女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
「東雲さん今日も帰ってこれないのか…」
翌日早朝。
昨日の下着騒動は通販を速達することでその日のうちに解決させ、もう簡単に男に戻れなくなったことを実感していると東雲さんから連絡があったのだ。
『思ったよりも被害が大きく、その他建物の崩壊の対処を任されてしまったため護衛には戻れなさそうです。どれほど伸びるかわかりませんので、分かり次第再びご連絡します。』
……まぁ、人命救助も大事な仕事だろう。
俺にはどう仕様もできないしな。
なら、俺は俺で趣味に走るんじゃなくて考えるべきことを考えてみよう。
議題1:郡上 未来の目的及び行動の理由について。
推論:まず俺が知る範囲で時系列順に彼女が行ったことと気になる発言を並べて見よう。
俺が襲撃された日───この日、東雲さんと対峙。俺を始祖の先祖返りだと知っているような発言とともに、隠れるのが上手い魔女を勧誘するつもりだったが手を焼いている旨を話していたらしい。
先日───午前中に日本の各地に点在するCAPsの建物を破壊。魔女や民間人問わず被害は出ている。また、これが本格的に動き始めた始点となるようだがそれ以前にも既にCAPsによって指名手配されている。そしてこちらの目的は雨宮によって結論が出ており、日本支部を他の外国支部と連絡を途絶えさせるためだという。
まずは俺が襲撃された日…まぁ正確には7月の24日。
俺が始祖の先祖返りだと知っていた理由───考えられるのはいくつかあるが、その中でも現実味のある仮説は二つ。
一つはCAPs内部、その幹部までの情報を手に入れられるだけの郡上の味方がCAPs内に潜んでいる場合。この場合、郡上は相当の影響力を持っていることになるがその名前が台頭することも無かったことから密かに、または外部から何かしらの方法で魔女の中で支持を得ていたことになる。
二つ目はその情報を何かしらの方法で元から知っていた、または偶発的に知った場合。CAPsは組織内での情報共有が活発に行われている組織だ。その中から始祖の先祖返りについて再び現れる可能性を考慮して警戒していたところに俺という女体化する人物が現れたので確信した…いや、でもこれだと俺が魔女化する前に確信していることになるな…じゃあやっぱりCAPs内部に諜報員がいる可能性が高そうだな。
そして隠れるのが上手い魔女を勧誘するところが手を焼かされている、と言っていたそうだが…十中八九、雨宮家のことだろう。というか雨宮の可能性が非常に高い。
結局固有魔法が隠れることに特化したもので名前が『隠れ処』という事しか知らないが、一時期組織内で平穏派なる派閥でトップとして一躍躍り出た人物だ。勧誘するには十分な理由だろう…が。東雲さんは見た目の情報がない為名前でしか本人として認識できず、かつ殺された可能性の高い人物だったそうだ。正しくは行方不明だろうが、雨宮が生きていると知る可能性は限りなくゼロだろう。しかし、それでも郡上は知っていたことになる。雨宮の生存は一部でしか周知されていない情報であるはず…どうやって生きていることを確信してこの街に来たんだ? まさか偶然見つけたとか? いやそれはいくらでもいえるか。もしかするとCAPs内の幹部の情報も抜ける信派が教えた可能性だってあるわけだしな。
そして昨日…日本支部がその他支部と連絡が取れないようにする目的で行われた集団的な破壊工作。
まず雨宮の情報を信じるかどうかだが、まぁ信じてもいいだろう。というのもまず雨宮が嘘をついていない…というかつくメリットが存在しないこと。それに郡上が連絡を切るメリットが一つ明確にある。それは、CAPsという組織と敵対する場合確実に日本支部を落とすために、他の支部からの協力を阻害できるのだ。しかも組織内での連携もある程度抑え込むことができる…と考えると、郡上の目的がCAPsとの正面的な対立を想定している場合に最も合理的な行為? あれ、じゃあもしかして郡上の目的って
「CAPsの壊滅、またはそれに準ずる敵対行為である可能性が高い……?」
いや、そうか。既に国際的に組織内で指名手配されるほど有名な人物なら、もとより組織に対して…だけかは分からないが犯罪行為及び敵対行為を繰り返している可能性が高い。
だとすれば、まとめるべき結論も見えてくる。
……こんなところか。
というか想像以上につかれるな…考えるべきところと思い出す箇所がバラバラだから、しょうがないんだが…
というわけで、休憩もそこそこにして二つ目にして最後の議題だ。
議題2:北米支部にて
推論:まったくもってメリットがなさそうに見える……からこそ、その構想を想定しやすい。逆説的に、脱走させたことによって得られる効果と『優位派』の目的を照らし合わせればを、『優位派』を主観としたメリットを理解できるはずだ。
初めに明確にしておかなければならないのは『優位派閥』の目的だ。
その前身は前回始祖の先祖返りとして暴れた奴の影響によって様々な被害を被った魔女たち──要は始祖の先祖返りを恨み、自分の…ひいては女性の尊厳を守るために立ち上がった魔女たち。
当時の目的は『女性優位の世界を形成することで女性への負担を減らし、魔女化するケースを減らし女性の保護に重点を置く』というものだったはず。だが、確か今の『優位派』には『過激派』が居る。過激派は推測するに幹部の首を挿げ替えることを第一目的としているのだろう…と仮定して。
これらを基軸に考えてみるか。
脱走効果①───これは一番初めに思いつくことだが、必ず大きな被害が出るだろう。実際東雲さんも愚かと断ずるほどの…町規模の人口に該当する被害を出したのだ。その魔女の中で事件を起こした理由がなければ被害も出ないかもしれないが、組織員によって常に意識が浮上しないよう施されていると聞くと脱走すれば同じことを繰り返すだろう。…これは明らかにどの派閥の目的とも逸れることから副次的な効果としておいておけるほどのメリットがやはりあるのだろうか。
脱走効果②───既にここからは憶測とも呼べない仮説だが…何かしらとの戦力として数え、敵のいるであろう位置に放り投げる。要は生物兵器のように扱おうというわけだ。まぁこの場合『優位派』の敵、つまりは反抗組織及び『穏健派』や幹部に相当することになる。そう考えるとかなりリスキーなことをしていることになる。戦力としてのメリットを作るのならば悪くないのだろうが…ただ戦力としてカウントするのならば過激派はリスクヘッジがとてつもなく、へたくそだという事になる…ので、さすがにそれ以外にも目的はあるのかもしれない。
脱走効果③───正直もう思いつかないが…あとは俺の思いもよらない
結論:生物兵器の戦力として数えているのかもしれないが、あまりにリスクに見合っていないため俺の知りえない事情かメリットがあるのかもしれない。俺の情報不足により予想は断念。
「……つかれた~…」
俺はノートに書き写した思考をノートと共に閉じつつ大きく息を吐いた。
正直頭を使いつかれた。
自分自身でも推理や推察は得な分野だと自負しているが、もう言わない方がいいかもしれないな……ぶっちゃけ
最近は魔女がどうのとか女体がどうの~で頭を使ってたからな…いや雨宮のところで息抜きもしてたが、あれは別腹だろ。
しっかし、俺も随分染まったなぁ…2、3週間前まで普通に魔女だの魔法だの
これじゃあもう一般市民は名乗れないかもしれないな…まぁ始祖の先祖返りな時点で既に手遅れではあるのだが。
それに、
段々と女体でいる時間、回数が増えているので慣れが来ているのかもしれない。やはり人体は何事にも慣れるという素晴らしい性能を持っている…さすがだね。
そんな自分の変化に軽く耽っていると。
「…ん、雨か?」
先ほどまでの晴れ晴れとした太陽は鈍色の雲に覆い隠され始めている。空はいまこそ雨模様と言わんばかりだった。
まぁ夏真っ盛りとは言えど梅雨の残り香もあるだろう。そう思い、外の洗濯物を取り込もうとした矢先。
『ピンポーン』
インターホンが鳴った。
雨宮か、と思いつつ玄関先へ向けて「ちょっと待っててくれー」と声をかけて二階のベランダに干していた物を取り込んでおく。
干していたものは雨を予感したのか乾いているものも表面が少し、しっとりと湿っていた。外の玄関先を見ると玄関の屋根に隠れて見えないので、扉の覗き穴でも見てるんだろうか。
しっかりと洗濯物を室内にかけ、階段を下りていく。
一瞬、夏だというのに体中を冷感が走った。
同時、床や壁がなんだかしっとりしている気がした。
「……? なんだったんだ?」
まぁどうでもいいか、と思考に区切りをつけて玄関へ向かう。
今度はノックをしているようで、留守かどうか伺っているのかもしれない。
さっき声かけたんだが…もしかして聞こえなかったのか?
「またせたなー、雨宮後は「やぁ初めまして、始祖帰り君。一緒に紅茶でもどうかな?」
「……は?」
そこに居たのは、胡散臭い笑みを浮かべた魔女としての特徴をとらえた女性だった。