女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
「やっぱり、始祖関連の話から始めませんか? 昨日の夜は事後処理を優先して結論も出てないですし。」
「……そうですね。では、坂又さんが始祖の先祖返りという件について詳しく話しましょう。」
東雲さんは軽く咳払いをして話し出す。
「そもそも魔女の始祖と呼ばれた男性は、魔法を使用する際には決まって女性の姿になっていたそうです。好みなのか女性体である事に意味があるのかは定かじゃありませんが、その理由はわかっていません。そして太陽神の使者として登場したその男性は魔法を使用しない際には男性として書かれていたことから、性転換がキーになる行為であることがわかりました。」
…東雲さん、男に戻る事知ってたのか。てっきり知らないものかと思ってたな……
「そして女性に魔法を与えた始祖ですが、以前もお話ししたように男性の姿ながら魔法を認識していました。」
「……その共通点から、魔法を認識する男は始祖の適正がある人物として考えられたってことですか?」
「概ねその通りなのですが……魔法を認識する男性が適正者と呼ばれたのには、ある事件が関係しています。」
東雲さんは顔を曇らせ、なにかを堪えるような表情を浮かべている。
「22年前、私もまだ生まれていない年です。当時はまだCAPsという組織は存在せず、魔女は一般の人に認識されないことをいい事に犯罪を起こすものとそれを取り締まる者、そして魔女なんて関係なしに平穏に暮らす者。三者三様に過ごし、それぞれの勢力が過剰に偏ることもない均衡が保たれていました。そこに、魔女を認識できる男性が現れました。」
「それって…」
「はい。坂又さんの想像通り、初めての始祖の適正者です。記録によると、確認されたタイミングでは当時13歳の男性が坂又さんと同じように魔女を認識できるようになりました。」
「13歳……話に割り込むようですけど、今は魔女も適正者も変化するのに年齢は関係ないんですか?」
「適正者には年齢の壁がないように感じましたが…魔女に変化するのは女性の中でも30代までしか認識されていませんね。そもそもデータを取り始めて大して年月が経っていないので正確とも言えませんが…日本で一番多いのは思春期の女性ですね。10~18歳前後の女性は精神が不安定に陥りやすく、魔女としての才能も開花しやすいといわれています。」
「なるほど…すみません。話を切ってしまって。その後はどうなったんですか?」
「初めこそ誰も何とも思っていなかったのですが、その男性が魔女になってしまった時から情勢は動き始めました。彼に何があったかは定かじゃありませんが、『誰にでも魔法が認識できるようにする魔法』を世界中に拡散させました。」
「………『誰にでも魔法が認識できる魔法』」
「そしてそれを良しとしないのが見られない優位性をもって犯罪を犯していた魔女たち……そして、平穏に過ごしていた魔女たちです。魔女化すると魔女は髪の色が抜けて様々な色に変化し、人によっては瞳の色や肌の色まで変わるケースもあり、容姿も整う傾向にあります。この魔法によって各国の警察や公権力に認識された魔女たちはその容姿からある国では容易く確保され、ある国は捕らえてその肉体を研究し始めました。……ある国では、実験と称して若い女性たちを牢に入れて故意に精神的な負荷を与えて魔女化を促すという非道なことを当たり前にされるようになったそうです。」
「………。」
「少し、話をずらしますと…この時に汎用魔法というどの魔女でも使える魔法というものが開発されました。情報はある魔女の固有魔法によってあらゆる所へ拡散され、虐げられ始めていた魔女は少しずつその尊厳を取り戻していきました。そして様々な魔女の協力もあり、魔女化した女性には汎用魔法が自然に使えるように情報を埋め込むことに成功したそうです。私も魔女化した際に汎用魔法も同時に覚えました。」
「……なるほど。固有魔法だけでは対応できない事態が増えたから、汎用魔法という形で対抗策を得たわけですか。」
「はい。固有魔法も強いものから弱いものまで様々なので……軍人や格闘技のプロ相手ではどうにもならないような物から、銃弾や砲弾を鼻で笑うような物まであります。
……話を戻しますが、これによって殆どの魔女の怒りや反感を向けられることになった男性はその命を狙われるようになりました。これは固有魔法の持続性の話になりますが、端的に言うと基本的に固有魔法を発動した魔女の効力は半永久的に見えても魔力が枯渇するか、命が絶たれれば途絶します。しかし魔女となったその男性はこの騒動が収まるまでの2年間、まったくもって魔力が枯渇する様子がなく、男性戻ってもその効果は持続していた様です。」
……男に戻っても効果が持続していた?
「命を狙われ始めたことによって危機感を覚えたのか、その男性は常に魔女化した状態でいるようになり、襲いに来た魔女の全てを返り討ちにしていたようです。」
東雲さんは一拍、間をおいた。
まるでここからが本番なのだと言うように。
「そこで立ち上がったのが、現在CAPsの幹部になっている7人です。この7人はそれぞれの固有魔法が非常に強力かつ、その魔力の高さから集められた集団です。日本から二名、中国、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアからそれぞれ一名。その男性を倒すために集められただけの集団というのもあって年齢こそバラバラでしたが、それでもその男性を倒せるのは彼女らしかいませんでした。しかしその男性もただではやられることはなく、散々抵抗した挙句に南極の三割を消し飛ばした後、斃れたそうです。」
「……なるほど。でも俺が始祖の先祖返りだとすると、俺より以前に居た魔法を認識する男性がいることが疑問ですね……たしか、魔法を認知できる人物に対しては説明義務が発生する、みたいなこと言ってませんでしたか?」
「はい。その男性の死後、各国で少数ながらも男性が魔法を認識する事態に陥りました。はじめこそ見つけたら即刻殺すべし、なんて言われていましたが件の7人が立ち上げた組織によって廃止され、その組織によって厳正に処理されることが決まりました。その処理というのが事態による説明と魔法の脅威の通知、そして誓約書へのサインです。」
「俺もサインした奴ですよね。」
「はい。各国で魔法を認知できる男性は始祖の適正者と呼ばれ危険にされていたものの、現在に至るまで魔女化する男性はいませんでした……貴方が現れるまでは。」
「……つまり、始祖の先祖返りを倒してから出てきた始祖の適正者は魔女化することは無かったが、俺は魔女化したから…殺された始祖の先祖返りと同じ存在だってことですか」
「恐らく、間違いないかと。」
「……なるほど。少し、考える時間をいただいても?」
「えぇ、存分に。」
……俺、命狙われてるのか。いや、昨晩の魔女は別の理由だったことも考えると他の魔女よりもさらに狙われやすいのか?
しかも女性化してないときに魔女としての魔力をかぎつけて来たってことだろ? ……最悪だ。つまりある一定の魔女には俺が始祖であるのが一発でわかるってことじゃないか。
狙われる理由もあって、見分けやすい上に過去の奴は知らんが俺は
待てよ……じゃあなんで……
「あの、東雲さん。ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい。なんでも聞いてください。知っていることなら答えますよ。」
「ありがとうございます。気になったことがあるんですけど、幹部ってなんで俺を護衛するように東雲さんに言いつけたんでしょうか。」
「坂又さんが始祖の先祖返りとして再び現れたからだと思いますが……」
「それと、護衛についての特命を受けたって言ってましたよね。それって
「坂又さんに誓約書を書いてもらった日ですね……あれ、でもそれだと「幹部は
「そうなんですよ。しかも誓約書とか東雲さんに俺の情報は名前とか住所くらいの多少の個人情報だけですよ? 要は俺個人が魔女の始祖の先祖返りだと元々知ってたんですよ、多分。」
「なるほど…だからあの時幹部は……!」
東雲さんの脳裏にはおそらく報告時か連絡時の幹部の姿が映っているのだろう。どこか得心いったようにうなずいている。
そして数瞬の後、東雲さんは何かに気づいたのか顔を驚愕に染めている。
「あ、ああ、あの、坂又さん…一つ、お聞きしてもいい、ですか……!?」
「え…なんですか?」
「あの、聞き覚えがなければそれでもいいんですが…」
なぜか、全身の毛が粟立つ。一度魔女になったからかは不明だが、嫌な予感というものを全身で感じていた。なんとは無しに聞きたくなくて、別の話題を出そうとして、それは失敗した。それは、あまりに驚いてしまったから。
それは───────
「
───────何年もあっていない、母の名前だったから。