女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
第1話:勉強なんて、したくない
「さて、坂又さん。準備はいいですか?」
「……一応は大丈夫です。」
夏休みに入り、忌まわしい学校に行く必要がなくなったとともに、雨宮家に足しげく通うようになった今日この頃。
俺は自宅にて東雲さんにCAPsについての知識を叩き込まれていた。
……とは言っても、そんなにあるわけではないらしいので三日間の短期講習だが。
まぁ受験勉強もしていない自分からすると夏期講習らしくもあり勉強している感があって罪悪感はさほどない。
実際この勉強は命に直結する問題なので必死に勉強しているからかもしれないが。
段ボールもなくなり整頓されたリビングでは、東雲さんが持参した大き目のホワイトボードの前で眼鏡(伊達)をクイッとあげて授業を始めた。
「では、先日のおさらいからです。何をお教えしたか覚えていますか?」
「一つ目にCAPsの成り立ちの復習、二つ目に始祖の先祖返りが狙われる理由とその勢力、三つ目に組織のそれぞれの派閥が掲げる目標とそのおおまかな割合、そして派閥争いによる内ゲバの歴史。大体この三つだったかと。」
「それぞれ、要約して私に説明してみてください。ホワイトボード使いますか?」
「あ、じゃあ使わせてもらいます。」
ホワイトボードに①CAPsの成り立ちについて、と書き先日暗記した文言を並べる。
「CAPsは魔女の始祖の先祖返りによって崩された魔女の平穏を守るため、始祖の先祖返りを管理し魔女と一般人をあらゆる面で保護する為に設立された組織です。」
「はい、その通りです。では始祖の先祖返りはどのようにして呼称され、どのように方策がとられていますか?」
「始祖の先祖返りは男性ながらに魔法が見えるという始祖と同じ点になぞらえて、始祖の素養がある適性とかけて適正者と呼称されます。また、その方策として適正者には魔法や魔女に対する説明およびその脅威を認知させることで魔女へ関わらせないように説得した上で誓約書にサインをとる事が必死事項になっている……で、どうですか。」
「完璧ですね。では、二つ目の始祖の先祖返りが狙われる理由とその勢力を教えてください。」
「はい、始祖の先祖返りが狙われる理由一つ、狙う勢力はおおまかに二つあります。」
ホワイトボードに②狙われる理由について、と箇条書きできるように三つ点を打つ。
「まず初めに、始祖の先祖返りは強大な魔力・効率的な魔力回路・効果的な魔力操作能力を備えていると考えられています。故にCAPsでも派閥の一部は適正者を始祖の先祖返りにできないか研究している程、始祖の先祖返りはCAPsの一部にとって喉から手が出るほど欲しい"駒"でしょう。」
少し水を口に含み、のどを潤してから再開。
「次に、狙う勢力。一つ目は郡上 未来や瀬名という魔女のような野良の魔女による勧誘及び襲撃ですね。…まぁ雨宮のように例外はありますが。そして二つ目はCAPs内部の優位派閥による取り込みです。まだ聞いた限りですけど、その派閥の掲げる思想から使える駒として取り込もうとしてくる可能性がある…だったかと。」
「はい、間違いありません。野良の魔女は雨宮さんが外れ値というだけで基本襲うか勧誘かの二択ですのでお気を付けください。そしてCAPsの構成員も全てが安全とは限りませんので、気を付けてください。」
「了解です。じゃあ最後にそれぞれの派閥の解説と組織内で起きた派閥争いの過去も説明します。」
ホワイトボードを一度すべて消して、上部に18年前と書き記す。
「18年前、まだ組織が纏まることを重要視していた頃。当時は始祖の先祖返りによる二次被害によって人々に虐げられていた魔女たちが幹部達を主軸にして身を寄せ合い、悲劇を二度と起こさないようにという理念に賛同して一丸となって活動していた……しかし、当時の悲惨さから暴力や性暴力の果てに魔女化した魔女達は幹部達の社会に対する過干渉をせずに魔女と一般人を守るという考えを温い『穏健派』と称し、その魔女たちは女性優位の世界を形成することで女性への負担を減らし、魔女化するケースを減らし女性の保護に重点を置く考えの『優位派』として活動し、組織は大きく二分化されました。そして組織内で事件が起きたのは6年前。」
ホワイトボードの中部に6年前~1年前と書き、(転換点)と補足する。
「イギリス支部、フランス支部、イタリア支部、そして日本支部。北米支部と中国支部を除く支部の同時幹部暗殺未遂事件。幹部の首を無理やり挿げ替えることで『優位派』の意見を押し通そうとしたが……各々の幹部が暗殺を仕掛けた魔女をすべて撃退。そしてこれにより『穏健派』と『優位派』の対立が本格的に表面化。これにより魔女、民間人問わず多数の犠牲者が出たが…昨年、幹部たちによって『優位派』と『穏健派』の対立を正式に終わりにし、ある程度の譲歩をみせて終わりました。……しかし。」
ホワイトボード下部に現在と書き、短く書き記していく。
「現在も派閥同士の争いは完全には収まっておらず、現在でも『優位派』の中でも『過激派』に分類される魔女たちが危険視されている……でしたよね。」
そしてホワイトボードを埋めきると、右端に残った小スペースに円グラフを書く。
「そして現在。『優位派閥』の魔女が約4割、『穏健派閥』の魔女が5割。そしてそれ以外の『公平派閥』や『平穏派閥』は『その他の派閥』として1割。……これでいいですか?」
東雲さんは何度もうなずき、感心しているようだった。
「やはり教えがいがありますね。たった一晩で全て要約して暗唱できるほどにまとめられるとは……大丈夫ですよ。全て完璧です。」
「ならよかったですよ。これでも一応ちゃんと復習してましたから。」
「では、今日の授業を始めましょうか。」
東雲さんはホワイトボードを裏返し、別の面に今日の項目を書き記した。
「あー…今日は昨日より情報量が多いんですか…?」
「いえ。新しい組織内の知識をあといくつか詰め込みましたら復習に充てようと考えていましたし、三日目はもしもの予備日でした。」
「……それ聞いたらなんかやる気出てきました。今日も授業お願いします。」
「はい。まず今日は犯罪を犯した魔女がどうなるか……
……今日も夜まで復習三昧だな、こりゃ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……記憶を操作する固有魔法はこのような…?」
家での授業中、東雲さんのスマホが着信音を鳴らした。
そのまま『すみません』と言ってスマホを取って廊下に出て行ってしまった。
……そういえば、最近よく東雲さんが連絡を受け取っている気がする。
この前は食事中や護衛中、最近は結構頻繁に連絡を取っている気がする。
今日は朝ごはんを食べているときにも連絡が来ていたので、まだ午前中だが二回目である。
……多くね?
「……坂又さん、今日の授業は中止です。」
「え、何かあったんですか?」
東雲さんの顔はどこか焦りが見える。
なんというか、緊張というか、恐れてるっぽい感じ?
顔面蒼白というわけではないけども……
「以前話した、郡上 未来が本格的に動き始めました…! 日本支部の管轄する建物が数件同時に破壊されたそうです…」
「……勧誘がどうのって言ってたすごい強い魔女ですよね? そして数件同時に破壊ということは…」
「はい、集団的な犯行かと思われます。私は護衛なので動けませんが、こちらでも警戒するように警告されました。」
「……でも、正直俺とはそこまで関係あるんですか? そりゃCAPsとして東雲さんは考えるべきことも多いでしょうけど、郡上だってすでに動き始めたならわざわざ勧誘にくることもないんじゃ…?」
「いえ、貴方もわかっているでしょう? ……始祖の先祖返りはそれだけ勧誘する価値がある、と。」
「でも、それならなおさら郡上が動き出す前に勧誘が来なかった時点で安心していいんじゃないですか?」
「坂又さんの様に魔女は合理的に動くわけじゃじゃないんです……そもそも後回しでもいい理由があったかもしれないじゃないですか。」
「いや、でも
インターホンが、鳴った。
「坂又さん…!」
「……どうやって逃げます?」
「しかし本当に来たのであればどうしようも…!」
「でも逃げなきゃでしょう? なんとか…」
その、声は
ママ宮だった。
いや、雨宮後輩だった。