瞬歩で消えた。

 ……私の方が後悔しそうです。タスケテ。

 え? あの子まさか、いつの日かおかしなこと言い出しませんよね?

 副隊長になった途端、『私の発言は慈楼坊先輩の言葉! 言うことを聞かねば相手になりますよ! ───先輩が!』とか言って、ありもしないあげなことそげなことを吹聴し始めたり……!?

 

 な、なんと恐ろしい……! 今突然、私の中で第四席への警戒レベルが急激に上がりましたよ……!

 誰ですかあのような強きお子を守ろうだなんて考えた愚か者は私でした。

 

「……シニタクナイ……」

 

 なんか自然と涙が出た。

 なんで誰かを助けたのにこんなに切羽詰まった状況に立っているんだろう。

 おかしいな、おかしいですね、私、ただ後悔を減らそうとしてみようと思っただけなのに。

 

……。

 

 で。

 ガァン、と。瓦屋根の一部が吹き飛んだ。

 

「……? 手応えなし」

 

 背後から聞こえる瓦屋根が軋む音に振り返れば、そこにおわすは───滅却師(クインシー)である石田雨竜と、肩を抱かれている井上織姫……!

 待っていた……待っていましたよお二方! この日が来るのを……なんかっ……なんかもう、…………待ってた! めっちゃ待ってたよぅ!

 遅いよぅ来るのがさぁああ! 『俺』300年も待ったよ!? 細かいこと言うともっと待ったよ! よく知らん場所にいきなり転生してさぁ! 死んで生まれ変わるってことに憧れとかあったのに顔面コブダイの巨漢でさぁ! チート能力も才能も無い顔面生臭いかませ死神とかさぁ!

 憧れはされても男ばっかにだし、それが嫌だとは言わないけど顔面が生臭いとかきっと陰で言われてるだろうしさぁ!(被害妄想)

 

「あの間合いで逃げるとは中々の腕前……お見事! そしてさようなら! ……後悔なさい! 出会った相手が私でなければ今少し長生きもできたでしょう!」

「………」

「………」

「ですが。急な出来事に、あなた方の気持ちの整理がついていないのも、見れば分かります。なので、十です。十数える間だけ、あなたがたに後悔の時間を差し上げます」

 

 今は卍解も解いて、斬魄刀もノーマルのまま。

 そんな刀を横に構え、手を添え、一つ、二つと数を数える。

 石田くんと井上さんは、そんな私を見たままに動こうとしない。

 ……あの、もうちょっと体勢を整えるとか、してもいいんですよ?

 

「四つ! 五つ! 六つ!」

「……、あ、ありがとう石田くん……もう大丈夫だよ……」

「……ああ。そうだね」

 

 あ、やっと離れた。

 井上さんもさぁ、好きな相手が居るのに他の男性に肩抱かれたままなのはダメですよ?

 そして石田くんからの眼力がコワイ。

 目だけで死神を殺せるくらい怖い。

 

「───(とお)!! さあ! 後悔の時間はお終いです! 存分に後悔できましたか!?」

「……来るよ!」

「うん!」

「それではここからは───更なる後悔の時間です!」

 

 言って。

 …………ホワイトボードをトンと立てて、マジックでキュキュ~と文字を連ねた。

 

「まずお二方に言っておきたいことがあります。ここは戦場。遊戯場ではないということ」

「……………………は?」

「え? …………え?」

 

 ホワイトボードには綺麗な字で、侵入者……旅禍と、死神とを分けた文字の連ね。

 石田くんと井上さんはポカンとしていて、私はそれに構わず文字と言葉を続ける。

 

「私は最初にそちらの女性に攻撃を仕掛けました。誤解無きよう言っておきますが、戦場において……奇襲をかけられた、油断した、女性を狙うは卑劣なり、は意味を成しません。何故なら現在、我々死神は侵入したものを敵と見なし、対処するために動いているのですから」

「………」

「あ……」

「あなた方も旅禍ならば、それなりの覚悟を持ってこの尸魂界に立っているものと思われます。お嬢さん、あなたは戦う(すべ)をお持ちですか? または、回復する術などは? それを持ち、旅禍を救い、我々と対立するのであれば、それはどうしようもなく『敵である』ということに他なりません」

「なにが言いたい、死神。まさか、『なのでさっきの奇襲は当然の行為だ』とでも言うつもりか?」

「ふむ。では問いましょう、滅却師。あなたは虚を屠る時、わざわざ『今からあなたを討ちますよ』と確認をしますか? 現世に虚が現れた時、さっさと矢を放ち、瞬殺していたのでは? その虚に、女性という魂の形が一切なかったとでも?」

「───……」

「ええ結構。後悔なさい。私は戦場において、老若男女を語りたく、直走っているわけではありません。種族はもちろん、戦場においては対立する皆全てが敵なのです」

 

 敵=力を持っているではない、とホワイトボードに書くのも忘れません。

 そう、重要なのは『敵は敵であること』。

 力がなくとも出来ることはあります。身を潜め、息を殺し、なんらかのかたちで敵の勝利に貢献すれば、それは敵が敵である証にしかなりません。

 

「弱き者でも見逃せば、拠点の井戸に毒を流せるのですよ。今にも死にそうな子供でも。足元のおぼつかぬ老人でも。短刀一本で眠っている指導者の首を切れる。……今一度問いましょう、旅禍のお二方。あなた方は、私に殺意を乗せた攻撃を放てますか?」

 

 問うてみる。

 と、石田くんは迷いなく光の矢を番えた。

 井上さんは───迷っている!

 

「お嬢さん。そこは武器を構えるべきところ。あなたは目的があってここへ来たのでしょう。ならばその目的のため、行動すべきです。でなければ、いつか全てが終わった時、あなたはなにも出来なかったと後悔することとなりましょう」

「……!」

「さあ、武器を構えなさい。そして私に立ち向かってみせなさい。ここはあなた方の後悔の場ではありません。私が、私の後悔を乗り越える場」

「……井上さん」

「石田くん……でも」

「まさか、覚悟も無しに戦場へと立ってしまったというのですか!? そんな気概では、たとえ武器を持っていたとしても土壇場で躊躇するでしょう! 構えなさい! 殺意を! 覚悟を持つのです! 後より来る悔やみなど、その覚悟でもって『あの時の行動に後悔は無い』と胸を張れるように!」

「───……!」

 

 井上さんが私を見る。怯えたような、驚いたような。

 そしてそれ以上に、石田くんが困惑した表情で私を見ておりました。

 

「さっきから……なんなんだお前は! まるで自分を倒してほしいような言い方を!」

「戦いの覚悟を持てと言っているのです! 言ったでしょう、ここは戦場! 多少力を得たからといって、覚悟も無しに訪れては簡単に死んでしまうような場なのですよ!? それともあなた方にとって、この尸魂界はそれほど弱く見える世界だとでも言うおつもりか!」

「……!」

「───……ここを、どこぞの遊戯場と勘違いしておいでか? ならば認識が甘い。言っておきましょう……死神には女性の隊長もおります。史上最年少で隊長になった方もおられる。女性だからだの自分より小さいからだの、そんな理由で攻撃をしない理由はこの世界には通用しません」

「……井上さん。耳障りではあるけど、この死神の言う通りだ。ここに来た以上、戦いは避けられない」

「石田くん……」

「お嬢さん。ずっとそうやって、場が変わろうとも誰かに守ってもらうおつもりか? ───ここは戦場。誰もが敵足り得る、そういう場。子供だから? 老人だから? とんでもない誤解です。総隊長殿は千年以上を生きるご老人。そして、この世界で最強の存在です」

「───!」

「故に───後悔なさい。殺意を込められぬ自身を。こうまで言われても立ち上がれなかった己を! そう、ここは戦場! 殺意の籠らぬ攻撃で───止められるものなど何一つ無し!!」

 

 瞬歩。そしてイノウエ=サンの側面へと立ち、テレフォンムーブで刀を振り下ろす!

 ───当然、そこを石田くんがフォローするわけだ。

 ガンッ! と刀の側面を矢が弾き、攻撃がしっかり逸らされた!

 ……え? 手はどうしたって? 原作じゃ手に傷がついて血が……って?

 フフフ、後悔なさい。

 鍛え続けた私の力、私の身の守りは、咄嗟に放った集中力の欠いた力では傷ひとつつきません。

 

「……ふむ」

「───“殺意”の籠った攻撃がお望みかい? それなら僕と戦うといい。僕の弓になら籠っているよ。君の好きな殺意ってやつがさ」

いえ、そういうことを言っているのではありません。横から口を出さないでもらえますか、勘違いも甚だしい

「なっ!?」

 

 ガビーンといった感じで大変驚いている石田くんをよそに、私の急な行動に尻餅ついちゃってる井上さんに手を差し伸べ、立ち上がらせ、砂ぼこりをやさしく払ってあげる。

 

「あの……あなたはいったい……」

「私はただの見回りが仕事の死神。名を一貫坂慈楼坊。そう……この尸魂界においては席官の地位すらもたぬ、ただの見回りですよ」

 

 そう言って、しかし、と続ける。

 

「あなたはそんな私ですら退ける術を持たぬとくる。そんなことで、ここまで来た意味をどう魅せるのです。あなたは、なんのためにこの尸魂界に立っているのです。……立ち上がりなさい。勇気を持ちなさい。そして……戦うと決めたからには勝ちなさい。勝ちたくば、殺意を持ちなさい。ここはそういう世界です。守りたいからでは勝てません。勝ちたいからでは守れません。生き抜くことこそが勝利。挫け、あの時ああしておけばと後悔するのでは勝利など得られぬのです」

「……!」

「今一度問いましょう。お嬢さん、戦う術を、お持ちですか?」

「……はい!」

「よろしい。では───今、ここで。私に向けて刃を。それを決戦の狼煙としましょう!」

 

 ざ、ざ、とゆっくりと距離を取り、向き直る。

 すると井上さんは深呼吸をしたのち、髪飾りに触れて───

 

椿鬼(つばき)!! 『孤天斬盾(こてんざんしゅん)』! 『私は拒絶する』ッ!!」

 

 ───私に向けて、円弧の刃を放ってきた。

 

「はっ!!」

 

 そして私はそれを正面から───ビンタでビトゥーンと地面に叩きとした。

 

「なにににににににィーーーッ!?」

「椿鬼くーん!?」

 

 石田くんが眼鏡をブチ破る勢いで目ん玉を飛び出させていた。おお、ギャグ演出ですね、初めて見ました、素晴らしい。

 

「お、お前ッ……今のは受けてみせる場面だったろ!!」

「ダメです。殺意が籠っていませんでした。さ、お嬢さん、次です。次こそ殺意を。でなければ後悔は続くことと知りなさい」

「つ、椿鬼くん……」

あがが……! ば、ばば馬鹿野郎が……! 中途半端な撃ち方しやがって……!

「初めて見る術ではありましたが。貴女の攻撃には殺意などまるで無し! そんな術ではたとえ虚は殺せても……死神には到底通用しますまい……なので、さあ。通用すると思うまで、私は何度でも貴女の力に向き合いましょう。……そして、この世界でなによりもまず、私に出会ったという事実を存分に後悔なさい!!」

「いやもういいから! お前帰れぇえええっ!!」

 

 ギャグパートに入った石田くんは実にギャグパートな石田くんだった。

 

……。

 

 で、それから数分。

 

『いい加減にしろよお前! 殺意籠めろっつーか俺がお前に殺意沸かせてるわ!!』

「で、でもー!」

『でもじゃねぇ! でもでも言いたいのはこっちだっつーの!! 何度叩き落されてると思ってんだてめぇは!』

 

 井上織姫嬢は、私に存分に叩き落された椿鬼くんから激怒されておりました。

 うーん後悔なさい。

 

「ほらほらどうです? 己の決意が場に届かぬために仲間を傷つけてしまう現実は。苦しいでしょう? 後悔なさい。存分に後悔なさい」

「……おい死神。お前は結局なにがしたいんだ」

「後悔なさい」

「そういうことを言っているのではなく!!」

 

 ふむ。

 

「私にとって、戦場とは老若男女を度外視した、泥汚い場だと思っています。通常であれば卑怯卑劣と罵られるような手札を切ってでも、帰りを待つ者のもとへと生きて帰る……それこそが、戦場。やさしく在れと、弱い者を守れと言われた者が、戦場に弱き者を連れてくるのを貴方は()しとしますか? 私は、その場に立った以上はその者の責任と心得ます」

「…………そんなもの、状況にだって寄るだろう。弱き者が無理矢理に戦場に引きずり出されたとしても、お前はそんなことを言うつもりか?」

「もちろんです。生きたくば刃を手に取り、戦いなさい。弱き者が戦場へ引きずり出されたのであれば、生き残るために死力を尽くす以外になにがあるというのです? それともあなたは、弱き者は弱き者のまま、抵抗せずに殺されろとでも言うおつもりか?」

「それはっ……!」

「私はそんな結末を望みません。弱いのであれば強くなりなさい。今は無理でも努力なさい。守りたかった者が死んでしまうことで、誰が一番悲しむかを想像すら出来ず、弱いままでいることなど許しません。まして、自らの意思で戦場に降り立ったというのであれば」

「───!」

「……貴方は滅却師(クインシー)。さぞ、死神を憎んでおいででしょう。しかし私は、貴方に憎まれる行動を取った覚えなどこれっぽっちも無し。……だとしても、貴方は死神の全てを憎んでいる。……たとえば私はここで、見回りと言う仕事をしています。あなた方を止めるのは当然です。ですが私にとってのただの仕事に、貴方は殺意を以って挑みます。……理不尽だとは思いませんか? 勝手にやってきたのはあなたがただというのに」

「…………つまりお前は。自分の意思で戦場に立ったのに、仕事をしているだけの自分に殺意を向ける僕が気に入らないっていうことか」

ですからなにを聞いているんですかこの外道は。そういうことを言っているのではないと言っているでしょう

「なぁっ!? げどっ……外道!?」

 

 さっきから話していれば、いったい何を聞いているんですかこの白いのは。

 いいからまず、死神を憎む自分を一旦おいて、話をしましょうと言っているのですよ私は。

 

「さあ、後悔なさい。お嬢さん、ここでこうしていても、あなたがここに来た意味への時間を無駄に浪費するだけ。決意があるのであれば殺意を。相手を倒すという意識を武器に込めなさい。でなければ───あなたは本当の意味で、この世界に降り立ったことを後悔することになるでしょう」

「……!」

「狙いを定めなさい」

「………」

「強く、心を引き絞るように」

「………」

「相手を倒す、ではダメです。それでは相手が起き上がり、最初に私があなたにそうしたように、不意打ちをかけるかもしれない。大事な仲間が、それで死んでしまうかもしれない。その相手が、あなたがここに来た理由かもしれない。そんな事実を前にして、あなたは今ここで殺意を持たぬことを後悔せずにいられますか?」

「───!!」

「やさしさだけでは守れぬのです。守りたくば勝ちなさい。勝ちたくば相手に余力を残させてはなりません。完全勝利を得るのです」

「完全……勝利……」

「故に殺意を。相手を完全に動けなくさせるほどの力を、攻撃に乗せるのです」

「───!!」

「そして、殺意を乗せきり、相手を打倒し勝利したのちにこそ───後悔なさい。あなたのその勝利への殺意が、明日の仲間を救ったのだと。存分に、後悔なさい」

「……ッ!!」

 

 瞬間、彼女は髪飾りに触れて、泣きそうな顔をしました。

 恐らく兄のことを思い出しているのでしょう。

 そして、今度は───きっと、迷わなかった。

 

「『孤天斬盾(こてんざんしゅん)』! 『私は拒絶する』ッ!!」

ダメです

 

 そして私も迷わなかった。

 飛んできた椿鬼くんをソッコーでベパァンと叩き落した。

 

ぇえええええええええっ!?

おいぃいいいいいっ!?

 

 井上さんと石田くん、大驚愕。

 

「殺意は乗ってました……お見事! ですがそのようなちっぽけな殺意で死神を倒せると本当にお思いか!? ……後悔なさい。あなたはやさしすぎるが故に、強き殺意を乗せることが出来ぬと」

「あぁもうお前いい加減にしろ!!」

 

 そしてここでシビレを切らした石田くんが一気に接近、矢を番え、放ってくる!

 それを霊力を込めた手を回転させたマ・ワ・シ・ウ・ケで完全に防ぎ切り、ニコリと笑って言ってやる。

 

「……後悔なさい」

 

 それが決戦の狼煙となりました。

 

……。

 

 その戦いは鮮烈なほど美しい。

 高速移動とともに矢を番い、放つ。

 それを、弧を描く素手で弾き、後悔なさい、後悔なさいと囁くコブダイ。

 石田くんはなんかもうなにがなにやらで集中力を欠いている!

 クフフフフ、やはり真面目キャラはギャグパートに引きずり込んで翻弄するに限りますなぁ! ハハハハハ、どうです!? さあ存分に後悔なさい!

 

「……っ! こんなのがただの見回りだって……!? 冗談じゃない、死神の強さを完全に見誤っていたとしか……!」

「さあ、後悔は堪能できましたか? ですがまだまだ後悔の時間は続きますよ! お見せしましょう、私の斬魄刀の真の姿を!」

「……! そうだ、斬魄刀! こいつはまだ、力を───」

羽搏(はばた)きなさい!! 『劈烏』(つんざきがらす)!!

 

 斬魄刀の切っ先に手を添え、あたかも掌を貫くように一気に手を下ろす。

 と、刀身は無数の手裏剣のような刃となり、私の傍を漂うように高速回転を始める。

 

「どうです! さあ後悔なさい! 私は七番隊見回り件雑用要員、一貫坂慈楼坊(いっかんざかじろうぼう)!! またの名を鎌鼬(かまいたち) 慈楼坊!!」

 

 斬魄刀の始解を見て、焦りと驚きを見せた石田くん。───だったけど、見回り件雑用要員と聞いて、なんか眼鏡がずり落ちそうになっていた。

 

“鎌鼬”(かまいたち)の称号は最強の飛び道具使いの証! この宙を舞う無数の刃! 『劈烏』(つんざきがらす)を見て生き延びた者などただ一人として無し! ……見せておりませんからね! おめでとうございます! 他人に見せるのは貴方方が初めてですよ! 存分に後悔なさい!」

 

 ずり落ちた眼鏡が落下しそうなくらい傾いていた。

 

「お前! 鎌鼬の称号は最強の飛び道具使いの証って言ったばかりだろうが! 誰にも見せずにどうやって称号を勝ち取ったんだ!」

「こっ───……」

「…………?」

「………」

「お、おい……?」

「…………」

「いや…………なんか言ってくれよ……。や、やめろよ……! そんな泣きそうな顔で僕を見るなよ……! まるで僕が傷つけたみたいじゃないか……!」

 

 ええそうですよ! ほぼ自称です! 仕方がないじゃないですか! 隠しておかないと愛染にいろいろ目をつけられそうとか考えてしまうんですから!

 ですがほんとなんですからね!? とある阿散井恋次からなる院生らを救った事件にて、『私の斬魄刀は飛び道具』的な匂わせをして勝利したため、あの事件を知る者から広がった事実が後押しをしているって報告だってあるんですから! ほ、本当ですよ!?

 

「心の痛みを知らぬ者め……! ならば実際に『最強の飛び道具使い』としての私の実力を、あなたの曇りなき眼で確かめてみればいい! ほらほらどうです!? 目で追うことさえ出来ないでしょう! 華麗なる死への前奏曲(プレリュード)! 同じ飛び道具の使い手として私に出会ってしまったことを存分に後悔して───」

 

 ゴキュィイインッ!!

 

「……ふむ? 今、なにか為さいましたか?」

 

 劈烏が無数の光の矢に襲われた。が、欠けた刃などただ一つとして無し! ただ金属に弾丸がブチ当たったような、ともすればズキュウウンみたいな音を残して、矢は霧散していった。

 さあ後悔なさい、あなたのその驚愕の表情も、喋り途中だった私に攻撃をした事実も、すべてあなたの後悔としてこの場に残して差し上げます!

 

「っ……なるほど。強い、んだろうな。正直驚いたよ。本当に、見方を改めないといけないって思わされた。……けど、同時に……面白いもんだね、って言わせてもらう」

「ほう?」

「現世と違って、どうやら尸魂界(こっち)じゃ“最強の使い手”ってのは、だらだらと御託の長い奴のことを言うらしい」

む? その通りですよ? 一切間違っておりません。なにを当たり前のことを

「───へっ!?」

「あなた方はこれから、そんな方々と幾度となく(まみ)えることとなります。私などただの前座に過ぎません。……覚悟なさい、そしていつか後悔なさい。私のこの御託など、あなたがたがこれから出会う強者の中でもほんの小さき御託であったと」

 

 いや、割とマジで。BLEACHの世界の強者ってほんと御託長いからね?

 そして自身の能力の欠点とかをベラベラと喋ってしまうんだ。ほんとアホだよ。御託以外のなにものでもない。

 

「さ、勘違いは晴れましたか? ではこれからも存分に後悔なさい」

「いやっ……いやもういいだろ! なんで見回りにこんなに梃子摺らされてるんだ僕らは!」

「なにをおかしなことを。見回りだからこそ強くあらねばならぬのです。見回りが弱くて、己の住む場所を守れますか? あなた方が努力するように、私とて努力しているのです。それともどうです? 飛び道具で私を圧倒して、鎌鼬滅却師を名乗ってみますか?」

いやそれは絶対に遠慮したいね

貴方は私の逆鱗に触れました! 鎌鼬の称号をなんと心得る!

「えっ!? いや───」

ヤァロォオブッコロシテヤァアアアル!!

「えぇええええええっ!?」

 

 屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……ぁ屋上ここだったわ。

 ならばもはや遠慮は無用!

 

(ばん) (かい)

「……? なに? 卍……?」

「知らないのですか? 死神には始解とは別に、更なる刀の解放があるのですよ」

「───! 井上さん! なにか危険だ! 離れて───」

 

 散っていた無数の刃が柄に戻る。そして眩い光を纏う見えない粒となると───しかし散らず、そのまま輝く刀としてそこに完成した。

 これぞ我が卍解の二ノ型───!

 

───『鎌鼬劈烏』(れんゆうつんざきがらす)弐式・硝眩刀(しょうげんとう)

 

 鞘に収まった斬魄刀をぬらりと抜けば、そこから光が溢れる。

 構えるだけならばただの眩い光の刀。

 だが一太刀浴びせればそこから、密集した小さな刃の数だけ真空の刃が放たれる。

 壱式は飛び道具。弐式は接近戦でも使える優れものです。

 どうです、素晴らしいでしょう我が卍解は!

 そして普段が飛び道具であるが故に、刀身を伸ばすことさえ可能!

 分かりますか!? リーチを気にすることなく私はあなたに攻撃を仕掛けられるのです! わざわざそれを語ったりはしませんがね!

 

「い、石田くん……!」

「気を付けて、井上さん……! さっきまで飛び道具だった刀だ……おそらく、あの輝く刀身……あれは粒子並みに細かく散った刃が、光を受けて輝いてるんだ。冬の雪原で見るダイヤモンドダストみたいな感じに……! だから多分、彼の意思で伸ばしたり縮めたりも出来ると思っていい……!」

「(バレてるー───……!!)ふ、フフフ……中々の洞察力、お見事! ですが手の内を知ったとて、私の劈烏からは逃れられません。さあ、後悔の時間を続けましょう!」

 

 いやほんとあっさりバレましたね! なんか私今、すっごい恥ずかしいんですが!?

 しかし卍解を使用する私に、あなたが勝つことなど不可能!

 旅禍騒動のドサクサに紛れ、この力を存分に振るわせてもらいます!

 いえまあ更木隊長とドンパチする時は、浅打状態と見せかけた卍解状態で割とハッスルしていたのですがね!?

 

……。

 

 3分後。

 

「はぁっ……はっ、はぁっ……! ~……くっ……!!」

「………………ふむ。180。さ、狂おしいほど後悔出来ましたね? あなたの滅却師としての能力。それはとても素晴らしい。ですが私は最強の飛び道具使い。その程度では届かぬ領域におります」

「くそ……!」

「そしてお嬢さん」

「はいっ!?」

「おや、ふふ、大変素直でよろしい。敵を相手にハイと言える者などそうそうおりません。ですが後悔なさい。この3分間、貴女が私に殺意を以って攻撃する機会は幾度もありました。気を逸らすでもいい、タイミングを合わせれば、そちらの滅却師の方が私に傷をつけることくらいは出来たかもしれません」

「…………」

 

 井上さんは、その豊かな胸に自分の腕を抱くようにして、後悔なさっていた。

 とても良い後悔です。存分に後悔なさい。あとむにゅりと形のゆがんだおっぱいが実にお美事です。

 

「更なる後悔をお望みですか? ならばもう加減はしません。次は死んでしまうかもしれませんよ。……こうまで言ってもあなたの覚悟は心の底から決まりませんか? そんな覚悟のまま、隣に立ちたい人の傍に居るおつもりか?」

「……? なっ! お前っ、なにか勘違いしてないか!? 僕と井上さんはそういう関係じゃ───」

だからべつにあなたのことを言っているわけではありませんよ。少し黙っていなさい、勘違い滅却師さん

「なっ───!! ~……!!」

 

 そして勘違いで顔を赤く染める滅却師が居た。

 対して、井上さんはハッとした表情をすると頬を桜色に染めて───けど。キッと決意と……もはや迷わぬといった表情でドッと胸を強く叩き、私を見ました。

 ……大変よろしい、今こそ決意と殺意は成りました。

 そしてたゆんと震えるお胸様、大変眼福です。

 

「……一度でいい。井上さん、隙を作ってほしい」

「石田くん?」

「もう、通常の力じゃ太刀打ち出来ない。奥の手を使う。こんな最初で使うべき力じゃないけど……使わないで何処にも辿り着けずに終わるより、よっぽどいい」

「……よく分からないけど、うん。やってみる。───『孤天斬盾(こてんざんしゅん)』」

 

 井上さんが私を見る。見る、というより、かつて見たこともないほど鋭い眼光で、私の弱点を探るようにして睨み───やがて、

 

「私は───『拒絶する』!!」

 

 椿鬼くんを、物凄い勢いで放ってきた。

 ほお、あの、放てば絶対に叩き落されると言われた椿鬼くんをこれほどの勢いで射出するとは素晴らしい腕前、お見事!

 放った相手が私でなければ確実に傷を付けることもできたでしょう。

 

  あえて、それを受ける。

 

 と、触れた部分から事象が発動。

 私の内側に盾が出現し、体組織の結合を拒絶する。

 お陰でこの逞しい胸板の皮膚が浅く切れ、プシュッと軽く血が出ました。

 

「おお、素晴らしい! そちらの滅却師の方では傷すらつけられなかった私に、血を流させるとは! お見事ですお嬢さん! 貴女はここで、戦い抜くための力を確かに勝ち取ったのです!」

 

 などと、ちょっぴり感極まった途端、私の目の前にバカでかい光の矢。

 アレ? これって石田くんがマユリ様に使った、あの腕の霊装のアレをキュピンと抜いて発動させるアレなアレじゃ

 

ぎぃやぁああああああああああああっ!?

 

 叫び、そしてまともに受けた。

 原作で、手を削がれた慈楼坊さんのような悲鳴とともに。

 ですが咄嗟に劈烏が盾として私を守り、威力を殺してくれた。

 

「…………! まさか……! これでも倒せないっていうのか……!?」

「はぁっ……はぁっ……今のはさすがの私も肝を冷やしました……! お見事、ですが後悔なさい。恐らくその力、有効期限は極短いものでしょう? そして、その代償として力を失う」

「───!!」

「さあ……その力が消える前に私を倒せるか、力が消えるのが先か。その力、存分に披露されませい!!」

「……っ……井上さん!」

「うんっ!! もう迷わない!!」

 

 奥の手でも倒せず、石田くんの本当に切羽詰まった声を耳に、井上さんの覚悟も真に決まったようだ。

 もはや加減は無用といった感じに遠慮も躊躇もなく孤天斬盾を召喚、私を拒絶にかかった。

 そんな椿鬼くんの突撃をビンタで弾きながら、その手に切り傷を拒絶によって刻まれて、その一瞬の痛みの間隙に、石田くんの破壊の矢が飛んでくる。

 それも、連続で。余裕もなく。

 そうです、これこそが殺意というものです。

 見習いなさい、井上さん。こうまでしても斃せないのが隊長格であり、こうまでしても対処出来てしまうのがこの私、一貫坂慈楼坊にございます。

 

「っ……はっ……は……! こんな……悪夢だ、こんなの……!!」

「ならば死力を尽くしなさい。夢であるなら無茶もできるでしょう。限界なぞないのだと、己の全てを吐き出すつもりでくるのです! さあ!」

「~……くっそぉおおおおおおおっ!!」

 

 石田くんは叫んだ! 叫んで、それこそ死力を、限界を出し切るつもりで私に挑み続けました!

 しかしやがて力尽き、その力も限界を超え霧散した時。私はその霊子が完全に散る前に、石田くんが気絶しきる前に、彼の胸の部分に、密集させ研ぎ澄ませた刃の矢を撃ち込んだ。

 ……よろしい。

 これで彼の滅却師としての能力は無くなりません。むしろ復活するでしょう。

 そして霊装も付けたまま安定させたので、慣れればこれがデフォルトになることでしょう。

 ……後悔なさい。

 憎んでいた死神にパワーアップの手伝いをしてもらった事実に、一生後悔し続けなさい。

 

 なんて状況を無力を噛み締めながら、傍から見ていた井上さん、自分が無力だった所為で力尽きた石田くんが、『なんか後悔なさいが口癖のコブダイに胸を撃ち抜かれて倒れて動かなくなった』という、客観的状況把握を得て悲しみの絶叫。

 私に向けて全力全開の拒絶を放ってきて、私はそれをビンタで叩き落しました。

 ビトゥーン! 『ぶべっしぇ!?』と、椿鬼くんの潰れたカエルのような声が印象的でしたね。

 

「落ち着きなさいお嬢さん。彼は生きてますよ。むしろ無くなる筈だった代償を無かったことにして差し上げたのです」

「え……え? え……?」

「強くおなりなさい。今日この場で抱いた後悔の数だけ、貴女が強くなるのです。その分だけ、これから出会える誰かを、きっと貴女は後悔から救えるはずです」

「……………………あ、の……」

「ふむ? なにか?」

「あなたは……あなたはどうして、私たちに……その、旅禍? に、こんな……」

「どのような形であれ、誰かが戦場で後悔の涙を流す。そんな未来を消したかったからですよ。中途半端な意志、中途半端は決意ほど、戦場で後悔を残します。それを防ぎたかったのです。……さ、もう存分に後悔しましたね? ではもうおゆきなさい。そして、ここを去ったなら───次遭う時は敵同士。もはや一切の遠慮も要りません」

「鎌鼬さん……」

「鎌鼬は称号です! 名を間違えるとはなんたる無礼! 今すぐここで後悔なさいますか!?」

「ひえっ!? ごごごごめんなさいぃっ!!」

「む……素直に謝れるのは美徳です。ですが後悔なさい。もう人の名を間違えるなどといったことが無いよう」

「はい……」

 

 それだけ言って、私はその場から立ち去った。

 ……ヨシ! 我が鎖結と魄睡は無事ですよ!

 運命に勝った! これはもう完全勝利でしょう!

 どうです、素晴らしいでしょう! これが私の華麗なる人生のプレリュードとなるのです!

 

……。

 

 ガシャーン!!

 

やっぱりぃいいいっ!!

 

 その後私は旅禍を見逃したとして、牢屋にぶち込まれました。

 気分はドラクエ四コマの、当然のように牢屋に閉じ込められるトルネコさんだった。

 やっぱりねー、ドラクエ4で一人置いていくあのイベント、牢屋に入れるならトルネコさんだよねー。

 ……まあいい。ここで下手に動くより、牢屋に居たほうが安全なのはホントまったくマジで間違いじゃないし。

 というわけでのんびり刃禅してたら第四席が牢場(ろうじょう)破りを名乗り出やがって参りました。破るなら道場にしない? なに牢場破りって。

 

「先輩が捕まるなんてなにかの間違いです!」

「いえ、旅禍を逃がしてしまったのは事実。これは当然の罰というもので───」

「だったら罰が間違っているんです! 先輩は間違ったりなんかしていません!」

「…………アルゥェエエ……?」

 

 おおなんということでしょう、少々見ない内に第四席殿がトチ狂って……!

 

「……ま、いいでしょう。丁度退屈していたところです。雛森第四席殿、話し相手になってもらえますか?」

「えっ……喜んで!!

「うわぁ声デッカ!」

 

 なにかがちょっとずつズレ始めてる……そんなことを思い始めた私でした。

 

……。

 

 で。

 

「それで私は先輩に憧れて飛び道具使いに頑張ってなろうって頑張りまして、そしたら斬魄刀も飛梅(とびうめ)っていう飛び道具になって、ですからもうこれは運命だとしか思えないと強く強く思ったわけでしてだからやっぱり先輩が私をあの時救ってくれたからこそこんな風に今も笑っていられるんだなって思えるようになって───」

 

 いや長い長い長い長い……!

 どうして私今、この子に話し相手になってもらったことを後悔してるんですか。

 こんなはずじゃなかったのに、ただ刃禅の膝休めみたいな感じだったはずなのに、かれこれ一時間以上ぶっ続けで喋ってるよなにこの子怖ぁ……!!

 でもあくまで目は憧れの目なんですよねぇ……。

 ……もしかしてこれ、あれなのか? そのー……“推し活”ってやつに近いのか?

 

「ですから先輩は私の恩人で最高の憧れで、先輩の笑顔のためなら私なんだって出来るって思えて、努力だって血のにじむような鍛錬だって頭が焼かれるような勉強の果てだって辿り着くことが───」

 

 いや怖い怖い怖い怖い……!

 ぁうんこれ確定だわ絶対に恋とか愛じゃなくて推し活だわ……! 過激なファンからの推し活だわ……!

 

「そ、そうですか。ええ、貴女は本当に大変に有難い後輩です。あなたのような素晴らしい後輩を持てて、私は幸せ者ですね」

「……───!! んんんんんんん!!

 

 とはいえ感謝していることは確かなので、感謝を真っ直ぐに届けた。

 ……ら、顔を真っ赤に、けれど泣きそうな表情のくせに嬉しそうで幸せそうな顔で声にならない声で叫び始めた。

 あ……これ前世で見たことある。推している人にコメント貰えて限界化してる人のリアクションだ。

 

「せ、せんぴゃい!」

「は、はい? なんでしょう」

「死にます!」

「死なせませんよ!?」

「間違えました! 嬉しすぎて死んじゃいそうです!」

「だから死なせませんよ!?」

 

 牢屋にぶち込まれたコブダイを未だに推してる心優しき後輩が居るそうです。

 ありがたいことです。

 あ、でもこの場合、偽愛染の死を発見するのは誰の役になるんだろうね?

 あ、もしくは鏡花水月で、私が死んだことに見せかける催眠をするとか。

 HAHAHAHA! コブダイジョーク!!

 

 

───……。

 

……。

 

 ……その後。

 マジで私が脱獄したのち串刺しの刑で磔にされてる完全催眠のお時間があったとかで、雛森さん発狂。

 阿散井くんと吉良くんもブチギレたとかで、相当な騒動になったらしいけど、私、その頃普通に牢屋で寝てました。

 以降、雛森くんと阿散井くんと吉良くんの目がどこか怖いんですけど。

 助けてください。後悔なら得意ですから。

 

  そんな状況に、寝て起きたらなっていたので、久しぶりにカツーンときた。

  なんでそんな寝たのかも知らないけど。もしやなにか盛られていた?

 

 なので、なんかオールバックにして私が天に立つと言ってカッコつけてた愛染=サンの後ろの全員、卍解でブチノメした。

 加減一切無しの超全力を解放して、驚き固まってる愛染も顔面を標的固定して、驚いてる内に完成させた完全詠唱黒棺で捻じ曲げ圧殺。

 完全に見下し油断しきってた第一章ラスボスは、自分の油断でこうもあっさり死亡した。そもそもBLEACHは油断からひっくり返されるのが基本パターンなオサレだから、油断すら捻り潰して策を捻じ曲げる策を捻じ曲げる策を用意して策を捻じ曲げれば対処が可能だ。

 圧殺した、と私が確信していても、そこで油断して起こるのが『なん……だと……?』だということはもう分かり切っているのですよ!

 当然、その策の最後の仕上げは、山本総隊長らの協力も仰いで、総員で完全滅焼を完了させること。

 霊圧も痕跡も、その全てが滅んだところで、あえて残しておいた市丸ギンにニコリと微笑みかけ、

 

「あ、あのー……よかったらその、ボクの話───」

「後悔なさい」

 

 ゴパキャアと最大出力で放たれた劈拳が市丸ギンの意識を刈り取り、気絶した彼は松本乱菊のもとにドグシャアと無造作に放り投げといた。

 さ、なにはともあれこれで一件落着です。

 この騒ぎにおいて散々と振り回されるだけだった皆様は存分に後悔して───え? なんです総隊長。

 私がどうかし───え? 脱獄? いえですからあれは誤解だと───仕方がないでしょう! そもそもが誤解!!

 力を隠していたのも卍解を隠していたのも全てがこういった事態になった時のためであり───落ち着いて頂きたい総隊長殿! その解号はいけません! 後悔することになりますよ! 私が! あっ、おやめくだ───アーーーッ!!

 

 

───……。

 

……。

 

 ……のちに。

 

「あの。なぜ私が現世に? 私は見回り程度がお似合いの───」

「喝! これは罰である! 浮竹の指示のもと、死神代行黒崎一護の傍に立ち、その動向を見守ることを此度の罰とする! 拒否は受け付けぬ!」

「えぇ……」

 

 山本総隊長が、山本総隊長っていうか川神鉄心みたいな感じに叱ってきました。

 そしてそのオトモに雛森第四席が志願し、あっさり許可が出て……

 

「あの時点で崩玉の回収も確認出来ておりますし、今さら破面編はおこらない筈なのですが……死力の振り絞りすぎで、私の霊力も弱ってますし、今は休ませてほしいのですがねぇ……」

「大丈夫です先輩! そのための私ですから! それであの、ホーギョク? とはなんですか?」

「………」

 

 そのためのあなたが一番不安なんだ、とは言えませんでした。

 後悔なさい、私。あと一人言なので拾わないでください。

 

「あ、お師匠様!」

「いえあの、私はあなたの師などでは……」

「あの時はありがとうございました!」

「ェェー……」

 

 あと、現世にて。なんでか井上織姫にお師匠様呼ばわりされている私が居ます。

 なんかやたらと嬉しそうに話しかけてくるし、石田くんもなにやらぽしょぽしょ話しかけてくるし、いったいなにが起こってるやら……。

 あの、私結構頑張ったし、体の疲れも完全に取れていないので、休ませてもらえると有難いのですが……。

 

 限界を超えた、それこそ自分の霊力の根源さえ枯渇させんほどに死力を振り絞って、しかも標的を小さく、限定的に引き絞っての黒棺くらいでなきゃ、愛染を一時的にだろうと行動不能にすることなんて絶対に無理だったんですよ。

 結局圧殺した、なんて確信したつもりが普通に生きてたし、山本総隊長が居なきゃ焼き滅ぼすことなんて出来やしなかった。

 たまたま標的固定して歪ませた瞬間、零れ落ちた崩玉を拾えたけど、私が出来たことなど井上さんに告げたような、敵の隙を作る程度のことだけだったと言えます。

 ですがそれでいいのです。こうして破面編を回避できたのですから、今はのんびりと、この現世を楽しむとしましょう。

 

  じゃないと、雛森第四席が私のお世話を始めたあたりから、眼光がガチな日番谷隊長殿がガチのガチで怖いので。

  ……いいではないですか、現世に居る時くらい休ませてください。

 

 ……ところで。

 拾ったと思った崩玉をそれ以降見ていないのですが。

 どこに行ったんでしょうね、アレ……。

 まさか私を宿主として受け入れ、私の中で息づいているとか……ハッハッハッハ! まさかまさかですよね!

 そのようなことが在ろうはずがございません!

 何故って、私はかつて『BLEACH界のかませ』と呼ばれた一貫坂慈楼坊ですよ!?

 そんな私がなにを間違って、崩玉の宿主などと!

 さ、今日も刃禅を始めましょう。

 雛森第四席にお世話される中、これだけが……劈烏との静かな世界での対話だけが、私の心の癒しなのですから。

 

「………」

『………』

『………』

 

 で。

 あの。

 劈烏さん?

 私の愛しい斬魄刀(ひと)よ。

 この、あなたと私だけの静かな世界であった筈の空間。

 あなたの隣におわす見知らぬお方は、いったい……?

 

 え? なんです? ……名前がない?

 なのでつけてほしい?

 ほほう、私に名付けを期待するとは中々の胆力、お見事。

 では私が直感で素敵な名前を授けましょう。

 後悔しても構いません。

 そのたびに新たな名前を考えましょう。

 さ、まずは──────です。

 ……おお、気に入ってくださいましたか、それは重畳。

 劈烏もなにやら安堵をしているようでなにより。

 ……え? 前は勝手な名で振り回されていた?

 それはお可哀想に。

 なんと呼ばれていたので?

 その悲しみも、私が後悔として飲み込んで差し上げましょう。

 ………………。

 ……え?

 今なんと?

 …………ホーギョク?

 

 ………………。

 

 アノ。

 今から入れる保険などは───

 い、イエ! 私が宿主などと!

 名前を決めて、崩玉(あなた)が認めたからもう無理!?

 いやそこをなんとか! 私は! 私はー!!

 ハッ!? いいえ、これは後悔などではございません!

 崩玉は宿主の望みを叶えるなどといったお話があったはずです!

 ならばこれを後悔と意識するのは名付け親としてあまりに無礼!

 そんな思いのためにあなたに名をつけたのではないのですから!

 

 ───いいでしょう! ……後悔なさい。

 あなたには私が滅ぶまでの間だけ、私を宿主と認めたことを後悔する時間を差し上げます!

 そしてその時間が終わるまでの間だけ、私はあなたに幸福を与える努力をしましょう!

 こうして話せるのであれば、きっとそこには意味がある筈なのですから───!!

 一方のみが努力をする幸福になど意味はありません。

 

 なので……───よ。

 あなたも、幸せになる努力をなさい。

 

 ……なんです?

 ふふ、後悔など腐るほどすればいいのです。

 どうせ、後にしか来ないのですからね。

 後に来るものは、あとの自分にお任せなさい。

 後のことに対して今の自分に出来ることなど、そうそうありはしないのですから。

 

 ……ところであのー。

 私ごときが愛染隊長やその他虚を対処出来たことに関して、そのー……。

 あ、はい。はい……はぁい……。

 …………。

 

  そんなこったろーと思ったよどちくしょー!!

 

 私がある程度近づいた時から私の願いや意志を吸収していたということですか!

 その分愛染が弱っていたというわけですか!

 でなければおかしすぎますものねぇ!

 分かっていましたよなにかがおかしいと!

 

  え? でも劈烏との絆は私がきちんと築き上げたもの?

 

 なにを当たり前のことを。もちろんそれを否定したりなどしませんとも。

 私はね、劈烏。どのような未来に辿り着こうとも、あなたを手にしたことになんら一切の後悔などありません。

 そこだけは、どれだけの時を生きようとも後悔することなどないのです。

 

 何故なら私は───一貫坂慈楼坊なのですから。

 





 ◆ここより後書き

 どうです? 存分に後悔できましたか?

 なおグーグル先生で一貫坂慈楼坊関連の検索をすると、AIが用意する概要が出てきたりしますが、出番が少ないせいか割と勝手なことを書かれまくっているので気にしたら負けとお思いください。

 主に斬魄刀の紹介が毎回曖昧なのがあまりにもあんまりな後悔ポイント。
 鎌状の斬魄刀だったり、大きな鎌の斬魄刀だったり、兄が何故か七番隊副隊長だったり(射場さん!?)、兄の名前が慈孔だったり(誰だよ)、兄が七番隊隊長の親友だったり(兕丹坊さん!?)。
 『劈烏』の文字は同じなのに、毎度読み仮名が違ったりとかなり曖昧です。
 『つぶす、つぶすて、つぶしがらす』など、『つんざきがらす』ではなく、どっちかというと『五刑頭(げげつぶり)』の解号みたいになにかをぶっ潰したいっぽいです。

 グーグル先生の『すべて』のタブではそうなりますが、『AIモード』のタブでは大体普通の紹介となっております。
 たまにおかしな紹介が混ざりますが。

 では最後に、このような小説に時間を割いてくれたことに感謝を。
 そしてさようなら! あなたがこれより先に出会う小説が、あなたに後悔を与えぬものであるよう願いましょう。
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