女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~   作:生活みだらし団子

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第7話:遠慮なんてするものか

 

『呆ける』、とは今の東雲さんのためにある言葉の様だった。

小さく開いた口がふさがらず、瞳も俺をとらえようとして右往左往している。

ひとしきり感情を整理しきったのか、大げさに深呼吸をして……諦めたかのように、もしくは観念したかのように話し始めた。

 

「ええ、そうです。坂又さんは魔女の始祖と呼ばれた男性の生まれ変わり…坂又さんの言うように、始祖の先祖返りです。……非常に遠縁ではありますが」

 

「やっぱり、そうですか……じゃあ、今さっき起こっていたことも先祖返りである所以ですかね…」

 

「……やはり、なにかあったんですね?」

 

「はい…」

 

そして、俺は先ほどのことを語り始めた。

魔女が突然飛び込んできたこと。

そいつに首を絞められて殺されかけたこと。

目が覚めたら魔女は遠くに吹き飛ばされていて、俺は銀髪の女に性転換していたこと。

そして、恐らく魔女として…魔法を行使したこと。

 

「念じたら男に戻った……ですか?」

 

「はい。魔法も『こうなったらいいな』を口にしたら勝手に発動しました。」

 

「……そう、ですか。すみません。護衛として来たのに、坂又さんの危機に駆け付けられないなんて…」

 

「まぁ…思うところはなくはないですよ? でも、あなたのことを否定したのも同じ俺ですから……あまり、気にしないでください。」

 

「……すみません。そう言っていただけると、ありがたいです。」

 

……本当に、気にすることはないんですよ、東雲さん。

だって、あなた(味方)を拒絶し続けたのは現状を理解しきれていなかった俺で…襲われたのもあなたを追い出した俺の失態なんですから。

 

「まぁ、でも先に襲ってきた魔女を捕まえませんか? お互いもっと話したいこともあるでしょうが…そこは一旦飲み込む形で。」

 

東雲さんは数秒逡巡すると、そのままうなずいた。

 

「じゃあまずは魔女の場所ですね。多分こっちの方角を見て……

 

 

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

 

翌日、昼。

あれから魔女の確保や家の修理、そして東雲さんの上司への報告が待っていた。しかし俺は魔女の確保と家の修理が終わった段階で眠ってしまったらしい。

東雲さんの上司と連絡した覚えが全くないので、間違いないだろう。

東雲さんが運んでくれたのか、俺の部屋のベッドで目が覚めた俺は(今日は学校休みだな…)なんて益体もない…現実逃避じみたことを考えつつリビングへと降りて行った。

リビングの扉を開けると、食卓に突っ伏して眠っている東雲さんがいた。……おそらく徹夜したのだろう。パソコンや資料のようなものが開きっぱなしになっている。このままじゃ寝つきも悪いだろうと、ベッドに寝かせようと東雲さんに近づいた。

ふと、広がっている資料が目につく。内容はなにかの折れ線グラフや数値のびっしり書かれたデータが大量に書かれた資料だった。俺にはさっぱりな資料だなと思っていると、パソコンの画面が落ちずにつけっぱになっていた。

…もしかして俺が起きる直前まで起きていたのだろうか。そう思い東雲さんを抱え上げようとしていると、パソコンに電話のマークが現れ、着信名には『日本幹部』と書かれていた。

聞いたこともない着信音が鳴っているが、東雲さんが起きる気配はない。というかすごい熟睡している。いびきまでかきそうだ。

 

「でも幹部って名前がついてる相手の着信無視は多分やばいよな……?」

 

ないとは思うが、もしも幹部なる人物がメンヘラのように1コールの内に出ろとかいうタイプならもうすでにアウトだが、ブラック企業ならまだ間に合う。というか上司の連絡に無視はちょっとやばいな。

 

「……もしかして、いい機会なのか?」

 

東雲さんを思うなら出るべきではなく何が何でも起こすべきだろうが、俺も幹部とやらに聞きたいことがある。東雲さんとも話す約束はしたが、その上司ともなればその真意も聞けるだろうと思い、俺は着信をマウスでクリックした。

 

『…東雲、さっきのデータだけど、もう少し詳細な物はないかしら。あと郡上の人相についてももう少し詳しく……東雲?』

 

モニターに映し出されたのは、大量の紙束を読み進めながらこちらを一切振り向かずに手を動かし続ける女性だった。いままでの魔女とは違い純日本人のような黒髪黒目で、ぱっと見かなりやつれているように見える。

 

「…すみません、東雲さんじゃないんですが…坂又啓人です。あなたが、東雲さんの上司ですか?」

 

『あー……あぁ。あなたが始祖の先祖返りね? そして自力で答えにたどり着いた…ま、東雲にあれだけ言われてればバカでもわかると思うけれどね。私はそこで寝てる奴の上司で間違いないわよ、なんの用かしら?』

 

女性は俺を認識すると、何かを悟ったような表情になり、かなりフランクに話しかけてきた。……この人は本当に幹部なのか?

 

「えぇ、まぁ。間違いないならいいんです……用、と言いますか…聞きたいことがあるんです。」

 

『なるほど……じゃあ、そんなに時間は取れないから一つだけなら答えてあげる。それ以外はそこの寝坊助にでも聞きなさい。』

 

……これは、ちゃんと考えるべきだ。

 

まず、聞くべきなのは俺の知りたいことではなく東雲さんの知らないことに限定すべきだ。

東雲さんは何を知っていて何を知らないのか、いままでの会話から推察しよう。

 

始めに、『魔女』と『魔法』について。詳細なところはともかく一般通説的なものがわかれば御の字だ。そして魔女であり魔女の組織に身を置いている東雲さんならそれらも知っているだろう。

次。『魔法が見える男性』について。これは推理した以上のことがあるようには思えない。そして詳しい理由も昨晩の反応から知っているとみていい。

次。『東雲さんが俺を監視する理由』について。これは恐らく俺が魔女の始祖である人物の先祖返りだからであろう。何かしら問題を起こさないようにするための抑止力としての監視の可能性もある。

次。『東雲さんが俺を護衛する理由』及び『魔女が俺を襲う理由』について。護衛については襲撃からの保護と監視する理由と同じだとは思うが、魔女が俺を襲う理由と合致しているかは謎だ。

次。『始祖の先祖返りであるから保護する理由』について。始祖の先祖返りがどのような意味合いを持つのかまだわかっていない。だが恐らく東雲さんは始祖の先祖返りについては知っているだろうが、始祖の先祖帰りを保護する理由までは知らない可能性が高い。根拠として昨日の昼間学校で日本で一番偉い人に言われて仕方なく行っていると口にしていたからだ。

次。『東雲さんの接し方』について。常々違和感は持っていたが、これこそ東雲さんに聞くべきだろう。

次。『女体化』について。東雲さんの反応的に女体化は予想内だったが、男に戻れるのは想定外だったのではないだろうか。男に自力で戻れるのは確定しているので、女体化する理由を知れればいいのだ。

 

…よって、聞くべきは『始祖の先祖返りである俺を保護する理由』だ。明らかに情報のピースが足りず、東雲さんが知らない可能性の高い情報。

 

「では、『始祖の先祖返りである俺を保護する理由』は何ですか?」

 

『……案外、目の付け所はいいのね。答えましょうか。それはCAPsが創設した理由を繰り返さないため、ね。』

 

「それは一体どういう…!」

 

『質問と解答は一回まで。それじゃあ失礼するわね。』

 

そう言い切るやいなや女性は通信を切った。

……質問を間違えただろうか。もっと聞くべき質問はあった気がするが、俺の脳内ではこれが精一杯だ。…しょうがないだろう。

それに……

 

「んん……あれ、坂又さん…?」

 

「おはようございます、東雲さん。」

 

件の人物も目が覚めたようだ。

 

 

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

 

お互い寝起きであり東雲さんに至っては徹夜明けという事もあり、軽く身支度を整えて食卓に向かい合って座る。

 

「えーと、どこから話すべきですかね…?」

 

そんな一言から、俺たちの話し合いは始まった。




事件は起こる、されど進まず。
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