女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
ラノベのような体験ができる、と言われたら誰もが体験したいと思うのではないのだろうか。
まぁ人それぞれではあると思うが、それでも一般的な男子高校生は本気か興味半分かはわからないが大半はYESと答えるのではないだろうか。
それは例えば両親のいない大き目の一軒家で高校生が一人暮らしだとか、
でもお金は潤沢に入ってくるとか、
夢だけど夢じゃなかったとか、
年上のきれいなお姉さんと自宅で
「あ、飲み物は水でも構いませんよ」
「いえ大丈夫ですよ、何も出す気ないんで」
「…そうですか」
扉を閉めた後、ピンポン連打がやかましくなったため仕方なく招き入れたら厚かましくもリビングの椅子に座ってパソコンを開き始めているのだから本当にこいつ……。
さらに飲み物を要求とか、つか俺がなにも出そうとしてなかったのにも関わらずまるで遠慮しているかのように言うなよ。
「ふぅー……」
改めて食卓を挟んで座り、パソコンの起動に手間取っている彼女を観察する。
先日は混乱していた上に暗かったのでよくわからなかったが、顔は日本人っぽいのだが外国人のように目の色が鮮やかな翡翠色であり、髪色もそんじょそこらの美容院ではできなさそうなほどきれいに脱色された薄紫色の髪がうなじ付近まで伸びている短い印象をうける髪型だ。加えて目鼻立ちは整っており、この様な人をかわいい系というよりかはきれい系というのだろうか。しかしその容姿をかき消してしまうほどの威圧感を放つ黒いスーツを身に纏っている。
そんな風に彼女のことを観察しているとようやくパソコンを操作し始めた彼女はこちらに目線を合わせた。
「私の名前は
「あぁ…いえ、正直要件を話したら速攻で帰ってほしいので名前はいいです。」
「…そうですか」
またしてもしゅん…としているがそこには突っ込まない。長くなりそうだ。
「で、昨夜の件ですよね? アフターケアってなんですか。」
「ああ、えと……ゴホン。初めに、昨夜は私の不手際で貴方の元へ魔女を向かわせてしまいました。大変申し訳ありません。」
そう言って、東雲さんは頭を深く下げた。
「えーと、貴女の不手際という箇所も気になりますが。魔女とはいったい、何ですか……?」
「はい、魔女についてですね。世間には知られていませんが、この世界には稀に、精神が不安定になった女性が魔法の力に目覚めることがあります。昨夜の彼女もその一人です。」
話がいきなりきな臭くなってきたな……魔法、ねぇ?
「では、貴女の不手際とはなんです? まるで俺の部屋に入ってくるのを防げたような発言ですが。」
「それについてはまず私の所属する組織の説明をさせていただきます。私は魔女化対策及び保護を目的とし、正式名称を『Countermeasures Against and Protection from Witches』、通称『
「
「昨夜の魔女…名前を鎖錠というのですが、魔女としての力を犯罪に使用していたので追跡していたのですが彼女は私から隠れるために貴方の部屋に身を隠そうとしたのです。まぁ結局私に見つかったわけですが。」
「つまり、犯罪者を追っていて仕方なく俺の部屋の窓を割ったと。」
「す、すみません……しかし彼女が市民に危害を加えれば罪は増しますし、貴方が危険にさらされる危険性があったので緊急的に、その、窓を……」
「まぁ、その件を詰める気はありませんよ。一応命の恩人みたいなものですから」
「ありがとうございます…」
しかし……そう考えると、彼女はその組織…かっぷ、だったか。その中で魔女(?)専門の警察をやっているわけだ。いや、公的機関じゃないわけだし自警団に近いのか……? まぁそんなことはどうでもいいか。
「全てを納得できたわけではありませんが……とりあえず魔法とやらを使える魔女がいるとして、そしてその魔女を保護やら取り締まるやらする組織があったとして。その組織の人が何で態々一個人にこんな説明をしに来るんです? 窓もなんらかの技術…おそらく魔法ででしょうが直っているわけですし、態々俺みたいな一般人に秘密をばらすような真似しなくても魔法かなんかで記憶を消せばいいじゃないですか。」
すると東雲さんはあー、と一瞬何とも言えない様な複雑な顔を浮かべたのちに苦笑いしながら
「組織の基本的な方針なんですけど…市民を守る過程で時折いるんですよ。あなたの様に魔法を認知してしまう方が。その様な方には、私が今しているように事情を説明する義務があるんです。」
「その言い方ですとまるで……魔法が普通の人には見えない、と暗に言っているように聞こえるんですが…」
「はい。一般の方には魔法を認知することはできません。」
あー、と今度は俺が苦々しい顔をすることになった。
なんでこんな方面で才能らしき物があるんだよ、俺は……
「それと説明をしている理由のもう一つに記憶消去の魔法がないというのもありますね。固有魔法では使えるかたがごく少数いらっしゃいますが……基本もっと重要な任務に就いていますのでそう易々とは動かせないんですよ」
「…………なるほど。少しの間、考える時間をもらってもいいですか?」
「はい。好きなだけどうぞ。」
俺はもうすっかり学校に行く気ではないのでカバンに入れていた水筒から麦茶を飲む。
体を冷やす効果で間接的に頭も冷やして欲しいと考えてしまうほど、現在俺は少々の混乱と嫌悪感を覚えていた。
いや、これは嫌悪感じゃなくて、焦燥感にも似た…………そうか。俺、今の状況に対してなんとも思ってないんだ。そしてそのなんとも思ってない自分に焦って嫌気がさしてるんだ。
まぁ……ぶっちゃけ、窓は割れたものの直っているし、目の前の東雲さんによる説明で一応は納得もできた。未だに魔法だのその種類だのは知った事じゃないが、それも俺の今後には関係のない事象だ。
この先数回は見るかもしれないが、それも関わり合いにならなければいいだけだ。俺には何の因果関係もないのだから。
「まとまりました。恐らくですけど結論はこうですよね、組織のこととか魔女のことを黙っていてほしいとかそういう。」
東雲さんは申し訳なさげに笑った。
「はは……そうですね。あんまり他言されてしまいますと私も上層部の指示を仰がなくてはならないので……できる限り辞めていただけると。」
「わかりました。何か言わないという誓約書でも書けばいいんですか?」
「え、あ、はい。ではこちらの用紙にサインいただけますか」
彼女の手には共通テストの模試で見たような厚さの誓約書だった。
俺はパラパラと流し読みして大きく変なところなかったので、手慣れた文字で名前を書き記した。
「では、拝見しますね………はい、問題ありません。他に気になる点はありますか? 聞けるのも今回が最後だと思いますので」
「いや、特にはないです。」
即答する。正直もう早く帰ってほしかった。
「では、確かに誓約書いただきました。本日は、ご協力いただきありがとうございました。」
東雲さんは再び頭を深く下げていった。
「東雲さんも、ありがとうございました。お元気で」
「えぇ、では。」
彼女は初めのような厚かましさもポンコツ臭も感じさせずに去っていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あー、さすがに話し込みすぎたな………もう三時間目始まってら」
彼女が去ったあとリビングの時計を見ると、もうすでにかなりの時間が過ぎていた。
なんだかんだで長いこと話していたからな、それも当然か。
皆勤賞ももうもらえなくなったことだし……今日くらいさぼるか。一日くらい許されてしかるべきだろ。
「なんか久しぶりだな……何もない時間ってのも。まぁ無理やり作ったんだが。」
学校、生活、趣味。ほどほどに良い人生を過ごせている。
なんなら俺の生活をうらやましく思うやつだっているのだろう。
だが、憧れだって人それぞれなんだし悩みだって人それぞれだ。
個人の育ってきた環境と形成された人格から吐き出される
なら俺にだって悩みはある。
親との面識があまりない。俺を育てたのは山間部にて農業を営んでいる父方の祖父母だ。
その父とも先月、『生活費に問題がないか』とメールで送られてきたのに対して返信した程度だ。最後にあったのは高校進学の際に都市部へ引っ越すことになり、その手続きで顔を合わせた。
母に至っては最後にあったのは小学生入学の時だ。しかもそれ以来一切連絡を取っていない。顔も大して覚えていないので、アルバムを引っ張り出さない限り思い出すこともないだろう。
………これだから。無為な時間は嫌いなんだ。
目をそらしていた現状が、目に入るし。
どうにも不幸自慢が止まらなくなる。
所詮これもストレスがたまるだけで、誰に言ったところで不幸自慢としか見られないことだろう。
だって世の中にはもっとかわいそうでもっと悲しい人がいるから。
あぁ、だから。
この想いは。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
CAPs日本支部。
日本支部の本部へ……これわかりづらいな。
まぁ本部を歩いている。
「あ、東雲ちゃん久しぶりー」
「どうもです。久しぶりですねー圭さん。」
彼女は
以前何度か犯罪を犯した野良の魔女を捕まえるために協力したことがある。
彼女とは年齢こそ違うが同期という事もあってかそれなりに仲良くしている。
「もう2年かー、早いものよねぇ」
「何がです?」
「ほら、私たちが
「あー、ありましたねぇ…別に今も片付いていませんが、一応結論自体は落ち着きましたし。」
「でもやっぱりそれって幹部ありきじゃない、だから鎮火はまだまだ先かなーって」
「
「べつにいいもーん。前任は優位派閥で幹部のこと裏切ったんだし、今の幹部も私たち側近くらい警戒してるわよ」
「余計にダメなのでは…」
「い・い・の! どうせ幹部には誰も勝てないんだから、さ。」
「まぁそうなのですが……あ。」
「ん、どうしたの?」
「そういえば今日は適正者の話で来たんでした。幹部室ってあっちですよね?」
「あってるけど……珍しい呼び方するのね。適正者なんて最近入ってきた子は意味も分からないわよ?」
「圭さんには伝わってるからいいじゃないですか…それじゃ、私報告に行ってきますね」
「行ってらっしゃーい」
意外と雑談に花が咲いてしまったな、急がないと。
小走りで幹部室の前にたどり着く。
やはり一応聞いておいてよかった。この部屋にたどり着くのは結構めんどくさいつくりをしているので案外たいへんなのだ。
コン、コン、コン
「失礼いたします。ナンバーF-0986、
『入って』
「失礼します……こちら、報告書になります。」
「わかったわ。少し読むから待っててくれる?」
「はい。」
そこにはCAPsに7名しかいない幹部の一人、日本支部担当の方がいた。
年は見た所20歳後半程で、まだまだ若く見えるのになぜかその佇まいには一種の貫禄が見えた。
この組織が発足した20年前から幹部の一人として生き抜いてきた人だ、貫禄の一つくらい出るか。
報告書を読むスピードもさることながら、彼女のデスクは資料で埋もれている。しかも置くスペースがなくなったのか床にまで資料がうずたかく積まれている。
しかし目を通し終わったのであろう紙束も達筆な文字でメモ書き……いや、添削されている。
これほどの量を一人でこなし続けている彼女には尊敬の念しか浮かんでこない。
私には何がどうなろうとも無理だ。
しかし幹部の様子がおかしい。
読み進めていく内に食い入るように報告書を読み進めている。……もしかして報告書に不備があったのだろうか。一応何度も確認したのだが…
「ね、ねぇ……この、適正者の名前って、ほ、本当にこの名前なの……?」
幹部はまるで神にすがるように私を見ていた。
え、間違っていただろうか。報告書で何度か名前を使ったので食い違っていたのかもしれない、と思い突き出された報告書をみると、間違いなくそこに書いてあるのは彼の名前だった。
「はい。今回報告する人物は『
そういうや否や幹部は頭を抱えてうなり始めた……大丈夫だろうか。もしかして資料の読み込み過ぎでついにおかしくなってしまったのだろうか。
「魔女に関する情報共有もマニュアル通り行いましたし「魔女に関する情報まで与えたの!?」え、は、はい。何かいけませんでしたか……?」
幹部は錯乱したかのように頭を掻きむしって再びデスクに顔を埋めてうなり始めてしまった……何かぶつぶつ幹部がとか機密がとか条約がとか言っているが、本当に大丈夫だろうか…。
すると突然幹部は顔をあげて私を見て……こう、形容しにくい悪い顔をした。
「そうよ……あなたにも責任はあるんだから……!」
「え、えーと…何をおっしゃっているんですか?」
「あなたに特命で任務を与えます。」
うわ急に冷静になった
「坂又啓人の監視兼護衛をしなさい。以上。」
……?
「ええと、私は魔女の追跡兼確保の方が仕事なのですが……」
「特命といったでしょう、理解の遅い子ね。あなたに拒否権はないわ。」
「あー、はい。特命任務、承りました。」
「詳細は追って連絡するわ。いつでも連絡を受け取れるようにしておくように。」
「はい。では失礼します。」
私は幹部室を出て、とりあえず医務室に幹部がおかしくなった旨を連絡した。
なんか長くなったなぁ。