女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
ありがとうございます。
気が付いたいたらふと忘れる事はあると思う。
例えば学校では絶対に忘れないと思っても帰宅すればすっかり忘れているときのように。
例えば違う部屋から荷物を取ろうとして何を取りに来たのか忘れてしまった時のように。
そしてそれと同時にふと覆いだすこともあるだろうとも思う。
例えば家で遊んでいるときに期限が間近の課題を思い出したり。
例えば自室に戻ったら何を取りに行ったのか一瞬で思い出してまた部屋を出たり。
俺は今朝のHRでその二つの感覚を同時に味わった。
「転校生の東雲 秋といいます。夏休み前ですが、何卒よろしくおねがいします。」
「は?」
俺は先日書いた誓約書を思い出すと同時に目の前の光景にかき消され、目の前の存在を忘れて誓約書のことを思い出していた。
そこには意図的な接触は控えるとあったはずだ。それに俺はもちろん一昨日のことは誰にも話していない。昨日の件も含めてだ。
クラス内では
『美少女だやったー!』
『わー…かっこいい子だ…』
『ふっ、面白そうなやつ…』
『休み時間に話いこーっ!』
等など言い合っている…三人目はせめて話してから面白いやつ判定しろ。
じゃなかった。そんなことはどうでもいい。とりあえず放課後になったら話に……
『あれ、なんか一方向を見てる…?』
『ん? 誰のことみてんだ…?』
『あれ、坂又の事見てね?』
本当にやかましいな静かに………
…。
……。
………。
…………。
……………なんですと!?
急いで顔を上げると、俺より前の席のクラスメイトみんなと目が合った。
あ、やばいどうしよう。
「あー、なんだ。仲よさそうだし、坂又。東雲の学校案内まかせたぞー」
あー。(理解)
『え、やっぱアイコンタクトしてたよな!?』
『坂又って彼女いたんだ以外ー』
『ふっ、おもしれー男……』
あー。(諦観)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あの、なんでここに来たんですか? というかなんで
しれっと昼休みについてきた彼女に向かって別館で問い詰める。
彼女は悪びれる様子もなく妙に姿勢の良いまま淡々と菓子パンをかじっていた。
「ふぃあ~、わはひふぉふぃほふふぃふぉふぉっふぁふふぇふふぇふぉ…んぐっ。日本で一番偉い方に貴方の監視と護衛をハフハフ……ふぃふぃふふぇふぁふぇふぁふぃへ……んぐっ。仕方なく、といったところです。」
「はぁー……頼みますから一度すべて何も口に含まないまま喋ってくれませんか?」
「いやー、私も疑問に思ったんですけど日本で一番偉い方に貴方の監視と護衛を言いつけられまして。仕方なく、といったところです。」
「………なんか口調とか変わってませんか」
「まぁ、それなりに長いことついて回らなきゃいけないみたいなんで素で接しようかと。擬態も疲れるので。」
「というか年齢は? あなた明らかに高校生っぽくなかったですよね」
「失礼な。私はれっきとした17歳ですよ。ぴっちぴちの高校生なのです」
……魚が元気に跳ね回っている様子を想像してしまった。疲れているのかもしれない。
「そうですか………はぁー…」
「ため息ばかり吐いていると幸運が逃げていきますよ?」
「魔女が迷信を語らないでくださいよ…」
「いや、組織内で本当にそんな研究結果が」
「本当ですか…」
「嘘です」
「ぶん殴りますよ?」
「いや、本当に心理学的に社会で証明されていますので一度検索するといいと思いますよ。」
「……嘘じゃないですか」
「はい」
(こいつ、いつか殺そう……)
じゃないよ。この人のペースに持ってかれると面倒くさい上に長くなる…えーと。確か日本で一番偉い人が俺に監視と護衛を……やっぱり、おかしいな。
何か特殊な理由がないと俺を監視含め護衛する意味が分からん。守秘義務を課すような誓約書に署名させておいてわざわざ接触してくる理由……だめだ。思い付きはするがどれもこれもが突拍子もなさ過ぎて仮説以上の意味がない。結局、意味不明じゃないか。
「あの、もう少し詳細に教えてくれません? わからなくても予想の一つくらいないんですか?」
東雲は話そうと思案しながら菓子パンを取り出したので全力で取り上げるとしぶしぶ話し出した。
「私もわかりませんよ。強いて貴方に説明していないことといえば、魔法の詳しい説明とか、なんで魔法が見えるのかという話だけですよ……はやく返してください。ホイップメロンパンは冷たさが命なんですから」
「あなたが咀嚼せずに話すのなら返すのを検討します……じゃあ説明してください。こっちは少しでも情報が欲しいんですよ。訳も分からず一昨日の夜みたいなのに巻き込まれるのは勘弁ですよ」
「はいはいわかりましたよ。気になっているであろうなんで魔法が見えるのかの説明をしましょうか。」
東雲は俺の隙をついて菓子パンを取り返していた。こいつやっぱ速いな。
「CAPs内でも見解が割れているんですが、基本三つの仮説があります。二つは運命論に基づいた考えです。運命論はご存じですか?」
「まぁ。確か人間の人生は運命づけられていて変えられない…みたいな物でしたっけ。」
「
「……なるほど。とりあえず全部聞いてからにしましょうか。他にはどんな仮説があるんですか?」
「こちらは過去の遺跡からの文献になります。正しくは古代エジプトの18王朝の壁画の付近に書かれていたことからなのですが。」
「……エジプト? 日本ではなく?」
「はい。エジプトです……あ、あと同じ事が書かれたであろうテル・エル=アマルナのアマルナ文書にも起因しています。」
……何言ってんだかさっぱりわからん。テルマエロマエって言った?(言ってない)
「どちらにも太陽神の使者としてかかれた人物は男性でしたが、現在の魔女に通ずる論理で魔法を使用していたんですよ。紀元前や遥か昔には私たちの魔法とは違う形で超常の現象を引き起こす者たちの記述は少なくありませんでしたが、私たちと同じ理論で超常現象を引き起こしたのは彼しかいないんです。」
「ちょ、ちょっと待ってください? 魔女は女性が精神が不安定になると成る人のことでしょう、なぜ男性と魔法が結びつくような話に?」
「まぁ私たちの間でも正しいという確証はないのですが……その文献によると、太陽神の使者であるその男性は力のない女性に力を与え魔女にしていったようなのです。なので彼は魔女の始祖と考えられ、そこから導き出されるのは『始祖としての力の適正を持った者が現代に生まれている』という仮説ですね。始祖はもちろん魔法を認識できていたので。」
「…………正直、後者に関しては突拍子もなさ過ぎて笑えて来ますね……というか、それなら適性なのでは? 発音的に適するに正しいって言いませんでしたか?」
「あぁ。それは始祖という基準に照らし合わせた際に魔法が見えている、という考えのもと適正者とされているんです。まぁ適性としての意味もかけていると思いますのでダブルミーニング的な感じでしょうか?」
「なんであなたが曖昧なんです……?」
「別に私も取り決めた側じゃないので、それに対しての考察と議論の結果なんですよ。ここ数年ではめっきり使われなくなりましたけど……はむっ」
菓子パンを食い始めたという事はここで終わりか。
正直、先ほど言ったように前者の運命論のほうがまだ信じられる内容だ。いや運命論が比較的にでも信じやすい部類にはいっている時点で議論する意味があるのか? いや、思考を放棄すれば話を聞いた意味もないし考えなくてはならない。
……よし、考えもまとまってきた。今考えられる中で一番合理的な回答は、おそらく二つだ。
一つは『男性の中で生まれる際に魔女と成る者と深い関係を持つ運命をもっているが故に、運命に強制される形で魔法を認識してしまう者』が真である場合に合理的な解。
『実は運命でつながっている対象を認知する魔法が存在し、俺と運命で関わる人物が
これは俺を監視及び護衛する理由として合理的なものだと思う。これならその人物について触れられたくないので念のため監視するが、死なれても相手に何らかの支障が出るために護衛しているという事だ。
そしてもう一つは『始祖としての力の適正を持った者が現代に生まれている』が真として俺がその適正…及び適性があった場合。
『俺に監視と護衛をつけるのは念のためであり、俺には始祖としての力があるのでそれを何とかして利用するために関係をもった東雲を送り込んだ場合。』
正直かなりイタイ考えなのはわかっているが、中二病ならまだしも
あくまで一高校生が考えられる中で最も合理的というだけだ。
そうでない可能性のほうが往々にして高いだろうが……
ガララ…
「あれ、どこ行くんですか?」
「どこって、もう昼休み終わりますよ?」
あぁ、そういえばここ学校だったな……帰ってから考えよう。
結局その日、東雲は遠目に俺を眺めたことで関係性を問われては「なんか気になるから」と答え女子の黄色い声援を響かせ一部男子の俺へ向ける視線を厳しくし、俺は「全く関係ない人です」と他人行儀に答えておいた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
帰り道。いつもと変わらない道中のはずなんだが……
「なるほど、はい、はい。了解しました。引き続き監視しています」
「………あの、何してるんですか東雲さん。」
東雲さんが明らかに通信中ですと言わんばかりにこめかみに手を当てて独り言(恐らく会話)を繰り広げていた。
「はい。何、とは?」
「いや、そんな今の自分は何もおかしいところはありませんが? みたいな顔しないでくれます?」
「……?」
「そんな風に首を傾げられましても……なんで堂々と
「!………いえ、何もしていませんよ」
「んな効果音が付きそうなほど驚いた顔しておいて誤魔化せると思ってるその神経に驚きですよ」
「いえ隠せてますが?」
「もう遅いわ」
思わず再びため息が漏れた。昼休み同様当たり前のごとくついてきた東雲さんにもう突っ込む気力も起きなかった。
それもこれもクラスメイトが妙に騒いで俺にも話しかけたりしてきたからである。正直疲れた。だが聞いておかなければならないこともあるだろう。
「あの、どこまでついてくるんですか? 正直もう一人になりたいんですけど…」
「あれ言ってませんでしたっけ? 今日から同じ屋根の下ですよ。よかったですね、女子高生と同棲なんて自慢できますよ?」
「はぁ?」
「あれなんですかその反応、傷つきますね」
俺のオアシスも目の前の怪物によって壊されようとしている……本当にやだ。めっちゃヤダ。
「あの、冷静に考えてみてください。あなたにも尊厳というものがあるでしょう? 別に監視やら護衛なら俺の家の中にいる必要ないじゃないですか? ほら、聞いた限りだとそれなりに魔女の組織…
「いや、尊厳はありますけどあなたに負けるほど貧弱じゃありませんし、監視はカメラ越しにしても電子機器系統に干渉するタイプの固有魔法持ちだと対応できなくなりますし、護衛も一昨日の夜の一件からもわかるでしょうが少しの時間が命取りになりますし、確かにCAPsはお金がありますが一個人に一つの邸宅はさすがに許可が下りなかったそうです。」
「え、えー………マジかぁ……」
俺、本当に嫌なんだけど。
なんで目に見えないスピードで動けるような奴に監視されながら日常生活を送らなくちゃいけないんだ。
というか、やっぱり何かしらに狙われる危険性はあんのか。だから近くで護衛するって? 頭わいてんじゃねぇの。
あー、俺の平穏が遠ざかってく………
「それに先ほどの通信でですね」
「あぁもう言っちゃうんですね」
「家事出来ないだろうから教えてもらえ、と」
「あんたの上司を殴りたくなってきた」
自由に行こう