女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~   作:生活みだらし団子

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休みって素晴らしい


第4話:同棲なんてするものか

同い年の女性と同棲、と聞いて思い浮かべるのは随分前に読んだラブコメ漫画だ。

その作品ではヒロインが鈍感な主人公と同じ屋根の下で暮らし、ラッキースケベなどの艶っぽい展開を含みつつ両片思いの二人をいじらしく見守る話だった。

ちなみに本の出どころはおじいちゃんの部屋だ。

 

その漫画では最終的に恋仲に発展して順風満帆な、悪く言えばありきたりな終わりを迎えた。

 

しかし、しかしだ。

 

いざ現実で同棲をしてみればどうなるだろうか。

完璧な人間なんていないのだから、大なり小なり相手に対して失望してしまう事はあるだろう。

生活感しかり、ライフサイクルしかり、部屋の清潔さしかり、果てには風呂に入る時間や寝方一つとっても、見えてしまう現実(リアル)は相手への理想の瓦解に他ならない。

そりゃ勝手に見て勝手に失望するのも失礼な話だが、人間なんてそんなもんだと思う。

それを無条件に許せるのは親愛の情をもって接してくれる家族に限定されるだろう。

 

だからこれを俺は許せないのだ。

 

 

「あのー、さっきから何をそんなに考え込んでるんです?」

 

「あなたの持ち込んできた荷物をどこに捨てようか真剣に悩んでいるんですよ、静かにしててください」

 

「なんで捨てるんですか…私の大事な私物ですよ?」

 

「その私物が多すぎるって話なんですが。」

 

そう。家に帰り扉を開けるなり俺の目に入ったのは、廊下が段ボールによって半分になった景色だった。さらにリビングには廊下にあったものの倍はある段ボールによって半分が埋まっていた。

……もうソファとテレビは諦めるべきかもしれない。

 

「いや違うんですよ。私も荷物は徐々に持ち込むつもりだったんですけど、同期が勘違いしちゃったみたいで…お願いした私の私物以外にも全部送ってきてしまったみたいです。」

 

「みたいです。じゃないですよ。どう考えてもこの量は客室に入らないんで、早急に送り返してください。」

 

「それこそ無理ですよー、この時間に引っ越し業者に電話しても……明日の昼まではこのダンボールはこのままです。」

 

「魔法かなにかでどうにか……」

 

「それも無理ですね。荷物を大量に運べる魔法なんて固有魔法でも珍しいですし、私の知り合いに一人使える人がいますが現在北米で幹部の側近をしてますし。」

 

「…というか、それにしても多くないですか? 一人で使うような量じゃないでしょうこれは……」

 

「あー、多分仕事道具とかも全部まとめて送ったんだと思います。普段はそのまま組織管轄の建物で調達してるんですけど、護衛じゃそうもいきませんし。」

 

仕事で何をこんなに使うんだよ…と思い適当な段ボールのラベルを見てみると、『変装用/衣服類』や『戦闘用/装飾類』など書かれている。

 

「あー…なんか見たくない文言が並んでますね……物騒な事この上ない。」

 

「心外です。あなたの護衛として必要な物なのに…」

 

「まず俺は護衛を受け入れてないことをお忘れですか」

 

「え、まだ受け入れてなかったんですか? 私を普通に連れているのでてっきり…」

 

「そんな訳ないでしょう? ただでさえ魔女云々とは関わり合いになりたくないのに、守ってくれるとはいえ態々魔女本体を近くに置いたら本末転倒じゃないですか。」

 

「……面倒(めんど)くさいですねぇー」

 

「面倒くさくて結構。そもそも関わり合いにならないように誓約書にサインしたのに……効力なさすぎですよ、本当に」

 

「いやー、誓約書自体はまだ生きてますよ。ただ誓約書内の緊急時に該当しているので『状況に対して高度に柔軟な対応』、を心掛けているだけです。」

 

「そうですか……でもどっちにしろ今日は諦めてください。さっき二階も確認しましたけど、客室にも入ってたんで今日泊まるとしたら布団も出せないんで床か段ボールですよ?」

 

「えー…私にベッドを譲ってもいいんですよ?」

 

断固拒否(絶対に嫌)

 

「そーですか……じゃあ、今日一日くらいは外で護衛しますよ。」

 

「いや、何も外にしなくても。今日くらい近く……には無いんで駅の方まで行ってビジネスホテルでも行けばいいじゃないすか。」

 

「これでも一応仕事として護衛請け負ってますので……まぁ、装備品の類はこのあたりから適当に持っていきますが。」

 

「……わかりました。何か連絡事項とかあったら、玄関口から入ってください。鍵開けとくんで。」

 

「……空き巣入っても知りませんよ?」

 

「よし分かった玄関含めすべてのカギは占めておこうそうしよう」

 

「あ、すみません冗談です。」

 

「はぁあー……ま、準備出来次第出てってください。俺は風呂入ってリビングに入らずに自室に行きますから。」

 

「はい、わかりました。」

 

 

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

 

もう既に日も完全に沈み暗い時間。

とはいってもまだまだ夕飯時真っ只中な程度で、現在時刻はおおよそ7時半程ではないだろうか。

まぁ護衛も初めてなので適当に現状を考えてみよう。状況の整理、大事。

先日幹部を医務室送りにしたとして一躍有名になった後、幹部から連絡があった。

 

『坂又啓人の住居に住み込みで護衛しなさい。これは幹部内の緊急動議による正式な決定です。護衛に対する条件は二つ。一つは対象を組織から正式に接触する魔女以外の脅威から保護する事。二つ目は……あなたには難しいかもしれないけれど、対象にストレスをかけないように極力努力なさい。以上』

 

「……私なりに、結構頑張ったんですが…やはり向いてませんね。」

 

学校や帰り道、住居内部での会話ではできる限り硬くならないよう心掛けて接していた。とは言っても本当に素で接していただけなのだが。それでも私なりにストレスにならないように話せたはずだ……と思っていたのだが。先ほどの本当に嫌がるような顔に態度。学校ではまだ冗談っぽくなっていたが、同棲するという事を話してからは本当に嫌がっていた様に見えた。まぁ流石に誰だって嫌か。ほぼ初対面の異性を家に招き入れるのは。しかしわかったこともある。恐らくあの家は彼にとって踏み込まれたくないパーソナルなスペースなのだろう。段ボール以外、ずいぶん几帳面に整頓されていたし…思い返せば、あの夜に見た彼の部屋も異常に綺麗だった。…もしかすると潔癖症のきらいがあるのだろうか。それなら納得だが……どうにも腑に落ちない。その割にはCAPS御用達(ごようたし)の引っ越し業者が勝手に入っていたことに対しての反応が薄かったような気もする。段ボールについても驚きこそしていたが、ついぞ嫌悪を向けていたのは私だった。彼の中でどの様な線引きがあるのかはわからないが、少なくとも誰かに立ち入ってほしくない場所であることだけは確かだろう。

 

そして、私自身良く分かっていないが……学校からの帰りに幹部から通信が来た。

 

 

『その付近について野良の魔女の情報を片っ端から集めたわ。まず三級魔女に該当する野良の魔女が一人、その周辺で無差別に人から魔力を抽出しているみたい。固有魔法はおそらく魔力を強制的に抽出するものだと推測されるわ。 次に二級魔女相当が…二人ね。追跡を試みた報告から二人で行動している可能性が高いみたい。私的なのか集団的なのかは分からないけど数人一般市民とCAPsの魔女を一人殺害しているみたい。詳細な情報は中国支部から報告が届き次第追って連絡するわ。言うまでもないでしょうけど二人で動いているという事は固有魔法にシナジーがある可能性が高い。注意して対応して頂戴。あとは…その地域で野良の魔女が数人集まっているという情報があったわ。犯罪に手を染めているかはともかく、集団なのは脅威であることに変わりないわ。』

 

『なるほど』

 

『現在に至るまでに襲撃及び魔女の気配は無いかしら』

 

『はい』

 

『なら、対象も無事なのね?』

 

『はい』

 

『……なら良かったわ。貴方にこれだけは伝えなくてはいけないと思って……極秘だけど、伝えるわ。

 

坂又啓人には始祖の素養がある。

 

それが、何を意味するのか貴女もわかっているでしょうし、機密情報だから詳しくは言えないけれど。……幸運を祈るわ、頑張って』

 

『…了解しました。』

 

『では、監視に戻るように』

 

『引き続き監視『ブチッ』しています。』

 

 

………始祖、か。

坂又さんに伝えた情報に偽りはない。だが、全てでもない。そして明言もしていない。

 

史上最も魔女の死者を出した事件。

 

その元凶たる始祖。

思う所はあるし、憎む理由もある。

だが話せば話すほど、学校で話を聞くほど、彼は普通だった。

普通に学生生活を送り、普通に悩み、普通に嫌がり、普通に笑い、普通に日常を謳歌している。

例え女性であったとしても魔女には到底ならないだろう……そう思わせる人間だった。

 

ならば私は切り離して考えよう。たとえ彼が始祖の素養があろうと無かろうと、今の彼は一般人に変わりない。CAPsの一員として、そして突発的ではあったが特命を受けた者として。その責任を果たすとしよう。

 

 

 

と、いうわけで。

 

 

 

向かいの屋根の上から坂又さんの室内を窓越しに見る。

すでに宵闇に染まったこの時間では全身黒スーツの戦闘衣装を着てる私は見えないでしょう、多分。

坂又さんは夕食を食べて現在リビングの照明をつけたまま自室で寝る準備をしているみたいです。

じゃあ今のうちに固有魔法を発動させておきますか。

 

『刹那』

 

その効果は知覚・反応速度と肉体をを強化する……のみ。正直あまり強くないので戦闘向きじゃない。だから追跡と不意打ちからの捕縛が専門なんですどね。それに正面きって戦闘するときは協力者がいるし……ぶっちゃけ索敵こそ出来るものの戦闘するなら後手に回ってしまう。不意打ちか最大速度で動けば何とかなるが、護衛には向いていない。本当に。

 

「……本当に幹部の言う通りの魔女、いるんですかね?」

 

そう、知覚を最大限強化して魔女の気配を探っているが…まったくもって気配はしない。というか、静かすぎる程だ。何か、不自然なほど気配がない気が…

 

「冷たっ……?」

 

周囲の温度が一瞬にして一度前後も無いほど、普段なら誤差としか感じれないようなレベルで下がった。……なんだ、これは? 固有魔法か?…いや、少なくとも半径5km圏内に魔法や魔女の気配は無い。いやしかし…さすがにおかしい。気配のなさも、この現象にもさすがに不気味だ。この周囲の安全が保障できない。

 

「…少し、見回りますか。」

 

そう言って立ち上がった瞬間、索敵範囲内に入った魔女がいた。

それは、少しずつ、こちらへ向かってきていた。

しかし、それ以上に。

 

「魔力が…強すぎる……!」

 

おかしい。この街には二級が最大の筈……どうして、一級…いやそれ以上、幹部並の魔力の強さを感じるんですか……!?

 

「………行かなきゃ」

 

私は音を立てずに屋根を飛び出した。

 

幹部相当の強さを持つであろう魔女へと向けて。

 

 

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

 

「東雲さんにも少しは作ってあげるか……?」

 

風呂から上がり、夜ご飯のメニューを考えている時にそんな一言が漏れ出た。

部屋着に着替えてリビングを見ると、扉に付箋が貼ってあり『出ました』と書いてあった。

今冷静に考えると俺の一言で夜の間外に待機することになっちゃったんだよな……流石に、ちょっと申し訳なかったか。

そう思いつつも、でも、やっぱり、うーん……と唸っていたのだが、気が付くと夜ご飯を作り終えて夜ご飯とは別に塩昆布を具にして海苔で包んだおにぎりが何個かが湯気を立てていた。

 

「……まぁ、作りすぎちゃったもんはしょうがないよな」

 

最早意味がないとわかりつつも言い訳をしながらそれらを締め付けすぎないように気を付けながらラップで巻き、小皿に移す。そして再びそれらを皿ごとラップして、その上に『夜食です。小腹がすいていたらどうぞ』と書いた付箋を貼り付けた。これでいいだろ。

 

そしていつものように夕飯を食べ、食洗器に皿を入れたら夜食を食卓の中央に置いてリビングの照明をつけたままにしておいた。そっちの方が目につきやすいかと思って。

 

「……今日はゲームって気分じゃないな………寝るか。」

 

正直今後の事とか学校での事とかを考えると頭が痛い。というかもう疲れたのだ。さっさと寝てしまいたい。

自室の照明をつけると、割れていない窓があった。いや当たり前なのだが、この窓が割れたことが原因なのだ。まぁ正しくは違うことを聞きはしたのだが……それでも納得はいってない。

大体、偶然にしてもなんで俺の家なんだよ。もっと近くにセキュリティ甘い家もっとあるだろうに……多分。

 

「よし、寝るか。」

 

今日はコーヒーも飲んでないし、忙しい…目まぐるしい一日だった。

すぐに眠れるだろうな……なんて思いつつ、俺は意識を手放した。

 

 

 

バリーン!!!

 

 

 

「おいしい匂いがする~!!!」

 

俺は意識を取り戻した。




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