女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
「久しぶりですよ…こんな魔力を肌で感じるなんて……!」
宵闇に紛れ、対象へ向けて住宅地の屋根伝いに駆けていく。
踏み込みでいくらか壊れていっているが、そんなことにかまけていられない程の濃密な魔力がこちらへ向けて歩いている。
強力な魔女であることは間違いないが、一般人と同じようなスピードで行動しているのが唯一の救いでしょうか……というかこれほどの魔力量になってくると、それこそ汎用魔法の肉体強化魔法だけで私の『刹那』の肉体強化+
駆ける事数分、対象を目測できるであろうマンションの屋上から小型の双眼鏡を取り出し覗く。
どうやらまだ歩いて行動しており、少なくとも目に見える範囲で魔法は使っていないと考えられる。
身長は160後半程、見たところ成人はしていそうな見た目だ。
そして魔女特有の特殊な髪色を隠していない。野良の魔女の脅威を知らない……訳はないか。あれほどの魔力を持つならそれなりに経験は積んでいるはず。なら野良の魔女を軽くあしらえるほどの実力があるという事。……個人的には過信家で本当はあまり強くないことを願いたいけど、これこそ無駄な希望か。
そろそろ接触しなければもし本気の戦闘になった際に坂又さんの自宅にまで及びそうですね……行きましょうか。
「すみません、そこの魔女の方。少しよろしいですか?」
女性は振り向くと、私を魔女と悟ったのか、はたまた悟っていたのかは定かじゃないがかなりの殺意を感じた……が、私のじっと見るとすぐに殺気を霧散させ先ほどの威圧感などどこ吹く風か、柔和な雰囲気を漂わせながら話し出した。
「久しぶりだね、東雲 秋。CAPs以来かな?」
「………私の名をどこで? 私はあなたと面識はありませんが…」
「いやいや、一度だけあるよ。北米支部ですれ違った程度だがね。」
……間違いなく、CAPsについての知識がある。そして認知している。
敵わないと知っていても、警戒心を高めずにはいられない。
「……今晩は、どちらまで? ここも一応CAPsの管轄地ですよ。」
「それを言ったら日本に北米に中国に…国単位の管轄じゃあないか。支部をいくら設置してもし足りないほど土地も人員も足りていないのによく言うねぇ。」
「…質問に答えていただけますか」
「何、そんなに警戒せずとも私は今夜、事を起こす気はないのだがね。今夜はただの勧誘さ…魔女同士、紅茶でもすすりながら優雅にね。」
「……それは、誰を」
そこで初めて女性は言葉を含んだ。
そして、くつくつと堪える様に笑い出す。
「そうだね、君から来てくれたのだし…
「……そうです、か。目的は、なんでしょうか」
「…ははっ、
「……どうにか、やめていただけませんか。彼はまだ、魔女としての世界も知らない普通の市民です。いずれ魔女の始祖となるかもしれませんが、それを管理するために生まれたのがCAPsです。どうか私に、もしくはCAPsに免じて、彼への勧誘は、控えて頂けないでしょうか…」
頭を下げ、懇願する。
一拍、二拍、三拍、間が開いた。
「……ま、いいよ。今日の狙いはそもそも別枠だったんだ。そっちの子に私も手を焼かされているし、流石に両方同時は参ってしまうからね。でも私好みの回答じゃないから、私の目的については組織の幹部にでも確認してみたまえ。」
そういうや否や、坂又さんと家とは真反対の方向へ歩いていく。
……よかったぁぁー! どうにか命も繋がったし護衛も継続できるー…いや、今回本当にギリギリでした。もうこんな綱渡りはごめんですよ……「あ、あと」
「え」
「私の名前は
「ちょ、ちょっと待ってください、それは──────! ……消えた、か。」
耳元に急に現れたかと思うと、目の前に現れて、『刹那』でも追いきれない速さで去っていった。
……郡上 未来!? それって────CAPsで国際指名手配されてる魔女じゃないですか!!!
「ど、どうしよう……」
混乱していると、坂又さんの家の当たりから光の柱が立ち上がった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「え、なんで女? いや冷静に考えろ普通に考えて俺は肉体を捨て去って転生したんだ。だからこの女の体に…いや混乱しすぎだ。そんなわけないだろ。いい加減にしなさいよ。マジでなんなんだよこれ。は?説明する気あんの?ないよね知ってるだって誰もいないもんね。あるのはぶっ壊れた家だけだもんね。うん……」
とりあえず思ったことを口に出してみたが……
この透き通るようなソプラノボイスも、
肩甲骨付近まで伸びているこの綺麗な銀髪も、
妙に
体つきや肉付きに至るまでまるで別人だ。
というか、別人なんじゃないか? 元の面影
いや、強いて言えば胸は平べったいままだな。さすがにここに肉が追加されてたら失神してたわ。……あれ、でもなんか心なしか膨らんでる気が………
精神衛生上非常によくない。もう
「でも本当にどうするかな……家も壊れたままだし、襲ってきた少女…魔女の行方も分からないし、男に戻らないし。あー、全部なんとかならないものか……頭痛がしてきたな。」
そう呟いていると。
「お、おぉ!?」
家がひとりでに直り始めた。(!?)
崩れた天井は散ったコンクリート等と一緒に宙に浮き、元あった位置へと戻って修繕されていく。そしてさらに……
「あれ、なんか目がしぱしぱすると思ったら……なんか、遠くに倒れてる人影が見えるな…しかも建物が透けて。」
どうしたのだろうか。途端に俺が人間離れし始めたぞ…? 何があった本当、に?
「か、体が……体がもとに戻ってる……!」
これはいったいどういう……あれ、天井は埋まったけど窓だけ直ってないのに止まったな。それに透視もできなくなってるな……。
……これ、もしかして俺がそう言ったから?
家は壊れたままなのを解決するために直して、魔女の場所を探るために透視ができて一人の人物だけがシルエットで見えて、男に戻してくれたのか。
…いよいよ認めるべきかもしれない。
正直女になったあたりからうすうす感づいてはいたのだが……そう、この超常の事態に説明がつけられる事象を俺は一つだけ知っている。
「俺、魔女に成ったのかぁ………」
魔女だから、魔法で建物を直すことができた。
魔女だから、魔法で特定人物を透視して探すことができた。
魔女だから、俺の望みが叶った……んだと思う。
でも……おかしいよな。
男が魔女になって魔法を……?
そういやそんな話どっかで聞かなかったか? たしか…
『まぁ私たちの間でも正しいという確証はないのですが……その文献によると、太陽神の使者であるその男性は力のない女性に力を与え魔女にしていったようなのです。なので彼は魔女の始祖と考えられ、そこから導き出されるのは『始祖としての力の適正を持った者が現代に生まれている』という仮説ですね。始祖はもちろん魔法を認識できていたので。』
男性が魔法を認識………始祖………女性を魔女にする………神の使者………整合性は取れてる…のか?
俺は……もしかして───────「坂又さんっ!! 大丈夫ですか!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「まずいまずいまずい……!」
完全に失念していた! これだけ長時間離れれば坂又さんが魔女に襲われるに足る時間になる…!
もしも彼に万が一があれば職務的にも物理的にも首が飛ぶ事請け合いだ。
でも。
それよりも何よりも…
「護衛として守ると言っていたのに……!」
あの光の柱は、おそらく坂又さんの魔女化によるものだ。
つまり、魔女化を迫られることがあったという事……急がないとっ!
「見えてきたっ…!」
坂又さんの家はところどころ直ったような個所もあるが、ところどころひびが入っていたり直り切っていない箇所が見えた。
「魔法の行使までっ……」
私は考えるよりも先に坂又さんの安全を優先した。
「坂又さんっ!! 大丈夫ですか!?」
すでに割れている窓から飛び込み、坂又さんを探す。
坂又さんはなにか考え事をしていたのか難しい表情をしていたが、私が来て驚いていた。
「あ、あぁ…東雲さんですか。」
「はい東雲です! どこかけがはありませんか? 不調や何か衝動に駆られているとか…!」
「え、いや、別に……
「いや、でも……!」
「それよりも、気になることがあるんですけど……いいですか?」
「それよりもって、坂又さん……」
「大事なことなんです。聞かせてください。」
その瞳は真剣そのもので、なにがなんでも、といった雰囲気があった。
「……なんですか? 大事なことって。」
「俺って─────────