女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
「なぁ、雨宮後輩。お前達はどこを秘密基地にしてるんだ?」
帰り道…のように見えて、別の方向へと進む俺、東雲さん、雨宮後輩。
あの後放課後に校門前で待っていると『案内して差し上げますよっ! わが家へ!』、と言うのでそのままついていく事に。
「それはー…行ってみてからのお楽しみで! 度肝の八つか九つは貫いて見せますよ~!」
俺はぶっ、と噴き出した。
「何人分の度肝抜く気だよ。というか貫いたら死ぬから。せめて貫くのは胸か芯だけにしてくれ。」
「それくらい驚かせてやる~!っていう粋な表現じゃないですか~! やだなー、坂又先輩はー!」
「そ-かよ。んじゃあ、お前の味方というか…仲間? はどんな奴らなんだ?」
「詳しいことは会ってから説明しますけどー…そうですね~…じゃあ、お近づきの印に皆の固有魔法を教えてあげましょう!」
今度は東雲さんがせき込みそうな勢いで噴き出した。
「ゴホッゴホッ…固有魔法は、魔女同士で一番秘匿すべき情報では……?」
「東雲さん……」
「はい、なんでしょう…?」
「言ってくれるうちに聞いといた方がいいんじゃないですか? 雨宮は信頼できる人でも、その周囲まではわかりませんから…」
「ま、まぁ確かにそうなのですが……」
「? コソコソ何話してるんです?」
「いや、なんでもない。でも固有魔法なんて話していいのか? 一応、個人情報だろ?」
「あー…みんななら許してしてくれますよ! …多分!」
(多分なのかよ…まぁいいや)
「じゃあ教えてくれ。そもそも何人いるかも知らないんだから。」
「じゃあ、まずは一人目! 固有魔法は『黄昏』といいます! 私もよくわかんないですけど、実態のある幻を物や人物と入れ替えることができるそうです!」
「実態のある幻…? なんか凄そうですね…」
「すごいなんてものじゃありませんよ~! この前なんて知らない人が入ってきた!? って思ったら幻だったんですから、驚きましたね~」
「そりゃすごいですね……次の人は?」
「二人目の固有魔法は『鏡界叛水』というらしいです! 詳しくは私も知りませんが、鏡の中に空間を作ったり水を操作したりできるんですよ!」
「へー、そりゃすごい。水の操作が人力で出来たらほぼ永久機関じゃん。すごいな。」
「すごいでしょー!? そして最後の子! 固有魔法はー……『地面共振』! 自分の周りの地面をある程度操作できるんです!」
「へー…また汎用性のありそうな魔法だなー…ん?ってことは雨宮後輩。お前含めて四人の集まりなのか?」
「はい! その通りです!」
「なるほどね……なんというか固有魔法って色々あるんだな。なんか想像してたのと違ったわ。」
「まぁ、固有魔法も千差万別、人それぞれなので。通説として、魔女化した際に自身の奥底にある願いがその人物の魔女としての素養に比例して固有魔法という形で表出する、なんて言われていますし。」
「なるほど…通説だとそんな感じなんですねー…」
「あ! 見えてきたよ先輩方!」
言われて雨宮の目線の先を見ると、まだ夕方だというのに人のいる気配を全く感じさせない小学校だった。
「……廃校になった小学校、か?」
「正解で~す! 度肝抜かれました!?」
「夜に肝試しとして来てたら貫かれてたかもな。」
「……あの、雨宮さん。この中に本当に先ほどおっしゃっていた魔女がいるんですか? 気配を探っても全く感じないのですが…」
「あーそれは…私を見ながら気配を探してみてくれますか?」
東雲さんは雨宮さんを視界に入れると、はっとした顔になり、顔を少しゆがめていた。
「なるほど……つまり、これがあなたの固有魔法ですか? 雨宮さん。」
「東雲先輩はかたっ苦しいですねー……そうですよ。私がCAPsからも野良の魔女からも見つからない理由ですから。」
……正直気配だなんだといわれてもさっぱりわからない。魔女化したときはわかった気もするのだが、
「えいっ。」
「!? さ、坂又さん急に何を!?」
念じると一瞬で男の体ではなくなり、長く伸びた銀髪は肩にしな垂れかかり骨格から肉つきの何からナニまでが全て女性に置き換わった。
「いや、気配だなんだって話してたんで俺も感じてみたくて。」
「まさかその為だけに
「まぁ、これから魔女と会うのに魔女の事なにも知らないまま会いに行くのもどうかと思いまして…」
「そ、そうですか……すみません、取り乱しました。今後は、魔女化する際に一言いっていただけると助かります……」
「すみません、なんか驚かせてしまったみたいで……今度から一声かけますね」
「か、かっ……!」
「ん? どうかしたか雨宮後は「かっわいい~!」ぃうわっ、ちょ、お前っ…くっついてくんな!」
万力の力で抱き着いてくる雨宮を振り落とそうと全力で突き放そうとしても全然離れない。
こいつ、力強すぎだろ……!
「あ~堪能した。坂又先輩、ずっと魔女化したらどうです? 誘拐しちゃいたいくらいにかわいいですよ?」
「誘拐も犯罪だけどお前のも犯罪だからセクハラだからわいせつ行為だからっ!」
一気にまくしたて、犯罪行為を明確にしてもきらめく目が留まってない。きらめきが止められないのは某漫画のキャラだけだっ…!
後悔してすぐに男の体に戻る。
「もう中、入るぞ…すでに若干疲れてるけど…」
「あぁ、先輩方。少しだけいいですか?」
雨宮が声のトーンを落とす。
振り返ると、数瞬前とは打って変わって真剣なまなざしを向けていた。
「中にいるみんなは、まだまだ精神的に幼い子たちです。魔女になって、日常生活に支障が出てしまった子たちが中に居ます。なので……どうか優しく、接してあげてください。」
「……おう、分かった。」
「了解しました。」
そして再びきゃぴっと効果音が付きそうな顔に変わり、
「じゃあ、廃校へしゅっぱーつ!」
何事もないように歩き出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ただいまー! わが子たちよー!」
一階にある教室に入るや否や、雨宮は叫びながらフードのついたパーカーの様なものを着て黒いマスクを着けている少女に向けて走り出し…
「うるさい」
「あべしっ!」
……叩かれて地面に落ちていった。これが格闘ゲームならK.O.の表示が間違いなく出ていたであろう程にきれいなビンタだった。
「………誰。」
その少女はフードの中は見える限りでは白髪であり、なんとなく短いような印象を受ける。瞳は灰色で、全体的に髪色とは違い黒い印象を受ける少女だ。
「その人がすずちゃんを食べた魔女を撃退した人だよ! あと私のこと心配してくれてもいいんだからねっ!」
「埋まりながら解説してたらもう心配する必要ないだろ、雨宮後輩。」
雨宮をたたき落とした少女の他には、どちらも小学生程に見える幼い少女たちだ。
雨宮を叩き落した少女は中学生ほどに見えるため、年齢順だと多分雨宮>中学生>幼女①>幼女②といった感じだ。
「えー、説明あった通り、件の魔女を倒したらしい坂又 啓人だ。よろしく。」
「坂又さんの護衛の東雲 秋といいます。よろしくしてやってください。」
「………あっそ。どーでもいい。」
俺や東雲さんには興味がない、という感じで意思表明しているが、その傍らで雨宮に手を貸しているので悪い子ではないのだろう。
そんなことを考えていると、幼女①と②が一緒に来て①がおどおどしながら、②は淡々と話しかけてきた。
「あ、えと、その、その……すずかちゃんを助けてくれて、あり、がとうございま、した…」
「ありがと。助かった。」
「…どーいたしまして。君らの名前は?」
「そ、その、みっ、
「
御手洗と名乗った幼女は、俺の顔をチラチラと見てはどこか申し訳なさそうな、それでいて安心したような顔をしている。もしかして、雨宮の言っていた光の柱を見ていた家の子というのは御手洗のことじゃなかろうか。多分その前の俺が首を絞められるところも見ていたんだろうか……なんか、被害者は俺だが申し訳なくなってくるな……
「みーちゃん、すずちゃん、ただいまー! 坂又お兄さんに
「し、しましたっ!」
「した。」
「おー! 二人ともいい子やねぇ! うりうり~かわいい奴め~」
雨宮は二人を抱きしめて器用に二人同時に頭をなでている。
それが嬉しいのか、御手洗と木崎はそれぞれ頬を温めながら照れている。御手洗の喜んでいる顔には『でゅへへへへ』みたいな副音声が付きそうな正直犯罪性を感じる顔をしているような気もするが気のせいだろう。
「坂又さん…これは」
「ええ。多分そうでしょうね。」
雨宮はここでは多分お母さん的な立ち位置なのだろうと、何となく見ていて感じていた。
愛情に飢えた少女たちを愛してあげる、そんな場所。そして雨宮にとっても守りたい居場所なのだろうと思う。
『魔女になって、日常生活に支障が…』
きっと、それは少女たちにとってもかけがえのない大切な場所なのだと。来て本当に間もないが、そう感じる空気感だ。
「なんというか、俺ここに来て良かったのか…? 下心があっただけに、なんか抉られるものが……ん?」
「お兄さん。魔女なの?」
木崎少女が足元に迫っていた。
威圧感を与えないようにしゃがんで受け答えする…というのが保育園であるのを何故か知っている。なぜだ。
「あー…確かに魔女だけど、魔女じゃないっていうか…夢だけど夢じゃなかったみたいな…伝わんないよなこれ」
「? どういうこと?」
「た、たぶん、魔女とお兄さんが同じからだに、一緒にすんでる、ってことだと、おもうよ」
「なるほど。
「お、お兄さんの魔女の姿、見てみたいです…!」
「私も見たい。」
「え、えー…しょうがないなぁ……えいっ。」
念じると先ほどのように瞬く間に男の体ではなくなり、長く伸びた銀髪は肩にしな垂れかかり骨格から肉つきの何からナニまでが全て女性に置き換わった。
「くっ……負けたっ……!」
「確かに。私たち並み。」
「え、なにか勝負してたの?」
「説明しましょう! 先ほど魔女化した坂又さんもかわいいと言ってしまったことで焼きもちをやいてしまったみたいですね!カワイイ!」
「お前のせいじゃねぇか。雨宮後輩、なんとかしなさい。」
「みーちゃん、すずちゃん……聞きなさい、あなたたちに天啓を授けます。」
「え、な、なに?」
「天啓。」
「みんなちがって、みんないい…!」
「「?」」
「つまり、二人には二人のお兄さんに負けない魅力があるってこと! ほれ~私の包容力にたおれふすのだ~」
「「きゃー」」キャッキャッ
……なんというか、微笑ましいな。
「ま、今日の所は帰るよ。そろそろ日も落ちるし。」
「あ、もう帰るんですか? じゃあ少し待ってください。」
雨宮は抱きかかえていた二人をおろして何言かつぶやくと、二人はこの教室を出て行った。
そういえば、と思い教室を見渡すと中学生もいつの間にかいなくなっていた。
雨宮は胸ポケットから紙切れのようなものを取り出した。
「えっと…なんだ、それは?」
「鈴鹿ちゃんを助けてくれて、みんな口には出しませんでしたがすごい心配していたんです。私も心配でしたが…固有魔法からして戦闘できない私は無力で、みんなをこの『隠れ処』で隠すことしかできませんでいた。」
雨宮は逆の手の中に半透明の立方体を作り出し、悔し気に顔をしかめた。
「彼女は非常に強力な固有魔法をもっているし、相手も同年代という事もあって完全に油断していた私の落ち度です。あれ以来、野良の魔女の勧誘は必ず私が請け負っています……あの子たちを危険にさらすのは、看過できませんしね。」
「だから態々お前が来て俺を招待しに来たのか。それに、俺をここに呼んだのもあの子たちのためだろ? 特に……多分俺のことを見てたであろう御手洗。あいつが固有魔法か何かで俺の事見てたから、安心させるため…とかな。」
雨宮は驚き目を見開き、観念したかのように目を伏せた。
「……気づかれちゃいましたか。感謝とかなんとかも嘘じゃなかったんですが、一番はあの子たちの精神的な安心のためです。特にみーちゃん…御手洗ちゃんは鏡越しに見ていたのに何もできなかったことを後悔していたようですから。先輩鈍そうなんで、ばれないと思ったんですがねー…」
「馬鹿言え、俺はそれなりに推察も推理も得意なんだよ。……まぁ
「ですので、これ。受け取ってください。」
手には、先ほど取り出していた紙切れが挟まっている。
「……なんなんだよ、これ。」
「さぁ? 開けてみてのお楽しみですよ~。」
紙切れを受け取り、中身を見る。
中には20桁ほどの数字と、訳の分からないローマ字が数十文字羅列していた。
「…本当に、なんだ?」
「CAPsの日本支部、その本部である建物の11番倉庫にあるスパコンにログインできる暗証番号です。」
東雲さんがなんとなく警戒したのがわかった。
「……なぜ、これを私たちに?」
「もちろんお礼だよ、東雲先輩。そこに私が集めた優位派の情報がたっぷり入ってるから、好きに使っていーよ。」
「優位派……?」
「……ありがたく、使わせてもらいます。あなたにはもう足を向けて寝られませんね。」
「ははっ、ほんとーに東雲先輩は堅苦しいねぇ。ただのお礼だから、好きにしてね。」
「まぁ、よくわからんがありがとうな。」
「ま、坂又先輩はCAPsの勉強からかな?」
「うっせ。なんとかするわそんくらい。」
「では、坂又さん。」
「はい。じゃあな、雨宮後輩。また来るわ」
「えぇ、ぜひ。待ってますよ。」
俺たちは、そのまま帰っていった。
「なんで勝てないんだぁ!?」
「ふっ。カードゲーム弱し。」
「み、見た目は負けてても、ゲームなら私の勝ちですね…!」
「よっわ。あんた才能ないよ。」
「まさか毎日来るとはなぁ……」
「おい雨宮もっかいだ! 次は負けねー!!」
「はい、じゃあ読みますよ。犬も歩けば…」
「はい。私の勝ち。」
「なんでだぁー!?」
俺は年甲斐もなく地団太を踏んだ。