女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
第1話:不審者になんてなるものか
人生というのは大抵の場合、思ったより平坦にできている。
少なくとも俺の人生はそうだった。
高校二年生の夏、7月の半ば頃。
定期テストがノー勉学生の首を刈り取ってから数日、俺は担任とクーラーのきいた放課後の教室で夏休みに入る直前の二者面談をしていた。
「坂又、まだ進路は思いつかないか?」
「はい。やりたいことも特にないですし、なりたいものも特に思いつかなくて…」
担任を困らせている認識はあるが、どうにも決めきれない。
俺自身、今できているような平穏な生活以上を望まないから余計に考えつかないのだ。
一応私立の有名な進学校であるこの高校では、既に進路が定まっている生徒も少なくないが、定まっていなくとも適当に進路希望を埋めて提出しているのがほとんどだ。
それでも白紙で提出している自分は生真面目すぎるのか? という気持ちも否めない。
担任にも(もう何か適当に決めてくんねぇかな…)みたいな雰囲気が見え隠れしている。
「……まぁ、あれとかどうですか。農家とか。確か父方の祖父が山で農業をしていたのでそれを継ぐのも楽しそうかな、と」
「おぉ! そうかそうか、なら大学はどこにするんだ? 今の坂又の偏差値だと…」
それからは担任の話に適当に相槌を打っていたので大して覚えていない。
生物系の大学を進められていた気がするが、どうでもいことだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「はぁ……」
帰り道。二者面談での話のせいか、将来への不透明さにため息が出た。
確かにここまで何も考えていないんじゃあため息の一つでも出るってもんだ。
まぁそれでもよくないか? 俺はまだ高校二年生だし、最悪高校の推薦枠で狙える大学にしよう。それなりに成績も取ってるし、学年順位は60位前後だったし。
「よしっ、この事考えるの終わりっ!」
家に着くなり叫ぶ様はかなりおかしい奴だとは思うが、この一軒家は結構壁が厚いのだ。それなりに叫んでも外へ音は漏れない結構立派な家。
「さて、今日の夕飯はなんにするかなー…」
制服を脱いでワイシャツを洗濯かごに放っぽり、昨日の寝間着と一緒に洗濯機を回したら風呂に入って準備していた部屋着を着て適当に食材を出して考える。
まぁ野菜を刻んでひき肉と炒めて顆粒出汁かければうまくなるだろ。
「んっ、ごちそうさまでしたっ!」
というわけで食い終わりと同時に皿を食洗器に突っ込み、部屋に入る。
適当に授業の復習をしたら……ようやく。
「おっす、元気してるかー?」
『おいお前ログインおせーよ』
「悪い悪い、今日はちょっと所要で帰るのが遅くなっちまってさ」
『……しょようって何?』
「うん、いつも通りで安心した。」
ネッ友とのゲームだ。
同い年らしいが正直頭に何かしらの問題があるんじゃないかと邪推するレベルで単語を知らなかったりするバカ(関西風味ならアホ)だが、気楽な関係としてはちょうどいい立ち位置だ。天然で面白いしな。
そんな感じで普通に今日もFPSをしていると。
『なぁ知ってる?』
「豆しば…?」
『コーヒーって寝る30分前に飲むと逆にリラックス作用があって睡眠の質を上げてくれるんだってよ』
「んだそのクソ知識。カフェインどこ行ったんだよ」
『いや、今日頭いいやつから聞いたんだけど、マジらしい』
「だとしてもだろ。わざわざ飲まなくても普通に寝れるし、俺たちみたいな年齢にはあんま関係ない話題だろ」
『俺は興味あるけどなー。睡眠の質上げたら起きた時どれくらい体がすっきりするのか』
「あー…まぁ確かに気にならなくはないな。筋肉痛とか治りやすくしてくれたりするんかね」
『するんじゃね? ついでに頭も「良くならないと思うぞ」ですよねー』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ちくせう、眠れん…誰だ俺に寝る前にコーヒーを飲めとささやいたのは!(A.俺)
もうぎんっぎんなんだけど。さっきから何時間か目をとじて寝息も安定させてるのに脳の回転が止まんねぇんだが……しかもなんか深夜特有のテンションが俺にポエミーな詩を読ませたがっている。
やめてくれ……俺はもう中二病を卒業したんだ───!
ガララ………
……? あれ、窓閉め忘れたっけ。クーラーつけたときにちゃんと閉めたと思ったけど。ってことは窓が開いたまんまクーラーつけてゲームしてたのか、俺。
今月の電気代かさんでないといいけど……
スタッ…トン…トン…
あ、あれおかしいな。足音が聞こえる……え、空き巣…? いやでもここ二階だぞ!? どうやって侵入してきて…いや、それよりもどうしよう。
あ、そうだ。このまま寝たふりをしよう(?)。さすがに空き巣も寝てる家人を起こしてまで家探しはしないだろ……? 足音がなんかこっちに向かって来てる?
え、あ、やばい。
俺、殺される?
空き巣じゃなくて、強盗殺人?
え、あ、足音がベッドの前で止まった。
俺、こんな風に死ぬのか。
強盗犯に無為に殺されて。
体に力も入らない。
それはまるで金縛りの様で、
轟音。ただ窓が割れたにしては明らかに大きすぎる音。
正直、ビビりすぎてもう少しちびってしまっている。お恥ずかしい話だが。
「なっ、貴女は………うっ!」
刹那、すさまじい風圧が起きて俺の体を浮かしたかと思えば俺の金縛りは解けていた。
しかし代わりに俺の目に移りこんできたのは、ロープで簀巻きにされた身だしなみの乱れた少女と黒いスーツを身にまとった女性がそのロープを締め上げている情景だった。
「な……なんで簀巻き?」
思わずあんまり関係ないところを突っ込んでしまった。
俺の反応に驚いたのか、その女性はすさまじい速さでこちらを振り返ると、しばしの間凝視した。
「え、な、なんですか……?」
「心配しないでください。本日はもう去りますので」
「は?」
気が付くとその女性は簀巻きにされた少女とともに消えていた。
…。
……。
………。
「あぁ、なるほど。夏の暑さが見せる悪夢か。」
布団に入る。
「やっぱ毎年暑さがきつくなってきてるからなー…熱帯夜も増えたし。」
そして意識は自然と落ちていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
目が覚めた。
なんか変な夢を見た気がするな……なんだったか。
そうだ、部屋の窓から強盗犯とスーツの人が飛び込んできて……
「窓、割れてないな……やっぱ夢か。」
そう結論付けてさっさと学校へ行く準備を進める。
今日も夏休み前とはいえ学校なのだ。二年連続での皆勤賞を目指している身としては休むわけにもいくまい。
トーストと目玉焼きとトマトといういつもの朝食セットを食べ、着替えながら歯磨きをして今日の授業の準備をする。
準備物の確認をしていつも通りに新しい日が始まるのだ。
「どうも。先日のアフタ-ケアに参りました」
俺は扉を閉めた。
多分毎話このくらいの文字数です。